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◆BiueBUQBNg氏_GジェネDS Appendix・序_02

Last-modified: 2014-03-10 (月) 16:18:38
 

   ―6th scene―

 

 サイド3での生活は、表面上は滑らかにスタートした。一年戦争に備えてのジオン軍増強から始まった民間MSパイロットの徴兵そして消耗は、数年に及ぶ戦いの連続でコロニー維持の限界を割っていたのだった。数多くのコロニーが閉鎖されていた。ジオン共和国としても戦後復興の為パイロットのレンタルを連邦に強く要請はしていたのだが、この現象は全地球圏において深刻な物となっていることは誰の眼にも明らかであった。戦闘能力・生存性において大きな優位を見せたニュータイプ・強化人間の活躍が期待されたが、彼らの優位性は敵パイロットの心理を読む事にこそ有り、更にどこの職場でも重大な失点とされる欠点――コミニュケーション能力不足――が多く見られたことも祟り、彼らの大多数は軍に残るか、出戻る場合が多かったのだ。
 そういった訳で、将校としての正規教育を受け最低限のリーダーシップを持ち、人並み以上に付き合いやすい相手で、なおかつ操縦・整備・開発に一通りタッチしているコウがそれなりの歓迎を受けたのも当然である。

 

 とはいえ、旧ジオン公国国民のアースノイドに対する反感はその程度の事で緩和されるほど安易なものではなかったのだが。

 

 物資の搬入・倉庫管理(無論MSを使ったものだ)という、軍ではパイロット候補生すら嫌がるような初歩的な
雑用から、コロニーの穴塞ぎ(大掛かりかつ繊細な作業が要求される難しい作業なのだ)まで、彼の行うべき業務は極めて多岐に渡った。その上与えられた機体は壊れかけのザク気任△襦かつての練習機よりも古い物で作業しなければいけないことについて複雑な思いも無いではなかった。外の作業員の場合も大同小異ではあったが、彼に与えられた機体は古く傷ついているという点で際立っていた。
 それでもコウは、少なくともロンド・ベルにいた時以上には活き活きとしているように見えたし、周囲と比して優秀でもあった。要するにMSが好きだったのである。故に専有機体の修復と改善を楽しんで行い、やりつけない作業にもすぐ慣れることができた。パイロットというのは元来が開けっぴろげで気のいい連中で、彼が熱心かつ合理的な労働者である事が分かるとすぐに胸襟を開き、しばしば仕事帰りに飲酒に誘うようになった。
 仕事を除く彼のサイド3における日常がそう気楽でなかった理由は2つある。一つは、懸念していた通りに人種的な理由で一般人とは同僚ほど簡単に打ち解けられなかったという事。もう一つは、同僚の誘いを3回に2回は断らなければいけなければならなかったという事だ。無論、トリエルが原因である。
 彼女自身がコウを束縛するような事は一切無かった。しかし、それ故、彼は余計にトリエ(エゥーゴで彼女はそう呼ばれていた。とはいえ彼女と接触する人物自体、希少なものであった)を気にかけるようになった。戦闘行為(軍での生活、ではなく)に嫌気が差すような性格や、サイド3での働きぶりから分かるとおり、彼は本質的に善人であった。
 故に、深酒したある金曜の夜、部屋で彼を待っていた淋しげ(コウにはそう見えた)な紅い瞳を忘れられなかったのだ。
 そのような性行は必然的に彼を女性から遠ざけていた。周囲に歳の離れた妹だと説明した結果「度を越したシスコンらしいから確かめておいてくれ、と部下がいっていた。何と返事しておこうか聞いておきたい」ガトーにもそういわれた。
 コウは紫に腫れ上がった頬を擦りつつ、

 

「こういう状況なら誰だってこうなる、とでもいっておいてくれ」

 

 幽かな声で、答えた。

 
 

   ―7th scene―

 

 そこはかつてジオン公国軍士官が好んで溜まり場にしていたバーだった。一年戦争末期にマスターが徴兵され、その後行方不明となって閉鎖されたままだったのが、シャアの叛乱の時にマスターの遠縁という者が浮ついた空気に乗じて再開し、シャアの敗北後も営業を続けていたのだ。常連客はほぼ全てがジオンの古強者で、人数は少なかったが長居するうえに手柄話に酒を必要とするためそれなりに儲かっているようだった。もっとも、日系人である現マスターの趣味であるらしい篳篥・琵琶・筝・十七弦・尺八による宇宙式モダンジャズの即興生演奏については意見の分かれるところではあったが。
 その晩、海兵隊の人数を工作に割いてくれないか、との要望をシーマに届けるため、彼女の行きつけであるそこにガトーがやってきた。そして、コウが殴られている事を知らせるためにトリエが飛び込んできたのだ。特に同性に対しては面倒見のいいシーマは何かあったら夜は大体そこにいる、とトリエにその店を教えていたのだ。
 ウラキの話を聞いてやろうと、路地裏の一幕の後ガトーはトリエをシーマに預けて店に連れ込んだ。ガトーは指揮官としての経験も長く、長期間月に潜伏するなど苦労人であったため人情の機微を心得ていた。理不尽に耐える男を見捨てては置けなかったのだ。しかし、一通り鬱憤を晴らさせてやった後には自分の好奇心を満たさざるを得なかったのだが。

 

「しかし、貴様はよくやっている」
「お前が人を褒めるなんて珍しいな」
「いや、工兵隊の連中の間では評判がいいぞ。それに、変わってはいるが女と暮らしていられるのだからな」
「女は苦手なのか?シーマさんは、どっちかというと付き合いやすいほうだろ?」
「そんな事は無いぞ。あの女狐と来たら時勢の変転も理解せず、子飼いの部隊を後生大事に抱え込むつもりだ。
 今どれだけコロニーの維持が大事か分かってないのだ。いやそれ以上に酷い女が月に……」
「どうした?お前が落ち込むなんて、珍しいな」
「よせ、思い出させるな。悪酔いしたくなる」

 

 ガトーの眉間に深い皺が刻まれた。

 

「……今日はもう帰ろう。そうそう、新しく考えた武器のアイディアがあるんだ。こんど見てくれ」
「……」

 

 余程嫌な事を思い出しているのか、片手で額を押さえたまま、ガトーはもう片方の手で別れを告げた。

 
 

   ―8th scene―

 

 次の日、コウは風邪をひいた。
 普段通りの時間に起床する事はした。しかし、すぐに頭の奥の方に痺れを知覚し、次第にそれは広がって
頭痛に近い物となった。軽い寒気を伴い、食欲も無かったので朝食は温めなおした白米と味噌汁のみで済ませる。
 トリエのためにそれに加えて生ハムを刻み込んだサラダを一皿だけ用意した。
 食事中から既にトリエは表情に不安そうな色を見せていた。普段であれば、コウは必ずハムエッグか焼き魚を朝食に食べていたからそれも無理は無い。

 

「大丈夫だって。士官学校で習った事の一つに、走れば治る、というのがあって……」

 

 頭がぼやけてそれに続く言葉が思いつかない。彼女の顔を見慣れているコウでなくても、心配していると分かる表情が視野を突き刺す。それでも必死に背中を丸めまいと虚勢を張りつつ玄関に向かう。

 

「今日休んだら、昨日殴られて逃げた、なんて噂が立つかもしれない。何のためだったんだ、これまでのことはぁ……」

 

 右膝がガクッと折れる。不意に、力の抜けた右腕が柔らかい物で締め付けられた。
 トリエが両腕でコウの右腕を抱き締めていた。細い腕と柔らかいが薄い胸の感触に、全力を出しているらしいが今のコウでも簡単に振りほどけそうな圧力が痛々しい。懇願するように眉がハの字を形作り、上目遣いの赤い瞳は抗議するように歪んでいる。

 

「分かったよ、今日は休む、だから……」

 

 倒れる音が聞こえた。自分が倒れたらしく、右肩が痛む。トリエがベッドまで連れて行こうと袖を引っ張っている。
 自分でいける、言おうとしたのを最後に意識が途絶えた。

 

 気が付いてその声を聞いたとき、コウは銀河に蛇行する龍の如き驚きに襲われた。

 

「ようやく目覚めたようだな、コウ・ウラキ」
「あ……!……!!!……?……!?」
「その様子なら大丈夫だろう。もう少し休むといい」

 

 カタ、と二つのマグカップがサイドテーブルに置かれる音がした。お盆を持ったトリエがコウの個室から出て行く後姿が見える。

 

「良い女になった。よくああも育ててくれたものだな」

 

 慌ててお茶を飲み干して、口の乾燥と喉に絡んだ痰を一気に片付けると、なお慌てた口調で詰問を開始する。

 

「君の見舞いに来た。そういっても納得してはくれないだろうが、実際そうだから仕方が無い」

 

 忘れようの無い、掠れ気味の糞落ち着きに落ち着き払った声。オールバックに整えられた豪奢なプラチナブロンドの髪。
 アイボリーの上下。間違えようがない。

 
 

「何やってんですか、 ク ワ ト ロ 大 尉 ! ! 」

 
 

   ―9th scene―

 

「だから、見舞いに来たのだといっているだろう」
「いえ今の『何やってんの』はそういうのじゃなくて!」
「私が生きているということぐらい、薄々感づいてはいた筈だ。アムロにもそういったじゃないか」
「盗聴器でも仕掛けてたんですか……」
「いくら私でもそこまで手は回らんよ。バーテンが、マツナガに話したそうだ」
「じゃあマツナガさんは知ってたんですね」
「口の堅い男だ」

 

 風邪に伴う、手足を蝕む筋肉痛が酷くなった気がした。大きくため息をつき、起こしていた上半身を再びベッドに投げ出す。

 

「礼ぐらいいったらどうだ。私が君をここまで運んだんだぞ」
「……」

 

 左腕を上げて、眼を隠す格好を取った。

 

「……分かった。とりあえず、どこから説明したらいい?」
「……全部……」
「簡単にいうと、気がついたら何か生きてたのだ。ずっと死のうと思っていたのだが、これも運命だと諦めたのさ」

 

 簡単すぎる。
 なぜここまで悪運が強い人間がいるのか、そもそもなぜこの人物を、運命は生かすことに決めたのか、余計に頭が痛くなる。体の右側を下に寝相を変えて、シャアに背中を向けた。

 

「……もう帰ってください」
「失礼だな」
「ここには幼い少女がいるんで。体が動いたら、殴り倒して警察に突き出しているところです。
 見舞いに来てくれたのに免じて見逃しますから、土星辺りにでもいって二度と帰ってこないでください」
「私もよくよく嫌われたものだな」

 

 全く傷ついた様子が無い。

 

「それは冗談としても、そもそもなんでここが分かったんですか?」
「ジオニックで働いているのでな、社員の情報は入手できる。部署は違うが、何度か君と同じ現場に入ったこともあるし、その内2,3度はお互いモビルスーツに乗っていなかった」

 

 呆れて口も利けない。

 

「無遅刻無欠勤の君が来ないと、現場監督が慌てていたぞ。部署宛のメールに、トリエル君から風邪をひいたので休む、というのがあってな。こういう機会でもないと会えないし、話しておきたいこともあるからな」

 

 メールボックスを管理し、自分の都合で職場を離れても文句をいえないような立場、ということだと予測がつく。

 
 

   ―10th scene―

 

「それで、何の話なんですか」
「そう急くな。お茶が来たぞ」

 

 再びドアが開き、トリエが入ってきた。お盆をサイドテーブルに置いて、シャアには紅茶を、コウにはベッドテーブルをセットしてからお粥と氷水を給仕する。

 

「ありがとう、お嬢さん」

 

 えらく深みを帯びた声でいう。コウの予測通り、続けて右手をとって手の甲に口付けしようとしたが、思ったよりも動きが素早く空振りに終わった。つい苦笑してしまう。

 

「……?」
「ああ、君は何も悪くないよ。ありがとう。ここはもういいから宿題を片付けて」

 

 コウが住んでいるアパートは2LDKで、それぞれが個室を持っている。トリエは学校にいく代わりに、コウの監督の下、居間のPCを使って通信教育を受けているのだ。

 

「中々いい兄貴っぷりだ。紅茶を淹れるのも上手いし。君については、認識を改めるべきだな」

 

 今までどう思っていたのか非常に気になるが、彼とは誠実に向き合うだけ損なのでその件は腹に収める。

 

「当初は大変だったんですよ。紅茶を淹れたそうな目付きをしたかと思えば、一度にスプーン5杯ほど使おうとするし、シャワー浴びた後裸でウロウロするし」

 

 どんな鈍感な人間でも、その瞬間シャアが眼を細め、鼻の下を伸ばしたのを見過ごしはしなかっただろう。
 意志の力によって本能を表に出すまいとする努力が表情を更に滑稽にする。

 

「……サングラスか仮面使った方が良いんじゃないんですか?」
「それだと目立ちすぎるな」

 

 中世紀、宗教戦争というものがあったという。その激化に懲りたことが、キリスト暦から宇宙世紀に移行する
理由の一つだ、ということはどの歴史教科書にも書いてある。それが耐え難い局面に踏み込んだことを示す象徴的な事件に、当事者は世界の中心と、異教徒からすれば邪教徒の伏魔殿と見ていた都市を象徴する建物へのカミカゼ攻撃があった、というのも、高等教育を受けた人間なら大抵知っている。首謀者は最後まで見つからなかった件については、そういうと意外そうな顔をする人が殆どだ。
 現在の連邦政府にとってシャアは、その首謀者以上に重要度の高い標的であるのによくもまあヌケヌケと。仲間に謀殺された革命家の遺児。本来ならば真っ先に歴史の闇に葬られる立場であるシャアを、一時は時代そのものを弄ぶ立場に押し上げたものがなんであったか、コウは理解した。いや、もしかしたら今も。

 

 「またなにk…」

 
 

 「このサイド3は危機に瀕している。君に救ってもらいたい」

 
 

   <interlude>

 

 今日の分の学習を済ませたのに、ウラキさんは大事な話があるから待ってろという。
 つまらない。胸の辺りが重く、冷たくなったみたい。
 ――誰かがいなくなるのは、とても悲しい事――
 それは知っている。なら、すぐそばにいる人と会えない、というのはなんというのか、見当もつかない。

 

 壁に耳をつける。実はここの壁は薄く、隣の物音が簡単に聞こえるのだと、自分だけが知っている。
 私は喋れないから、ウラキさんはその事を知らない。

 

 「……もとのバランスのよさを損なっていますね。防御力だけが旧世代のままじゃないですか」
 「だから追加装甲を付けさせた。確かに重心が難しく、駆動系の制御がキツくなっている。そこでタンデム・ドライブを採用した」
 「俺が、というのは分かります。でもいやな思い出がありますね。中々振り切れません」
 「あのときの話は、向こうでは知らない人はいなかったな」

 

 何を言っているのか、よく分からない。
 今日はもう寝よう。変な目で私を見る赤い車のあの人も、起きたらいなくなってるはず。

 

   </interlude>

 
 

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