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◆BiueBUQBNg氏_GジェネDS Appendix・序_03

Last-modified: 2014-03-10 (月) 16:18:18
 

   ―11th scene―

 

 それから数日は、何事も無く平穏に過ぎ去った。
 シャアに言わせると、変装というのは至極簡単だそうで、喉に埋め込んだボイスチェンジャーと毎朝15分のメイク、それに特殊な肉襦袢だけで印象を一新できるという。翌日、コウは社内にシャアらしい人物はいないか鵜の目鷹の目で探したが見つからず、すぐ諦めた。

 

 コウの朝は早い。毎朝6時に起き、朝食の準備をする。飯の時もあればパンの時もあり、特に定まった好みはない。彼自身は米を食べた方が力が出るように思い、きっと日本人の遺伝子に由来する物だろうとパイロットらしからぬ非科学的な解釈を与えていた。トリエはパンの方が若干食が進むように見えたが、二人ともたいした好みの違いは無い。
 味噌汁(サイド3はアジア系住人が少なかったが、日系だけはそれなりにいたので味噌も入手しやすい)を火にかけると歯を磨いてからトリエを呼ぶ。規則正しい生活が身についているのか、いつも呼ぶと直ぐに来る。それから顔を洗い歯を磨くのだが、最初の2,3度は水道の勢い調節を知らなかったらしくずぶ濡れになった。濡れた服が肌に張り付いて体型を露になったのを眼にするたび、コウは「クワトロ大尉のようになったらおしまいだ」と自分に必死に言い聞かせたものだった。
 食後、コウは自分用にコーヒーを、トリエ用に緑茶か紅茶を淹れる。特に深いわけがあって別々の物を飲んでいるのではなく、昔子供はコーヒーを飲んではいけないと言われた通りにしているだけだ。サイド3での生活を始めた頃は、トリエは紅茶の場合、何も混ぜずに飲んでいた。5日後にはテーブルの上にウラキが用意したミルクやレモンに興味を示し、その翌週からは自分の意思で味付けを行うようになった。
 食後、しばらく二人でニュースを見てからコウは日課のジョギングに行き、シャワーを浴びてから出社する。何も言わなくてもトリエは居間のPCを立ち上げて、『発話障害児童参歡』の受講を開始する。昼食は一人で用意するよういくばくかの金銭を渡してはいるが、何を食べているかはコウには見当もつかない。

 

 現場はその時々によって違う。コウの業務は現在「試作作業用モビルスーツの実地運用と評価」に変更されていて、試用するモビルスーツ、環境、工法は場合によってガラリと異なる。丁度軍事技術の民間転用が熱心に行われていた時期で、データはいくらあっても足りなかった。コウに課せられた負担も重く、毎日レポートの作成に追われ、休日を丸々潰す事も珍しくは無かった。保護者らしい事はしてやれない、と心苦しくもあったが、トリエ自身からして口のきけない体なのでその感情が成長することもない。

 
 

   ―12th scene―

 

「で、今はどんな試験をやっているのだ」
「企業秘密だ」

 

 例え話せたとしても、「ザクレロの旅客業務への転用」なんて口に出せるか。
 その日の作業内容を説明された途端、「無理だ」という言葉が喉から飛び出し舌を滑り、歯をこじあけかかった。 
 それでも唇を結んだまま言葉を押し殺したのは、鹵獲されたジ・Oの工作転用試験を押し付けられたときに同じ事をいって無視されたことがあるからだ。腕が普通より多いから単純に工作には便利だと本社第二開発部では考えたらしい。格闘戦の補助以上を期待するには簡素すぎる仕様で、さらに改造するとなるとフレームにまで手を入れなければならないと判明し、すぐお流れになったが。設計途中見つけた僅かな余裕をこのような形で生かし、しかも使いこなしたパプティマス・シロッコの幅広い手腕をこそ賞賛すべきだろう。それ以外は忘れろ、とコウはレポートを締めくくった。
 ザクレロはもっとひどい。一年戦争の時トライアルに負けたはずが、なぜか大量に部品が残っていたのだ。一度ホワイトベース隊と交戦したという未確認の情報があるきりで如何とも評価のしようがない。乗ってみた結果、確かに出力・武装は一年戦争時のものとしては優秀で、奇怪な外見にあわず取り回しも楽だった。その分かなり無理のある設計で、旅客用スペースの増設など思いもよらない事だったし、無理に改造すると安全性に重大な欠陥が発生するとよそうされます。ていうかなににつかうつもりだったんですか。しかもこりずにつかいつづけようとするひとがじおにっくではたらいているなんて、じおんがまけたのもとうぜんだとおもいました まる 気がついたらハンディパッドに打ち込んでいた。疲れているらしい。

 

 以前と同じバーの個室。前回口に出した新型兵器について、ガトーに相談にのってもらうことになっていた。兵器といっても民需転用を視野に入れたもので、現在ジオン共和国工兵大隊の指揮官として腕を振るうガトーは格好の相談相手だった。
 工兵、というと地味な裏方を想像する人も多く、それも一面の事実ではある。確かに実戦に参加する機会はない。しかし、歩兵が行軍するにしてもまず道路を作り地雷を撤去しなければならない。対陣するにあたっては塹壕やトーチカを建設する必要がある。実戦部隊に先立って最前線に赴かなければならないという点では、寧ろ最も危険な兵科であるのだ。また、異なった職能を持つ集団を効率的に組み合わせ、運用しなければならない。指揮官に要求される資質も並大抵の物ではない。中世紀における名将ダグラス・マッカーサーも工兵出身であるぐらいだ。宇宙世紀においてもこの事は変わらない。艦隊行動・モビルスーツ移動の前には機雷とスペースデブリを除去する必要があるし、小惑星を用いた要塞設置もある。更に、サイド3復興において工兵に期待される役割は絶大である。リーダーシップと旧ジオン国民からの人気を兼ね備えたガトーが指揮官に任命されるのも当然の事だ。

 

「確かに革新的な技術であるとはいえるが、実用性が無いな。アステロイドベルト辺りでは喜ばれるかも知れんが」
「クワトロ大尉……いや、シャアはお前にも接触したんだろ? 敵がBプランを実行するつもりだとすると、これしかない」
「司令部に一応報告はしておいたが、『それらしい動きはなかった』と言われた。出来る範囲で備えはしてみたが。あれだけ大掛かりなことをして、今の今まで情報が漏れてないとは考えにくい」
「経験者は語る、か」
「そういうことだ」

 

 その時、ガトーの携帯通話機(軍人にのみ支給される特殊な携帯電話)がけたたましく鳴った。顔つきが一瞬で『ソロモンの悪夢』のものとなる。非常事態が発生した事を告げる音色だったのだ。

 

「何だと!……そうか、すぐ行く」
「どうした?」
「……第2警備艦隊が音信を途絶した。共和国の全将兵に非常召集がかかっている。お前も準備しておいた方がいい」
「やはり、Bプランか」
「糞!一体どうやって擬装できたというのだ!」

 

 窓の外に眼を遣る。まだ静かだ。闇と静けさに隠れて、行軍する歩兵。そこかしこで瞬く非常警報。そして、ポートへと向かう武装したモビルスーツ。

 

 戦闘状態が始まったのだ。

 
 

「君には、私の取って置きを、くれてやる」

 
 

 コウはぼんやりと、シャアの言葉を思い出していた。

 
 

   ―13th scene―

 

『……全人類の半数以上を死に至らしめ、現在の混乱を招いた責任を直視しないジオン国民に告げる。
 我々はサートゥルヌス。ジャブローに眠る英霊の志を受け継ぐ者である。日和見主義者に占拠された傀儡政権を打倒し、真の地球連邦を樹立すべく立ち上がった。虐げられしアースノイドの権利と自尊心を回復することこそが、生き残った全人類に課せられた義務である。これを理解せぬ愚かなるジオン国民の粛清を開戦の烽火とする。今なおニュータイプ・人の革新といったイデオロギーを奉じ、ザビ家・マツナガ家・ラル家などの貴族を崇め、戦争犯罪者への祭祀を絶やさない愚かさの報いを受けよ…』

 

 突然、かつてエギーユ・デラーズがやったように全てのTVチャンネルがジャックされ、スイッチがつけられていたモニターから低い機械音声で犯行声明が放映された。予想外な電波ジャック・あまりにも唐突な内容・何を企んでいるか分からない不気味さ以上に視聴者を震え上がらせたのは、画面いっぱいの静止画像であった。
 コウの顔色が青くなり、ガトーですら眼を背けている。女性客が嘔吐する音が複数聞こえる。

 

「ご覧になってはなりません。ミネバ様」

 

 店奥のVIPルーム(狭い部屋が一つあるきりだが)の扉が開き、髭面の大柄な男が出てきた。脇にはやっと彼の腰に頭が届く、といった背格好の少女を連れている。少女はジオン共和国軍総司令官ミネバ・ラオ・ザビ。そして男は、その副官、つまり共和国軍の実質的な支配者であるシン・マツナガである。

 

「マツナガ閣下!」

 

 ガトーが慌てて敬礼し、それにつられてコウも民間人でありながら敬礼する。それ程ミネバとマツナガには
威厳があった。

 

「堅苦しいことは抜きだ。貴官とは同輩であるし、非常事態だ。全く、ミネバ様に兵士の生活を見せて差し上げようとしていた所に、無粋なことをするものだ」

 

 鷹揚に答礼しつつ、マツナガが応える。
 ジオン共和国軍の再建に当たり、国民の敵愾心を和らげる意味で連邦政府はミネバを軍の形式上のトップに据えた。独立戦争に反対だったドズル・ザビの一粒種という理由で、連邦内部からも反対の声は少なかった。マツナガが副官に据えられたのも同様の事情からで、ドズルの腹心でありつつも早い段階からエゥーゴに参加していた経歴、確かな実力、それに名門マツナガ家の当主であるという文句の付けようの無い登用であった。
 ちら、と店の天井隅から吊るされたモニターに目を遣る。

 

 「Saturnus。土星(Saturn)の語源でもある。しかしこの場合は、ゴヤの『わが子を食うサトゥルヌス』をイコンとして使用していることから、土星と共に強く連想されるものがある。あの絵画で描かれているのはサトゥルヌスと同一視されているギリシャ神話の神、クロノスだ。息子に殺されると予言を受け次々に自分の子供を腹に収めたが、結局は息子ゼウスに倒された。自らが創造した物を破壊する農業神。なおクロノスを初めとするゼウス以前の神々を『巨神』と呼ぶ。我々に馴染みのある呼び方では」

 

 突然大学教授のような口調で話し出したかと思えば、ここまで言って辺りを睥睨し、

 

「ティターンズだ」

 

 と締めくくった。

 

「ティターンズの残党を名乗る者達が、反体制分子を糾合しているのは周知の事実です。しかしこうも大掛かりな事をやってのけるとは予想外でした」

 

 ガトーが応える。彼のほうには知性と諧謔に満ちた会話を楽しむ気はない。

 

「報告は読んだ。情報源は信頼できそうだったが、本当にあのようなことを……」

 

 マツナガの答えを聞いた後、コウの方に向き直る。

 

「奴らの目的は混乱そのものだ。アースノイドへの憎悪を煽っている。こいつを持ってけ」

 

 そう言って護身用のビーム銃を渡す。

 

「すまん。では早く合流する」

 

 駆け出した。

 

「トリエを傷つけさせるんじゃないよ! リリー・マルレーンで待ってるから!」

 

 ミネバの護衛に就いていたらしいシーマの声が背中を蹴る。外は、もう明るい。

 
 

   <interlude>

 

 ―あなたたちの想いはとても強かった。だけど、それはただ一人の人へ向けられた想い―
 ―だから、エゥーゴのみんなへの想いに、勝てなかった―
 本当に?
 あの娘―ノーマ・レギオの乗ったインペラトールをブレード・ルミナリウムで切り裂いたとき、私は彼女に
そう告げた。けどそれが正しかったのか、今では分からない。
 ずっと気がついていなかった。私の中にはぽっかりと空いた部分がある。ウラキさんが仕事で帰らない夜、一人で眠っていると、初めてなのに懐かしいような心細さで胸を締め付けられた。あの日、研究所の人にカプセルから出されウラキさんと出会った日から今まで、そこをあたたかいものが埋めていた事に気がついた。
 淋しい事に気がついていなかった。気がついてからは、もう無視できない。
 ウラキさんと暮らすようになって、私は弱くなった。きっと私の姉妹達も、ギレン総帥をお父様と呼ぶ事で、淋しさを埋めていたんだろう。私は、それを理解して上げられなかった。でも今なら分かる。だからあの娘たちは戦えたのだと。
 その夜、ウラキさんが脱いで放って置いたままのワイシャツに袖を通してみた。汗と機械油の匂い。それで私は少しだけ安心して、眠る事が出来た。その晩からずっと、夜は洗濯機にウラキさんが放り込んだワイシャツを下着の上につけて眠っている。勝手に彼のものに触ったら悪い気がするから、朝は必ず早く目を覚ましてシャツを洗濯機に戻し、またベッドに戻っている。

 

 ―今夜は、いつ戻ってくれるんだろう―

 

   </interlude>

 
 

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