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「連合兵戦記(仮)」2章 7

Last-modified: 2015-02-22 (日) 13:14:46

「これで最後か・・・」
正面モニターに映る有機物と無機物、死体と産業廃棄物、土砂の無秩序な羅列を見据えながら、ウェルは言った。
彼の額には脂汗が浮かび、その眼は血走っていた。
同僚を殺され、ナチュラルに敵意を抱いていた彼にとっても、生身の人間を戦車砲並みの火器で
一方的に吹き飛ばすのには、心理的抵抗感があった。

 

ウェルのジンは、周囲の歩兵を掃討したことを確認すると左腕の重突撃機銃を下した。

 

次の瞬間、はるか遠方、林立する廃ビルをすり抜けて20mm徹甲弾が重突撃機銃に着弾した。
横合いから左腕の重突撃機銃の弾倉に命中した一撃は、内部に残されていた弾薬を誘爆させた。

 

それまでの戦闘で、弾倉内の弾薬はごく僅かしか残されていなかったが、
重突撃機銃の銃身を吹き飛ばすには十分過ぎた。

 

重突撃機銃が、はじけ飛び、アヴァンギャルドな形状に変形した破片が、無秩序に周囲に散乱した。
重突撃機銃を保持していたジンの左腕のマニュピュレーターは、手首から先が消し飛んでいた。
それは、ウェルのジンが唯一の射撃武器を喪失しただけでなく、モビルスーツの通常兵器に対する
アドバンテージさえも失ったことを意味していた。

 

特にモビルスーツ ジンは、マニュピュレーターと機体各部のハードポイントに武装を装備することで
高い汎用性を有していたが、腕を破壊された場合、
固定武装が存在しない為無防備に陥ってしまう危険性があったのである。

 

それでも脚部に装備可能なM68パルデュス 3連装短距離誘導弾発射筒等、ハードポイントの火器
を装備していれば、戦闘能力を維持出来た。

 

だが、偵察部隊として投入されたバルク小隊は、指揮官のバルクも含め、軽装備で、武装は
重突撃機銃と重斬刀しかなかった。
そして、両腕を使用不能に追い込まれたウェルのジンには、どちらも使用不可能であった。

 
 

「わああああああああああああ」

 

ウェルは、自分が無防備であることを強制的に認識させられ、恐怖の余り絶叫した。
そして彼は、身体の奥から湧き出る恐怖と生への執着のままに木偶の棒と化したジンを走らせた。

 

「おい!ウェル突出するな!くっ」
バルクは恐慌状態に陥ったウェルが逃亡するのを見て静止しようとした。だが、ウェルはそれに応えることなく、
ジンを見えざる敵が潜む灰色の迷宮へと走らせた。

 

ウェルはもはや上官の静止等聞き入れる状態になかった。

 

慣れない重力下の戦闘、予期せぬ同僚の死、弱いはずの敵に翻弄される自分達・・・・
この戦場で短期間のうちに強制的にこれらの体験を経験させられ、
彼の心は摩耗していた。

 

彼のジンが廃墟のビルを通過した。その時、廃墟の陰から飛び出したゴライアスが疾走するウェルのジンの横に並んだ。
並走する形となったゴライアスは、左腕に保持した対戦車ミサイルを発射する。

 

発射された弾頭は、ジンの膝部分に着弾した。
走行中に脚部に攻撃を受けたウェルのジンは、脚を引掛けられた酔漢さながらに無様に大地に倒れ込む。

 

転倒したジンの巨体が周囲の瓦礫やゴミを薙ぎ倒し、一瞬土埃が煙の如く辺りを包み込んだ。

 
 

「いててて」
転倒した機体の中で、ウェルは意識を取り戻した。
激しい頭痛が彼を苛んでいた。
だが、もしヘルメットを着用していなければ、彼は、計器類に勢いよく頭をぶつけて
血と脳漿を撒き散らして即死していただろう。

 

「!」
ウェルは、機体各部に搭載されたセンサーとサブカメラ用のモニターを見た。
そこには、周囲の廃墟から歩兵部隊が、こちらに突進してくる映像が不鮮明ながら映されていた。

 

周囲の廃墟から飛び出した彼らは、2日前にディン部隊との交戦で壊滅したユーラシア連邦陸軍第89歩兵大隊の残余であった。

 

「大西洋連邦の奴らに後れを取るな!お前ら仕留めたらすぐ戻るんだぞ!」
右手に持った拳銃を振り回してミシェル・ガラント少尉は、部下達に向かって叫んだ。
喊声を上げて突撃する歩兵部隊、瞬く間に彼らは、倒れ込んだジンの機体に取り付いた。
歩兵の一人がジンの右足膝関節付近に爆薬を仕掛け、爆破した。

 

ジンのコックピットにその衝撃が伝わり、正面モニターの機体コンディションを示す映像の
ジンの右足が全損を意味する赤に染まる。
恐怖の余り、ウェルは、失禁した。

 
 

「来るなあ!ナチュラルがぁ!」
パニック状態のウェルは、現在の機体の状態がどうなっているのかすら忘れてスラスターのボタンを押した。
丁度その時、スラスターの推進口の目の前には、爆薬を両手に抱えた歩兵がいた。

 

次の瞬間、其処から勢いよく青白い炎が、工兵用爆薬を投げ込もうとしていた歩兵を呑み込んだ。
誘爆した推進剤が爆発し、ウェルのジンは、倒れ込んだ姿勢のまま、青白い推進炎を吹き上げながら、
アスファルトの剥落した道路を突進した。

 

ジンの進路上に存在する物体は、地球連合の歩兵だろうとガードレールの残骸だろうが、関係なしに引きつぶされた。
上空から見ると、背中に青白い炎を生やして地上を駆け抜ける姿は、まるで神話上の動物の様に見えた。
やがてジンは、進路上に立っていたビルに突っ込んで停止した。

 

直後、スラスターと燃料タンクに誘爆が及び、内側から半壊したジンの胴体を吹き飛ばした。
その際、コックピットを灼熱の猛火が瞬間的に舐めつくしたが、
その数秒前に首の骨を折って即死していたウェルには関係のない話だった。

 

ジンが突入したビルが崩落し、突き出ていたジンの両足を押し潰した。
つい数秒前まで聳え立っていたビルは、無残な瓦礫の山へと姿を変えていた。
その内部に閉じこめられた鋼鉄の魔神の残骸から立ち上る黒煙が、其処から火山の
噴煙の如く噴き出していた。

 

「ウェル!」バルクは、天高く立ち上る黒煙を見据え、叫んだ。

 
 

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