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◆BiueBUQBNg氏_GジェネDS Appendix・序_09

Last-modified: 2014-03-10 (月) 16:14:59
 

 /30th scene

 

 出撃の時間が来た。
 リリー・マルレーンの食堂に集合したパイロット達に対し、マツナガが行った激励は簡潔なものであった。

 

「現在まで分かっている範囲のことを伝える。マハー・カーラーは旧名を『ヴァイクンタ』といい、かつてはアクシズ等と共に我々ジオン公国がアステロイドベルトに占有していた小惑星である。ただし、ティターンズの残党でアステロイド・ベルトにおいてそれだけの行動を起こせるだけの権力を有する勢力は、今もって確認されていない。
 つまり、敵の正体は全くの不明である。だがサイド3そのものを滅ぼそうとする意思は明瞭だ。各員の奮励努力を期待する」

 

 コウとトリエも連れ立って格納庫へと歩いていったが、トリエの表情からは、ややコウに対する不信感が拭い切れていない様子が覗える。

 

(……私がウラキさんを守らないと皆が死ぬ、だから今は戦う。でもその後は……)

 

 流石に何ヶ月も同居していただけあってトリエの表情を敏感に読み取れるコウは、何とかして機嫌を直そうとして数少ない女性経験を、訓示も聞かずに一時間ほど振り絞っていた。そして、互いに百式・トライアと別々の道を進みかかった時、意を決したかのように立ち止まり、トリエの方に歩み寄ると

 

「勝利を手に入れたら、二人で……」

 

とささやいた。すぐにトリエの表情には気分を良くしたかのように、険が取れ、淡い笑顔のようなものが浮かんだ。
コウが何と言ったのか誰もが知りたがったが、その謎が解明されることは、ついに無かった。

 

 二機は連れ立って、用意された狙撃ポイントへと向かった。
 トーチカとはいっても、万が一敵機が来襲した場合に応戦することを考え、中世紀の第二次世界大戦までに存在した戦艦に設置された司令塔や要塞のような、密閉された空間に銃眼のみが開けられたものではない。平に整地されている。その中心でウラキの百式改は腹ばいになり、既に地球から見た月の倍ぐらいの大きさに視認されるマハー・カーラーの中心に照準を合わせる。トライアはその前に立つ。
 トリエはトライアに騎乗した場合に限り、マシンのサポートを受けて限定的にではあるが発話が可能となる。

 

(……何か、言っておかなきゃいけないかな)

 

 コウはなおも、トリエの感情を害してしまったことを気に病んでいた。先程の誘いでやや機嫌を直したかのように見えたが、彼は小心者であった。

 

「もしかしたら、僕たち、これで死ぬかもしれないね」

 

 何てことを言ってしまったんだ。口に出した瞬間、そう思った。
 だがそれが、彼の偽らざる本音であった。

 

「……ダイ、ジョブ……ウラキ、サ……シナナ……イ……ワタシ……マ、モル……」

 

 何てことを言わせてしまったんだ。返事を聞いた途端、そう思った。
 彼女も本音をいってるのか?少し疑ったが、だがそれを確認するためにも、二人揃って生き残らなければ、ならない。そう思うと、自然と次の台詞が口から滑り出した。そう、男ならば、こういわなければならない。

 

「ありがとう、トリエ。僕もトリエを守るよ。その後は……」
「……ン……」

 

 その後。それを思い,コウの気分はかなり浮き立った。全く、半分愛を告白したようなものじゃないか。だがその前に。
 彼は改めて眼前の、極わずかずつではあるが拡大しつつある闇を睨みつけた。アレをぶっ壊した先に、俺たちの明日がある。

 
 

 /31th scene

 

 その睨みつけられているマハー・カーラーことチャトゥルブジャにおいて、2機の異形のモビルスーツが発進しようとしていた。一機は本体を越えるほど大きい三角形のバックパックを背負った黒を基調とし、所々に赤が配色されたガンダムタイプらしき機体。もう一機は、手足を臙脂色、体幹部を黒に塗られ、胸部に左右一つずつ設置された緑色の放熱パネルが悪魔の眼のようにも見える、同じくガンダムタイプらしい機体。

 

「行くのかね。少し、早過ぎるような気もするが」

 

 仮面の男が乗り込もうとする二人のパイロットに問いかける。

 

「偵察ですよ、あくまでも」
「敵は一度武装解除されたとはいえ、ジオンであることには変わりありません。いかなる備えをしているか、分かったものではありませんからね」
「では戦果を期待しているぞ。何だったら、守備隊を壊滅させても構わん」
「「では」」
(それに、こんな悪趣味な場所には長く居たくないからね、兄さん)
(全くだ、オルバよ)

 

 二人を特殊たらしめている能力―とはいえ特殊なのはそれのみで、その結果軍から受けた待遇が彼らをここに導いた―二人の間だけで通じるテレパシーで、彼らは話した。と同時に、全く同じものを、彼らは思い出していた。
 縛り付けられた華奢な肢体。薄くブルーに輝く髪。バイザーに隠された表情。

 

 トーチカの周囲は、ジョニー・ライデン率いる公国軍以来の伝統ある精鋭キマイラ隊とガトー率いる工兵隊によって護衛されている。さらにシーマ率いる海兵隊が、攻撃終了後マハー・カーラーに上陸し、コントロールを奪取して軌道を変更するために独立して対象に接近する軌道をとっている。
 工兵隊によって狙撃の最終準備が行われた。百式改がホールドしている、機体より長いのではないのかと思われるバスター砲に外部電源が接続された。電源はトーチカである小惑星の内部まで伸びている。更に小惑星からは、黒く塗られているため視認はほぼ不可能だがケーブルが何本も外のいくつもの小惑星まで伸びている。伸びた先の小惑星から、また有線・無線を問わず多くの小惑星や戦艦、コロニーなどに電源がリレーされている。現在サイド3に設置されているリアクターの実に67%が、コウの制御下にあるたった一本のビームライフルへと接続されている計算になる。
 連邦によって何ヶ月もかけて作られた設備である。サイド3がアクシズ等の外部勢力と呼応して蜂起した場合、連邦軍は早急に発電所を差し押さえてエネルギーを他にいくつかあるこのようなトーチカに流し込む算段になっていた。それが不可能な場合には艦隊を横付けしてエネルギーを供給する。そして大出力ビーム砲を持ち込み、来るであろう援軍を打ち砕く。
 今回はサイド3の守りということになるが、運用としては全く想定されたとおりだな。作戦計画書に3度目の確認の目を走らせながら、マツナガは考えた。同様のものに、彼の父祖の国で有名な熊本城がある。古世紀において例外的な程の安定と文化的発展を見せ、崩壊後の経済的・軍事的躍進を準備する結果となったエド・エラ初期に建てられた要塞である。
一度はニホン南西の(小さな国であるニホンの基準からすると)巨大な島を征服するも、ほぼ同時期に成り上がって全土を支配した鼠(政敵はおろか、主君からもそう呼ばれていた)によってその島の南端に押し込められ、鼠の死後も在世中から第二の実力者として名高かった狸(後世のイメージではあるが)に反逆したシマヅ氏族を押さえつけるという理由で、鼠に可愛がられた武将が心血を注いで作り上げた。約250年後狸の子孫は、弾の一発も撃たずにシマヅの家臣、サイゴーに居城を明け渡す。だがそれから10年後サイゴーは叛乱し、シマヅの故地より北上を開始する。その際に新政府の要塞として熊本城は極めて有効に機能した。
 フム。マツナガは幽かに唇の端を上げた。この教訓は、いい話のタネになる。だがそれもこれも。リリー・マルレーンのブリッジからもマハー・カーラーははっきりと肉眼で確認できるようになっていた。

 
 

 /31th scene

 

 真空の宇宙空間を通じて、緊張感がコックピットへと入り込んできている。実戦ではなく、手術室のような雰囲気だ。

 

「エネルギー充填率87%」
「試算によるとバスター砲の発射可能回数は2回か、多くて3回。外すんじゃねえぞ」
「ムラサメ、レイモンド、それぞれ担当ビットの配置終了。対空砲火確認されず。いつでもいけます」

 

 次々と、準備が上手くいっていることを告げる報告が入ってくる。コウは改めて前方を注視した。マハー・カーラーは、もう既に人の手が入っていることを示す、人工物の光が見える程度にまで接近している。視線を手前に戻す。トライア。センチュリオ・シリーズと比べて色が全体に灰色がかっていて地味だが、天使のような輪と羽、それに似合わぬ悪魔の長く伸びた爪を思わせる方錐形の指に、ここからでは見えないが禍々しげな表情を思い浮かべる。

 

(……トリエと似合うのか似合わないのか)

 

 ただ戦うためだけに作られたマシンチャイルドであっても、少なくともディー・トリエルというコウが良く知っている個体に関してのみ言えば、どこにでもいるような普通の少女だと彼は確信していた。だが、彼女の姉妹達であるレギオンとセンチュリオは極めてマッチしていた。

 

(つまり、トリエは何なのかってことだよな…こんなこと考えるのはやめよう)
「エネルギー充填、まもなく完了。終了の合図が出次第、発射せよ」
「了解」

 

 改めてバスター砲のホールディングが万全であることを確認し、照準に眼をやる。充電の完了まであと5秒、3秒。

 

 充電終了のサインと共に、機械的に引き金を引いた。レーザー砲は光速で直進する。即座に、マハー・カーラーがその名(サンスクリットで「大いなる闇」という意味)と正反対の存在へと変貌するのが見えた。バスター砲と釣り合うだけのIフィールドを展開し、それぞれが干渉しあって純銀の眩い楕円形を形作る。太陽の次に明るい。実弾攻撃がどうなったかまでは分からない。光が消える、どうだ?

 

 思うまもなく、視界が一回転した。体の左側面が叩きつけられる。

 

 一瞬、意識を失った。眼を開ける。トライアがトーチカに留まったまま、バスター砲を守りつつ戦っているのが見える。
俺はどこにいる。突然、右側面から攻撃を受け、左側の小惑星に叩きつけられたらしい。動くか。チェックパネルを拡大した、百式の右足が吹っ飛び、左腕が小惑星に潰されている。スラスターが潰され、動けない。
 赤紫色と青紫色の影が、トライアの周りを飛び回っていた。アレが攻撃したらしい。赤紫色の機体の胸が開く。即座に大出力のビーム砲が発射される。瞬間、トーチカもバスター砲も攻撃に曝されるが、レルム・Dによって即座に中和され、復旧していくのが見える。ランチャー・ジェミナスを咄嗟に赤紫の機体に向け、撃ちまくる。敵も相当の使い手らしく、当たらない。直ぐに向きを変え、視界から消える。後方から青紫色の機体が襲い掛かり、背中の巨大なバックパックから二つの大きなハサミを出しつつ、ビームサーベルで切りかかる。しかし、振り向きつつブレード・ルミナリウムを展開し、右下から摺り上げる。リーチはトライアの方が長い。察知した青紫は即座に逆噴射を行うが、ブレード・ルミナリウムがかする。
 本当に、人類抹殺の破壊天使の一人なんだな。中破した百式を動かそうともがきつつ、コウはかすかにそんなことを考えた。その一瞬の隙の合間。
 赤紫の機体が、接近してきている。この距離なら。アーマーに付属しているメガ粒子砲を連射した。命中はしなかったが、右下へとよけ、視界からは消えた。このスキに。そう思った途端、腕が伸びた。前方スクリーンを左上へと横断するのが見える。衝撃。左肩を撃たれ、炸裂ボルトが誘爆した。一旦離れたかと思うと、ビームサーベルを構え、やってきた。
 やられる。確信した。

 
 

 /32th scene

 

 だがその刹那、天使が翼を広げた。
 トライアに備わった最強の武器、フィールド・インペリウム。トライアの4枚の羽根が体を離れ、4方へと離れ離れになり進む。トーチカから離脱して、さらに広がったと見るや、その全てから虹色の光が放出される。やはり優秀なパイロットであるらしく、赤紫の機体は慌てて向きを変え、逃亡する。月光蝶ならこっちも危険だ。しかし動けない。だが虹色のカーテンは鼻先をかすったのみで、百式には影響を与えない。

 

(体の一部、なんてものじゃないな。あれじゃ本当に……)

 

 青紫の影がトライアの背後―こちらからは左側からに見える―に接近するのが見えた。心配しなくても、直ぐにナノマシンによって分解されるだろう。

 

 しかし、七色の嵐が治まった時、青紫の機体はトライアを羽交い絞めにしていた。
 背後に背負っていた巨大なバックパックは消失している。アレを被って突進していたお陰で助かったのか?そう思うや否や、赤紫のモビルスーツが飛びつき、構えたままのビームサーベルで即座に四肢を切断した。

 

「嬲り殺しにする積もりか!?糞ッ!!動け!動いてくれ!!!」

 

 だが無情にも、モニターには大きく"ENERGY NOT ENOUGH"と赤く表示されていた。
 コックピットを突き刺そうと、青紫の機体に損害を与えないよう出力を弱めたサーベルを構えなおす。

 

 ―何とも不可解なことに、一瞬両機の動作が止まったかと思うと、トライアを開放して去っていってしまった―

 

 だがそれを不思議がる余裕はない。マハー・カーラーはどうなっている?拡大する。見える範囲の30%が赤く燃えていた。やったか?

 

 次の瞬間、バスター砲に匹敵するほどのレーザー砲がトライアを直撃した。その瞬間、コウはトリエが初めて、片言ではない流暢な言葉を話すのを聞いた。

 
 

 「さよなら」

 
 

 <interlude>

 

 『オマエはワタシ、ワタシはオマエ、昔、ワタシタチだったモノ』
 『そう、あなたは私、私はあなた。昔、あなた達だったモノ』
 『ナゼ、オマエガ?』
 『……?……』
 『ワタシモ「ふてきかく」トイワレ、ステラレタ。ナニモナイ。ナニモ』
 『……!……!』

 

 「ゴ……メン……サ……ワタ……ダ……ケ……シアワ……ゴメ……」

 

 トリエが泣きながら途切れ途切れに発する声がコックピットに響く。
 コウの中で、何かが切れた。

 

 </interlude>

 
 

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