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〜ジオン公国の光芒〜_CSA ◆NXh03Plp3g氏_外伝 FILE-02

Last-modified: 2009-02-21 (土) 14:41:30

「今日の夕飯は、何にしましょうかねぇ……」

 

 12、13歳ぐらいだろうか。栗毛のショートカット、ブラウスにオーバーオールを着た、
のんびりした雰囲気の少女が、商店街を物色しながら歩く。
「おっ、クレハちゃん」
 通りかかった青果店の中から、主人と思しき中年の男性が、声をかけてきた。
「今日は新鮮なの入ってるよ、どうだい」
「はい、ありがとうございます」
 クレハはにこっ、と笑うと、店先の商品を見渡した。
「それじゃあ、これと、これを……」
 シチューにでもしようかなぁ、と思いながら、商品を頼む。
「あ、それなら……」
 主人と代金のやり取りをしつつ、パンがいるかな、と思って、半ば無意識に通りの方を見た。
「あれ……っ?」
 クレハが見ようとしたそこは、シャッターが下ろされ、人の気配が途絶えていた。
「パン屋さん、閉めちゃったんですか?」
 クレハは軽く驚き、青果店の主人に訊いた。
「ん、ああ……」
 質問された店主の表情も冴えない。
「小麦の値段が、また上がっちまって、やっていけなくなったんだと」
「はぁ……」
 店主の説明に、クレハも表情を曇らせる。

 

機動戦士ガンダムSEED
 逆襲のシン 〜ジオン公国の光芒〜

 INTER PHASE : FILE-02

 

 C.E.78。
 南アメリカ合衆国、マナオスの郊外にあるこの街は、決して大きな街ではなかったが、
かつてはそれなりに活気のある街だった。
 だが、それも今は昔。
 クレハが外出を許されるようになってから、数年が経つ。幼い目にも解るほど、
街はゆっくりと衰退していた。

 

 まず、大西洋連邦の民間資本で運営されていたスーパーマーケットが廃業し、閉鎖された。
今はその建物自体まで、見るも無残な廃墟と化している。
 個人経営の商店街は、それがなくなったことでしばらくは我が世の春、と一時的に
勢いを取り戻したが、それも本当に短い間のこと。
サービス業、所謂第三種産業を提供していた店は次々に廃業した。
スーパーと同じで、大西洋連邦の経済状況悪化が原因だった。
輸入が事実上ストップした工業生産品、家電や自動車を扱う店もなくなった。
 それでも、食料品や軽工業は自給できていたから、食料品店と日用品店だけは残った。

 

「そこまでして……戦争を続ける意味があるんでしょうかねぇ……」
 クレハは帰り道、ため息をつきながら、そんなことを呟いた。
 もはやヴィンテージといっても良い、エタノールディーゼルの自動車がまばらに走る大通りを歩く。
リサイクルショップの前を通り過ぎる。
 新品の家電が輸入できなくなった分、中古家電や中古車の修理・販売だけは盛んに行われていた。
 リサイクルショップのショーウィンドゥに展示されたテレビが、ニュースを流していた。

 

『アフリカ方面でのプラント国防軍の活動は、新たにローデシア、ズールー、ナタールの
 地区を解放、新国家の樹立を行いました。これは自由と平等の歌姫にして、プラント大統領で
 あらせられるラクス・クライン大統領の、それに格差があってはならないとする崇高な御意志の下に
 行われたものであり、各国の地元の市民もこの功績を惜しみなく称えております……』

 

 テレビが流すそれは、ここがプラントというわけでもないのに、必ず1日1度は、その国家元首である
ラクス・クラインの功績を称える。
「戦争が続いてる地域の人たちも、大変だと思うけど……
 出来れば、この国の皆さんも助けてくれたら良いんですけどね」
 誰に言うともなく、テレビの前で、クレハはため息をついた。

 

街の中心部から外れ、あたりは農耕地帯に入る。
 その真っ只中に佇むように、クレハが住居としているその建物があった。
 それは民家用の一戸建てなどではない。
鉄筋コンクリート造りの、無機質な小規模ビルだった。
だが、だいぶくたびれ、外装にはあちこち細かなひびが入り、染みの様な汚れもあちこちにある。
 ただ、駐車場や庭になっている部分は、雑草が刈り取られていて、生活臭がある。

 

「えっ!?」

 

 だから、その異変にはすぐに気がついた。
 正面玄関のガラス戸が外側から叩き割られ、鍵を外されていた。
「ど、ドロボーさんですか!?」
 クレハはその場でおろおろとした後、ごくりと喉を鳴らしてから、壊された扉を開けて、
そろそろと中に入った。
 まず、自分が居住に使っている部屋を確認した。
「ここは……何も盗られてないですね?」
 意外そうに、クレハは言った。家電や家具といった、まだしも換金できそうなものは、
何も盗られていない。
 事務用の机が置かれており、その抽斗の鍵を開けて中を調べる。
そこには、クレハの生活資金が入っていたが、それにも手はつけられていなかった。
「?」
 クレハは小首を傾げつつ、部屋から出た。
 そして、ビルの別のフロアへ向かう。

 

“第1研究室”
 そう札のかかれた部屋に、クレハは入った。
「う!」
 その有様に、クレハは立ち尽くした。
 室内は実験用具や試料のビンが散乱し、無残な状況になっていた。
置かれていたパソコンがなくなっている。
 立ち尽くしかけていたクレハだが、はっと我に返ると、ガタガタっと躓きかけながら部屋の外に出る。
 そのまま廊下を走り、そのフロアの端まで駆け抜ける。
「はぁ……はぁ……」
 息を整えながら、突き当りの扉を見る。扉の上に“資料室”と書かれた札がかかっている。
 そして、その扉は、やはり、鍵がかなり乱暴な方法で破壊されていた。
 クレハはおずおずと手を伸ばし、そろっと扉を開けると、室内に入り込んだ。
 室内は暗い。クレハは入り口の脇の壁を探る。スイッチがあった。
それを入れると、無機質な蛍光灯の照明が点いた。
「やっぱり……」
クレハはこの部屋の鍵を持っていなかった。だからこの部屋に入ったことはない。
しかし、置かれた書類棚には、大量の資料や書籍が置かれていたことは想像に難くなかった。
だが、今はそれらはまるっきり無くなってしまっている。床に、紙片が散乱していて、
人為的に誰かが荒らしたことを示している。

 

「どうすればいいんでしょう……」
 クレハは何度と無くそう呟いた。
 今はそう呟きながら、ミニキッチンを使って夕食の支度をしている。
 警察に届けようかと思ったが、一体何をどれだけ盗られたのかが解らない。
そもそも何があったのかさえクレハは把握していなかった。

 

 ──地球連合軍特殊兵器研究施設、それがこの建物の正体だ。
そして兵器とは、彼らの言うところの、コーディネィター生体CPU、ソキウスの開発だった。
 その中でも、この研究所には、ある特殊な目的が与えられて研究が続けられていた。
 すなわち、ソキウス用スーパーコーディネィターの作成、である。

 

 ユーレン・ヒビキの研究を知った地球連合軍が、己の戦闘用コーディネィター作成に
それを取り込もうとしたのである。
 一般的なコーディネィターのクローン胚を用いた実験は、それを胎児レベルに
成長させることも出来ずに頓挫していた。
だが、さらに別のアタッチからスーパーコーディネィターを再現する試みが行われ、成功した。
すなわち、唯一のスーパーコーディネィター、キラ・ヤマトのクローン胚の作成である。
さらにそのクローン胚に初歩的な遺伝子操作を施すことで、
スーパーコーディネィター・ソキウスの可能性を探る。
 初歩的な遺伝子操作として、性位相転換が選ばれた。
すなわち、性染色体を本来の男性のXYから女性のXXに入れ替えるものだ。
胚、すなわち細胞分裂が始まり胎児になる以前の段階であれば、確実であるしリスクも少ない。
 結果、生まれたのがクレハだった。
 ただし、クレハにはソキウスとしてのコーディネィトは行われていない。あくまで試作品だった。
 その能力と生命としての安定性を記録するとの名目で、クレハの成長記録を行うことになった。

 

 …………同じ遺伝工学の出身であるデュランダルが、その後の経緯を見たら、
「性位相転換なんて選んだ時点で間違いだろ」と言ったに違いない。

 

 プラントならまだしも、連合の研究施設。すなわち男社会。

 

 そこに、直接血がつながっていないとは言え、自分達が“生み出した”娘。

 

 ソキウス計画自体が中断されたこともあって、研究員達はクレハを育てることに夢中に……

 

 ……早い話が“ダメ”になってしまったのである。

 

 クレハは彼らの実の娘の様に、甘やかされつつも躾けられ成長することになった。
 ある意味、普通に生まれた子供よりも恵まれていたかもしれない、そう言える程に。
 だが、その平和な日々もそう長くは続かなかった。

 

メサイア戦役、ラクス・クラインのプラント掌握……プラント国防軍の発足、
世界再々構築の始まり、地球連合体制の廃止、ブルーコスモスの解体…………
研究所は連合の母体である大西洋連邦が引き継いだが、やがて研究施設としての
“休止” が決定。研究者達は大西洋連邦に招聘されることが決まった。

 

 ところが、すっかり“ダメ親”になっていた研究者達は、ここであるサボタージュをする。
 連れ帰って研究用の実験動物扱いなどとんでもないと感じた彼らはクレハの記録を書き換えて、
 潜在的な先天性免疫不全により死亡したことにしてしまったのだ。
 どうせ世界は大混乱の真っ最中、バレるはずが無いという確信もあった。

 

 そうしてクレハには、休止された研究所の留守番という役目を与え、
生活資金は研究者達の中から有志がカンパによって与えることにした。
 クレハは独りぼっちになりながらも、爛漫に育てられた性格が幸いして、
買出しに行く商店街の住人達とコミュニケーションをとり、本人にとってはそれほど悪くも無い生活を
続けていた──そう、今日までは。

 

「とりあえず……どうしましょうか、私が生活するのには、何の問題もないけど……」
 シチューをスプーンで口に運びながら、気重そうな表情で呟く。
 生活資金を受け取る為の口座はあるが、クレハの方から研究者達に連絡をとる方法は無かった。
「やっぱり、一応は警察に連絡したほうが良いのかな……」
 食器をシンクに片付ける。
「でも……」
 現金や生活用の家財道具に手をつけなかったところを見て、ただの物盗りではないことも確かだ。
 それをどうやって警察に説明したものかも困る。
「はぁぁ……」
 鬱蒼とした気分を少しでも紛らわせようと、クレハは現実逃避気味にため息をつきながら、
テレビのスイッチを入れた。
 娯楽番組を期待していたが、映ったのはニュースだった。
 しかも、ラクス・クラインの映像だった。
「自由と平和、か。平和を望んでいるのに、戦争するなんて、変ですよね……?」
 小首をかしげる仕種をしながら、画面の中のラクスに、問いかける。
 すると、カメラの角度が変わり、ラクスの傍らに、1人の青年が立った。

 

「…………」

 

 向こうは男性、年齢も自分よりかなり上。
 それなのに、クレハは彼の姿が、まるで自分の姿を鏡で見ているかのような錯覚に陥った。

 

「…………?」

 

クレハはしばし、その青年の姿に見入った後、映像がスタジオに切り替わったのを見て、
はっと我に返る。憑き物を落とすように、ぶんぶんと首を横に振った。
「な、なんだったんでしょう、今のは……」
 なんだか立て続けにおかしなことがありすぎて、だいぶ滅入ってきたクレハは、
悩みながら寝逃げることにした。

 

 シャワーを浴び、1日の生活の汚れを落とす。
「最高のコーディネィターって言う割には、ここはあんまり成長しないですね……」
 精神的均衡を求めて、苦笑しながら呟き、両手で平坦なバストを撫でる。
 シャワーを浴びてさっぱりすると、陰鬱に陥りかけてた気分が、少しは晴れたような気がした。
 ピンク色の上下のパジャマを着て、にこっと空元気で笑う。
「まぁ、とりあえずなんとかなるでしょう」
 苦笑気味の笑顔でそう言って、ベッドに潜り込んだ。
 照明を消して、眠りについた。

 

 翌日。
「さて、さすがにあのままにはしておけませんね」
 朝が来て、変わらずにさんさんと降り注ぐ太陽を見れば、気分も晴れた。
 ヘアバンドで前髪を上げると、掃除用具入れのロッカーから自在ぼうきと文化ちりとりを
取り出し、階段を上がって、昨日荒らされたフロアに向かう。
「とは言ったものの……どこから手をつけましょうか……」
 研究室は片っ端から荒らされている。これを1人で片付けるには、数日は要りそうだった。
 とりあえず、と、資料室へと向かう。
 ギィィッ、と、昨日の空き巣行為のせいか、それとも単に経年劣化か、
立て付けの悪くなった扉を開けて、中に入る。

 

「動くな!」
「!?」

 

 突然、後ろから声をかけられた。ドアの死角に、誰かが潜んでいた。
 背中に、何かが突きつけられる。それは刃物か、それとも銃口か……
 クレハの表情も戦慄した。
「誰ですか……アナタは。昨日のドロボーさんですか?」
「何だと?」
 クレハが問いただすと、若い男の声が、虚を突かれた様な口調で返ってきた。
「ドロボーだと?」
「昨日、研究室や資料室を荒らしていったじゃありませんか。その仲間じゃないんですか?」
 クレハの言葉を反芻する背後の男に、クレハは低めの声で再度問い質した。
「クソ! ここも手遅れだったか、それも行き違いで……」
 男は嘆くようにそう言って、クレハの背中に突きつけていたそれを離した。
「!? どういうことなんですか?」
 意識して隙ととった、わけでもなかったが、クレハは反射的に振り返る。
文化ぼうきを槍か薙刀の様に構えた。
「!? キラ・ヤマト!?」
 クレハと向かい合った、金髪の青年は、反射的に拳銃をクレハに向けた。
「ひっ!?」
 銃を見て、クレハは腰が引けてしまう。
「違う……女?」
 男は、軽く驚いたように、一瞬、目を円くする。それでも銃は構えたまま。
「お前は一体何者だ。こんなところで何をしている」
「私は、ここの留守番です。それよりあなたこそ、い、一体何をしているんですか!!」
 銃に怯えつつも、クレハは男に問い返す。
「留守番だと? ここは旧地球連合の施設だろう、だいぶ前に閉鎖されているはずだ」
「ですから、今は私1人です」
「ふむ……」
 男は何か思うところがあったのか、鼻を鳴らすように声を出してから、
銃を下ろし、ホルスターに戻した。
「すまなかった。俺はレイ・ザ・バレル。探偵のようなことをしている」
 金髪の男は、表情から険しさを抜くと、そう名乗った。

 

「探偵さん、ですか?」
 クレハも毒気を抜かれ、キョトン、として、聞き返してしまう。
「ああ、訳あって、ここのような施設を探している。良かったら話を聞かせてくれないか?」
 レイはそう言ってから、
「銃を向けたことはすまなかった。俺が警戒しているのは、おそらく君が言っている泥棒のことだ。
 早とちりしてしまって申し訳なかった」
 と、頭を軽く下げて謝罪した。
「あ、いえ。私の方こそ、すみませんっ」
 クレハは慌てて、ほうきから左手を離し、自分も深々と頭を下げた。
「君、名前は?」
 レイはクレハが頭を上げるのを待って、そう訊ねた。
「あっ、私は、クレハと言います」
 少し慌てて、クレハは答える。
「クレハ……クレハ、何?」
「あ、えっと……下の名前、ないんです。私、この研究所で生まれたので……」
 レイに聞き返され、クレハは決まり悪そうに苦笑しながら、そう答えた。
「ここで生まれた、だと?」
 レイの表情が険しくなる。
 クレハはびくっ、と、その様子に驚いて身を竦ませた。
「あ、ああ、すまない。驚かせてしまったか」
 クレハの様子に、レイは表情から険しさを抜いて、謝罪してから、
「でも、どういうことなんだ?」
 と、改めて訊ねた。
「私、ある人のクローンなんです。なんでも、本来は実験のためにつくられたとかで……」
 クレハは、おずおずと説明する。
「ある人?」
 レイは、彼女がクローンであるということはうすうす察知したが、そのオリジナルについて
気にかかり、聞き返した。

 

「スーパーコーディネィターの性位相クローン、だそうです。
 オリジナルがどんな人なのかは、私は知らないんですけど」
「何!?」
 クレハの答えに、レイは今度は目を円くして、驚愕してしまった。

 

「って、レイさん、でしたっけ……何か、知っているんですか?」
 今度はクレハの方が、レイの反応に食いついた。
「知っているが、しかし……」
 レイは、少し躊躇する。この少女に、その存在を教えてしまってもいいものだろうか。
「わ、私はレイさんの質問に答えているじゃないですか!! ずるいですよ!」
 少し顔を紅潮させて、クレハが問い質す。
 レイは「う〜」と唸り、少し迷った後、
「仕方ないか……君のオリジナルは……キラ・ヤマトだ」
 渋々と、そう答えた。
「キラ・ヤマト……」
 一瞬、その名前を反芻したクレハだったが、
「えぇぇぇっ!?」
 と、遅れて声を上げてしまった。
 キラ・ヤマトと言えば、プラント大統領ラクス・クラインの婚約者にして、
ZAFT大統領武装親衛隊最高司令官だ。

 

「驚くのも無理は無いか……俺だって信じられない。
 だが、この世に完成されたスーパーコーディネィターは1人しかいないんだ」
もう1人、カナード・パルスも存在するが、わざわざクローンを、それも連合が製作するほどの
存在とはいえない。
第一、髪や瞳の色など、先程レイ自身が一瞬間違えたほど、クレハの身体的特徴は
キラに共通しすぎている。
「私が……キラ・ヤマトのクローン……」
 クレハは、しばし呆然と立ち尽くした。

 

その後、場所をクレハの居室に移して、レイにコーヒーを振舞いながら、話を交わした。
「それで、レイさんはどうして、施設を調査して回っていたんですか?」
 クレハが訊ねる。
「知りたかった。スーパーコーディネィターというものが、どうなったのか」
 レイは答える。
 コロニー・メンデルの崩壊後、スーパーコーディネィター技術を受け入れたのは意外にも連合だった。
 その目的が、高性能ソキウスの製造にあったのは、先述の通りである。
「それはわかるんですけど、どうして知りたいと思ったのかが解らないんです」
 クレハは小首をかしげ、聞き返す。
「…………」
 レイはしばし、無言で逡巡した後、
「俺もクローンなんだ」
 と、答えた。
「えっ!?」
 一瞬、呆気に取られるクレハ。
「俺は、ユーレン・ヒビキの、スーパーコーディネィター計画への出資者である、
 アル・ダ・フラガのクローン……正確には孫クローンだがな。
 とにかく、フラガがヒビキに出資する交換条件として、俺と、俺の先代に当たる
 アル・クローンはつくられた」
「…………」
 あまりの事実に、クレハは哀しげな表情をしたまま、押し黙ってしまう。
「だから……だな。俺という存在と引き換えにしてつくられたスーパーコーディネィターが、
 その後どうなったのか、気になった。キラと個人的な因縁があるのも事実だが」
「…………」
 レイが独白の様に言う。クレハは何も言う事ができない。
「だが、それもここでデッドエンドだ。資料を持ち去った連中がなんなのか、
 大体検討はつくが……俺にはそこまで、手の出しようが無い」
 レイは言い、彼にしては珍しく、自嘲気味に笑った。

 

「それで……そうしたら、これからどうするんですか?」
 クレハは問いかける。
「そうだな、行く当てが無いでもないが……」
 レイは、はるか宇宙に想いを馳せた。
 プラントの新設コロニー、トーマス・シティ。
そこで、かつての戦友達が、ラクスとキラに対する闘争を計画しているという。
 確かにラウの分身としてのレイはキラに負けた。だが、だからこそ、今度はレイとして
キラやラクスを止める戦いを為しても良いと考え始めていた。
「それなら、私も、連れて行ってくれませんか?」
「えっ?」
 レイは、軽く驚いて声を出し、クレハの方を見た。

 

「私は、レイさんと一緒に行くべきだと思うんです。そう、感じるんです。
 私が生み出された本当の理由が、運命が、そこにあるって、感じるんです」
 クレハは、女性らしく円く愛らしい顔つきに、確固とした意志の表情を見せて、そう言った。
「クレハ、運命なんてものにとらわれる必要はない」
 それが、ラウ・ル・クルーゼと、ギルバート・デュランダルの敗因でもあったのだから。
「はい。でも、これは、私の意志です」
 だが、クレハは断固として言う。
 その瞳に、レイは何をも貫く意志を感じた。
「君にとっては、今よりも不幸が待ち構えているかもしれない。それでも良いのか?」
 最後の確認、と、レイはそう訊ねる。
「覚悟なら、あります」
 クレハは臆する様子もなく、そう言った。
「解った」
 レイは立ち上がり、クレハに向かって手を伸ばした。
「なら、行こう」

 
 

 トーマス・シティがジオン公国を標榜してプラント本国からの分離独立を宣言、
血のバレンタインから続く“10年戦争”の後半のクライマックスとなる
ジオン独立戦争の火蓋が切って落とされるのは、この数ヵ月後のことであった。