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アウル=ニーダ編

Last-modified: 2016-07-23 (土) 18:09:25

 スティングが開放したシャッターから体を飛び出させると、アウルはステラと
軌跡を交差させて銃撃をかわし、格納庫内に飛び込んだ。二人を狙った銃弾
は虚しく空を裂き、床に弾痕をうがつ。

 

「いっっっく!! ぞおーーーーー!!」

 

 絶叫。脳の中で数種類の伝達物質が異常分泌され、アウルは頭の中に束縛
されていた自意識が肉体全体を取り囲み、それどころか肉体の縛りをすり抜けて
いくのを感じた。自分の肉体を外から観察できるような――解放感。

 
 

 気持ち――――良い!!

 
 

 アウルは血管の中を流れて行く熱い血潮の一滴ずつを知覚しながら、全身の
筋肉を躍動させた。小柄ながらも鍛えられた肉体が、格納庫に据えられた機材の
影と射撃の死角とを縫うように、滑るように、一秒たりとも止まることなく疾走し、
ついに銃を構えた警備員たちの間に自分の体を飛び込ませた。ぴたっと、静止する。

 

――ボクに見られた不運を呪え、間合いに入れた迂闊を恥じろ――お前たちの天国で。

 

 その一瞬の停止の内に、警備員たち全ての位置関係を把握したアウルは、彼らの
死角から死角へ体を回転させつつ滑り込ませ、至近の距離から銃撃を放った。
警備員たちは恐怖する、手を伸ばせば捕まえられそうな距離にいる少年が、まるで
実体を持たないかのように視界から消える、捕捉できない。同士打ちを恐れて
発砲に躊躇する彼らを、ありえない角度から銃弾が襲った。

 

 撃つ、撃つ、撃つ。ことアウル=ニーダにとってだけは、射撃に構え等必要なく、
戦闘に型など要らなかった。両手の短機関銃は独自に目を持ったかのごとく狙いを
つけて、人体の急所めがけて正確に弾丸を吐き出した。弾切れをわが身の事の
ように知覚すると、呼吸するのと同じ自然さで弾倉を交換した。その間実に1秒
未満、息をするのに時間をかける生き物などいない。殆ど途切れることなく射撃を
続け、最後の弾倉が空になる頃、ようやく抵抗する気配が止んだ。

 

 戦闘の動きをしながら目標に近づき続けたアウルが、一番乗りだったようだ。
アウルは目の前に鎮座する目標、鋼鉄製の巨人――モビルスーツを見上げた。人間
で言えば肩に当たる部分に、十数メートルの巨体全体を覆えるぐらいのアーマーが
装備された独特なフォルムの機体だ。未だ一般にその存在すら公開されていないが、
関係者の間ではセカンドシリーズと呼ばれている最新鋭の機体の一つだった。

 
 

 長々と続いた、だが実際には十分にも満たなかったであろう戦闘状況の連続は、
アウルを疲弊させるどころか精神を絶好の状態にまで押し上げていた。灰色の装甲
を露にする鉄の巨人に近づく。

 

――――――ボクの物にしてやる。

 

 アウルはモビルスーツが好きだった。あの狭い操縦席に座り機体のエンジンに火を
いれると、自意識はちっぽけな自分の体から解放されて、巨大で力強いモビルスーツ
と一体化するのを感覚できた。想像する。この機体はどれくらいボクを解き放って
くれるのだろうか、どこまでボクと一つになってくれるのだろうか。

 

「さーて、それでは一つ、貰って行っちゃおうかなあ。セカンドシリーズ」
「――――俺の"アビス"をどうするつもりだ!!」
「………………いやあ、ここまで苦労して"殺って"来たご褒美に、一機や二機位は
貰って帰ろうかなあって」

 

 アウルは背後から拳銃を突きつけてきた男に、やや興ざめして返事を返した。
なんだこの男、怯えて機材の影で隠れているのかと思っていたら、気配を絶って奇襲
するつもりだったのか、それにしてもバレバレだった。近づいてくる男が拳銃を
持っているのも気が付いていたが放っておいた。今の最高潮に達した精神と絶好の
体調ならば、例え男が引き金を引いたとしても、撃鉄が雷管を叩くまでに身を躱せる
という絶対の自信が有ったのだ。

 

「ふざけやがって……よくも、俺の部下を……こんなに沢山殺してくれやがったな」
「へへっ――ごめんねえ」

 

 アウルは男がパイロットスーツを着ている事に、背中を向けたまま気が付いた。
ということは、この男がこのモビルスーツ――"アビス"と言っていたか――の本来の
パイロットという事なのだろう。馬鹿な事をしたものだ、素直にパイロットらしく
モビルスーツに乗っていれば、ボク達を踏み潰そうとするぐらいは出来たかも
知れないのに。

 
 

「両手の銃を置きやがれ、上まで引きずって行ってぶち殺してやる。一秒でも
長生きがしたけりゃあ、せいぜい尋問には素直に応える事だな!! 俺は決して、
甘くはねえぞ!!」
「――はいはい」

 

 いいや、甘いよあんた。アウルはその言葉を飲み込んだ。男の失敗は二つある。
一つは先ほどまでの戦闘を少しだけでも見ていながら、アウルの接近戦能力を
見誤った事、二つ目は銃を向けながら引き金を引かなかったことだ。

 

――僕に近づく無謀を呪え、銃で話した無策を恥じろ――お前だけの天国で。

 

 アウルは、両手に持った短機関銃を放す、どうせ弾切れの銃だった。床に向かって
落ちて行く短機関銃を目で追った男の視界から――アウルが消えた。

 

 解放感――疾走、背筋の奧からゾクゾクと湧き上がる意識をゆだねながら、
アウルの肉体はこの日最速の動作で迫った。錯綜した感覚が、体の奧から吹き出る
凄まじい快感として知覚される。

 

「――な!!」

 

 音が四つ連続する。銃声、打撃音、落下音、そして人間が倒れ伏す音。銃声は
たったの一つ。男が発砲するよりも、手放した銃が床に落ちるよりもなお早く、
アウルは男の死角に回転しながら滑り込み懐から取り出した拳銃で腹部に一発、
もう一回転して握りの部分を男の首筋に叩き込んだのだ。

 

 正に電光石火のスピード。短機関銃が床に落ちる音を聞く前に、男の意識は
刈り取られていた。うつ伏せに倒れて男をつま先で軽く小突くと、モビルスーツの
操縦席へ巨体をよじ登りながら、アウルは恍惚とした表情で、気絶した男に言った。

 
 
 
 

「ごめんねえ――――――疾くってさあ」 

 
 

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