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「連合兵戦記」4章 2

Last-modified: 2016-05-22 (日) 13:48:12

怖い、怖いよ…助けて父さん………

 

砲弾が落下する遠雷の様な音と、大地を揺るがす怪物の足音の如き振動が廃墟を包む中、地下通路の中で、
ユーラシア連邦陸軍第89歩兵大隊所属の女性兵士、ニサ・アブドゥラニエヴァ一等兵は、両腕で自動小銃を胸に抱えて
身体から湧き出る震えを抑えようとしていた。

 

生まれ故郷でもある、ユーラシア中央部に位置する中央アジア ウズベキスタン州、州都タシュケントで
数ヵ月前まで花屋の仕事に就いていた彼女は、開戦後に他の多くのユーラシア連邦の人間と共に徴兵され、
西ヨーロッパ方面軍の兵士として送り込まれていた。

 

彼女を含むガラント少尉指揮下の部隊は、先程までいた地下のピザ屋の食糧庫から出ていき、
敵の侵攻予想ルートの付近で待機していた。

 

彼女以外の兵士も半分近くは、同様に開戦後に兵士になった者達で、不安げな表情をしていた。戦闘は、数度既に経験している。

 

しかし、ザフトの本格的な大部隊との戦闘は初めてのことだった。

 
 

ニサが最初に兵士として従事した任務は、NJ災害の影響で西ヨーロッパの諸都市に近隣地域…遠くは北アフリカから流入した避難民の救援・誘導の任務であった。
ザフト軍の攻撃は、前線や都市だけでなく、道を埋め尽くす避難民にも及んだ。

 

ニサは、有翼の悪霊を思わせるザフトのモビルスーツ ディンが放った攻撃で、避難民を満載したトラックが破壊され、
周囲にいた人々が巻き込まれるのを目の当たりにしていた。
トラックは焼け焦げ、屑鉄と化して肉とゴムと金属の焼ける臭いが混合した異臭を放ち、
その周囲には、黒焦げになった人体がバラバラになって転がっていた。

 

更にその外側には巻き込まれた不幸な人々が、炎に巻き込まれ、手足を失ってのた打ち回り、
動かなくなった家族の身体に縋り付いていた…………

 

その光景は、今もニサの脳裏に焼き付けられ、今ザフトの襲来を待つ彼女は、
3年前に病死した、町の警察官だった父親に助けを求めたくなる心境だった。

 
 

「お前ら、怖いか?」不意に先頭に立っていたガラントが言った。

 

「安心しろ、俺だって怖い!あんな鉄の化け物が隊列組んで突っ込んでくるんだからなぁ……だがな…」
ガラントはここで言葉を切った。
そして振り返り、背後の部下の兵士を見た。

 

「俺達は、軍人だ。俺は、単に就職の時に有利になる技能や資格が手に入るって
宣伝に乗って入って今ここにいるだけだ。お前たちの中にも似た様な理由や義務を果たせ!とか言われて連れてこられただけの奴が大半だろう。
それでも軍人になったからには、俺達は命令に従わなくちゃならない。そして今の俺達の後ろには、守るべき市民……ひいては、
両親、兄弟、子供、恋人、友人がいるんだ。
おい、三等兵」ガラントは、後ろの方で、震えていたニサを指差した。

 

「なんでしょう、少尉」怯えていることを咎められるのではないか…そう彼女は覚悟した。だが、その予想は裏切られた。

 

「お前には、家族はいるか?」

 

「……家に母と妹がいます。」深呼吸をしてから彼女は答えた。

 

「なら、怖くなった時そいつらの顔を思い出せ。
お前らも大切な人のことを思い出せ。
ザフトの奴らにお前らの好きにさせはしない!ってことを教えてやれ!!」

 

「「「「「はい!」」」」」」兵士達は、目の前の上官に敬礼した。

 
 

そして彼らは、各々決められた廃墟の中の場所にうずくまり、静かに待った。
敵が自らの持ち場に来るのを…

 

其処が彼らの狩場となるか、墓場となるかは、彼らの技量………そして神ならざる身には、
把握しえない運の問題であった。

 
 

カッセル軽砲小隊によって砲弾が撃ち込まれた市内は、凄惨な状態に陥っていた。
放棄され、荒れ果てていた建築物は、砲弾の直撃を受けて瓦礫の山に変貌するか、
奇怪な邪神像の様な姿に強制的に変換された。

 

道路には、瓦礫や隕石が激突したクレーターの様な大穴や散弾の炸裂で生じた無数の小穴が穿たれた。
これは、通常車両の通行がもはや不可能なレベルであったが、
モビルスーツとそれなりに不整地での走破性を有する装甲兵員輸送車で
構成されるウーアマン中隊には、余り問題ではなかった。

 

ジンのパイロットの1人が突入して最初に目撃したのは、
蜂の巣のように穴だらけとなった道路とその周辺に散らばる車の残骸だった。
「・・・」彼の視線の先には、鮮やかな水色に塗られた物体があった。
それは、かつては彼の憧れの一つだったが、今は何の価値もないガラクタであった。

 

水色の物体…流線型の強化積層プラスチック製の外装がセールスポイントの、
ブルースターと呼ばれていた高級車であったその物体は、緑色のゴミ箱に激突して停止していた。

 

それは、最新式の対ウィルスプログラムと衛星対応自動運転システムを
インストールした車載コンピュータもあらゆる外部からの通信が大幅に制限される
通信障害の前では無力ということを教えていた。

 
 

先程の支援砲撃による建物の崩落による瓦礫で通行不能になっている場所もあった。

 

「敵は何処にいるかわからん!警戒を怠るなよ!」ジンに乗るパイロットは、
そう言って部下に警戒を促した。

 

市街地戦では日常生活が営まれていたあらゆる場所が
敵味方の隠れ場所となるのだということを知っていたからである。

 

突如廃墟の一角で爆炎が起り、装甲車の側面車体に大穴が開いた。
内部に搭載されていた弾薬が誘爆し、装甲車が爆散する。

 
 

「敵がいるぞ!7時方向」
ザフト兵の一人が叫ぶ、数名のザフト兵がミサイルの白煙のする方に銃撃を浴びせた。
ザフト兵の反撃の銃火を受け、退避し損ねた連合兵が射殺される。
「ナチュラルの猿が!」手ごたえありと見たザフト兵の一人が、中指を立てて叫ぶ。
直後、迫撃砲弾が着弾し、付近にいた数名のザフト兵の命を刈り取った。

 

ジンの左肩に砲弾が、着弾する。戦闘車両用と思しきその砲弾は、空しく弾き返された。

 

ジンが重突撃機銃を廃墟に叩き込み、其処に隠れていた連合兵が吹き飛ばされる。
ビルの屋上から発射されたミサイルが次々とジンに着弾し、内1発が左肩装甲を破損させた。

 

既にそこかしこで、廃墟内に侵入したザフト兵と地球連合兵が銃撃戦を開始していた。
「死神にお辞儀させてやれ!」ガラント少尉が自動小銃を
通路から突入して来るザフト兵達に向けて乱射した。

 

部下の兵士もそれに続く、被弾したザフト兵が次々と悲鳴を上げて崩れ落ち、地面を鮮やかな赤に染める。
対するザフト兵も反撃し、銃撃を浴びた連合兵が斃れた。

 

ザフト兵の一人が、ナイフを右腕に握り、ガラント少尉に飛び掛かった。
「何!」
「隊長!」副官のヒュセイン曹長が拳銃でザフト兵の側頭部を撃ち抜いた。
次の瞬間そのザフト兵の頭部が吹き飛ぶ。
「助かったぞ!」

 
 

奇襲を受けたザフト兵の反撃も次第に組織だったものとなって行き、連合兵が先程とは逆に圧倒され始めた。
身体能力では、コーディネイター主体のザフト側の方が優勢であった為、これは当然と言えた。
「ぐぁっ」
「ヤーコフっ!」ニサの隣にいた同僚が頭部を撃ち抜かれて倒れる。
こちらに迫ってくるザフト歩兵の姿を認め、ニサは、
仲間の仇とばかりに自動小銃で弾幕を張る。

 

「隊長!」部下の一人が指差す。その方向…砲撃によって壁が吹き飛ばされ、外が丸見えになっている辺りには、
ザフト兵と、その後ろの車道い鎮座する装甲車の姿が見えた…グリーン系の色に塗装されたその車両は、
別の友軍部隊に向けて機銃を乱射していた。
撤退しなければ、アレにやられるのは間違いなかった。
「全員撤収!無駄死にするな!」ガラント達が撤収しようとしたその時、
装甲車にミサイルが命中し、オレンジ色の爆発が膨れ上がった。
その装甲車は、操縦席を破壊されて擱座した。

 

住民の絶えた市街地に憎き敵の骸を積み上げんと、双方が文字通り死力を尽くす。

 
 

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