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〜ジオン公国の光芒〜_CSA ◆NXh03Plp3g氏_第18話

Last-modified: 2007-11-30 (金) 18:58:18

コーディネィターは病んでいる。

 ────比喩的表現ではない。
 潜在的なものも含め、9割以上のコーディネィターは何らかの精神的疾患を患っている。
 第1次性徴期から第2次性徴期にかけて、コーディネィターの先天的優位は特に顕著に現れる。
 嘗てムルタ・アズラエルがトラウマを負った時のような状況が例だ。
 だが、思春期を経て社会に出て行く段階になって、徐々に優位は薄れていく。
 スポーツ・アスリート等に活路を選んだ場合など、少ない例外はあるが、多くはこの頃、肉体的にナチュラルに追いつかれ始める。
 コーディネィターといっても、“人間”という要素の範疇での遺伝子操作でしかなく、ナチュラルでも先天的にコーディネィターに匹敵、
凌駕する者もいれば、あるいは学習と訓練、より日本人好みの言い方をするなら“努力と根性”で、その不利を覆そうというものも現れる。

 そして社会人になると、さらにその歪みが大きくなる。
 企業や役所において、人間の評価とはその能力であるが、それは学業の頃と異なり、仕事量、こなせる仕事の質のみにおいて
決まるものではない。人間性、社交性、後輩への指導力、そうした総合的な評価へと切り替わっていくのだ。
 ましてや、第三次産業、平たく言えば接客業、サービス業等になれば、仕事の評価そのものに人間性が関わってくる。
 自己評価と他者の評価が異なるという歪みによって、精神的疾患を負う人間は全体的にも少なくないが、
コーディネィターは特に顕著で、先に上げた通り約9割という数字に達してしまう。
 つまり、「こんなはずじゃなかった」という奴だ。
 
シン・アスカはこの面に限って言えば、幸運な例外だった。思春期入り初めの時期に別の強烈なトラウマを負ってしまうことで、
“評価のねじれ”から逃れることが出来たので ある。
 生粋のプラント人とて例外ではない。むしろ、第二世代のコーディネィターが多数を占める分、より顕著である。
 情操教育において、親や周囲からそう刷り込まれる為だ。何故自分達は優秀なはずなのに、窮屈なコロニーに閉じ込められている?
 そのコーディネィターの鬱屈が、最初に爆発したのが、ヤキン・ドゥーエ戦役、すなわちプラント独立闘争であった。

機動戦士ガンダムSEED
 逆襲のシン 〜ジオン公国の光芒〜

 PHASE-18

 シーゲル・クラインは穏健派と呼ばれたが、それは必ずしもコーディネィター絶対優越論の信望者ではないことを意味しない。
 むしろ、「ナチュラルなどコーディネィターの敵にあらず。いずれは支配されるべき地上の旧人類」という思想の持ち主、
それがシーゲル・クライン時代のプラント穏健派の正体だ。

 基本的にナチュラルを、地上での資源と捉えている。だから大きな被害が出ると知りつつニュートロンジャマーの投下に合意したし、
エイプリル・フール・クライシスの惨劇が起きても、責任者達を処罰することもなかった。
 この思想に基づいてZAFT・地球間の戦争を泥沼へと引きずり込んだ結果、シーゲル・クラインは粛清される。
 フリーダムやエターナルの強奪など、最終的には口実に過ぎない。

 この点、ナチュラルを決して非力な存在ではないと、その脅威を認識していたパトリック・ザラの方が、
生物学的、人類学的においては正常と言えた。
 パトリック・ザラの罪は、このコーディネィターの精神構造的問題とは直接的には関係のない、より単純で明快なものである。
 母なる大地、地球に弓を引こうとした。コーディネィターといえども、地球は究極の生まれ故郷であることに変わりはないはずなのに、である。
 したがって自然浄化的に、パトリック・ザラは排除された。

 ギルバート・デュランダルの場合は、プラント独立前の混乱に比べれば、まだ問題としては単純だった。
 ナチュラル・コーディネィター云々というより、とにかく地球圏を安定させようとしたのである。
 ただ、研究者畑の彼は、いささか理想主義に走る傾向があった。
 加えて、ブレイク・ザ・ワールドによる、なし崩しのプラント・連合再戦である。踏まれるべき政治的プロセスをいくつかすっ飛ばす状況におかれた。
 最終的にデュランダルは目標を果たした。ロゴスは消え、プラントは彼の元に一丸となり、地上も彼の言葉を信じるようになり、磐石の体勢が敷かれた。

────ただひとつ、“歌姫の騎士団”なるテロリスト集団を除いては。

 デュランダルが地球圏への影響力を最大にした時点で、その首はラクス・クラインへとすげ替えられた。
 つまり、後に“デュランダル派”と呼ばれる理想主義から、本来のクライン派、コーディネィター絶対優越主義への転換である。
「戦争を続けるナチュラルどもを啓蒙してやるのだ、それも大上段から」
 ラクス・クラインの対ナチュラル政策というのは基本的にこうである。父シーゲルの影響が強い上に、
自身は政治的な経験が皆無に等しいのだから、勢い独裁に走るしかない。
彼女もある意味、歴史の犠牲者といえた。ただ、ずいぶんと大規模に傍迷惑な自傷行為だったが。

 かつて、典型的なコーディネィター優越論者だったイザーク・ジュールは、この頃を皮切りに、徐々に意識を変化させていく。
 彼はZAFT軍組織の指揮階級として、地上とプラントを行き来する任務が続いた。時に自らMSを駆って戦った。
 その経過で、コーディネィターの抱える“自身の理想と現実との捻れ”が、別の形で刺激され始めた。
 連合が解体されても、プラントに抵抗することをやめない地上の軍閥。貧しく、おおよそ近代文明とは切り離された生活を送らされている、
 多くの地上の人間。それをMSから見下ろし、威圧している自分達。道端で痩せこけた肉食動物に咀嚼される餓死者。
 家の中で事切れた凍死者。死者を弔う葬送の列・列・列…………

 ────平和の歌姫、ラクス・クラインこそ、地球圏に自由と平和をもたらす唯一の存在ではなかったのか?

 歴戦の勇士として成熟したイザークの中では、ラクスの“平和の歌姫”というメッキが剥がれ始めたのである。
 それでもしばらく、彼は現実に目をつぶり続けた。自身の根幹にあるコーディネィター絶対優越主義も曲げることが出来ずにいた。
 だが、それに決定的な事態が起きる。
 トーマス・シティーの開設、そしてエザリア・ジュールのトーマス・シティー市長就任である。

 エザリアは元々、マティウス・シティーの市長であった。それを移動させ、トーマス・シティーの市長職に就けようという。
 トーマス・シティーは、プラント本国から離れている。その上、地球と同じ公転軌道をたどるL5、L4と異なり、
より太陽に近いL1に建設されたトーマス・シティーは、コロニー自体に対策がしてあるとは言え、環境的に劣悪である。
 そのトーマス・シティーへ、栄転でもない入植と市長職移動。これが何を意味するかは、イザークにもすぐに解った。あからさまな左遷だ。

 ────何故? 母上に何か落ち度があったのだろうか?
 マティウス・シティーの運営は順調だ。特にエザリアの首を切る要素は見当たらない。
イザークはそうではないことを祈りつつ、自身の権限でトーマス・シティーの入植予定者リストを取り寄せた。
 絶句した。
 ザラ派、デュランダル派として知られている人物の名前が多くあった。そしてさらに驚くべきは、地上からのナチュラル難民の入植者。
 トーマス・シティーは、プラント本国の半分にもなろうかという人口を、最終的に10基のコロニーに詰め込もうという計画を立てていた。

────それでも、最盛期の東京やダッカに比べればその平均人口密度は1/5以下だったのだが、それは余談。

 平均的にコーディネィターほど環境適応性が高くないナチュラル入植者なら、より環境の良いプラント本国か、アーモリー・シティーに迎えるべきだ。
 トーマス・シティーは、プラントの財政を立て直すためのエネルギー生産コロニーであると同時に、不穏分子を予備的に隔離する為の監獄。
 そんな声も聞こえてきた。
 そしてイザークは、ついにラクス本人に、エザリア異動の真意を問いただしたのである。
「エザリアおば様には何の落ち度もありませんわ。むしろ、優秀なお方ですから、
 新規開設で大変なトーマス・シティーの指揮を執っていただきたい思ったのです」
 イザークの好きだった、聖母の如き慈愛に満ちた笑顔で、ラクスはそう答えた。だが、その時のイザークには、
ラクスの笑顔は、無機質な仮面のように見えた。

 マティウス・シティーの状況も調査した。市行政府内部ではごたついているのが解った。
ラクス・クラインが権力を掌握すると同時に、彼女のバックアップ組織だった軍事技術集合体“ファクトリー”が、
 公のものとなって、プラントの軍需産業、宇宙産業を牛耳っていた。彼らには、ザラ派であるエザリアは目障りな存在だった。
 身内贔屓の人事。それは、ラクスがキラ・ヤマトをZAFT軍組織に入隊させたと同時に、FAITHの称号を与え、
最上級の指揮官を示す白服を与えたことで既に明らかだった。
 なるほどキラはスーパーコーディネィターとして優れた存在であり、ラクスにとってはこの上ない貢献者だろう。
 だが、彼はプラント自体にどれほどの貢献をした?
 能力的にも人間的にも認められ成熟した者が着る事が許されるのがこの白服ではなかったのか?
 だが、プラント国防軍が発足した時、キラは中将の階級が与えられ、イザークは少将だった。

 ────俺達が命を賭して守ったプラントは、ラクス達の食い物にされている……

 事実を受け止め、自失状態になりかけたイザークは、ある噂を耳にする。
 エザリア・ジュールが、トーマス・コロニー内の旧連合の勢力と手を組み、ラクス・クライン政権に対しクーデターを計画している。
 嘗てのイザークなら、例え母といえど、直ちに“平和の歌姫”の敵を排除する行動を開始しただろう。
 だが、今のイザークには、ラクスの神通力は通じなくなっていた。

「母上、良くないことを耳にしたのですが……」
 やつれた姿でトーマス・1の市長公邸を訪れたイザークは、エザリアに向かってそう切り出した。
「自分も、その計画に関わらせてください……優秀なMS搭乗者は必要でしょう?」
 部下もとりあえず、ほとんど身一つで飛び出し、ジオン建国に参加したイザークだったが、この時、彼の人生の中でも有数の失態を犯す。
 嘗ての部下、シホ・ハーネンフースが、押しかけ女房よろしく加わっていた。
 それが母エザリアと、ジオン・アルテイシア・ダイクンなるクーデター指導者による陰謀だと知ったのは、L1会戦の直前のことだった。

「TPRF-XMS109F、エンデューリングジャスティスだ」
 イザークは、妙に得意そうに、紹介する声を上げた。
「『ジャスティス』?」
 シンは、怪訝そうな声を出す。
「過去の戦闘成績から、貴様には格闘戦主体の機体が向いているという結果になってな」
 不敵に笑いながら、イザークはシンに説明する。
「名前が気に入りませんか?」
 そう、シンの傍らにいた、アルテイシアが訊ねる。
 ジャスティスの系列といえば、アスラン・ザラの乗機であり、インフィニットジャスティスに至っては、
シンの乗るデスティニーを撃墜したこともある。いい印象を持っていない可能性は高い。
「うーん……エンデューリングジャスティス、飽くなき正義、か」
 シンは顎に手をやって少し逡巡した後、にやっと笑ってエンデューリングジャスティスを見上げた。
 VPS装甲は採用されていない。起動していなくても、ジャスティス系特有の、ピンク寄りの赤を基調としたデザインがはっきりとわかる。
「いや、気に入ったよ。乗らせてもらう」
 言って、イザークと、アルテイシアを交互に見る。
「貴様好みに仕上げるのが、大変だったんだぞ。もしいやだなどと抜かしたら、鉄拳制裁物だった」
 イザークは苦笑しながら、トン、と、シンの胸を叩いた。
「ありがとうございます、イザーク」
「最後の調整は自分でやれ。それは、他人がやっちゃ意味がないからな」
 真面目な表情に戻って、イザークはそう言った。
「はい!」
 はっきり返事したシンだったが……
「…………ぷぷっ、ふふふっ」
 と、イザークの顔を見ながら、堪えきれないといった感じで、吹き出した。
「なんだ、貴様。気味の悪い」
 イザークが、不快そうに言い返す。
「いやぁ、イザークが、例のアレに乗せられるのかと思うと、どうも……」
 くくく、と、シンは押し殺した笑いを漏らす。
 しかし、ニヤリと笑って、イザークは返す。
「残念だが、例の奴の専従パイロットは、俺じゃなくなった」
「えっ?」
 軽く驚いて、シンはアルテイシアの方を向いた。
「それじゃあ、レイを?」
「いいえ」
 アルテイシアは、口元で微笑みながら、首を横に振った。
「それじゃあ…………」

「TPRF-XMS999Fよ。どう?」
「わぁ」
 女性の、ストレートの髪のような補助翼を持つそのMSを見せられて、クレハはどこか喜んだような声を上げた。
「まるで、女の子のお人形さんみたいですね」
 クレハのその感想に、背後のシンとイザークがドドッっとコケた。
「?」
 クレハにXMS999Fを紹介したシホは、怪訝そうに2人を振り返る。その傍らで、アルテイシアはじとりと汗をかいていた。
「この子には、名前がないんですか?」
 XMS999Fという形式番号で呼んでいたことに気がつき、クレハはシホとアルテイシアを振り返る。
「ええ、まだ制式には……」
 シホが語尾を濁すように言う。ジャスティスと対になる機体なら『〜フリーダム』が相当だろうが、ジオンの衛星軌道ステーションに
監禁しているアスラン・ザラはともかくとして、キラ・ヤマトは依然プラントの軍人として健在のはず。
 何より、キラのクローンであるクレハにフリーダムと名のついた機体を与えること自体、縁起が悪いような気もしてならない。
 シンもイザークもシホも無神論者ではあったが、それと縁担ぎとはまた次元が違うのである。
 “人格としてのキラ・ヤマト”が、2人も3人も出てきては困るのだ。いろんな意味で…………

「それでは、クレハさん自身が命名してはどうでしょうか?」
「わ、私が、ですか?」
 アルテイシアの提案に、クレハは戸惑ったような表情をする。
「はい、構いませんよ」
 アルテイシアは、口元だけでもそうと解るようににこりと微笑む。
「え、えっと……」
 戸惑いつつ、クレハは、XMS999Fを見上げる。
 エンデューリングジャスティス同様、主要部分はVPS装甲ではなく、フリーダムに良く似た、白と青の塗り分けがされている。
 ただ、背後の“髪”だけは、強度維持を兼ねて、VPS装甲化されており、今は鈍い灰色になっていた。
「…………」
 何を思ったのか、じぃっ、と、その姿に見入っていたクレハだが、やがて、ポツリ、と呟くように言う。

「……ミーア」
「えっ?」
 シホが声を上げ、全員がクレハに注目した。
「『ミーア』って名前はどうでしょう、この子」
 クレハは笑顔になって、アルテイシアを見た。
「『meer』、海、ですか、素敵な名前ですね」
 アルテイシアは口元で微笑む。
「はい、ありがとうございます!」
「それでは、それで決まりですね」
 アルテイシアが言う。シンとシホも苦笑気味に笑ったが、異議は唱えない。ただ1人イザークだけが、ぼそぼそと呟いていた。
「それでは、早速設定してしまいましょうか。ハーネンフースさん、お願いします」
「了解しました。クレハ少尉、こちらへ」
 シホとクレハは、XMS999F、たった今『ミーア』と名付けられたそれにかけられているタラップを上がっていく。
「た、た、大変です! 殿下! ジュール閣下! アスカ閣下!!」
 入れ違いになるように、ハンガーの入り口から、黒服の士官が飛び込んできた。シン達は、何事かと振り返る。
「何があったんだ!?」
 はぁはぁと息を切らす若い士官に、イザークが問いただす。
 士官は息を飲み込むように喉を鳴らし、顔を上げた。
「プラントが……マイウス2が……っ!!」

 実物3機を手に入れ、数ヶ月を解析に費やしたにも拘らず、プラントは未だ、ミズノ式炉のデッドコピーを完成させられずにいた。
 偉大なる父の名をとり、『シーゲル式』と名付けられたその炉は、熱核反応の実施までには至るものの、
すぐに1次冷却系過熱で停止してしまうのだ。
「条件はジオンの炉と変わらないはずだ」
「安全装置のマージンが大きすぎるんじゃないのか?」
 デッドコピーは、その初期においては現物に劣るという原則論を無視した結果、ジオンの量産体勢に1日でも早く追いつかなければならない、
というラクス・クライン大統領の号令一下のプレッシャーもあり、過熱安全装置の限界値は徐々に、徐々に緩められていった。

 実は条件は同じではなかった。ミズノ式炉の設計が完成した段階では、プラントには製造ノウハウの不足している部品があった。
 熱交換器だった。
 ウォーター・ジャケットの第1次冷却水の通る太い筒の中を、第2次冷却水のパイプを通して加熱、過熱蒸気化するという構造の部品だが、
MS用ということを考慮し、発電用で使われる細管を束ねたものではなく、『Ω』型のイモノを連ねて使うことになった。
 ところが、精密鋳造の配管類となると、プラントでもそう容易くはなく、ましてトーマス・シティ単独では調達のしようもなかった。
 そこで、エザリア自ら私財を投じて、日本の製鉄メーカーに設計と、初期分の製造を依頼したのである。
 これそのものの存在は、核融合炉に直結するものではなかったし(メーカー関係者は無論、最終的な用途を知ってはいたが)、
エザリアが個人名義で買ったものなので、プラント本国の甘いチェック体制など簡単にすり抜けた。
 さて、これを手に入れたマイウス・シティの技術陣は、どういう構造かわかったはいいが、一朝一夕に同じものは手に入れられない。
 しかも、日本はジオン同盟国。日本は同盟国を裏切らない、というのは、A.D.時代からの定説である。
 そこでやむを得ず、理論上同程度の能力を持つ、核分裂エンジン用の熱交換器を取り付けて、第1号機の実証実験に臨んでいた。
 蒸気発生量は同程度だったが、第1次冷却側の水流抵抗が大きかった。言うまでもなく、かなりの問題である。
 しかし、この深刻さに、マイウス・シティの技術陣は気付かなかった。

 核融合は核分裂と異なり、連鎖反応はしない、というのが、定説になっている。
 しかし、その点で言えば、ミズノ式炉は、核分裂炉に近い性質を持っていた。核融合による熱と中性子が、
次の核融合を励起する、『自励スパイラル現象』を利用して動いていた。
 もちろん、核分裂炉と異なり、燃料の重水素ガスはゆっくりと補充してやらなければならない為、暴走を抑える事は、本来は容易い。
 だが、変換後のエネルギー総量では、むしろ核分裂炉を凌駕する分を圧力容器内に抱え込んで、運転していることになる。
 流量が制限されたことにより、第1次冷却水の温度は、許容平均値を超えて沸騰を開始してしまった。
 ウォーター・ジャケットから、液体の“水”が失われ始めたのである。
 ウォーター・ジャケットは、冷却のほかに、余剰の中性子の回収(減速作用)と、副生成物のトリチウム(三重水素)の流出防止の役目も持っている。
 ウォーター・ジャケットによる減速作用が失われた結果、本来磁気ミラー周辺に抑えられている核融合反応が、圧力容器全体にまで広がり始める。

ミズノ式には、この時点でもまだ、安全装置が2つある。高圧液体酸素注入系と、最後の手段、炉内圧力解放弁である。
 ところが、この時、シーゲル式には、前者はセンサーの限界値設定を引き上げていた為、事実上キャンセルされた状態になっていた。
 また、後者は、核融合の常識的に中の圧力を“抜く”事はないと、最初から取り付けられてもいなかった!
 炉内の大部分が高温プラズマ化する。温度は6000℃から1万℃。耐えられる構造材などない。炭化タンタル系合金の圧力容器が溶融を始める。 
 真っ先に、常温核融合の予燃焼炉から加熱ガスと中性子を導くジェットノズルがぶち抜け、
 逆噴射状態で炉内のプラズマ化物質を気体にと冷却させつつ、ぶちまけた。
 この中には、副生成物のトリチウムと、そのトリチウムが予備的に核融合反応を起こして発生させた高速中性子が含まれていた。
 このトリチウム、水素の同位体というイメージなどとはまったく程遠い、天下御免の放射性物質である。
 ミズノ式炉の場合、同時に放出される陽子を電荷回収していない為、通常は燃焼させているうちにお互い反応して無害なヘリウム3へと変化してしまう。
 しかし、ウォーター・ジャケットの冷却水喪失という事態になると、不安定な核融合から加速度的に蓄積され、
さらにトリチウム自体まで重水素と反応して核融合を起こす。
 この時、正常に事態を把握している人間がいれば、被害は最小限ですんだ。ニュートロンジャマーを作動させれば、高速中性子は比較的無害化できる。
 その上で、大量の水を使って洗い流してしまうしかない。しかし────

 炉の周囲にいた人間は、逆ジェットの熱風で焼死した。制御室にいた人間は、急性甲状腺障害で次々に倒れた。
 火災報知器で駆けつけた消火班も、なんの放射線防護策も持ってはいなかった。
 対策が後手後手に回っているうちに、大量のトリチウムと中性子線は、工廠の外部へと漏れ出した。
 もともと、トリチウムには金属を透過してしまう性質がある。
 コロニーの狭い大気の中に混ざりこんだトリチウムは循環し、手当たり次第に周囲を放射化させる。
 マイウス・シティの行政府がそのことに気付いたときには、マイウス2の大気循環設備そのものが、放射化してしまっていた。
 後は、ユニウス7の、地獄の再現である。真っ先に乳幼児が甲状腺障害で倒れた。市民にパニックが広がる。
 マイウス・シティ行政府は事実の隠匿を図った(というか、この時点では彼らも詳細を知りえていなかった)為、
市民は得体の知れない悪魔に次々と殺されていくような状態に陥れられた。シャトルで脱出しようとする民間人が相次いだ。
 しかし、マイウス・シティはテロの可能性を警戒、嘗てのG強奪の苦い教訓から、マイウス2の港湾の閉鎖と、軍に出動要請を行った。

 市の封鎖を強行突破したシャトルが、ドム・ハイマニューバの射撃で、乗員ごとガスとデブリへと変えられる。
 マイウス2はその機能を停止し、そして死の都へとゆっくり追い込まれていった。

『皆様、悲しい出来事が起こりました。人類は再び同じ過ちを繰り返してしまいました。
 既にご存知かと思いますが、ジオン系テロリストの手により、マイウス2が壊滅いたしました』
 海外向け放送も含めた、プラント系の全チャンネルで、ラクス・クライン終身大統領の 演説が始まった。
『ユニウス7の教訓は生かされず、再び、マイウス2は核の脅威によってに死滅させられたのです。
 しかし皆さん、決して、これに悲観してはなりません』
「何を言っている! 我々がそんなテロリストなど飼うか! プラントを撃つなら、堂々と戦闘艦で乗り込んでやるわ!」
 トーマス1。大公宮廷、執務室。
 テレビの前集合した主要メンバー。テレビの中のラクスを、イザークが睨みつけ、毒つく。
『我々は、非道なジオンの跳梁を許してはなりません。決してひるんではなりません。
 人類の平和と自由を保証する為に、我々は断固として戦わざるを得ないのです……』

「何があったのか知らないけど、こっちに責任を擦り付けるってのは、相変わらずだな」
 イザークとは対象的に、シンは、どこか諦観したようなさめた視線で、テレビの中のラクスを見る。
「あるいは、彼女自身、本当の事は知らされていないのかも」
「え?」
 アルテイシアの呟きに、その場にいた全員が軽く驚き、アルテイシアを注視した。
 ただ1人、エザリアだけが、深刻そうな表情をして、俯く。
「そうかもしれませんね、ですがそうすると、悪い前例を作ってしまったかも」
「このままでは、済みそうにありませんね」
 アルテイシアの口元も歪んだ。

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