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〜ジオン公国の光芒〜_CSA ◆NXh03Plp3g氏_第07話

Last-modified: 2007-11-30 (金) 18:52:21

『殿下、ジュール市長がお見えになっています』
 アルテイシアが執務室のパーソナルコンピューターで電子書簡に目を通していると、インターホンがエザリアの来訪を告げた。
「通してください」
『はっ』
 インターホンにそう答えると、警備官の短い返答の後、暫らく経ってから、ドアをノックする音が聞こえた。
「どうぞ」
「失礼します」
 ドアを開けて、アルテイシアより一回り年上のエザリアは、一度深く頭を垂れてから、室内に足を進める。
「殿下、オーブからの書簡はご覧になりましたか?」
「今、目を通していたところです」
 執務机の正面に来たエザリアに、アルテイシアは答える。
「想定外の流れになりましたね」
 アルテイシアは、仮面に覆われた顔の口元をへの字に歪めて、面白くなさそうに言う。
「正直、オーブの真意はうかがい知れません」

機動戦士ガンダムSEED
 逆襲のシン 〜ジオン公国の光芒〜

 PHASE-07

「まるで身代金を払え、と言っているようですね、これでは」
 アルテイシアは、両手を組んで手悪戯しながら言う。
「ずばり、そういう意図なのかもしれませんけれど」
 苦笑して答えるエザリア。
「これを受け入れるとするなら、シンドバッド作戦第2段階は発動を延期せざるを得ません」
 アルテイシアが忌々しそうに言う。
「プラントと組んでの時間稼ぎ、という事はありませんかね?」
「充分ありえるかと思いますが」
 アルテイシアの問いかけに、エザリアは即答した。
「それでは、突っぱねますか。無条件でアスラン・ザラの身柄を渡せ、と」
「いえ」
 エザリアの言葉に、アルテイシアは否定の声を出した。
「乗ってみようかと思います」
「こちらから、相手の腹を探ろうということですね?」
 エザリアは、かすかに苦笑した。
「そういうことになりますね。4:6ぐらいで本意ではない、と言いたいところなのですが……」
 アルテイシアは、相変わらず面白くなさそうだ。
「解りました。シン・アスカを呼ぶのでしたら、早めになさってくださいね」
「っ……エザリアさん、私は別にそういうつもりではっ……」
 エザリアの言葉に、アルテイシアは明らかに狼狽の様子を見せた。エザリアはクスクスと笑った。

「シンドバッド作戦が中止!?」
 その報せを聞くなり、シンは血相を変えた。
「どういうことだ、戦況は順調に進んでいるんだぞ!?」
「中止ではありません、一時的に中断、という事だそうです」
 アビーはそう言いながら、内心「ほら、やっぱり」と思い、苦い顔をした。
「同じ事だろ! ここで留まれば、敵に防御を固める時間を与えることになる!」
 シンは息を荒げ、怪気炎を飛ばしながら、右腕で手振りを加えつつ、そう言った。
「オーブが、アスラン・ザラの身柄引き渡しと、ジオン公国の承認について、交渉を持ちたいと提案してきたのだそうです」
 疲れたような様子でため息をついてから、アビーは言う。
「だから……────なんだって!?」
 言い返そうとして途中で固まるシン。優に10秒は置いてから、目を円くして驚いた。
「アスランの身柄を渡す!? オーブが!?」
 アビーの座る、マリアの艦長席に身を乗り出すようにして、シンは素っ頓狂な声を出す。
「それほど驚く事なんですか?」
「驚かずにいられるかよ!」
 小首をかしげるように口にするアビーに、シンは即座に言い返した。
 ヤキン・ドゥーエとメサイア戦役、二度の大戦の英雄の1人であるカガリ・ユラ・アスハが、その仲間であるアスラン・ザラをジオンに引き渡す、
 さらにラクス・クラインのプラントに背いてジオンを承認する。まずありえないことだと、シンも思っていた。
 他にもアルテイシア、エザリア、イザーク、4人の共通見解だった。
 その上で揺さぶりをかけるのが、アスラン・ザラ身柄引き渡し要求だった。
 また、オーブの理念とやらを突付いてオーブを刺激してやる意図もあった。
 場合によっては、突入カプセルによるエィロムス挺身隊を用意して、オノゴロとヤラファスに降下、機能を麻痺させた後、
 日本か台湾に脱出させる作戦も計画していた。
「一体何を考えているんだ、アスハは……」
 歯噛みしつつ、シンは呟く。
「アルテイシア殿下から、合流せよと命令が来ています」
「俺1人でか?」
 アビーの言葉に、シンは聞き返す。
「護衛が必要なら、御自身の権限でということです」
 アビーは悪戯っぽく笑い、そう返した。
「なるほど」
「でも、その前に引継ぎはきちんとして行ってくださいね」
 アビーがそう言うと、シンは少しげんなりしたような顔で、
「あ、ああ……」
 と、どもりがちに返答した。
 ZAFT時代はとにかくいちパイロットとしてMSを振り回す事が優先だったのであまり問題にならなかったが、実のところ、
大量の文書処理をする事務的な仕事は、性格的に苦手なシンだった。

 スエズ北方要塞にマチュア型MS空母『ブライトン』が到着、シンを載せて紅海へ抜け、インド洋経由でオーブへ向かう。
 水上艦艇の移動速度では時間がかかりすぎる為、その護衛の代わりにエィロムス挺身隊から1個中隊12機を組織して、水中からの襲撃に備える。
「しかし、俺1人移動させるのにずいぶん大げさすぎやしないか?」
 シンは、紅海を進むブライトンの露天甲板で、呆れたように呟く。
「それだけ、お前も重要人物になったという事だ」
 聞き慣れた声に、シンは振り向く。
 艦内に通じる扉の方から、レイ。それに、クレハも続いてきていた。
「もちろん、アルテイシア殿下のオーブ滞在中の護衛が主目的なのだろうがな」
「レイ」
「今のお前は、ジオン大公直属特務隊司令代理、シン・アスカ特務中佐」
 ジオン公国軍は、現在、ジオン・アルテイシア・ダイクン大元帥と、“本土”であるトーマス・シティ防衛の責任者として
元帥の権限があるエザリアを除けば、最高階級が中将である。
 しかも、“特務”と付いた場合、(シン以外の場合でも)1階級上と見なされる(この場合、准尉、准将は飛ばして見なす)。
「ZAFTにとってのFAITHなどよりもずっと重要人物だ。軽率な行動はできないな」
「するつもりはないよ」
 シンが穏やかに微笑んで言う。レイはそれを見て、意外そうな、少し驚いたような顔をした。
「俺はまだ死ねない。彼女がそれを望む日までな」
 シンが妙に得意そうに言うと、レイはフ、と不敵に微笑む。
「惚気か?」
「そんなんじゃない! と言いたいけれど、多分そうなんだろうな」
 シンが素直にそう答えると、レイはまた意外そうな顔をし、訝しそうに眉間にしわを寄せた。
「シンらしくない、熱の上げようだな」
 レイの知っているシンは、異性に関してはうぶな所があり、仲間からからかわれているほどだった。
 同性同様に付き合えるルナマリアぐらいが、身近にいる同年代の同性だった。
 ステラとの恋愛関係もプラトニックなものだった。
 もっとも当時はシンも思春期真っ盛りの16歳。今は22歳、旺盛ではあるだろうが、精神的にはいくらか“成長した”のかもしれない。
「他に、何もないんだ」
「え?」
 呟くようなシンの言葉に、レイは反射的に聞き返していた。
「他に、何もないんだよ、今の俺には……」
「…………」
「可愛そう……」 レイの背後で、クレハが小さな声で言う。
「そうなのかな」
 シンはそう言って、苦笑する。
「…………話は変わるがな、シン」
 レイが、険しい表情で聞いてくる。
「キラ・ヤマトが、来ると思っているのか?」
 レイの言葉に、シンは一瞬、びくりと反応した。
「……可能性は、あると思ってる」
「だから、俺と……クレハに同行させたんだな?」
 レイがさらに訊ねる。
「そうだよ。クレハには申し訳ないことをしてると、思うけどね」
 自嘲気味の笑顔で、シンは言う。
「いえ、そんなことはありませんよ」
 クレハは困ったような苦笑で、顔を横に振る。
「スエズの方に来る可能性は?」
「ないと思ってる」
 シンはきっぱりと言ってから、苦笑した。
「アスランはキラの親友だろ、ほっといてスエズになんか行くものか。たとえオーブを灰にしたって、連れ帰ろうとするさ」
「……だろうな」
 シンが可笑しそうに言うと、レイも肩をすくめるようなポーズをとって、苦笑した。
「…………」
 1人、クレハだけが、黙って、顔を険しくしていた。
 それは、何かを憎悪するような表情だった。

 ブライトンはマラッカ海峡を抜け、太平洋に入る。
 ニューギニア北方の太平洋上で、ジオン公国の国籍マークを大きくつけた、シャトルを回収した。シャトルといっても、
その気になればMS1体を収容できるほどのものだが、後部に大きな着艦デッキを持つマチュア型は、これの収容を可能としている。
『手すき総員、後部着艦デッキ!』
 放送とともに、準待機中のMSパイロット、戦闘要員、それに甲板員やMS整備班などの、非戦闘時の航行では手持ち無沙汰となる人員が、
後部着艦デッキに集まってくる。そして、シャトルに横付けされたタラップから、人員用エレベーターまでに、人壁で通路を作るように整列した。
 もちろん、一方の先頭、タラップ側はシンである。その正面が、ブライトンの副長だった。
 シャトルの乗降扉から、仮面姿の大公殿下が姿を現す。乗員は全員、最敬礼の姿勢を取る。
 続いて降りてきたのは、公国軍広報担当長官の、キャサリン・ブリッツェンだった。ZAFTから引き継いだジオン公国軍の黒制服を、
ヘソ出しにタイトのマイクロミニスカートに改造した軍服という、とても文官とは思えない姿で、笑顔で手を振り、愛嬌を振りまきながら降りてくる。
 実際、彼女はイメージキャラクターで、実務は事務方がこなしているとも言われている。決して彼女が無能というわけではないのだが。
 さらに、4人のSPが続く。
 アルテイシアとキャサリンがそれぞれ返礼をすると、乗員は敬礼を解いて直立不動の姿になる。
「ようこそおいでくださいました、大公殿下、ブリッツェン閣下」
 副長がアルテイシアと握手を交わし、
「ファーストネームでお呼びください、呼びにくければ『キャシー』でいいですから。少佐」
 にっこりと笑顔で言いながら、キャサリンは副長と握手を交わした。
 そのやり取りを横目で見て、アルテイシアは口元で苦笑した後、シンの方に向き直った。
「お久しぶりです、アスカ中佐」
 アルテイシアはそう言いながら、シンと握手しつつ、口元を綻ばせていた。
「後で、私の部屋に来てくださいますか?」
「かしこまりました」
 シンも、そう返しつつ、思わず顔が微笑してしまう。
 デレデレ顔の副長から、キャサリンが振り返り、シンに手を伸ばした。
「今回もよろしくお願いしますね、シン・アスカ中佐」
「ええ、もちろん。キャシー准将」
 シンは苦笑気味に、キャサリンと握手を交わす。
「殿下も、アスカ中佐と会うのを、心待ちにされていましたよ?」
 くすっ、と、表面的には天使のような笑顔を見せながら、キャサリンはそんなことをサラリと言う。
「っ!? い、や、別に、殿下はそういうわけでは……」
 シンが、少し狼狽しつつそう言い返すと、キャサリンは軽くウィンクしてから、シンの 耳にささやく。
「一応、情報を操作する部署ですから、それぐらいの事は、心得ていますよ」
「う…………」
 自白したのはイザークか、エザリアか。
 どちらにしても、トーマス・シティに戻ったら、何らかの個人的制裁を加えようと決意 するシンだった。

 その頃、マリアは、ヨーロッパ連邦トルコ共和国のイスケンデルン基地に向けて、補修の為に航行中だった。
 マチュア型『ダルシン』は、入れ替わるように、イスケンデルン基地から、防衛用の軽モビルスーツを搭載して、スエズ北方要塞へと向かっていた────

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