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◆BiueBUQBNg氏_GジェネDS Appendix・序_06

Last-modified: 2014-03-10 (月) 16:16:27
 

 /20th scene

 

「それにしてもマツナガ閣下、意外と冷静そうだったな」

 

 更衣室でさっき着替えたばかりのジオン共和国士官制服からノーマルスーツに着替えながら、コウはガトーに言った。

 

「そうでもないぞ。いつもならば、何故目標を”マハー・カーラー”と名付けたかについて、さっきの店でやったように5分ほど薀蓄を垂れていた所だ。よっぽどの事が無い限り、閣下は衒学的な話をする機会を逃さない」

 

 答えるガトーも、同様に着替えている。彼の指揮する工兵大隊に属するモビルスーツには現在急ピッチで戦闘装備への転換作業が行われている。コウも小隊長として参加することになった、ジョニー・ライデン中佐率いるマハー・カーラーへの偵察部隊が発艦した後、準備のできた機体から逐次発進し、リリー・マルレーンの護衛につくことになっている。

 

「だいぶ影響されているらしいな、ガトー。『衒学的』なんて言葉、普通は使わないぞ。…所でどういう意味だ?」
「知識をひけらかすような、という意味だ。以前閣下と一杯やったとき、よく奥方からそういわれると零されていたが、私もその時はどういう意味か分からなかったので、後で調べた」

 

 マツナガ家はジオンでも高名な文武両道の家系である。サイド3に移民した彼の祖父は優秀なコロニー技術者であり、なおかつ連邦空軍に関を置く軍人でもあった。彼の父は法学に志し、ズム大学法学部で学ぶ傍らROTC(奨学金と引き換えに士官教育を受け、有事には将校として徴兵される課程)を受けた。ジオン軍の前身であるサイド3防衛軍で法務士官として勤務し、ジオン軍の気風である秋霜烈日たる規律正しさの確立に一役買ったとされる。彼自身化学と史学を専攻し、大学院で宗教史を研究していた身である。なお、当時彼が執筆した論文には、ジオン・ズム・ダイクンのイデオロギー性を批判する箇所が数多く見受けられる。
あくまでも保守的で地道な思想の持ち主であるが、サイド3と地球連邦との関係が怪しくなるや兵卒として志願入隊した。
その後の活躍と累進、そしてエゥーゴへの転身はまた別の話だ。

 

 彼はあくまでも冷静沈着を以って旨としていたので、どのような危機的極まりない状況も、100年前に起きた軽い火災であるかのように話すことが出来た。とはいえ深層心理までは、支配し切れなかったのだが。

 

「現在サイド3近辺の空域に存在する連邦軍は、スクリーンを見れば分かるとおり警備程度の貧弱なもので、あのような対象と戦うことなど不可能だ。連邦軍の他、ロンド・ベルやプリベンターにも救援を要請したが、凍結状態にある。モビルスーツの復帰、休暇中のパイロットの招集など準備すべき事柄が多く、どんなに急いでも我々と合流するまでに3日はかかるそうだ」

 

 うめき声がいくつも漏れた。十分な兵力でマハー・カーラーに攻撃をかけられるのはわずかに2日間のみで、そのデッド・リミットを越せばサイド3は破滅する。その上、それまでの三日間は、決して十分とはいえないジオン共和国軍の兵力のみで相対しなければならないのだ。その間に何が起こるか分かったものではない。
 マツナガは唐突にコウを手の平で指し示し、いった。

 

「そこで、だ。紹介しよう。貴官らの中には既に知っている面々も多いかと思うが、コウ・ウラキ大尉だ。
 連邦軍とロンド・ベルでの経歴を考慮し、現地任官で大尉の階級を与える事になった。モビルスーツ隊小隊長を務めてもらうことになる。いいな」

 

 ハイッ、と久しぶりに軍人らしい声を出し、コウは敬礼した。その途端室内にざわめきが戻った。あまりいい雰囲気ではない。一同を代表するように、リリー・マルレーン艦長デトローフ・コッセルが起立して発言する。

 

「連邦だった野郎と戦えるか! 地球の重力に魂を引かれて俺たちの戦友を殺した奴なんかと!」

 

 棒暗記したジオン・ダイクンの用語(彼自身は言われるほど多用した訳ではないのだが)を使って司令官に反抗する。マツナガの顔色が変わったが、ガトーがやんわりとそれを制するような仕草をして、鋭角的な口調でコッセルの発言を中断させる。

 

「連邦だったから、だ。百式はアナハイム、つまり連邦の機体だ。貴官らの中に動かせる者はおるまい。今は一機でも戦えるモビルスーツが惜しい。隠忍自重してもらいたい」

 

 そして、実力でも認めさせないといけないな。コウは、久しぶりに血が熱くなっていた。

 
 

 /21th scene

 

 どうやらマハー・カーラーを目覚めさせてしまったようだ。コウは幽かにそんなことを思った。第二警備艦隊が送った画像ではその名の通り完全な暗黒であったのが、そこかしこに明かりがついている。人が乗っているらしい。
また、人を殺すことになるのか。だがそんな振り切れない甘さも、全方位スクリーンの左下に映し出された映像を見て吹っ飛んだ。
 Iフィールドの存在を示す鮮紅色のポインタである。搭乗機の左側面を守っているのは本当にワイズマン機なのか?
そうであるはずがない。だが。ザク兇箸曚榮韻舷Г謀描されたギラ・ドーガよりもやや黄緑がかかった影が後方へと退避行動をとっている。ザク群。まださほど近づいているわけではないが、誰だってそうするはずだ。コウも愛読している『月刊ミリタリージャイアンツ』の3ヶ月前の号の表紙をバーナード・ワイズマン准尉の名前が麗々しく飾っていた。新型プロペラント・タンクの搭載、スラスターの改良、思い切った新型砲への換装などといった比較的地味な改良の積み重ねにより、愛機の主砲であるメガ粒子砲の威力を4倍近く―ダブルゼータガンダムのハイメガキャノンに匹敵する―にまで引き上げたという巻頭記事に、ウラキは感銘を受けていた。近距離からではないとはいえ、それが通用しないほどの強力なIフィールドなど、想像もつかない。
 俺たちは、一体何と戦っているんだ。瞬間、驚愕に体の自由を奪われた。百式改の前進は止まらない。マハー・カーラーまで、あと3.02宇宙キロ。

 

「小隊長!」

 

 僚機のギラ・ドーガから泡を食ったような無線が入る。はっと気がつき、眼前に迫ったマハー・カーラーの大きさに恐怖する。が、2度続けて我を失うほどの新米でもない。

 

「実体弾による攻撃を試みる! 各機、ワレと並び各々の判断によって攻撃せよ」

 

 逆噴射で減速しつつ絶叫した。上と右とでギラ・ドーガ2機がほぼ同時にシュツルム・ファウストを発射するのが見える。
この距離でもあの大きさなら、外しようがない。コウも、本来ならば格闘戦用の武装である炸裂ボルトを百式の肩から引き毟って投擲する。両肩に一つづつ装備されているものだ。両方とも、投げつけた。シュツルム・ファウストを使い果たした僚きはグレネード・ランチャーを乱射している。
 どうだ?凝視した。この距離だと実体弾に対する対空砲火も多少は効果がある。閃光、それに続くおびただしい煙。
煙が薄くなったとき、コックピットの中に歓声が反響した。クレーター、それも15個ほどの。マハー・カーラーに向けて放った実体弾の、半分以上が命中した事になる。とはいえこの程度ではかすり傷を付けたことにすらならない。だが、この場で一人、コウだけが確信の光明に包まれている。
 不意に、右側遠く、マハー・カーラーの地平線近くで黄色い光線が幾条も自転車のスポークのように延びるのが見えた。撤退信号だ。

 

「敵モビルスーツの接近を確認!各小隊、応戦しつつ帰投せよ!」

 

 戦闘濃度のミノフスキー粒子すら物ともしない強力な電波で中隊長の指令が下された。もはや、通信封鎖に意味は無い。
 各機体が一旦マハー・カーラーに背を向け、最大戦速へと加速する。それから再び向きを変える。撤退運動だ。
 敵の機体群を光学カメラがキャッチする。見た瞬間、コウは苦笑してしまった。こんな状況だが、絶好のシャッターチャンスじゃないか。
 マハー・カーラーの表面に多数穿たれているらしいモビルスーツ発射口から同時に30機ほどの機体が同時に射出される。ビルゴ供▲璽・ツヴァイ、サーペント、メッサーラ。敵さんも、数をそろえるのに苦労してらしいな。

 
 

 /22th scene

 

 帰還はさほど困難なものではなかった。どうしても逆噴射では出力が不足するので母艦の方を向いて再加速する必要がある。それに多少手間取った位で、一機たりとも欠ける事無くリリー・マルレーンへの着艦を果たした。
それ程追撃する敵の技量は未熟で、かつ粘りも足りなかった。帰途の三分の一も消化しないうちに、向こうの方でも引き返したのだ。推進剤が足りないらしい。ただ一つ、コウだけではなく出撃したほぼ全員が抱いた感覚として、敵機のパイロットがそろいも揃って未熟だったという事がある。その上全機が同一のクセを持ち、なおかつ、戦闘時間が長引くほどに技量がわずかづつ上昇するという不可解極まりない動作をしていた。学習性のAIを搭載したモビルドールなのではないか、との声も聞かれたが、実際にモビルドールと交戦したこともあるベテランパイロットによってその説は打ち消された。間違いなく人間による操縦だというのだ。
 第2警備艦隊が一機一艦残らず壊滅したのは、マハー・カーラー近辺における濃密な対空砲火との相乗効果と、未知の強力なビーム砲―発射回数が限られていて、偵察中隊程度にまで使用すべきではないと判断されたのであろう―によるものだと結論付けられた。
 が、これらの結論が出たのは、コウ達が帰還してから少し時間がたってからの話である。

 

 着艦して百式から降りてすぐブリッジに上がり、休養のシフトに入っていたガトーに、息も絶え絶えに声をかける。

 

「……喜べ、ガトー……”スタークラッカー”で倒せるぞ……。3日後に来る援軍に任せよう……俺は、もう、疲れた……。ところで、寝室どこだっけ……?」
「エレベーターで第四甲板まで降りてすぐ左に行った突き当りだ」

 

 返事もせずコウはエレベーターへと直行する。

 

「「おい待て(ちな)!」」

 

 ガトーとシーマの声が重なる。これは、『星の屑』作戦から彼らと転戦して来たブリッジ管理役の下士官にすら、異例中の異例といっていい事態であり、彼はその日、何度もその話をせがまれる事となる。それ程ガトーとシーマはお互い噛み合わない仲だった。が、コウの行動はそれ以上に異例なものであったといっていい。

 

 近づいてきたトリエを無視して通り過ぎたのだ。

 

 コウの姿がエレベーターへと無言のまま消える。
 トリエは、じっとその場に立ち尽くしたまま、床を見つめている。

 

「ホントに駄目な奴だね! 後で叱ってやりな。アタシも手伝ってやるから」

 

 シーマが元気付けようと肩を叩いて言う。それでもトリエは、雷にでも打たれたように固まっていた。

 

 コウとしても悪気があったわけではない。普通の状態であったら、あのような状態のトリエを見たら何事かと慌てふためいていただろう。ただひたすら疲れていて、寝台以外の何者も脳内に介在させる余地はなかったのだ。

 

(起きたら全て解決しているだろう。そしたら休みをとって、トリエと地球に遊びに行きたいな……)

 

 眠りに落ちる直前、トリエの気も知らず暢気にもそう思った。

 
 

 コウ・ウラキの人生最悪の一日はこうして終わった。思ったよりも短い眠りから覚まされたとき、彼の人生で最も長い一日が幕を開ける。

 
 

 <interlude>

 

「ホ、ホラ!あいつは今日一日ずっと戦い通しだったから、すごく疲れてたんだよ!そ、それで…だからそんな顔おしでないよ!」
「そそその通りだ、少女よよよ!ここ毎日ずっと疲れる仕事の連続だったそうだしだったそうで、その上にカーチェイスだの更にて偵察行動だのの、普通だったら、あ〜〜そうそう気が狂ってもおかしくはないぞ。
 そう、おかしくなってるんだ!頭が変なんだ!後で黄色い救急車を!いや精神科医を呼ぼう!!」 
「ガトー!何やってるんだい、マジックで顔に手術跡の縫い目みたいなの書いて!?」

 

(お二人が、心を一つにしていらっしゃる……)
 ベテラン下士官は感涙に咽んでいた。だがそんなことはどうでもいい。

 

 ……嬉しかった。淋しくて淋しくて堪らなかったところに、いきなり私を迎えにきてくれて。
 お伽噺に出てくる白馬の王子様ってああなのかって。あんなに強く、私を引っ張ってくれて……
 けどあの金色のモビルスーツを動かさせたら、すぐにいっちゃった。一緒に乗れて、嬉しかったけど……
 みんなを守るための大切な戦い、なのかな。ずっと心配してたんだよ。なのに、無視なんて……
 私はウラキさんがいないと、さみしくて死んでしまいそうになる。
 だけど、ウラキさんにとって、わたしはいったいなんなのだろう……
 どうでもいいのかな?わたしをむかえにきてくれたのも、モビルスーツをうごかすためだけなのかな?
 わたしもあの娘達(レギオン)と同じでただの道具、だったのかな……?
 ウラキさんと出会わず、あのまま研究所に戻っても、今とおなじだったのかな?
 それでも、わたしは……

 

 涙が一滴だけ床に落ちる。駄目中年2人組が駄目さを加速させる。コウの予想余命が物凄い勢いで縮む。

 

 </interlude>

 
 

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