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「連合兵戦記」4章 1 廃墟の宴

Last-modified: 2016-05-22 (日) 13:45:52

連合兵戦記 4章 廃墟の宴

 
 

主戦場である放棄された都市から離れた森に改レセップス級陸上戦艦<リヴィングストン>は待機していた。

 

金属でできた小山の様なその巨体は、周囲のザフトの対空戦車や装甲車両、補給車両とは比べ物にならず、
隣にある崩れかけた木造の民家が子供のドールハウスに見えるほどであった。

 

上空に向けられた主砲は、古代の竜脚類の首の様に長く、艦体を覆う様に
無数の対空火器を搭載したその姿は、針鼠さながらだった。

 

レセップス級陸上戦艦は、NJ下でも円滑に通信・指揮を行うための指揮車両として当初、設計された。
ベースとなったのは、火星開拓時に地表に設営されるであろう基地間の移動用として
設計されていたランドクルーザーである。

 

そこに地上でのMSの突入支援用として、西暦時代の戦艦の主砲に匹敵する主砲の追加が設計案に加えられた。
これは、誘導兵器の信頼性が大幅に低下しているNJ下の戦場では、艦砲の重要性は更に高まると推測されていた為である。
さらに大部隊に指示を下す為の通信設備の増設も必要となった。

 

更に地上におけるモビルスーツの整備・補給基地としての機能も付与すべきという意見が加わった。

 

こうしてヘリウムを吸った風船のように大型化を余儀なくされ、当初は大型トレーラー程度だった車体は、
旧約聖書の巨獣ベヒモスやギリシャ神話の巨人族を想起させる巨体となったのである。

 

この改レセップス級は、砂漠地帯以外での活動用に作られた派生型で、レセップス級とは異なり、
スケイルモーターではなく、大型ホバークラフトを移動手段にしているのが特徴であった。

 
 

「アイアンズ襲撃中隊、対空戦車部隊と交戦中!」
「ロジャース戦闘小隊補給完了!」
「ケイト中隊より通信、敵戦車部隊を撃破」
宇宙艦艇のものと同じ防弾強化ガラスで守られたブリッジ…そこでは指揮下の部隊との交信が絶え間なく行われていた。
中央の司令席には指揮官が腰掛け、その周囲の計器類にはオペレーター等の艦の運営に関わる人員が数十人近く着席していた。

 

現在、改レセップス級<リヴィングストン>司令席に座るのは、ウーアマン中隊を指揮下に置く
ファーデン戦闘大隊指揮官 エリク・ファーデン大隊長であった。

 

彼は、艦長や基地司令官、副官級等の人員が着用する黒い軍服を着用していた。

 

その傍らには、赤い軍服に身を包んだ少女が立っていた。
赤い軍服、通称ザフトレッドと呼ばれているそれは、ザフトの士官学校に相当する機関 アカデミーで、
卒業席次10位までの成績優秀者に与えられるものであった。

 

特別に戦功を立てた人間にも着用を許すという改革案が一部で挙がっているが未だにそれは実現することなく、
人類初のコーディネイターの軍隊であるザフトにおけるエリートの証であった。

 

その少女は、職人が技巧の限りを尽くして彫り上げた精巧な象牙細工を思わせる白い肌と肩まで伸びる金糸を思わせる美しい髪が特徴的であった。
赤い軍服の少女 ノーマ・アプフェルバウムは、ザフトのMSパイロットである。

 

アプフェルバウム小隊を率いる彼女が、この<リヴィングストン>に乗艦したのは、つい1時間前だった。
遭遇したユーラシア連邦軍の戦闘機部隊との戦闘で弾薬と燃料を予想外に消費したことで、
付近にいた補給可能な部隊であるこの艦を有するファーデン戦闘大隊と合流したのである。

 

彼女の部下達は、<リヴィングストン>の正規パイロットが一人もいない待機室にいた。

 

「よろしかったのですか?」この艦と隊の最高権力者の座る椅子に対して放たれた少女の声には、小鳥のさえずりの様な繊細さと、薔薇の棘があった。

 

「ん?」この時エリクは、煙草を口に含んでいた。紫煙が空調の風を受けて揺らめく。

 

空気が有限で、コストと資源と多少の手間をかけて製造されるものである宇宙の生活では、空気を汚染する行為である喫煙は、
一部の富裕層のみに限られた贅沢であった。
だが、空気が宇宙のコロニーやステーションから見ると無限に等しいほど自然に存在する地球上では、
基本的に禁煙エリアや潔癖症の政府が統治している地域を除けば、誰でも喫えたのである。
そしてこの地上の特権をエリクはフル活用していた。

 

無論地上でも任務中の喫煙は規則違反であるのだが、部下達も軽くたしなめる程度であった。

 
 

「何のことかね?アプフェルバウム小隊長」大隊指揮官としての威厳を持ってエリクは隣に立つ若き小隊長に質問を返す。

 

「前線からの支援要請を断ったことですよ」
「仕方あるまい、この<リヴィングストン>の主砲では、友軍を巻き込みかねない」
エリクは教科書的模範解答で言い返した。旧時代の戦艦に匹敵する主砲の威力は友軍をも
巻き込みかねない危険性があった。そしてエリクはそのことを誰よりも認識していた。

 

「前線部隊は、郊外に展開していました。敵部隊は市内に潜伏しており、
郊外には存在が確認できず、誤射の危険は皆無に等しかったと考えますが?」
年齢でも階級でも上位者の模範解答ともいえる論に対して、物怖じする素振りすら見せず、金髪の少女…ノーマは、自信に満ちた声で持論を述べる。

 

「…」
「アプフェルバウム小隊長、君は何故そこまで艦砲射撃に拘るんだね?」

 

「市内の地球軍を完全に叩き潰す為です。地球軍は、我々のモビルスーツ部隊に対抗するために、
市内の地下空間や廃墟に潜伏し、我々が市内に突入するのを待ち伏せています。」
遺伝子操作によるものであろう端整な容貌を、無表情にして語る少女の口調には自信が満ちていた。
対する座席の男は、渋面で応える。
エリクが、艦砲射撃を忌避するのは、ある事件が原因であった。
それは、約20日前 イベリア半島制圧戦の過程で起きた。

 

工業都市 ビトリアを巡る戦闘の時、エリクと<リヴィングストン>は後方にてモビルスーツ部隊の補給拠点、部隊指揮所として待機していた。
市内の地球連合軍は撤退するか全滅し、戦闘が間もなく終結するか、と誰もが想像していたその時、
都市外周で索敵行動を取っていたサンドラ偵察小隊から緊急通信が入った。

 

地球軍の地上部隊が市内への突入を図っていると。

 
 

この時、敵部隊の進路上には、基地設営隊の車両や補給車両が多数展開しており、側面から蹂躙されかねない状況であった。

 

飛行襲撃部隊は補給中であることと、エリクは、制圧力と射程を考慮し、
<リヴィングストン>の主砲による艦砲射撃を行った。

 

エリクは既にサンドラ偵察小隊が後方に退避、車両部隊と合流したと判断していた。

 

しかしサンドラ偵察小隊は、艦砲射撃の着弾点である敵の予想侵攻ポイントで、
踏み止まって戦闘を継続していたのである。
前線部隊の一つから誤射を知らせる通信が届いた時には遅すぎた。

 

砲弾を自爆させようにも、自爆信号は通信障害で届かず、空しく砲弾は予定通り全弾が
予定の着弾点に大穴を穿った。

 

着弾した40cm砲弾は、機甲歩兵、歩兵部隊を塵も残さず消滅させ、
バイソンの群れの如く進撃していた戦車や装甲車の車列を瞬時にスクラップに変換した。
更に匍匐飛行し、ザフト軍部隊に雀蜂の如く執拗に攻撃を加えていた攻撃ヘリコブター部隊も衝撃波で、
紙細工の様に弾き飛ばされた。

 

そして友軍であり、前線で踏み止まっていたサンドラ偵察小隊もその例外ではなかった。

 

戦車部隊の主砲による集中射撃を封じるべく、地球軍部隊に突撃していた彼らは、砲弾の着弾点近くにいたため、
全ての機体が大破した。

 

指揮官機は文字通り粉々に破壊され、唯一原型を留めていた3番機も胴体が衝撃によって内部機関を破壊され、
パイロットは首の骨を折って死亡していた。

 

結果のみを見れば、それは、NJによる通信障害が招いた数限りない戦場の喜悲劇の一つでしかない。

 

だが、同時にエリクの経歴に拭うことの出来ない汚点を残したのであった。

 

「それは、貴官の推測にすぎん、それにもうウーアマン中隊は市内への突入を開始している。今更遅いのだよ」
エリクは、精一杯の指揮官の威厳を持って彼の傍らに立つ少女に自らへの追及を止める様に婉曲的に言った。

 

対するノーマもそれ以上は追及すべきでないと考えたのか、沈黙した。

 

エリクは、正面を見据えた…<リヴィングストン>のブリッジの防弾強化ガラスを隔てた外界…鉛色の雲が立ち込めた空、
草色の丘陵の連なり、ひび割れた道路…その遥か向こうにある打ち捨てられた都市、そこでは彼らの同胞が、
廃墟に潜む敵と、戦端を開いている筈だった。

 

そして彼の傍らに立つ少女の翠玉の双眸も同じ方向を見つめていた…しかし、それはエリクよりも遥かに先を
見つめているようであった。

 
 

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