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〜ジオン公国の光芒〜_CSA ◆NXh03Plp3g氏_第05話

Last-modified: 2007-11-30 (金) 18:51:18

グォォォン……
 ネイビーブルーの重爆撃機が、翼を連ねて飛んでいく。
 スエズ基地中枢部への爆撃を敢行していた。
 ZAB-2『ドッグヘッド』強襲装甲爆撃機。スタイル的にはビーグル犬の鼻っ面に似た機首を持つ、オーソドックスな4発爆撃機。
 しかもエンジンは水素ターボプロップで、プロペラを推進器として使っている。ゲルググ他ジオン軍の核融合MSのための
重水素燃料生産の際に余剰物として出来上がる、水素を燃料にしている。
 しかし、強襲装甲の名が示すとおり、MS程ではないものの、対空砲火に対抗する為機体下面に防弾板を張り巡らせている。
ニュートロンジャマーの影響で長SAM・短SAMが使えないこの世界では、充分に脅威になりうる。
 とは言え、コズミック・イラの技術がいかに進化していようとも、プロペラ推進ではせいぜい亜音速である。
 しかも、戦闘機のような機動ができるわけではない。MSの邀撃には脆い。────そう考えるのは、当たり前の事だった。
「この野郎、よくもぬけぬけと────」
 ジオン公国軍の軍籍マークをつけた爆撃機の群れを見るなり、ジーク・ナカムラ上級曹長は、憎々しげな表情でそう言うと、
新たに与えられたΔフリーダムをジオン軍の爆撃機の群れに向ける。
 ────本来所属の基地はすでに敵の水陸両用MSによって壊滅させられていた。なんとか中央司令部までRゲイツは飛んでくれた。
 そこで、力尽きるように崩れ落ちた。いや、力尽きたのはRゲイツだけではなかった。
 操縦席の床は血の海になっていた。オスカーは負傷していた。自分に心配をかけない様に、黙っていたのだろう。 すぐに担架で医療室に運ばれた。
 だが、オスカーは着陸後から一言も言わないままにこの世を去っていた。
 ハイマット・フルバースト──ヤキン・ドゥーエや、メサイアで、数多くの敵MSを沈めてきた、フリーダム系列のMSの最大にして絶対の技。
 怒りを頂点に上らせたジークが、トリガーを引こうとした、その一瞬前。
 ドンッ、ガクガクガクガクッ
 強烈な衝撃を与えられた。モニターは警告表示で染まる。振動するΔフリーダムはバランスを崩し、真っ逆さまに落ちていく。
 モニターの警告表示を見る。背部スラスターの何基もが破壊されている。これでは攻撃はおろか、飛行すら続けられない。
 だが、いつの間に、誰が、どうやって?

機動戦士ガンダムSEED
 逆襲のシン 〜ジオン公国の光芒〜

 PHASE-05

 ジークの疑問に対する答えとなる存在は、爆撃機を取り囲むように飛び回っていた。
EQFU-GAF1『ゴブリン・ドラグーン』遠隔小型戦闘機。その名の通り、ドラグーン・システムを使った、大気圏内用小型遠隔戦闘機だ。
 そしてその母機として、ZAB-2爆撃機を改造したZAB-2/EQFU『ドラグーン・ドッグヘッド』ガンシップが、本来の爆弾層部分に
ドラグーンの母機設備と、発電用のH型24気筒レシプロ水素エンジンを搭載している。
 しかも、航空機としてのガンシップ本体の操縦士とは別に、ドラグーンのオペレーターが搭乗する事になる為、
MSのドラグーンやガンバレルより、オペレーターの能力的ハードルがずっと低くできた。コーディネィターなら
たいていは訓練次第で使いこなせたし、ナチュラルでも適性を満たせる者は多かった。
 やがてドッグヘッドの群れは爆弾層を開くと、大量の近距離空対地ミサイルを打ち出した。ニュートロンジャマーの無意味な、
赤外線誘導のタイプである。しかもそのうちの一部は、ジオン軍MS邀撃用に備えて用意されているはずのプラント軍MSを破壊する為、
破甲弾頭を取り付けていた。補給や弾薬貯蔵の設備が破壊されて炎上した。掩体壕を破甲弾頭が突き崩し、下に格納されているMSが
瓦礫の下敷きになり、埋もれた。味方の対空機関砲も激しく火を吹くが、ドッグヘッドの下面でバチバチと弾けるだけだ。
 それでも、数機がエンジンから炎を吹出し、落ちた。
「ちくしょーっ、結局また、何にもできないのかよ!」
 地べたを這いずり回らされるΔフリーダムのコクピットで、ジークは表情に悔しさをいっぱいに表し、絶叫した。

「ジオンがスエズに侵攻!? 本当なのかそれは」
 オーブ宇宙軍・モビルスーツ総隊長、アスラン・ザラ准将は、秘書官から報告を受け取るなり、目を円くして驚いた。
 オーブ政府もまた、プラントと同じように、早期のジオンによる地上侵攻はないと判断していた。
 もっともこれは、両者ともジオン公国が開発に成功した超小型核融合炉の正体に気付いていない、という理由もあったが。
 ミズノ式常温核融合励起型熱核融合炉。
 まずパターソン結晶(数種類あるうちの総称)とレーザー加速器、または誘電コイルを用いて重水素常温核融合に点火し、
熱と中性子を発生させてD-D熱核融合に移行するという方式を取っている。
 さらに詳しい説明は省くが、この核融合炉の燃料は重水素だ。重水素を含んだ水分子は水全体の0.015%の割合で含まれている。
 数字だけ見れば少ないが、海に面した地域なら無尽蔵に取り出すことができる。
 つまり、この核融合炉の性格がある限り、ジオンの地上侵攻は時間の問題だったのだ。
 ちなみにモビルスーツ用の炉は小型なのでバッテリー消費軽減のためにレーザー加速器を、軍艦などは大型の炉に素早く点火する為
誘電コイルによる複数の点火系を持っている。
 ジオンの地上侵攻作戦の目標として、コーカサス地方が選ばれたのには、もちろん、政治的背景もある。
 しかし、少なくともスエズは、海水を得るという目的には合致していた。
 だが、アスランはそんなことを知るはずもない。
「プラント軍の資料によりますと、インパルスIIも参加していたようですね」
 本来、こうした資料はプラントの軍事機密だ。だが、アスランだけは、オーブ軍の人間でありながら、
こうした情報を取り寄せる権限が与えられていた。
「シン……どうしてまだ、戦いを続けようとするんだ、君は!」
 歯を食いしばるような、悔しそうな表情をしながら、アスランはキラと同じ疑問を口にした。
 あの戦争で肉親を失ったのはシンだけじゃない。アスランもまた、血のバレンタインで母レノアを失っている。
 だから、アスランはキラとは異なり、シンが戦い続ける理由は解っているつもりだった。
ただ、解ってはいるけれども、納得はできなかった。なぜ、自分と同じような存在を出すと知って、戦いを続けるのか。
 しばらく悩んだ挙句、アスランは決意をしたように、俯かせていた顔を上げた。
「インフィニットジャスティスを準備させてくれ」
「!」
 女性秘書官の顔色が変わった。
「ですが、我がオーブは……」
 参戦していない、そう言おうとした秘書官の言葉を、アスランの言葉が遮った。

「大丈夫だよ、シンに会いに行くだけだ。不必要な戦闘はしない」
「…………」
 秘書官は僅かに沈黙を置く。
「それに、あの機体は本来、プラントの所属だ。後で言い訳はどうにでもなる」
「ですが、カガリ様にはなんと?」
 秘書官はなおも食い下がるように言う。
「彼女にこれ以上負担をかけさせたくない。片付いてから報告すれば良いさ」
「…………」
 微笑みがちに言うアスランに、しかし、秘書官はまだ、いい顔をしない。
「何かあったら、俺が全部責任を取る。だから、行かせてくれ」
「仕方ないようですね。2時間後には飛び立てるよう、準備させましょう」
 秘書官はようやく、渋々、本当に渋々と言った様子で、同意した。
「ありがとう、頼んだよ」
 そう言って、アスランは執務室を出て行った。MS搭乗の準備をしに行ったのだろう。
 秘書官も続いて、外に出る。
 そこで、それまで不機嫌そうにしていた表情を、ニヤリとさせた。
 そして、インフィニットジャスティスの発進準備をさせるべく、秘書官は廊下を歩いていった。

「…………」
 戦場跡に、MSの残骸が屍を晒す。
 巨大な山のような、マリアの威容が周囲を圧倒する。
 スエズ基地外縁、北方エリアのプラント軍は完全に沈黙し、ジオン公国軍はここに橋頭堡を築いた。
 マリアが盾の様に陣地を守る。海岸にはマチュアが停泊し、直掩の提供と損傷したMSの修理を行っている。
 終始ジオン側のペースで進んでいたように見えた戦闘だが、味方の攻撃隊も、ゲルググシリーズとネモ・ヴィステージ合わせて
76機が失われていた。さらにエィロムス28機も喪失。損失率は30%を超える。軍事の常識において、この数字は深刻といって良い。
 仮想敵がおらず、慢性的な予算不足、人材不足のプラント宇宙軍に対して、地上の安全保障の為に増強されてきた地上軍は、
評判どおり精強だったのだ。
 われらがシン・アスカは、野戦陣地で計算の真っ最中。敵も相手の兵種を選んで撃墜してくれるわけはない。
 小隊を組みなおして、ネモ・ヴィステージをランチャーストライカーに換装して……etc、etc。
 A.D.時代の頃のように、野戦陣地の天幕の下で書類をバサバサやる必要はなくなったが、サブノートサイズのパソコンで、
やっていることは結局同じだ。
 一段落ついたところで、一息つこうと、紙のコーヒーカップを握って席を立つ。
 腰を伸ばして関節を鳴らしたりしながら、天幕の外に出る。
 一面の星が、空を埋め尽くしていた。その淡いに光に照らされて、クレハが1人、何をするわけでもなくたたずんでいる。
「!?」
 シンは、一瞬目を疑った。
 クレハの周りを、いくつもの光の粒が舞っているように見えた。
「あ、アスカ中佐」
 クレハはシンの姿に気付くと、わざわざ敬礼する。
 それと同時に、クレハの周りを舞っていた光の粒は、どこかへ散ってしまった。
「…………?」
 シンはキョロキョロと、光の粒へ行ったのか、首を回して追う。だが、何処へ消えたのか、ひとつたりとも見つけられなかった。
「どうかしましたか?」
 声に振り返ると、クレハが不思議そうな表情で、小首をかしげて訊ねてきている。
「いや……なんでもないよ」
 視線はまだ未練そうにそれらを探しつつ、口ではそう答えてから、視線をクレハに向ける。
「クレハは、何をしていたんだい?」
「いえ、特に何かしていたわけじゃないんですが……」
 寂しそうな顔で、振り返る。

 その視線の先で、Ωインフィニティと、ゲルググ・イェーガーの残骸が、崩れて折り重なっている。
「人が、死ぬんですね」
「戦争、だからな……」
 クレハが呟くように行った言葉に、シンも淡々とした口調で答える。
「アスカ中佐は、平気なんですか?」
「平気じゃなかったよ、いや、今でも本当は平気じゃない」
 シンは、そう言ってから、自嘲の意味で苦笑した。
「前の戦争の時にね、そういう感情は全部麻痺しちまったんだ」
「前の戦争……あの戦争で……」
 クレハは哀しげに俯いた。
 クローンがどれほどの速さで成長するのか、シンには解らなかったが、メサイア戦役の頃、クレハがすでに物心ついていたのは間違いない。
「クレハはまだ、辛いだろ?」
 無理はしなくて良い、と続けかけて、その言葉は飲み込んだ。
「はい、だけど……」
 クレハはちらり、と、別のMSの残骸を見た。
 Δフリーダム。特徴的な飛行ユニットはガンバレルで破壊され、さらにMSの刀剣装備による傷を受けていた。
 コクピットモジュールは剥がれ落ちていて、脱出はしたのだろうが、MS同士が乱戦を続けている戦場を、
生身の人間が無事に離脱できた可能性は低い。
「アスカ中佐をそのようにしてしまった人たちが、今、世界を良いようにしているんでしょう?」
「…………」
 シンは、思わず、睨むような、険しい表情になってしまっていた。
「誰から聞いた?」
「レイお兄さんと、それから、ジュール大佐からも」
「あちゃ、イザークもかよ」
 シンは手で顔を覆った。レイはともかく、イザークまでクレハに口軽にしゃべってしまうとは。
「私は、私が戦う理由が、本当の理由が、だんだんとわかってくるような気がするんです。
 もちろん、レイお兄さんや、アスカ中佐のことが大事という事もありますが、それ以上に、
 もっと大きな理由が、あるような気がするんです」
 クレハは、真摯なまなざしでシンを見つめ、そう言った。
「……クレハ。それにとらわれるのは良くない」
 シンは、静かな口調でそう言った。そう言いつつ、内心ではそういうことを言うクレハに戦慄していた。
「とらわれるつもりはありません、でも……」

 クレハはそう言って、もう一度Δフリーダムの残骸を見た。
「あっちからやってくると思うんです、勝手に」
 クレハの言葉に、シンは軽くため息をついた。
 僅かに沈黙。シンは星空を見上げ、クレハもそれに倣った。
「そういえば、話がらっと変わるんだけどさ」
「はい?」
 シンは、少し気になっていた事をクレハに訊ねる。
「レイって、最近体調、崩したことなかったのか?」
 本人に聞くのは憚られた。
「…………? いいえ」
 クレハは不思議そうに首をかしげる。
「そうなのか?」
 シンの方も、妙な声を出してしまう。
「ああ、でも、私と出会った直後でしたら。アレルギー性咽喉炎でお医者にかかっていた事があります」
 思い出したように、クレハが言った。
「アレルギー性……咽喉炎?」
「はい。セキが止まらなくて。お医者さんには、変な薬を飲むなとか、素人医療に頼らないでさっさと病院に来い、
 とか言われていましたけど……」
「…………」
 シンは、眉を潜ませて難しい顔をした。
「……………………」
 さらに、眉間に拳を当て、上半身でロダンの『考える人』のようなポーズをとる。
「…………あのバカ……」
 あのセキはテロメア云々とは無関係だったのだ。おそらくミネルバやプラント内部にアレルゲンとなる物質が浮遊していたのだろう。
 それで全身の体調も悪かったに違いない。コーディネィターはその性質上アレルギーとはほぼ無縁なので、あまり考慮されていない。
 だが、レイは基本的にナチュラルなのだ。
「? どうかしたんですか?」
 クレハは、不思議そうな表情で首をかしげている。
「い、いやなんでもないよ。まぁ、なんにせよ良かった」
 クレハはレイを慕っている節があるので、シンは表情を取り繕ってそう誤魔化した。

 ビィィィィーっ!!
 けたたましいアラームが、陣地の天幕の中から鳴り響いてくる。
「!」
 シンは慌てて飛び出し、天幕の中に飛び込んだ。クレハもそれに続く。
 マリアから引かれた有線電話機に飛びつく。誰の趣味だか(おそらくアルテイシアかエザリアだろう)、A.D.20世紀中ごろの、
日本のダイヤル自動交換式用の制式端末を復元したスタイルだ。────とにもかくにも、その受話器を上げる。
「どうした、何があった?」
 シンが険しい表情で訊ねる。
『シナイ半島南端の方角からUNKOWN接近中です』
 マーシェの声が、少女らしい鈴の音のような声で、しかしらしくない淡々とした口調で答えてくる。
「数は!?」
『1機です』
「1機!?」
 シンは最初、目を円くして素っ頓狂な声を出してしまった。
「ニュートロンジャマーの影響は?」
『問題ありません。間違いなく1機で接近しています』
「1機で接近してくる……まさか!?」
 そんな無謀をしてくる、いや当人達にとっては無謀でもなんでもない事を、平然とやってのける人間が、
この世に2人だけいることを、シンは思い出した。
「くそっ、もう出てきやがったのか!」
 シンは受話器を叩きつけるように切る。
「総員起こし! 動けるMSは起動させておけ! ただしすぐには出るな。餌食になるだけだ」
「了解!」
 シンは、歩哨をしていた兵にそう怒鳴る。
「クレハも、すぐに飛び立てるようにしておいてくれ」
「ハッ!」
 クレハは敬礼して、自機の方にかけて行った。
 シンもインパルスIIに駆け寄る。砂塵を少しでも避けようとかぶせられていたシートが、歩兵の手で剥がされる。
 かがんだ状態で駐機しているインパルスIIのコクピットを開いた。
「シン、あたしは一緒についていくからな!」
 わざわざインパルスIIに駆け寄って、コニールがそう言ってきた。
「…………」
 ダメだ、退いてろ、そう言いかけて、シンはそれを止めた。
「解った、頼むよ、コニール」
「まかされた!」
 コニールは、隣に駐機しているネモ・ヴィステージに駆け寄っていく。
 シンはインパルスIIのコクピットに収まると、起動スイッチを入れた。

 Generation
 Unsubdued
 Nuclear fusion power source
 Drive
 Assault
 Module
 COMPLEX

 ZGMF-X156SF INPULS-II

 バッテリーでメイン操作系のOSを起動するのと並行して、マスクROMに書かれた別の組み込みOSでミズノ式炉を点火する。
 動力系のモニターに「Power reactor Condition No problem」の表示が点滅する。シンはレバーを握り、インパルスIIを立ち上がらせた。
 それに続いて、隣のコニールのネモ・ヴィステージも立ち上がる。
「どっちが来たんだか知らないけれど、まだ好き勝手させるには早すぎるんだ!」
 シンはそう言い、2機のモビルスーツは夜空に飛び上がった。

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