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「連合兵戦記(仮)」2章 6

Last-modified: 2015-02-22 (日) 13:00:41

再構築戦争後の復興計画によって建設された住宅街が三方に聳え立つ公園には、燃料として周辺住民に引き抜かれた樹木の跡と放棄された
電気自動車が無数に転がっていた。
それらは高級車、大衆車の区別なく集積され、緑に溢れていたであろう公園は、産業廃棄物が転がる錆色のスクラップヤードの様になっていた。
恐らく地球連合軍が邪魔な放置車両を空地に集めたのだろう・・・バルクはそう推測した。
「ウェル警戒を怠るなよ」
「了解です!」
つい数十分前とは打って変わった真面目な口調でウェルは返答した。
2機のジンは、産業廃棄物に覆われた公園跡を一瞥する。
そして右折し、重い足取りで前進を再開した。
彼らが無害であると判断した公園跡・・・・幼児の積木細工の様に並べられ、折り重なるように放置された自動車のスクラップに隠れるように、塹壕があった。
スコップとパワードスーツのモーター、鍛え上げられた兵士の筋力によって建設されたその塹壕の中には、ユーラシア連邦軍の歩兵部隊が潜んでいた。
アドゥカーフ社製対戦車ミサイルや対物ライフル、自動小銃で武装し、特殊カーボンポリマー製のボディアーマーに身を包んだ彼らは、
目の前を行く2機のジンを見つめていた。
「あれが、モビルスーツ・・・・」
兵士の一人・・・ユーラシア連邦陸軍第233歩兵中隊所属のワシリー・ロゴフスキー伍長は、
目前を行く地上最強の兵器を茫然と見つめていた。

 

彼の傍らには、鈍く光る黒い火器・・・・フジヤマ社製携行式対戦車ミサイルがその無骨な身を横たえていた。
数年前、フジヤマ社がユーラシア連邦陸軍の戦車部隊に対抗するために東アジア共和国陸軍の要請を受けて
開発したこの歩兵用火器は、優れた命中率と弾頭の貫徹力が特徴で、モビルスーツ ジンの装甲にも通用する威力を持っていた。
しかし、ニュートロンジャマーの電波障害によってその命中率は、大幅に低下しており、性能は半減していた。
現在、この兵器が必殺の神槍となるか、ただの花火となるかは、彼の技量に掛かっていた。
「ミサイル射手、発射体勢を取れ」
声を潜めて傍らに座っていた上官のセルゲイ・コーネフ曹長が指示を出した。
この頭皮に傷のあるスキンヘッドの巨漢は、新兵の頃に中央アジアでの分離独立過激派との戦闘を経験しており、
その厳しさで新兵を恐れさせていた。
「はっ」
上官の命令を受けた彼は、訓練通り対戦車ミサイルを右肩に掛け発射体勢を取った。
塹壕にいる他の射手達も同じ姿勢を取る。
この時2機のジンから見て塹壕と兵士達は、右に位置しており、ジン2機は見事に側面を曝している状態であった。
このままいけば・・・やれるか?ワシリーは、身体の震えを抑えながら、乾燥した大気と緊張で乾いた己の唇を舐めた。

 

それはまるで、大物を目の前にした若い狩人の様である。
次の瞬間、2機のジンの片割れ・・・・右腕が破損した機体が、頭部を右に旋回させた。
中世の騎士のヘルメットの様な角の付いた頭部とその中央に内蔵された陽光を受けた紅玉さながらに光る
赤い単眼がワシリーと塹壕の兵士達を見下ろした。
その不気味な赤い輝きに射抜かれた兵士達は、一斉にざわめいた。

 

「み、見つかった」
ワシリーは、恐怖の余り叫んだ!瞬間的に全身から気持ちの悪い脂汗が流れるのを感じた。
そして本能的に彼は、ミサイルのトリガーを引いてしまった・・・・
「ワシリー!」
セルゲイ曹長の制止も空しくロケットモーターを点火させて目標である鋼の巨人へと突進していった・・・・・・

 
 

「ミサイル!」
狙われたジンのパイロット、ウェルは、遺伝子操作によって強化された聴覚で聞き取った
ミサイルアラートを示す警報に従い、即座に機体を傾かせた。
ジンの姿勢が崩れ、ミサイルは、ジンの左肩部と頭部を掠めた。

 

もしこの時、追加のミサイル攻撃が行われていたら危なかっただろうが、ジンのパイロットであるウェルにとって幸運なことに
一兵士の恐怖に基づいた独断行動に過ぎなかった為、
ミサイルは、後方のビル屋上の電光掲示板に大穴を開けただけに終わった。

 

「隠れていたのか!」2機のジンが重突撃機銃を公園に向ける。
同時に歩兵部隊は、前方に聳える死神へと脆弱な反撃の牙を剥いた。

 

ジンの鋼鉄の指が重突撃機銃の引金を引いた直後、無数の火線がスクラップの連なりから2機のジンに向けて伸びた。
花火大会の様なそれは、訓練を受けた兵士と指揮官の命令に基づいたものでなく、
一人一人の原始的な生存本能による無秩序な弾薬の浪費に過ぎなかった。
対戦車ミサイルから自動小銃まで陣地内の歩兵部隊の持てる火力が一斉に発射された。

 

直後、バルクのジンが放った重突撃機銃の76mm弾が陣地のひとつを吹き飛ばし、
中にいた人員を爆風と破片で抹殺した。
隣のウェルのジンも左腕の重突撃機銃を単発モードで発砲する。
片腕を損傷しているため命中率は低い、
だが砲弾が、戦車砲弾並みの威力を持っていた為、歩兵相手には十分すぎた。

 

積み木の様に積み上げられた自動車は、遮蔽物として何の役にも立たなかった。
砲弾を受けた自動車がはじけ飛び、車の部品が飛び散る。
榴弾の直撃を受けた陣地の歩兵が数人纏めて粉砕され、黒焦げの肉片と金属と繊維の破片が周囲に飛び散った。
ある若い兵士は、半狂乱で塹壕を飛び出す。
直後、車の破片が後頭部に突き刺さった。
脳髄を粉砕されたその兵士は力なく地面に倒れ伏す。

 

中央アジア出身の大柄の兵士は、重傷を負いながらもミサイルランチャーを担ぎ、
目の前で鉄の暴風を撒き散らすジンに一矢報いんとミサイルランチャーを向けた。
その直後、76mm弾が彼の付近に着弾し、血煙となって彼の肉体は消滅した。

 

短時間で戦闘は虐殺に等しいものに変貌した。

 

わずかモビルスーツ2機の前に積み上げられた数十人の訓練された兵士達の個々の能力もトラップも無意味に等しい・・・
それを見る者に教える光景であった。

 
 

その様子をマンションの最上階の部屋のひとつで眺めている者がいた。
「ユーラシアの連中・・・・ありゃ大半は死んでるな・・・だが、敵は討ってやるからなっ」

 

暴徒の略奪と兵士達の清掃活動で家具一つ無い室内でその女性は、目の前の惨劇を見つめて言った。

 

大西洋連邦軍の機甲兵用のスーツに身を包み、肩まで伸びた黒髪と大きな灰色の瞳が特徴的なその女性・・・
アンジェリカ・コレオーニ少尉は、ただライフルスコープを覗いていた。
そして彼女の傍らには、黒い金属の光沢を放つ巨大な銃がまるで天体望遠鏡の様に脚立によって立てられていた。

 

彼女の得物、赤外線望遠レンズ付20mm対物ライフルは、本来は、パワードスーツ用の火器で遠距離から
陣地やレーダー施設、指揮車両を攻撃するのがその用途であった。

 

アンジェリカ自身も機甲歩兵であったが、15日前の戦闘でゴライアスを失い、負傷していた。
幸い彼女は日常生活に支障がない程度の負傷で済んだが、乗機のゴライアスは幾つかの部品を除き、スクラップと化し、
予備の機体も送られて来なかった為、彼女は、狙撃兵としてこの戦場に立っていた。

 

彼女は、ジンの2機の内、右側に立っている右腕が破損した機体に狙いを定める。
非装甲目標を狙うことが目的のこの対物ライフルでは、戦車やモビルアーマーのリニアガンや
戦闘機の誘導爆弾にも耐える重装甲を持つジンに対しては余りにも非力である。

 

だが、狙撃兵としてこれまで経験を積んできたアンジェリカは、知っていた。

 

いかに重装甲を誇る目標でも柔らかく弱い箇所が複数存在するという事実を・・・
アンジェリカは、対物ライフルのトリガーを引いた。

 

ベランダから竜の首の様に外に出ていた銃口が、爆発した。
そこから発射された銃弾、否砲弾は、音速で冷たい大気を引き裂きつつ、
暴虐の限りを尽くす機械仕掛けの単眼の魔神へと突貫していった。

 
 
 

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