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「連合兵戦記」5章 1 聖天使出撃

Last-modified: 2016-11-15 (火) 20:29:42

連合兵戦記  第5章 聖天使出撃

 
 
 

「情勢は不利だが、我々は勇気を失わずに死ぬ。」1941年7月ブレスト要塞のソ連兵の遺言

 

「くっ!連合め、今まで我々のみを攻撃し、郊外にいる部隊には手を出さなかったのは、我々の眼を誤魔化す為だったのか…」
敵のマットブラックに塗装されたパワードスーツ部隊からの攻撃を回避しながら、ケヴィンは歯噛みした。
彼のジンの後方用のモニターには、背後…郊外に立ち上る幾つもの黒煙が鈍色の空と共に鮮明に映されていた。

 

「中隊長!どうします!郊外の車両部隊が敵の襲撃を受けています!」ケヴィンの僚機を務めるジンのパイロットが言う。
郊外で待機していた車両部隊は、索敵車両と歩兵部隊を中核とする部隊で、
本来の作戦ではウーアマン中隊が市街地に突入し、市内の地球軍部隊に壊滅的打撃を与えた後にウーアマン中隊に代わって残敵掃討を行う予定だった。

 

だが、現実はケヴィンらの予測を完全に裏切り、彼らに壊滅的打撃を与えられ、この廃都を墓標に果てるはずだった地球連合軍部隊は、
未だに高い戦意を持ち、十分な戦闘能力を保持して激しく抵抗していた。

 

そして車両部隊は、比較的安全であると判断され、
最前線の間近に配置されていながら、手薄の状態に置かれていたのであった。

 

護衛についていたジン2機が市街地に対しての重突撃機銃による支援射撃を行うために
市内に接近した瞬間に潜伏していた地球連合軍部隊の襲撃を受け壊滅的打撃を逆に蒙ることとなったのであった。

 

更に中隊長であるケヴィン以下、ウーアマン中隊にとっては間の悪いことにこの車両部隊には、
索敵車両や歩兵部隊のみではなく、ウーアマン中隊のMSの整備、修理を行う為の前線用整備トラック、弾薬や燃料を搭載していた輸送車両、
そして市内で戦闘しているウーアマン中隊と後方のカッセル軽砲小隊との連絡を行う為の指揮車までが含まれていた。

 

前線で迅速に整備補給を行い、連絡を密にするための策が完全に裏目に出ていた。

 
 

これらが被害を受ければ、戦い続けることすら困難になる可能性があった。

 

不幸中の幸いは、車両部隊を2つに分けていたことで、カッセル軽砲小隊と合流していた部隊は、カッセル隊と同様に無傷であった。
しかし、指揮車と索敵車両が撃破されたことで、索敵用ドローンの索敵範囲は、
半分ほどにまで低下を余儀なくされていた。

 

このことにより、同士討ちを恐れたカッセル軽砲小隊は支援砲撃をやめてしまっていた。

 

「中隊長!ここは一度後退し、部隊を再編してから再度攻撃を駆けるべきです!」
「やむを得ん、全機後退!」

 

悔しげに口元を歪め、ケヴィンは、引金を引いた。
ウーアマン中隊の指揮官機のジンが、撤退信号弾を上空に撃ち上げた。

 

「後退信号!ここまで来て!」
20mm機銃で歩兵部隊を支援していたある装甲車の車長は、車内で叫んだ。

 

「後退だって!中隊長はこの状況が分かっているのか!?」
指揮下の歩兵部隊と数両の装甲車と共に公園跡で、
地球連合軍部隊に包囲されていた赤毛の女指揮官は、外の銃声と悲鳴に負けじとばかりの大声で叫んだ。

 

「後退だと?」
市内に潜伏する地球連合軍部隊の挑発の様なロケット弾と迫撃砲、対物ライフル等による嫌がらせ同然の攻撃に、
重突撃機銃で応戦していたジンのパイロットは、他の班の状況が分からなかったこともあり、怪訝そうに呟いた。

 
 

それぞれの兵士達の感情や事情など斟酌されることなく、ウーアマン中隊は、市内から撤退を余儀なくされた。

 
 

この混乱した状況で、全ての部隊が撤退出来たわけではなく、包囲された部隊や孤立を余儀なくされた部隊は、市内に取り残されることとなった。

 
 

「隊長!奴ら、逃げ出し始めましたぜ!」
「こちらアンジェリカ、敵部隊は撤退を開始した模様」

 

「…」ハンスは、部下からの通信で、市内に突入した敵部隊が撤退したことを知った。最初、彼と交戦していた指揮官機のジンが率いていた部隊が後退した時点で予感はしていたが、
市内の全部隊が後退するとまでは考えていなかった。

 

「各部隊は、防衛ラインを再編し、敵の再攻撃に備えろ」
「「了解!」」
「指揮官殿!一部敵部隊が市内に残っていますが、どうします?」防衛線の一つを指揮するガラント少尉が質問する。
彼の隊は、最初にザフト軍歩兵部隊と交戦した部隊で、隊の半分近くが死傷する損害を被っていた。

 

「敵にモビルスーツはいるか?」
「いえ、車両と歩兵部隊のみです。また一部脱出したモビルスーツパイロットを目撃したと、
ヒュセイン曹長の隊の報告がありますが、詳細は不明です」

 

「少数の部隊を監視に張り付けて放置しておけ。敵も奴らがいる限り、不用意には、砲撃できんし、
絶対にここにまた突っ込む必要があるんだからな」
「さて、次は何が来る…!」
通信を終えたハンスは、ザフトが次にどんな手を仕掛けてくるかを想像した。

 
 

<リヴィングストン> CIC………

 

「ウーアマン中隊より通信、市内に突入した部隊の内、モビルスーツ数機が損傷、
内2機を喪失、歩兵部隊の半数が打撃を受けた模様、また郊外の車両部隊が奇襲攻撃を受けたため
一時市外より後退するとのことです…」
オペレーターが報告を終えた時、楽観的空気が支配していたCICの雰囲気は一変した。

 

「ウーアマン中隊がここまで打撃を受けたのか?」
「無敵の我軍のモビルスーツ部隊が退いただと…?!」
エリクは、目の前のモニターに映し出される情報が信じられなかった。
そしてそれは、他のブリッジのクルーも同じだった。
各部隊合わせてモビルスーツが10体近くも撃破される等参加していたザフト部隊の指揮官にも、兵員にも初めての事であった。
無論、対する地球連合軍も相当の損害を被っており、ハンスや各部隊の指揮官も予想以上の損害に驚き、
多くの部隊の再編と再配置を余儀なくされていた。

 

だが、モビルスーツを複数有する部隊が、少なからず損害を受け、後退を余儀なくされたことは、ザフト兵に衝撃を与えていた。
敵が潜む都市は、要塞化されているのではないか、敵部隊はこの拠点以外にも地下シェルターなどで潜伏しており、この都市は、自分達を釘づけにして消耗させる為の陣地に過ぎないのではないか、そのように考える兵士もいた。
それは、最前線である廃棄された都市の兵士だけでなく、前線から離れた地点にいた<リヴィングストン>のブリッジにいる者たちも同じ状態になっていた。
もはや作戦開始当初の楽観ムードは消え失せ、地球連合軍の増援部隊が今にもここに襲い掛かってくるのではないかという考えさえ、彼らの一部の脳裏には浮かび上がっていた。

 
 

「か、艦砲射撃だ!都市は射程圏にある!」
エリクは狼狽気味に叫んだ。
友軍部隊がここまで打撃を受けた以上、艦砲射撃で市内の敵部隊に打撃を与える必要がある…そう彼は判断したのである。

 

「駄目です!」
その命令に異議を唱えたのは、隣に立つ金髪の美少女…アプフェルバウム隊指揮官 ノーマ・アプフェルバウムであった。

 

「ノーマ小隊長!なんのつもりだ!」
「市内には、まだ味方部隊が孤立しています!艦砲射撃をしては、味方を巻き込む危険性があります!」

 

「ではどうしろというんだ?」
エリクは自分が大隊指揮官であり、目の前に立つ少女が小隊指揮官に過ぎないということ等頭から抜け落ちていた。

 

「私が出撃します!地上戦の経験は十分にあります」
ノーマは自信に満ちた口調で言った。それは、まるで映画の主人公の様で、どこか
滑稽でもあった。

 

「なんだと?」
「敵の実数は、そう多くありません!断言できます。」

 

そう言い切ると、彼女は、背を向けて、軍靴の音を鳴らして、自動ドアへと向かった。間もなく、自動ドアが閉じる音が静かなブリッジ内に木霊した。
その音は、エリクら内部の人間には嫌に大きく聞こえていた。

 

「大隊長、どうします?アプフェルバウム小隊長の発進を許可しますか?」
「格納庫に連絡、アプフェルバウム小隊長が出撃する。整備班は準備に取り掛かれ」

 

「了解」

 

「ふう、これだから黄道同盟メンバーの関係者は困るな」冷静さをある程度取り戻したエリクは、軽くため息を吐いた。

 
 

この時期、プラント最高評議会議員の1人 ザフト内部にも強い影響力を持つ国防委員長 パトリック・ザラは、プラント最高評議会議員の子弟を集めた部隊を編制、
それをザフトの精鋭部隊として前線に投入する案を提案していた。

 

これは、一見すると多くの地域で、様々な形で行われてきた犢盖なる者の義務瓩琉豬疎屬陵佑妨える。

 

しかしその裏には、遺伝子操作が能力の全てを決定し、それゆえに遺伝子操作を受けたコーディネイターは、
ナチュラルを能力で凌駕し、コーディネイター内部でも、資産家等、富裕層の子弟であり、高度な遺伝子操作を施された者…具体的に言うならば、
プラント最高評議会議員やプラント内部の企業の重役、技術者等の層は、他の層に優越する……という遺伝子カースト制とでも形容すべき考えが透け見えていた。

 
 

流石にこのような考えはプラント内部の社会を階層化させ、分裂させてしまいかねない為、誰も公的には肯定していない。
だが、プラントの社会の状況は之を肯定するかのような形態となっているのが、現実であった。

 

もし遺伝子で全てが決定されるのであれば、我々コーディネイターは、ブルーコスモスの野獣共が言う様に工業部品と何ら変わらない存在ではないか!
ふと沸き起こった憤りを彼は自制心で抑え付けた。

 

エリクは、ユーラシア連邦の勢力圏に位置する小国に新興富裕層の次男として生まれた。
新興富裕層と言っても潤沢な資金があるわけではなかったので、彼は、それ程遺伝子の調整を受けているわけではなかった。

 

12歳の頃、家族と映画館に行った際にブルーコスモスのテロに巻き込まれ、家族を全て失った。
その2年後、宇宙医学に関する学位を取得したのと同時に多くの地球出身のコーディネイターと同様に当時建設が進められていた
産業スペースコロニー群 プラントに入り、
以後宇宙での医療機器に関する技術者としてプラントの発展に寄与してきたのであった。

 

そして多くのプラントの人間と同様に、プラント理事国から課せられるノルマと
工場、研究施設として地球経済を牽引しているプラントへの成果に見合わない報酬に反発し、
プラントを独立させ、地球の国家と対等の地位にしようと主張する政治団体 黄道同盟に入党した。

 

黄道同盟のメンバーとなった彼は、その能力を生かして戦闘要員として幾つかの活動に従事した。駐留軍に対するテロ、
公園や工業施設に爆弾を仕掛けようとするブルーコスモスの民兵と銃撃戦を演じた経験もある。

 

ザフト入隊後、モビルスーツパイロットとしての適性は不適格とされたが、指揮官としての適性は、
黄道同盟時代に武闘派の戦闘員のリーダーをした経験もあって有りと判断された。
その後の戦功により、ザフト地上軍 ヨーロッパ方面軍所属ファーデン戦闘大隊指揮官として
レセップス級<リヴィングストン>の艦長に任命されるまでになった。

 

ノーマ・アプフェルバウム…つい先ほどまで彼の隣に立っていた少女は、彼と同じく黄道同盟時代からのメンバーでもあったが、
同時に評議会に名を連ねる者を父親とするプラントのエリートでもあった。

 

彼にとっては、ある意味で自分の生きてきた全てを否定されているかのような存在であった。

 
 

だが、皮肉なことに彼と彼の部下にとって彼女こそが現状を打開できる数少ない要素であった。

 
 

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