Top > 《第9話:ある意味ここがスタートライン》
HTML convert time to 0.013 sec.


《第9話:ある意味ここがスタートライン》

Last-modified: 2017-11-12 (日) 00:58:27

以前は医務室と同様、木組みの壁に天井と古めかしく和風な造りだった食堂は、その面影を一片たりとも感じさせないほどまでにリニューアルされていた。
抑えめで温かみのある照明に照らされた、レンガ造りで広々ゆったりとした空間には重厚感のある木製のテーブルが並び、そこかしこに観葉植物までも飾ってある。まるでテレビで見るお洒落なカフェテリアのようで、ずっと厨房に籠もっていた瑞鳳はしばし、時を忘れてその金糸雀色の瞳を輝かせた。
前までの町の食堂然とした雰囲気も好きだったけど、これも素敵だなぁと思う。料理作りが趣味で、たまに食堂のおばちゃん達のお手伝いもする少女は、急にオムレツを作りたい欲求に襲われた。
しかしまぁ、それはまたの機会に。今は我慢の時。
時計を見れば、食事会の開始まであと5分を切っていた。

 

「・・・・・・っと、あれ。響たちは?」

 

参加者の殆どは既に食堂に集い、自由気ままに動き回りながらそこら中で雑談に花を咲かせていた。
今回は珍しく立食のビュッフェ形式のようで、艦娘達は中央に並べられていく出来たてアツアツの料理に釘付けになっていながらも、あえて遠ざかって意識しないようにしている様が見て取れる。その一部を作った自分が言うのもなんだが、まるでお預けくらった子犬のようで少し微笑ましい。
でも、ざっと見たところ明石と夕立、響とキラの姿がなかった。
元々少し遅れる予定の明石は兎も角、あの三人はどうしたんだろう。瑞鳳は少し、会場内を歩いて探してみることにした。この時間にいないとなると遅刻してしまわないか心配になる。
別に遅刻のペナルティーはないとはいえ、一度気になると頭から離れなくなるもので。

 

「ちーっす瑞鳳(づほ)。誰かお探し?」
「鈴谷。や、探してるってほどじゃないけど、響と夕立とキラさんいないのかなーって」
「それなら来る途中で見たよ」

 

そうしてキョロキョロしていたのが目に余ったのだろう、いつものブレザーを羽織った翡翠色の髪の少女、鈴谷がいつもの軽いノリで声を掛けてきた。

 

「そうなの?」
「んーとね、なんか響とキラってば揃って資料室に入ってった。んでもって夕立ったら可笑しくてさぁ、入口手前まで艤装つけたまんま来てて、教えてやったら慌てて格納庫まで一直線。・・・・・・鈴谷も今来たとこだから、もーちょいしたらじゃん?」
「わぁ、流石のうっかりっぷり。そういうことなら心配いらないのね、ありがと」
「いーってお礼なんて。・・・・・・にしても、言ってて思ったんだけど、なぜに資料室?」
「さぁ? でもあそこ時計なかった筈よね。大丈夫かなぁ」

 

噂では共に第二艦隊に配属されるらしい、フットワークが軽くてコミュニケーション能力も抜群な最上型航空巡洋艦三番艦。偶然ではあったが彼女の活躍により、あっけなく瑞鳳の心配の種は解消された。
しかし、同時に生まれた新たな疑問に、二人は頭を傾げることとなったのだった。
なんで今になってそんなところに? うーん、様子見てこようかな? なにをしているのか知らないけど、響ってわりと時間忘れっぽいし、キラさんもけっこーなのんびり屋さんみたいな感じだし。

 

「相変わらずの心配性だねぇ。大丈夫じゃん? 片方は本日の主役なんだしさ」
「あ、それもそっか」

 

この食事会はキラの歓迎会も兼ねている。なら流石に本人が遅れることはないだろうというのが、彼女の主張だった。言われてみればそうだ。それに瑞鳳も同調して、今度こそ胸をなで下ろそうとした。
すると、そんな心配性な少女をからかうようにして、

 

「ッハ、いや、待てよ。こう考えてみるのはどーだろう」
「?」

 

鈴谷はおどけた様子でニヤリと笑いながら言った。

 

「うら若き男女が人目のない資料室に・・・・・・それってもしかすると、もしかしたらなんて可能性もなきにしもあらずじゃん? 聞くところによると何故だか仲がいいらしいあの二人、何も起きないはずがなく・・・・・・ってね」
「・・・・・・」

 

思わず溜息が出た。
まったく、この冗談好きの恋愛偏重主義者ときたら、言うに事欠いて。
分かってて言ってるんだろうけど、そんなことばっかり言ってるから熊野に怒られるんだよ? いつも熊野の愚痴に付き合わされる私の身にもなってほしいと、少女は切に思った。
そして同時に。
いつもなら普通に笑い飛ばせるような冗談に、自分でも驚くぐらいの強烈な非現実感も抱いた。スッと、心の何処かが醒めた。

 

(あるわけないのよ、そんなこと)

 

実際にナニをどうしたかという問題ではなく、あの響がそんな類いの行動をするというイメージ自体が湧かない。どころか、ありえないと強く否定する自分がいた。

 

「・・・・・・えーと、そんな難しい顔しないでって冗談だって。だからその、真面目に受けられると困るっつーか、ボケ殺しは勘弁してくださいマジで」
「ツッコミが欲しいなら話題には気をつかおう?」
「ごめんて。・・・・・・でもさぁ実際ありえるかもじゃん? つーかみんな気にしなさすぎだけど、いつの間にか溶け込んじゃってるけど、鎮守府に出入りする男なんて提督以外初なんだよ? 面白いことが起こらないはずがないよ状況的にお約束的に」

 

ちなみに提督はというとあれでちゃんとお嫁さんがいるし、まず軍令部から「才能有り、問題無し」と判断されて――時々の査察もクリアして――いるからこそ提督として鎮守府を運営することが赦されている。

 

「それはそうかもだけどぉ。でも・・・・・・」

 

鈴谷の言いたいこともわかる。
そりゃ初めて会った時から、あの二人なんか妙に仲がいいなーと思ってはいた。いや、馬が合っていると言うべきか。第二艦隊として合流する前から既に顔合わせしてた為か、戦闘中でも移動中でも二人一緒でいることが多く、時には初めてとは思えないコンビネーションを発揮したこともあった。
あの二人は何故だか仲がいい。
その片割れが詳細不明とはいえ、他の人間とは明確に異なる【自分達と一緒に戦う男性】なのだから、パートナー次第では彼女の冗談が現実になる可能性もなくはない。客観的にみれば惚れた腫れたと茶化したくなる状況なのかもしれない。
だから、そんなわけだから。鈴谷は軽い気持ちで、いつもの趣味の宜しくない冗談を言ったのかもしれない。
でも。
響に限ってそんなことあるわけがないと、瑞鳳は強く思ってしまうのだ。仮に少しでもそういうことができる娘なら、どんなにいいだろうと。

 
 

だって、あの娘はそういった余裕なんか少しも持てなくて、未だ進めずにいるのだから。あのクールでシニカルなペルソナの下には、私達でも溶かせない氷塊を抱いているのだから。

 
 

そんな事情を知っている数少ない者の一人としては、その冗談はあまりにも趣味が悪すぎた。
てか、そもそも鈴谷はなんでもそういう方向に持っていきたがりすぎ。このスケベ艦娘め。

 

「ていうか本能に忠実な鈴谷じゃないんだから、みんな慎みってのを持ってるんだから。いきなりそんなの有り得ないってば」
「む、失敬な。なんだよー人をケダモノみたいに」
「えぇー? だってこの前も熊野の誕生日に――あ。響たち来た」
「・・・・・・え、ちょ、なんでソレ知ってんの!? しかも、もって言った!?」

 

たまにはお灸を据えるのもいいだろうと思って、とっておきの切り札を切ってみた。その直後。
慌てふためいているケダモノの背後、人だかりの向こうに特徴的なツンツン頭が見えた。「なんとか間に合ったね」「おや、今回は立食式だったか。これは読みが外れたな」「名簿あるし、なんとかなるよきっと」という会話も聞こえてきて、無事に二人がやって来たことを知る。
よかった、これで安心できるというものだ。引き続き、バレてないと思っていたらしい元お隣さんに現実を教えてあげることにする。ところで宿舎が再建したら部屋割りはどうなるんだろう。

 

「ま、まさか・・・・・・全部筒抜け?」
「うん、わりと。壁薄いのにあんな大声なんだもん」

 

自室でナニをするのも勝手だけど、もうちょっと隣人を気にしてほしい。もっと言うと、いつも熊野の惚気に付き合わされる私の身にもなってほしい。

 

「ノーーーー!! やだ・・・・・・マジ恥ずかしいって・・・・・・! つーか熊野なに言ってくれちゃってんのー!?」

 

そこまで言うと、耳まで真っ赤になった鈴谷は勢いよくしゃがみこんでしまった。
あら意外と可愛い反応・・・・・・じゃなくて、ちょっとからかいすぎたかも。ただの八つ当たりでしかなかったけど、今日はここら辺で勘弁してあげよう。これで少しは懲りてくれればいいのだが。
そう思い、やれやれと肩を竦めた時だった。

 

「――え」

 

鈴谷の背後の、ごった返していた人だかりが少しだけ散っていて。

 
 

響がうっすら笑みを浮かべて、青年の手を引いている姿が見えて。
まだありえないと思っていた、まだ遠いと思っていた様が見えて。

 
 

少女の脳裏に、先の冗談が鮮明に蘇って。
ある一つの可能性を、試みを思いついた。
その為には。

 
 
 

《第9話:ある意味ここがスタートライン》

 
 
 

<マイク音量大丈夫? ・・・・・・よし。白露秘書殿、どうぞ>
<ありがとー霧島さん。・・・・・・コホン。えー、それでは全員揃ったみたいなので! 長ったらしい挨拶は全面カットで!! 佐世保鎮守府の一応の復活と、キラさんが正式にウチに配属されたことを祝して――かんぱーい!!!!>
「かんぱーい!!!!!!」

 

その後。
夕立がもの凄いスピードで駆け込んできたのを皮切りに、特設ステージで仁王立ちになった司会係の白露の元気な声が食堂内に響き渡って、ついに食事会がスタートした。
ここ数日の質素な缶詰生活が嘘のような豪華絢爛な料理はもの凄いスピードで消化されていき、それはアルコール類も同様で、大小様々な空ボトルがどんどん量産されていく様にはいっそ爽快感すら覚える。この勢いは多分、会議開始まで衰えることはないだろう。
ちょっと明日のお腹まわりが心配だ。
いつもの着座のコース形式ならもうちょっと落ち着きがあるのだが、最近ずっと苦しかった反動もあってか、誰も彼もが浮かれていた。でも心機一転で再出発するにはこれぐらいが丁度良いのかもしれない。
ちなみに、今回立食のビュッフェ形式になったのは、呉と鹿屋から来てくれた出向防衛組との交流を深める狙いもあるからだそうな。特に、ここ数日大活躍らしい呉のイタリア重巡姉妹、その妹ところにはかなりの人が集まって大賑わいになっていた。

 

「えっへへ〜、このチキンもおいひぃ〜。あー、ワイン赤と白、もう1本おねがぁ〜い」
「すっげーなオイ底なしかよ。よっしゃ、この摩耶様もつきあうぜ。おーい金剛ー、お前も来ーい!! 久しぶりにカーニバルだ!!」
「村雨の姉貴〜、ありやしたぜ! 提督秘蔵のヴィンテージ!!」
「ナイスよ江風。はいはーい、ポーラさんこれ一緒に飲みましょ!」
「Grazie、Grazieですね〜。さっそくいってみ〜ましょ〜。んぐ・・・・・・ぅあ〜。いいですね〜暑くなってきた〜、もー服がすごい邪魔ぁ!!」
「うわ、なにこの人だかり――ってポーラぁ!? うそ、ちょっとぉ! なーにやってんのー!?」
「ぅへあ!? ザラ姉様!?」

 

・・・・・・見なかったことにしよう。なにあの脂肪の塊。ぜんせんうらやましくなんてない。

 

「みんな、よく食べるね。いつもこんな?」
「違うわよぅ。今日が特別なの、いろいろと。これもあなたが協力してくれたからだけど・・・・・・そういえばちゃんとお礼言えてなかったよね。ありがとう、キラさん」
「お礼を言うのは僕のほうだよ」

 

そうして皆が久しぶりに明るく楽しく騒いでるなか、瑞鳳はキラと二人っきりになっていた。

 

「・・・・・・それで、なにかな? 僕に話って」
「うん、ちょっとね。あなたに訊いてみたいことと、お願いしたいことがあるのよ」

 

なっていたというよりかは、その状況を作ったというべきか。
青年に対する質問攻めタイムがようやく落ち着いた頃を見計らって、響にちょっと借りるねと断ってから共に食堂の端っこに移動した。単刀直入に、一対一で。話したいことがあったからこその行動だった。
遅まきながらロゼのスパークリングで満たされたグラスをチリンと鳴らし合って、二人は正対する。思えば男性と二人っきりになるのは提督以外じゃ初めてだ。ぜんぜんそのつもりはないけど。

 

(・・・・・・つもりはない、けど。なんでこんなどきどきするのよぅ)
「?」

 

昨夜に艤装を整備してもらった時と変わらず、穏やかに微笑む青年。
まだ殆どの人にとっては、まだそうたいして親しくない男性。未だ詳細不明の異世界人。いきなり女性だらけの鎮守府に所属することになって、でもいつもノンビリのほほんとしていて、いままでトラブルを起こすこともなく至って普通の好青年で通している男。
・・・・・・ふむ、改めて見てみると顔立ちはなかなか。どこか中性的で正直男性としては好みのタイプじゃないけど、その若さにそぐわない静謐な雰囲気は人を安心させる力があるように感じて、これはこれで。元の世界じゃ結構偉い立場だったと聞くし、強いし、間違いなく優良物件ではある。
――って、なんで私が品定めみたいなことしてるの。もう、調子狂うなぁ。鈴谷が変なこと言うから変に意識しちゃうじゃない。
じっとり汗ばんできた掌を、ひっそり袴で拭う。
これはそう、緊張しているだけだ。ただ単に、自分に男性の免疫がないからこその緊張だと、これからの質問が自分にとって大事なものになるという気負いもあるからだと、少女は頭を振った。

 

「暁〜、響〜、コレ食べて食べて! わたしと電で作ったの。ど〜お?」
「肉じゃが! 二人で作ったの? やるじゃない!」
「うん、いいな。美味しいよ二人とも。・・・・・・木曾と鈴谷もどう? きっと気に入る」
「! ――ほう、響のお墨付きか。なら頂こう・・・・・・、・・・・・・なんだこれは、こんなに美味くていいのか!? 美味すぎる!!」
「・・・・・・え、このオーバーリアクションの後に食べるのってめっちゃハードル高いんですケド」
「鈴谷さんファイト、なのです」

 

遠くの方で、暁型の四人と木曾、そして鈴谷が肉じゃが一つで楽しくはしゃいでる声が、やけにハッキリ聞こえてきた。
そしてそれを最後に、周囲から音が遠ざかった。まるで世界には自分達しかいないと錯覚するような、そんな静寂の世界を意識して形作る。これからの一語一句をけっして聞き漏らさないよう、少女は集中する。
そう。ここからはシリアスに。
シリアスが私を呼んでいる。
そんな少女の気合いに気付いたのか、青年も真面目な顔になった。今だ、訊くにはこのタイミングしかない。これにどう応えるかによって、少女のこれからの行動指針が決定される――これはそういう質問だ。
空回りしそうな舌を必死に制御して、まっさきに本題を。

 

「――ええっと、ね? ぶっちゃけさ、あなた自身は、響のことどう思ってるのかなって」

 

・・・・・・にしては質問内容が些か緊張感に欠けるというか、恋愛モノの三流TVドラマみたいに青臭くて、しかも漠然とし過ぎていると瑞鳳は言ってから気づいた。
気付いて、頭を抱えた。
キラも苦笑して、場に和やかな空気が流れる。しまった、ぜんぜんシリアスっぽくない。それどころかこんなんじゃ意図の半分も伝えられてないではないか。そりゃ究極的には「どう思ってるか」が核心ではあるけども。

 

「これはまた漠然とした・・・・・・」
「うぅ、ごめんなさい今のナシで」
「とりあえず、可愛くて良い子だと思ってるよ。でも瑞鳳さんは訊きたいのって、そうじゃないでしょ? ・・・・・・そうだね、でもなんとなくだけど何が訊きたいのか、わかるような気がする」
「え、ホントに?」

 

わかってくれたのだろうか。
キラはしばし考え込むように、言葉を探すように俯いた。
心当たりがある、というのだろう。そういえばこの人は元の世界じゃ結構偉い立場だったという。何か似たような問題を知っているのかもしれない。世界広しといえど、人間が抱えるような問題なんてのは限定されていると言ったのは、どこの誰だったろうか。
少しだけ沈黙が続く。
ちびちびとグラスを傾けて、口を開きかけては閉じての繰り返し。その顔は先までと打って変わって、それこそ戦闘中でもあるかのように真剣で。でもどこか迷っているような素振りで。その横顔を見て、瑞鳳はゴクリと喉を鳴らした。
そうして彼のグラスが空になった頃。
しばしの黙考を経てキラは「多分だけどね」と前置いて言った。哀しそうに瞳を伏せ、言った。
それは、先の問いの核心に触れるものだった。

 
 

「響が。彼女が僕と一緒にいてくれる理由は、罪悪感が一番大きいんだろうなって。僕はそう思ってる」

 
 

――ああ。この人はちゃんと、思っていたよりもずっと、あの娘のことをよく見てくれているようだ。
瑞鳳はその言葉だけで、この人は信じてもいいと確信した。

 

「だから僕は・・・・・・受け入れて――支えてあげたいとも思ってるよ。あの娘はね、恩人だから。それが報いになるかはわからないけど・・・・・・こんな答えでいいかな?」
「・・・・・・うん、充分。ありがとうキラさん。気付いてくれてたんだ」
「流石にそこまで鈍くできてはいないよ。・・・・・・でも、そっか。勘違いじゃなかったんだね・・・・・・」

 

百点満点とまではいかないけど、期待以上。
認識を共有できていること以上に嬉しいことはない。勇気出して訊いてみてよかった、これならきっと上手くやっていける。この人なら、あるいは。
自分と同じように彼女を支えてあげたいと思ってくれている青年は、肩を落として言葉を紡ぐ。勘違いであって欲しかった、己の感覚をなぞるようにゆっくりと。ため込んでいた想いを吐き出すように。

 

「すごく優しくて、律儀で、けど脆くて。なんでも自分のせいだって思ってるような――なんとなく、そういう印象を受けるんだ。罪悪感とか罪滅ぼしとかがずっと向けられてて・・・・・・無意識なんだろうけど、今日だってそんな感じでさ。それに響には突撃癖があるって前に木曾さんから聞いて、僕も実際に見た。だから」
「見てられない?」
「そう、見ちゃいられない。みんなの怪我もストライクのことも、多分本人が思ってる以上に気にしてるのがわかっちゃって、見てて辛い。彼女の在り方は危うすぎる。気付いちゃったらほっとけないよ、あんなんじゃいつか・・・・・・」
「あれでも、すごくマシになってきるんだけどね・・・・・・」

 

応じて瑞鳳も改めて、響がどういう性格であったかを思い起こす。
そうだ。
近年はなりを潜めているけれど、響はそういう女の子だった。
自分を必要以上に追い詰めるタイプ。自信が持てなくて、なんでもネガティブに捉えてしまうタイプ。あのクールでシニカルなペルソナの下にある氷塊の正体はソレだ。殆どの者が知らない彼女の闇は、彼女自身が思っているよりもずっと深い。
その片鱗は時々、トラウマというカタチで現れる。
仲間が危険となれば暴走して接近戦に傾倒してしまうアレ。生きたいのか死にたいのかも判らない特攻癖。船の【響】の経歴から考えれば何故そうなったかは大体察することができるけど、他人が思うよりずっと悪化して凝り固まってしまったが故の、悪癖。
殆どの者は彼女の闇に気付かない。元々そういうものだと思っているから。弱さを晒すことが嫌いな響がそうなるように努力しているから。知っているのは、最初期から彼女のことを知っている者か、ずっと一緒にいる者だけ。
そして気付いたとしても、最奥まで踏み込めなくて、気遣いながら時間の解決を待つだけで。そんな日々があった。

 

「・・・・・・昔はもっと酷かったの。表面上は今とそんな変わらないけど、ずっと何かに怯えてて、ずっと一人で、なにをするにしてもすぐ謝って主張しなくて・・・・・・想像できないでしょ? 今は気持ちに制限をかけてるようなものよ」
「気持ちを、制限・・・・・・。今の彼女になったのは、やっぱり・・・・・・」
「夕立のおかげでもあるし、言い方は悪いけど、せいでもあるかな。でもちょっと自信がついてからだいぶまともになれたのは事実だから、やっぱりおかげ。相変わらず、姉妹以外にはそう関わろうとはしないけど」

 

自分達が、あの娘の姉妹でさえも溶かせなかった氷塊。夕立を師事することで少しだけ柔らかくなった少女。人付き合いに臆病でナイーブな、強さだけを求めて余裕が持てないあの娘。
響は、トラウマを克服する為には強くなることが必要だと思っている。なまじ成果があったから、思い込んでる。
しかし瑞鳳には、それは彼女が強さを追い求め続ける限りは克服できないものだと思えててならないのだ。
直感だけど、自分が正しいとは思わないけど、彼女も認識が間違っているとも思う。それじゃ正解にたどり着けない。たどり着けないから、彼女はまた自分を責める。
もどかしい。
かつての自分は力になれなかった。彼女の弱さを知っていながら、彼女の望むものを与えることができなかった。ただ折れないように、支えてあげるのが精一杯で。それはとてももどかしく、悔しいことで。
だから。
だから、誰か他の人が。彼女が気取らなくていい相手が気付いてくれているなら。
響が信頼しているこの青年が、そのままの彼女を受け入れてくれるというのなら。
あるいは、彼女の問題を解決できるキッカケになるのではと、瑞鳳は考えたのだ。
故に、「彼が響をどう思ってるか」が核心だった。
故に、少女のこれからの行動指針は決定された。

 
 

「そんな娘がね、あなたといるようになって、また前向きになれてるって思うの」

 
 

瑞鳳は、彼ら二人が食堂にやって来た時のことを、その時に受けた衝撃と直感を思い出しながら言った。

 

「あの娘、変わったわ。もちろん良い方向に・・・・・・そう、一皮剥けたみたいな。そのキッカケってやっぱりあなただと思うの。随分と懐かれてるみたいだしね」
「・・・・・・懐かれてる、のかな。そうだといいけど」
「なによぅ、あなたも自覚ないの? あの娘、私達と打ち解けるのにだってけっこーかかったのに。そのお相手が男ってのはまぁ、びっくりしちゃったけど」

 

ともすれば見逃してしまいそうな小さな変化だった。その雰囲気はほんの少しだけで、けど確実に以前のものとは違っていて。
まだありえないと思っていた、まだ遠いと思っていた様が、そこにあった。
自分なら断言できる。アレは本心からの笑みだった。

 

「それは・・・・・・」
「悔しいけど、あの娘のあんな顔、初めて見たんだもん」

 

資料室でなにをやっていたのかは響本人から直接訊いた。その時なにを想っていたのかも。
なんとも甲斐甲斐しいことだ。前はここまで積極的に他人の為に動くような娘じゃなく、裏のほうでコッソリ支える――戦闘の時とはまるで真逆なタイプだった。それが例え、名簿を書いてあげるなんてささやかなことでも。
そして、美味しいものを他の人に勧めるなんてことも、今までじゃ考えられなかった。
どんな時でも無感情でも無感動でもないけど無表情なあの娘は、その本心の表情を他人に晒すことなく。
五年前から、ずっと。
今になって、やっと。転機が訪れたのか、彼女は少し変わることができた。
経緯はどうあれ、他人と手を繋げるようになるぐらいには。美味しいものを他の人に勧められるぐらいには。

 

「そりゃね? ただあなたと手を繋いで、ちょっと笑ってただけって、たったそれだけよ。資料室でのことも些細な善意だってあなたは思ってるのかもしれない。・・・・・・でもそれって、あの娘は姉妹達だけにしか見せなかったものだから」
「・・・・・・」
「それにキラさんの事ね、よくわかんないけど一緒といるとなんでか少し安心するって言ったの。いつもの無表情だったけど。それだけの変化が、今の響にはあったって思う。それで懐かれてないわけないじゃない」

 

昨夜、まだ響の艤装は旧型のままだと。過去に一度挑戦したものの断念して以来ずっと埃を被っている新型艤装は、まだ使う気がないらしいと明石から聞いた時には「まだ決心つかないのかな」と心配になったけど。
あの白銀色のロシア製の新型――ロールアウトから数年が経って、もう旧式になりつつあるけど――が、再び日の目を見る時も近いかもしれない。かつて自分だけに教えてくれた「記憶」と向き合う準備が、できつつあると見える。
それは仲間として、榛名達や木曾達が佐世保に配属される前から共にいた同期として、なにより姉貴分として素直に喜ばしいことだった。

 

「そうか・・・・・・僕にお願いしたいことってのはつまり、そういうこと」
「これからもっともっと、変わってってほしいの。キラさんといれば、きっとあの娘だって・・・・・・」
「買い被りすぎだよ瑞鳳さん。誰かを救うなんて、僕には・・・・・・」

 

訊いてみたいことと、お願いしたいこと。この人にお願いしたいこと。
共に響の力になること。
なるだけ彼女の氷を溶かすこと。この難題に真っ正面から踏み込んで、挑戦すること。
それがきっと彼女にとってのスタートラインになるから。

 

「ね、お願い! こんなチャンスもうないと思うの。私も全力でサポートするから!」

 

話したいことは全部話した。
あとはお願いを聞いてくれるか否か。
瑞鳳はパン! っと両手を合わせて拝み倒すことにした。
こんなこと、よっぽどのお節介焼きじゃなければやりたがらない依頼だろう。現状維持ではなく、更に踏み込むことを要求しているのだ。下手を打てば、彼と響の関係が悪くなる可能性だってある。一方的に身勝手に、覚悟を要求している自覚はある。
それも相手は彼女と仲がいいとはいえ異世界人。今後どういう扱いになるかも不明で、いつここからいなくなるのかもわからないイレギュラー。この申し出が彼の負担になることは火を見るよりも明らかだ。
でもどうしても、これは譲れない願いだった。彼はきっと引き受けてくれるだろうという打算があることは否定しないが、仮に彼が対価を要求するのであれば最大限応える覚悟も持ち合わせている。
それだけ瑞鳳は本気だった。

 

「――・・・・・・、・・・・・・わかった・・・・・・引き受けるよ。でも最初に言っとくけど、本当に自信ないよ僕は。昔からそういうの苦手なんだ」
「そうなの? ・・・・・・訊いていいかわかんないけど、もしかして手痛い経験があったり?」
「まぁ、そんなとこ。でも、支えたいって言ったのは自分だしね・・・・・・うん、やれるだけやってみるよ」
「やったぁ! よろしくお願いしますね、キラさん!」

 

何かを思い出していたのか、少し固く険しい顔をしていたキラだったがしかし、やるしかないなぁっといたニュアンスの溜息一つで了承してくれた。
多少の不安要素もあるが、それでも協力者を得られたのは大きい。瑞鳳は喜びのあまりにキラの手をとって、ブンブンと上下に振った。

 

『でもさぁ実際ありえるかもじゃん? つーかみんな気にしなさすぎだけど、いつの間にか溶け込んじゃってるけど、鎮守府に出入りする男なんて提督以外初なんだよ? 面白いことが起こらないはずがないよ状況的にお約束的に』

 

ふいに鈴谷の冗談が脳裏を過ぎる。
面白いこと――かどうかは分からないけど、彼が現れて状況は動いた。いや、これだけじゃない。一つが動き出すと、連鎖するように、呼び合うように、響き合うように、あらゆるものは絡み合って動き出す。
ならば、できるだけ面白く明るい未来をつかみ取りたいと切に願う。
状況的にお約束的にそうなってくれるのなら、どんなことだってやってやろう。

 
 

かくしてここに、瑞鳳とキラの協力体制が築かれたのだった。

 
 

直後。

 

<えーそれでは、突然ですがここで! キラさんに着任の挨拶をしていただこーと思いますっ!! キラさーん、壇上へどーぞ!!」

 

再びスピーカーから白露の声が大きく響いた。
いきなりのことでビクッと飛び上がる二人。
シリアスモードが解除されて、俄然騒がしい食堂の空気が戻ってきた。意識して排除していた周囲の音が、あたかも洪水のようになだれ込んできて軽くクラクラしてしまう。
見れば、特設ステージの白露はくりくりとした大きな瞳で不器用なウインクをかましつつ、端っこにいるキラに向かって「はよ来い」とジェスチャーしていた。
そういえば、そんなイベントもあると前もって告げられていたと思い出す。なにせ彼が流れ着いてからこっち、ずっと忙しい日々を送っていた佐世保鎮守府。自己紹介は艤装総点検の際に個人的に済ませたものの、キラはまだ正式には皆に挨拶をしていなかった。
共同生活に加わる新人にとって、皆の前での挨拶は避けては通れない通過儀礼、お約束のようなものだ。
それを今からやろうというのだろう。最近は新参者がいなかったから、こういうのは久しぶりだ。
いつの間にか握っていた手を慌てて離した瑞鳳は、この人は一体どんなことを言うのかなと、今どんな顔してるのかなと気になって、その顔を伺ってみることにした。
すると見えたのは、

 

「・・・・・・しまった。そういえば提督にちゃんと挨拶してくれって言われてたんだ。どうしよう、何も考えてない」

 

なんてことを宣いながら冷や汗を流す、期末試験を目前に控えていながらも知らず遊びほうけていた男の子のような表情で。
それがなんだかすごく可笑しくて、ついつい少女は吹き出してしまった。これがさっきまで真剣な顔をしていた男と同一人物だと思うと、余計に可笑しくなる。なんともギャップの激しい人だ。

 

「え、ちょっと、そんなとぼけた学生みたいな。偉い立場だったんでしょ? 聞いたわよ、新地球統合政府直属宇宙軍第一機動部隊隊長って、自己紹介とか挨拶とか日常茶飯事みたいな肩書きじゃない」
「うわ、よく覚えてるねそれ・・・・・・。でもそういうのホント苦手で。内容とかいっつも他の人に任せてたんだよ」

 

とは言っても状況は待ってはくれず。
白露は腕をぐるぐる回し始めて、皆の視線は青年に集まって。内容を考える時間はなく、もう観念してさっさと壇上しか彼の選択肢はなかった。それでもキラは何か方法があるはずだと往生際悪く後ずさり、小声で「どうしよう助けてシン!」と呟いていて。
もうこうなると本当、ただのそんじょそこらの普通の人間のようだ。
ここは早速、協力関係者となった瑞鳳の出番であろう。
幸先の良いスタートを切る為には、まず今を頑張らなければ。彼の助けにならなければ。そうでなければ協力者の名が泣くというものだ。
これが最初の一歩と、少女は動く。動揺するキラの背にスルリと回り込む。二人にとってのスタートラインを超えるべく。
そして、深呼吸して。

 

「どーん!」
「うわぁっ!?」

 

意外にも大きかったその背中を思いっきり突き飛ばしてやったのだった。特設ステージ方面に向かって、真っ直ぐに。

 
 
 

 
 
 

その頃。
台湾近海にて。
嵐が去り、雲一つない満点の星空に覆われた、煌めく海にて。

 
 

そこには余りにも夥しい数の深海棲艦が、静かに蠢いていた。

 
 

百を超える駆逐級と軽巡級、それらを束ねる重巡級と戦艦級と空母級、そして十を超える巨人【Titan】。彼女らは、先の大規模戦闘の生き残りだ。
偶発的に壊滅的被害を被った敵の本拠地の一つ――佐世保鎮守府を潰す為に仕掛けた、損害を無視した強行一点突破作戦は失敗に終わり、どころか敵の増援によって一網打尽にされてしまった彼女らであったが、その全てが駆逐されたわけではなく。残存戦力はこの海域にて、南洋諸島海域から集結した仲間をも取り込んで、静かに再起の時を待っていた。
敵は、人類側は強い。あの偶発的に手に入れた【力】の一端を行使しても、完全には攻めきれず、であれば半端な数と質で挑んでも返り討ちに遭うのみ。本格的な戦闘行動を起こすにはもう暫くの時間が必要不可欠と、その一心で彼女らはただ待機しているのだ。
戦争で最も大事なものは準備であると、深海棲艦は理解していた。いつか人類を根絶やしにする為には、今は待つしかないと理解していた。

 

「・・・・・・」

 

その一端も一端。人類には十把一絡げに戦艦ル級と類別されているその個体は、群れから少し離れた場所で、とある作業を見守っていた。
準備。
そう、準備だ。
戦争で最も大事なものは準備。斥候からの報告によると、彼の地の防備は完全に復旧してしまったらしいのだから、今までと同じような準備では足りない。もっと力がいる。
もっともっと強い力が、なければならない。
その為の作業を、このル級は見守っていた。何を想うでもなく、淡々と。非武装状態で、潜水級と重巡級が頑張っている様を、怖気が走るほどに真っ黒な長髪を持つ女性型は、棒立ちで眺めていた。
ちなみに、見守ると言えば聞こえは良いが、実質的にはサボっているようなものだった。人類には知られていないことだが、深海棲艦にもうっすらとだが個体毎の性格がある。他の戦艦級や空母級は見回りに出たり、力を蓄えたりとそれなりに役割を全うしているのだが、この個体はなにかにつけてボーッとするのが好きだった。
故に、こういう時の監督役を買って出るのがこのル級で、基本的に無感情で無感動で無表情で他人に興味を示さない深海棲艦の中でも、固有種でない癖に変わり者として認知されていたりする。

 

「・・・・・・」
「・・・・・・」

 

そんな彼女の隣に音も無く、もう一体の深海棲艦が並んだ。
ソイツも人型だった。真っ白な肌に真っ黒な装束という上位種に共通する特徴を持っているがしかし、今まで確認されてきた深海棲艦とは明確に異なる特徴も持っている、いわばイレギュラーな存在だった。
未だ人類に姿を見せていないソイツには、まだ名はない。勿論、深海棲艦にとっては名など必要ないものだから、そんなことはどうでもいいのだが。
ル級はソイツを一瞥した後、電磁波を交わした意思疎通も何もなく、また作業を注視する作業(サボタージュ)に戻った。隣のソイツもまったく同じように、まったくの無言で作業を見る。滅多に海上に姿を現さない引きこもりのコイツが何故隣に並んだのか、その疑問も意味も、興味はない。どうでもいい。
二人は隣に並んでいながら、その存在をいない者として扱って、ただ眺める。

 

「・・・・・・!」
「・・・・・・!」

 

その視線の先で、動きがあった。
どうやら「当たり」を引いたらしい。
密集していた重巡級達が俄に散り散りになり、それぞれが手にしているワイヤーを力一杯に牽引する。人類の艦艇を再利用して製造したそのワイヤーは、遙か海底へと潜っている潜水級と繋がっており、その様は正しくサルベージそのものだ。
つまりは、潜水級達が海底で発見したモノを引き上げるということ。
ここ数週間ずっと繰り返してきた作業だ。一切の言葉も交わさず、皆が己の役割に没頭する。全ては、いつかの為にと。
そして約5分が経過した頃。

 
 

ソレは、ついに海上に姿を現した。
それも、同時に二つも。所謂「大当たり」というヤツだった。

 
 

ソレは、巨大な機械人形だ。
一つは全体的に直線で構成された、約18mの鋼鉄の巨人。スラッとしたホワイトの四肢に、複雑な面構成のブルーのボディ、アンテナとゴーグル付きの頭部と、今まで発見されたものの中でも特に人間のシルエットに近いタイプ。このタイプはこれで五体目だが、通しで見てもこれほど状態が良いものは初めてだった。
もう一つは、全体的に曲線で構成された、約20mの鋼鉄の巨人。此方は初めてみるタイプだが、オフホワイトで彩られた非人型な流線型のフォルムは、まるでイカのような愛嬌がある。これもまた状態が良く、すぐにでも戦力として使えるだろう。

 
 

釣果は上々。

 
 

あの日。
多数の深海棲艦を死に追いやった、あの大量の岩石と共にやって来た機械人形達。
その殆ど半壊状態であったが、それらと深海棲艦の死体を利用して製造した実験体【Titan】の性能は絶大だった。しかもパーツさえ揃えられれば、簡単に【姫】や【鬼】に匹敵する個体を量産できるのだから、これは天からの恵みに他ならない。
この【力】があれば、人類などもう敵ではない・・・・・・その筈だった。しかし結果は自分達の惨敗だった。もう一度その性能を見直し、スタートラインを仕切り直す必要がある。
もっと効率良く、もっと強く、もっと多く。もっと、準備をしなければ。
もっと、この偶発的に手に入れた【力】を掻き集めて、研究しなければ。
だからこそのサルベージだった。海底に沈んだお宝を我が物にする為の。
いつか人類を根絶やしにする為に。

 

「・・・・・・」

 

重巡級達も潜水級達も良い働きをしてくれた。今日の作業は、これにて終了としても問題はないだろう。
そう判断したル級は、ふと隣にいた筈のイレギュラーがいつの間にかいなくなっていることに気付いた。
しかし気付いて、放置した。
アイツはそういうヤツだ。興味を持つ必要がない。どうでもいい。
さあ、明日もまた作業をしなければ。
その思考を最後に、ル級はねぐらを目指してゆらりと移送を開始した。作業していた他の深海棲艦達もそれに倣い、一人また一人と移動する。彼女達もまた休息が必要だった。

 

「・・・・・・、・・・・・・ギギッ」

 

状況は動いた。
いや、これだけじゃない。一つが動き出すと、連鎖するように、呼び合うように、響き合うように、あらゆるものは絡み合って動き出す。あらゆる事象は響応する。
深海棲艦達の戦準備は、着々と進んでいた。

 
 

【前】>第8話 【戻】 【次】>第9話?

 
 

URL B I U SIZE Black Maroon Green Olive Navy Purple Teal Gray Silver Red Lime Yellow Blue Fuchsia Aqua White

1001