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「連合兵戦記」3章 6

Last-modified: 2016-05-21 (土) 23:14:31

ウーアマン中隊は、10機のジンと25両の装甲車両で編成され、支援を担当するカッセル軽砲小隊と偵察を担当する
バルク偵察小隊を指揮下に置いていた。
現在、バルク偵察小隊は未帰還であり、指揮官であるケヴィンの指揮下にあるのは
ウーアマン中隊とカッセル小隊のみであった。

 

「バルクとエレノア達の為にも何としても敵を撃破せねばな」
ケヴィンは、乗機のジンに乗り込んでいた。
彼のジンは、頭部のブレードアンテナが大型化され、地球連合軍の戦車の残骸から回収した爆発反応装甲
を胴体部に張り付け、防御力が強化されていた。

 

「さて、敵の兵力はどれ位だ?」
指揮下の通信車両から無人偵察機が収集した市内の画像が転送される。
それらの画像には荒廃した都市とそこに横たわるモビルスーツ ジンの残骸の姿を映したものもあった。

 

「バルク…間に合わなかったか」
エレノア隊からバルク機から支援を要請する緊急通信を受けた段階で、
バルク隊が全滅の可能性は考慮していた。そして、エレノア隊の全滅が判明した時、それは確信となっていた。
しかし、いくら覚悟していても、数日前、数時間前に言葉を交わした同僚がこの世の住人ではなくなるということは、
ザフトの前身である黄道同盟時代の武装闘争にも参加していたケヴィンにとっても慣れることでは無かった。

 

「バルク小隊を撃破したことを考えると戦車1個中隊、支援の歩兵が500〜2000以上居ると考えられます。」
部下の一人が通信で応える。作戦会議は、指揮車ではなく通信を通して行われた。
近距離なら電波障害の影響も少なく、通信車両のサポートもある為問題は無い。
本来なら指揮車で顔を突き合わせて行いたかったが、いつ敵の航空攻撃や少数のゲリラ部隊による逆襲が無いとも考えられない以上
ケヴィンは、安全の方を優先した。

 
 

「歩兵部隊の数が多いな、少なく見積もってもこちらの数倍とは覚悟していたが厳しいな」
モビルスーツは、宇宙、地上、水中、空中で縦横無尽に活動し、現在、最強の兵器と言って差し支えない兵器であり、
ザフト軍の快進撃はそれを証明していた。

 

しかし、どれだけ技術が発達しても最後に勝利した後にその地域を制圧占領するのは、歩兵なのである。

 

これは、数千年前にシュメール人がチグリス・ユーフラテス川の近辺に最初の都市文明を煉瓦と青銅と犂鍬で築き上げた頃から変わらない原理であった。
その代替として再構築戦争以降、各国が軍事用ロボットの開発を進めているが、コンピュータウィルスや今次大戦のNJによる電波障害等の影響で
歩兵に代わる存在には至っていなかった。コロニーを国土とする国家故、人口で地球連合側に遥かに劣るザフト軍は歩兵の数で常に劣勢であり、
アフリカ戦線では北アフリカ共同体の兵員で補填していた。

 

特に都市制圧戦では、モビルスーツや戦車、戦闘機等よりも歩兵の存在が重要になる場合が多く、
稀に市内に立て篭もった敵部隊の連携攻撃にモビルスーツが不覚を取ることもあった。

 
 

「理想としては包囲してゆっくり叩き潰したいが、今の状況では無理か」
「やはり市街地に対して砲撃を行い、敵戦力を減らしてから突入するべきだな」
「市内全域をまんべんなく砲撃するには、弾薬もザウートや車両の数も足りませんよ、
市内の敵を叩き潰したいのでしたら艦砲射撃でもないと無理です」
そう言ったのは、ザウート部隊を率いる褐色の肌と燃える様なオレンジの髪を持つ巨漢 ウィレム・カッセルであった。

 

「艦砲射撃か・・・」
「やはり、<リヴィングストン>に支援砲撃を要請するべきか。通信兵、支援要請を」
「了解」

 

後方の陸上艦 改レセップス級 リヴィングストンは40cm砲を搭載しており、
この改レセップス級は、欧州のザフトには、4隻が配備されていた。

 

「<リヴィングストン>より通信、艦砲射撃の必要性を認めず、また友軍を巻き込む危険性がある。とのことです。」
「拒否されたか…」
「ちっ、前に自分が味方撃ちしやがったからってあの野郎…」カッセルは、乗機のザウートのコックピットで毒づいた。
彼率いるカッセル軽砲小隊は、砲戦MS ザウート4機と支援用の車両10両で編成されていた。

 

戦車の車体の上にモビルスーツの上半身と大砲を載せた様な形状のザウートは、
モビルスーツ中心の軍隊であるザフトにおいて砲兵、対空戦力を兼ねていた。

 
 

ザウートの背部が爆発し、白煙と共に弾着観測ドローンが次々射出され、都市の方へと飛んで行った。
単座式のコックピットの正面モニターにドローンからの画像や気温、風向、風速といった砲撃に必要なデータが映し出された。

 

「砲撃開始」
カッセルは、指揮下の砲兵部隊に観測データを送信すると、命令を下した。
その直後、ザウートの肩部にマウントされた2連式キャノンが一斉に発射された。

 

数秒後、その周囲に展開していた鹵獲リニア自走榴弾砲やら多連装ロケット車両が火を噴いた。
市街地に炎の雨が降り注ぐ。
傷口に塩を塗り込むかの如く、砲弾が半壊のビルに次々と撃ち込まれ、ビルを崩落させた。
ロケット弾が撃破されたジンの横たわる道路に叩き込まれ、爆発の毒々しい閃光の華が咲き乱れる。
公園の頭上で炸裂した砲弾の破片と爆風が、金属製の遊具も、木製のベンチも石造りの噴水も全て等しく吹き飛ばしていった。

 
 

砲撃が行われる中、ジンに護衛された索敵車両が都市の付近にまで接近し、地中に音響センサーを撃ち込み、砲撃の戦果確認と索敵活動を行っていた。

 

兵士の絶叫や兵器が破壊される音、着弾したミサイルや砲弾の爆音、
落雷の様な建造物の崩れ落ちる轟音等の音が混然一体となった戦場音楽は、
一見情報とは無縁に思える。

 

地中に撃ち込まれた音響センサーから取り込まれた音は、
コンピュータによって解析され、幾つものパターンに分割され、敵に関係する音が選別される。また敵とは関係ないと判断された音…
支援砲撃の着弾音や廃墟の崩れる音等は雑音として排除される。

 

これらの原型となったのは、将来木星圏開拓の際に木星、木星の衛星の中で液体の海や大気の存在が確認されている衛星の地表で
探査活動を行う際に用いられる予定だった探査装置である。
地球外生命体の存在を探索する為の装置が、地球内の生命体の存在を探索しているというのは皮肉であった。
だがこの様な高性能な機器が存在しても、最後には、人間の判断力が結果を左右するのである。

 
 

「・・・・」ヘッドギアを被った金髪黒目の少女 メイ・リョングは、ソナーが感知し、コンピュータが選別した音の正体を突き止めるべく、耳を澄ましていた。
東アジア共和国出身の母を持つ第2世代コーディネイターである彼女は、その独特の名前からハイスクールの頃には、
男子に恐竜の様な名前だ、と馬鹿にされたこともあった。
メイは、音楽家になるのが夢で、ソナーマンに選ばれたのも彼女の優れた耳によるものであった。

 

コーディネイターで、優れた楽器の使い方や歌声を持った者は大勢いたが、音楽家や作曲家として世界的に大成した者は未だに1人もいなかった。
それでも、それを知っているからこそ彼女は夢を諦めない。
音楽が、人の心に与える影響というものを彼女は身を持って理解していたからこそである。
この戦争が終われば、その夢を叶えるつもりでいた。
夢を叶えるためにも、メイは次々と音響センサーとコンピュータから送られる音と聴覚と訓練で植え付けられた
情報を照合し、選別を行った。

 

「先程消失した音紋は、地球連合軍のリニアガンタンクと思われます。」
彼女は、耳が聞き取り、選別した友軍の戦果を弾んだ声で報告した。
彼女は、ソナーマンとしては優秀だった。それらの音紋パターンは殆ど地球連合軍の車両とほぼ同一であった。
それ故、地球連合が仕掛けたダミーに見事に嵌ってしまっていた。

 
 

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