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「連合兵戦記」6章 3

Last-modified: 2016-11-15 (火) 20:46:29

「!」
ノーマは、建物の影に潜伏していたゲーレン隊の残存である対空ミサイル車両を重突撃機銃で狙撃した。
その攻撃は、正確に対空ミサイル車両の車体側面を撃ち抜いた。

 

海外派遣時に輸送機での輸送を考慮に入れた設計による高機動化、軽量化によって
一般車両とほとんど変わらない重量と装甲だったその対空ミサイル車両は、木端微塵に吹き飛んだ。

 

「化け物め!」別の車両が対空ミサイルを発射した。
先程までは、指揮官であるゲーレン中尉の命令で、ミサイルを温存していた。
だが、指揮官以下部隊の大半が戦死し、敵が襲来しつつある状況ではそんなことを言っていられる状況ではなかった。
ミサイルが発射されるのを確認すると同時にノーマのシグーは即座に低空飛行に移行、砲撃で歪に変形したビルの影に隠れる。

 

「そこよっ」
ビルの影から飛び出すと同時に重突撃機銃を叩き込む。
対空ミサイル車両は、戦車をも撃ち砕く高速徹甲弾に車体をズタズタに引き裂かれて炎上した。
ゲーレン隊が保有していた対空ミサイル車両は、1両残さず、燃え盛るスクラップに変換された。

 

「食らえ!」
廃墟の影に隠れた歩兵が携帯型対空ミサイルを発射した。
「被弾した!」
ノーマは、咄嗟に回避しようとしたが、間に合わず、
ミサイルは、グゥルの左エンジンに命中した。
ミサイルはグゥルのエンジンに突き刺さると同時に弾頭を炸裂させ、燃料タンクに誘爆したグゥルは数秒で火球と化した。

 

ノーマのシグーは寸前でグゥルから飛び降り、ボロボロのコンクリートの地面に着地した。

 

「やった!」グゥルが爆散するのを見た若い兵士は、満面の笑みを浮かべて叫んだ。
「お返しよ。」
ノーマのシグーは、着地と同時に重突撃機銃を叩き込み、歩兵を吹き飛ばした。
地面に降り立ったシグーに廃墟からミサイルや砲弾が浴びせられた。

 

攻撃を行う地球連合部隊は、ディエゴ曹長率いる機甲歩兵部隊を中核としていた。
「食らえ!」ディエゴ曹長のゴライアスは、左手に握った20mmチェーンガンを乱射する。
だがシグーの装甲には、牽制にもならない。
「作戦通りにいくぞ!」
「「「「了解!」」」」
ディエゴ以下、ゴライアスを装着した機甲兵達は、決められた作戦通りに脚部のローラーを駆使して都市の奥へと撤退を開始した。
「引いていく…逃がさない!」それを見たノーマのシグーもそれを追う。

 
 

先程の戦闘で機甲兵部隊にモビルスーツを含むザフト部隊が苦しめられていることをノーマは認識していた…
だからこそ彼女は、あえてそれを追撃したのである。
推進剤を節約するため、ノーマのシグーは、スラスターを使わず走行することで追撃した。

 

対するゴライアスの数機は、白い煙幕を展開した。だが、シグーは、ディエゴ率いる機甲兵部隊を追撃した。
お互いに移動中の相手を銃撃することは無い。弾薬を無駄にしないためである。

 

廃墟の建物の間を駆け抜けるディエゴ曹長の機甲兵部隊のゴライアス6機とノーマのシグーは、都市の中心部の付近にまで到達していた。
その場所には、かつてのこの都市の中心部に隣接していたこともあって高層ビルが林立していた。

 

1年前には、多くの人々が中で労働していたのであろうそれらの高層建築物は、砲撃の影響によって荒廃し、
チーズの様に穴だらけになっていた。

 

「全機、身を低くしろ!」ディエゴがそういうと同時に、6機のゴライアスが姿勢を低くした。
「…」ノーマは、その動きを見て怪訝な表情をした。
次に彼女の眼に一瞬だが、進路上に、廃墟の間を横切る白い線の様な物が見えた。
「ワイヤー?」
ノーマは、その正体を即座に推測した。そして、敵の意図も……ノーマの優れた動体視力、判断力だけでなく、指揮官用として設計され、
ジンよりも高性能なシグーの高解像度のモノアイがなければ、彼女は、ワイヤートラップに気付くことは無かっただろう。
全長が約2〜3mのゴライアスは、接触することは無い。だが約18mにも及ぶシグーの巨体では、腰の部分で接触することになる。

 

ノーマは、そのワイヤーは、ワイヤーに反応して爆弾が炸裂するタイプのトラップであると推測していた。もし無視して通過すれば、
ノーマのシグーは、爆弾の爆発に巻き込まれることになる。

 

「ワイヤートラップなんて単純な手で!」ノーマは、シグーを寸前でジャンプさせることで、
張り巡らされていたワイヤーを回避した。
ノーマのシグーがワイヤーを避けて移動した次の瞬間、その廃墟は爆発し、ノーマのシグーの背後の空間を瓦礫が占領した。

 

「追い詰めたわよ…」ノーマがそう言った直後、再び爆発音が響いた。
それは、ノーマのシグーでも、ディエゴ曹長率いる機甲兵部隊によるものでもなく、ノーマのシグーの真上で起ったものだった。
咄嗟にノーマは上を見た。
シグーの直上、廃墟の中でも比較的原型をとどめる高層建築の影が聳えるそこには、
オレンジ色の爆発の華が咲き、高層建築を構成していたコンクリートの瓦礫が今にも地面に向かって落下しようとしていた。

 
 

つい数十秒前までビルを形成していた巨大なコンクリートの塊がシグーに襲い掛かった。

 

「よし!掛かったな」
ゴライアスを着用したディエゴ曹長は、笑みを浮かべて言った。
彼の目の前で、ビルの瓦礫は、彼の想定通りに真下に落下した。そしてその落下点には、ノーマのシグーが立っていた。
「!!」ノーマは、相手の真の意図にようやく気付いた。

 

機甲兵部隊で、敵のMSを誘導し、爆弾で動きを止めてから、隣接するビルの上層階を爆破、
敵のMSを降り注ぐビルの残骸の下敷きにすることで止めを刺す。

 

先程のワイヤートラップは、本命であるこの瓦礫のトラップに対する囮だけでなく、退路を断つという目的があったのである。
「くっ!」
トゥームストン………その巨大な墓石は、地面にいるノーマとシグーに向けて轟音を立てて落下した。
少なく見積もって数十トン近い質量を有するその物体の直撃を受ければ、モビルスーツさえも破壊されることは間違いなかった。

 

「そんな単純なトラップで!」
ノーマは、シグーの背部のスラスターを全開にした。
ディエゴ曹長のゴライアス部隊は、シグーの動きを止めるべくチェーンガンや対戦車ミサイルを乱射する。

 

ノーマは、左腕のシールドを投げつける。投げつけられたシールドは、一瞬銃弾の火花を浴びて真っ赤に染まり、
止めとばかりに撃ち込まれたピルム対戦車誘導弾が大穴を開けた。タンデム成型炸薬弾頭を搭載したミサイルの一撃は
シールドの裏に装着されたガトリング砲の基部を破壊し、弾倉が爆発したシールドは砕け散った。

 

シールドのミサイルによって空いた穴を起点に爆発が起こり、爆風が砕け散るシールドを覆った。
同時に爆風の中からシグーが飛び出す。

 

コンクリートの豪雨がシグーを打ち砕く寸前、シグーは、離脱に成功した。
爆風から現れたシグーは、すれ違いざまに右腕の重斬刀を振るう。

 

近くにいたゴライアスが切り捨てられる。

 

シグーは、ゴライアス隊の前に着地した。シグーが地面に着地する轟音が、
ディエゴ曹長の耳には、やけに大きく聞こえた。
同時に背後のコンクリートの瓦礫の山がはじけ飛んだ。中に仕掛けられていた爆薬が爆発したのである。

 

本来ならビルの下敷きになったシグーに対する止めとなるはずだった爆薬は、コンクリートの瓦礫を砕いただけに終わった。

 

次の瞬間、シグーの左腕に握られていた重突撃機銃が、ディエゴ曹長率いるゴライアス部隊に浴びせられた。

 

「畜生!」そう叫んだディエゴ曹長の視界は炎に呑まれた。

 

廃墟の一角で、毒々しい色の爆炎が吹き上がった。
「…」ノーマはそれを一瞥して、次の敵を叩き潰すべく歩みを再開した。

 
 

「ディエゴ曹長戦死!」
「そんな……ディエゴ曹長の隊がやられました。」
その報告は、直ぐにパドリオの操縦するガンビートルの通信システムを介して指揮官であるハンス大尉に伝えられた。
更に、ディエゴ曹長の隊の支援に向かっていたユーラシア軍所属の歩兵部隊がシグーによって全滅させられていた。

 

「ディエゴ……我々の隊で迎撃するぞ!」ハンスは、即座に決断を下す。
「指揮官自らですか?」
その通信は、ユーラシア歩兵部隊の残余を率いるガラント少尉からであった。
「ああ、これ以上防衛線の内側であの怪物を飼うわけにはいかんからな!」
「第22歩兵小隊、第24歩兵小隊壊滅!」
「まずいぞ…このままでは、外のザフト部隊まで…」
「!!」ハンスの言葉は、直ぐに現実となった。

 

市内の地球連合軍の防衛線が崩壊しつつあるということは、郊外に待機していたザフト軍部隊の眼にも明らかであった。
そして、それを見逃す程彼らは、無能でも、お人よしでも無かった。

 

「ノーマ小隊長がやってくれたぞ!全軍進撃開始、この機を逃すな!ザフトの為に!」
ウーアマン中隊が進撃を再開した。
「俺達も突撃するぞ、ナチュラル共を叩き潰せ!」
カッセル軽砲小隊も突入を開始した。
「!支援砲撃を任務とする我々が市内に突入するのですか?」部下の1人は、指揮官であるカッセル小隊長に質問した。
「ドローンによる射撃管制が半分機能していない今、まともに支援砲撃が出来ると思うな!」
「了解!」
更に先程まで<リヴィングストン>と共に後方に展開していた車両部隊も、
ウーアマン隊と合流し、都市の地球連合軍を叩き潰すべく市内に突入し始めた。

 

「畜生!支えきれんぞ」
「こちら第3小隊!後退許可を!」
度重なるザフト軍との戦闘、特に単機で防衛部隊を幾つも壊滅させたノーマのシグーによって
防衛線が大打撃を受けていた地球連合軍側には、それを押しとどめる手段はもはや残されていなかった。

 

「お前ら!車には乗ったな!味方と合流するぞ!」
包囲されていたザフト軍 アンリエッタ歩兵中隊も行動を開始した。
指揮官のアンリエッタ・エルノー中隊長は、包囲していた敵の戦力が低下しているのを見て、友軍部隊との合流を決意したのである。
この中隊は、先程の戦闘で、機甲歩兵部隊の猛攻をうけ、既に半数以上の兵員と装備を喪失し、
歩兵小隊レベルにまでその戦力を低下させていたが、
ノーマの活躍によって包囲陣が弱体化した為、突入を開始したザフトの車両部隊との合流に成功した。

 
 

「ハンス隊長!」
「支えきれないぞ!」
「後退!後退!」
市内の地球連合軍部隊は、各所で退却を余儀なくされ、一部の部隊は逃げ遅れて全滅した。
もし、退却準備を事前に指示していなければ、更に被害は拡大していた可能性があったことを考えると、まだマシであった。
公園に配置されていたロングノーズボブは、友軍部隊の放つ信号弾に従い、援護の砲撃を行っていたが、弾薬切れとなったことでそれも行えなくなった。

 

「弾切れです!」
「ここまでか…」
ダン以下砲兵隊員は、ロングノーズボブを放棄した。
その直後ザウート部隊の砲撃を受けてロングノーズボブは、スクラップに変換された。
ザフトが廃墟となった都市に侵攻を開始したのと同じ頃、ハンス率いる連合部隊は、ノーマのシグーと交戦状態に突入していた。

 

「ミサイル発射!」スラスターを全開にして突入してきたシグー目がけ、ハンス率いる機甲兵部隊が一斉に対戦車ミサイルを発射した。
ゴライアスが、肩に背負った対戦車ミサイルランチャーを発射し、白い噴射煙が、ゴライアスのマットブラックのボディを包みこむ。
同時に周囲の廃墟と化したビルからも銃撃やミサイルが浴びせられる。ノーマのシグーは、3方向からのそれらの攻撃を回避した。
NJ下で誘導装置の信頼性が低下していることを考慮しても驚異的な回避能力である。

 

「なんて動きだ!」
シグーの回避運動を見たゴライアスを装着する連合兵の一人は悲鳴を上げた。
「当たれよ!」
廃墟に隠れた歩兵が、携帯型対戦車ミサイルを発射した。
だがシグーは、そのミサイルも回避するか、撃墜してしまう。
ハンスと部下の多くは、サブフライトシステム グゥルを破壊したことで、シグーの機動性を減殺できたと考えていた……
しかし、シグーは、地上に足を付けてからの方が更に素早く動いていた。

 

この廃墟を縦横無尽に駆けまわり、その巨体を時折、廃墟の影を利用することでこちらから見えなくすることさえやってのける、
このシグーは、巨大な幽霊とでも形容できた。

 

また1機、廃墟の影に隠れようとした部下のゴライアスが撃墜された。
シグーの重突撃機銃によるもので、旧式の戦車砲弾並みの口径の砲弾を受けたそのゴライアスはバラバラに砕け散っていた。

 
 

それは、シグーの重突撃機銃によるもので、旧式の戦車砲弾並みの口径の砲弾を受けたそのゴライアスはバラバラに砕け散っていた。
シグーの隣のビルから遠隔操作でミサイルが発射される。
それを見たハンスは、元工兵隊の貢献を思った。

 

撤退時に取り残された彼らに、ハンスは部隊の指揮官として、
都市内のトラップ設置、防御陣地の設営への協力を要請…事実上は命令…をした。

 

ハンスは、それがどれほどの重労働となるか、認識したうえでその決断を下した。
そうしなくては、戦いでの自軍の犠牲を減らすことはできず、自軍の被害を減らす為の策を怠ることは、
指揮官として失格である、と考えていたからである。

 

最初、ハンスは、工兵隊指揮官のライオネル・タイソン中尉を含む工兵たちから相当の反発を買うと推測していた。
だが、彼らは、文句一つ言うどころか、満足に銃も扱えない自分達がザフトのブリキ人形に一矢報いるチャンスをくれたと、
喜んで、汗みずくになって防衛ラインの構築に貢献してくれた。

 

もし工兵である彼らがその技術と経験を最大限に活かしてくれなかったら、ここまで防衛することができたかは疑わしかった。
またシグーの死角である位置から発射されたミサイルが、シグーに迫る。

 

だが、ノーマのシグーは、それを回避し、更にハンスの機甲兵部隊の攻撃も回避し、ハンス達機甲兵部隊の前に立ち塞がった。

 

着地と同時にシグーがミサイルの発射された方向に重突撃機銃を叩き込む。
その右腕には、重突撃機銃が、左腕には、重斬刀が握られている。

 

「此処までなのか…」ハンスがそう呟いた瞬間、彼の視界の片隅に小さく動く影が現れた。
シグーの背後の廃墟……

 

「…!」
そこには、損傷したディエゴ曹長のゴライアスが、ピルム対戦車誘導弾を構えていた。
「ハンス隊長…皆!」
先程彼は、ノーマのシグーによって部隊を壊滅させられたが、
彼自身は、部下のゴライアスと廃墟が盾になる形で、難を逃れていたのであった。

 

このピルム対戦車誘導弾は、大西洋連邦のある軍事企業が開発した対戦車火器である。
この対戦車ミサイルが開発された頃は、大容量バッテリーの開発、モーターの高出力化、素材の改良による
軽量化に伴う装甲車両の重装甲化が進んでいた時期であった。

 

戦車の装甲、防御力は、一種の最高点に達し、
大口径のリニアガンでなければ、貫通不可能な程にまでなっていた。
各国は、敵の重装甲化した戦車に対抗する為、新型戦車、陸戦用MAの開発を進めると共に、
遥かに安価な歩兵や機甲兵でも撃破できる様、携帯式対戦車火器の改良も進めていたのである。
このピルム対戦車誘導弾は、通常の機械化歩兵では1人での操作は難しかったが、機甲歩兵にとっては、片手で運用可能な火器である。

 

機甲歩兵や機械化歩兵の火力でも装甲車両を撃破できるようにと設計された特徴的な大型のタンデム式の成型炸薬弾頭は、
ザフトの最新鋭機であるシグーを撃破することも可能な威力を持っていた。

 
 

タンデム成型炸薬弾頭を背後から受けて撃破されるシグーの姿をハンスと彼の部下は幻視した。

 

だが、そのシグーは、背中に眼があるかの如き素早さで反転、右腕の重斬刀を横薙ぎに振るった。
その一撃は、装着者のディエゴ曹長をゴライアスごと両断した。

 

叩き斬られたゴライアスは、投げ出され、空中で破片を撒き散らして爆発した。
周囲にオイルと血液が飛び散り、真横の灰色のビルの壁をグロテスクな色に染め上げた。

 

「ディエゴ!」
シグーは、再び、ハンスらの方に向き直った。
シグーの頭部の赤い単眼が彼らを睥睨する。

 

「くっ…」
ハンスは、血に染まった様なその赤い機械の眼を凝視した。

 

こいつには、勝てない…ザフト軍のモビルスーツや戦闘機、戦闘車両とこれまで交戦し、
部下と共にそれらをことごとくスクラップに変換してきた彼にとって、
それは開戦以来の初めての経験であった。

 

「もう駄目だ!」
部下の一人が悲鳴を上げた。

 

その直後、爆発が付近の廃墟に立ち上った。
「爆撃!?」
「…始まったか……!」
それは、予定されていた地球連合空軍戦略爆撃部隊の空爆の始まりを告げるものであった。

 
 

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