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アム種_134_014話

Last-modified: 2007-12-01 (土) 15:37:29

第十四話 ロンリー・ボーイ



──ユニウスセブン落着より数日後、オーブ行政府──



「ふーん、ザフトの新型のパイロットに、異世界から来たっていう少年ねェ。妙な組み合わせが来たもんだ」

「……申し訳ありません」

「ああ、責めてるんじゃないよ。なかなかに興味深い。新型にはオーブ系の技術も使われてるようだし……」

「あの……ユウナさま?」

「ん、なんだい。アス───もとい、アレックス」



 広い廊下を歩きながら会話を交わす、二人の男がいた。

 アスラン・ザラ──アレックス・ディノと、カガリ不在のオーブ政府を取り仕切る

 首長会のリーダー格にして、若き宰相の一人、ユウナ・ロマ・セイランの二人である。



「アスハ代表は……」

「あ、カガリね。今日の夕方の便でこちらに戻ってくるそうだ。プラントから連絡があったよ」

「そうですか……」

「何、そんなにカガリが恋しいかい?この許嫁泥棒め♪」

「──な、ユ、ユウナ様!?」



 ほっと溜息をつくアスランに、ユウナは意地が悪そうな笑みを浮かべ、皮肉混じりに茶化してみせる。悪気があるわけではないのだが、この男。根っからの皮肉屋なのだ。



「なーんてな。一族や親が決めた許嫁なんて今どき流行らないさ。冗談だよ」



 大仰に肩をすくめるユウナ。

 何を隠そう、彼とカガリは幼少の頃から兄妹のように育った仲。

 オーブ五大氏族の中において将来的には結婚することを義務付けられた、許嫁同士なのである。

 本人同士にその気がないのが、問題ではあるが。



「はぁ……ですが」

「君だってそうじゃない。あの『歌姫』のことだって」

「そ、それはっ」

「そーいうもんでしょ?」



 アスランはこの男とやりあうのが、どうも得意ではなかった。

 生来生真面目すぎるが故に、正反対の性格で掴みどころのないユウナを、捉えきることができない。

 もっとも、それなりに嫌いではない。

 アスランのオーブ定住をカガリが根回しする際、手を貸してくれたのは彼だと聞いているし、感情論、道徳論に走りがちなカガリの執政を冷静に一番近くで律してくれている。

 その政治のやり方がシビアであるが故に国民からの人気は低いし、カガリと方針をめぐってしばしばぶつかることもあるが、結局のところそれでバランスがとれている。



 最初にカガリから許嫁だと紹介されたときは警戒し、反感も持ったが、彼自身は乗り気でないらしく、その点二人で頷いているのを見て、すぐに打ち解けることができた。

 曰く、「妹同然に育ってきた子を相手に結婚しろったって、そんなの無理無理」だそうだ。

 ただしカガリのことは溺愛しているらしく、彼女を会議でやりこめたりした後は深夜であっても屋敷まで弁解の電話をかけてきて、疲れきって寝てしまいたい彼女を辟易とさせているのだけれど。



「正直、今回のこの事件で世界がどう転ぶかはわからない。オーブの立場も微妙だ。幸い、被害は沿岸部だけだが──……」

「……」

「ほぼ間違いなく大西洋連邦は──プラントに難癖をつけるだろう」



 それは近いうちいずれまた、戦乱がやってくるということ。

 階段へと差し掛かったところで、半笑いだった彼の顔が突如、真剣なものになる。

 声のトーンも低く、潜めるようなものに。

 この時の彼は完全に「政治家」だ。言わば裏の顔であり、大部分の国民から嫌われているユウナにとっての、表の顔でもある。



「彼らは……二人の「お客さん」はどうしている?いずれ処遇を決めねばならないが」

「あ……はい。旧アスハ別邸──ベルネス邸に。今はキラと出かけているようですが」

「ほう、弟くんと?それはそれは。ならば──いいか。しばらくは任せるよ、そっちに」

「はい」

「頼む」



 階段を下りきったユウナは、小さく溜息をつく。

 その顔は元の緊張感のないそれへと、戻っていた。

 執務室のドアを開きながら、首だけこちらに捻って向ける。



「あ、カガリの迎えよろしく。僕も父上も、他の首長たちも問題山積みでいけそうにないからさ」

「わかりました、夕方ですね?」

「そう。細かい時間は港に───……って、言わなくても自分で訊いて迎えに行くか」

「は?いえ、そんな」

「マスコミ来るだろうからそれなりの格好してくように──……んじゃ」



 困惑するアスランの目の前で、木製のドアが閉じられた。







 シン、ジェナス、アスラン。

 三人が落下した先は、オーブ近海の小島が並ぶ穏やかな海域だった。

 幸い、本島からもそこまで離れておらず、通信の中継施設が付近の島に設置されていたおかげで、アスランからの連絡を受けてオーブ海軍が回収しにきてくれた。

 デュランダルのほうからも、プラント本国を通じて三機が降下する旨が友好国に伝わっていたらしい。



「──ただいま、父さん、母さん。──マユ」



 回収された三人の機体はモルゲンレーテへと回され、整備を受けられることとなり。

 アスハ代表の代行をつとめているという青年、ユウナとの会見を経てシンとジェナスは、ユウナやアスランの知人という女性、マリア・ベルネスに紹介され、

彼女の住む屋敷に世話になっている。

 一国のトップとは思えないほど、ユウナはフランクに彼らへと接した。

 元々このオーブ出身のシン曰く、二年前まで彼はスカンジナビアの法律系カレッジへと留学していたらしい。

 出発するところをテレビで特集していたのを昔、見た記憶があると言っていた。

 その後戦火に見舞われたオーブの復興に際して、人材不足の折に呼び戻されたらしいが、ほんのつい最近まで学生をやっていた人間だというならば、その雰囲気の軽さにも納得がいった。

 あれでいてアスランによるとなかなか優秀な人物とのこと。

 政治家というなら裏の顔があるのかもしれない。



「俺、戻ってきたよ。急だけど」



 シンとジェナスは、海に面して建造された戦没者慰霊碑へと向かい、立っていた。

 それぞれにアスランから渡された私服を着て、シンの手には花束が。

 ここまでは、ベルネス邸で出会った『キラ』という青年が車で送ってくれた。

 アスランの親友と紹介された彼は、車のところで待っている。

 広いベルネス邸には、マリアとその愛人らしいアンディという隻眼の男が住んでいて、他に小さな子供達も多く、その世話をする人間が何人も住んでいた。彼もその中の一人だった。

 二人で車を降りる際にジェナスは一緒にどうかと誘ったが、彼は、



『……ごめん。僕は行けない。行く……資格がない。行ってはいけないと、おもう』



──そう言って静かに拒否して車に残った。

 資格などといえばそもそも別世界の人間の自分はどうなるのかとジェナスは思ったが、強制もできず、彼を置いてただシンについていった。

 拒否した際の悲しい目を見るに、なにか思うところがあるのだろう。



「俺、守りきれなかった。精一杯やったけど……足りなかった」



 慰霊碑に供えられた膨大な量の花は、ユニウス落着の影響による津波で潮を被って、ことごとくが枯れていた。被害は少なくなったにしろ、確かに目に見える形でこうやって存在している。



「ごめんよ……まだ、足りなかったよ、俺……」



 慰霊碑へとひざまずき、献花するシンは語りかけていた。

 そこに眠る、今は亡き家族に。

 ジェナスは彼の仕草を、沈痛な面持ちで見つめるしかできず。



『両親が……妹が、眠っているんです』



 ベルネス邸でキラから気晴らしにどこか行きたいところはないかと尋ねられた際に

 この場所を希望した彼の言った言葉を、その表情を、反芻していた。

 彼は向かう車の中でも、ぽつりぽつりと吐き出すように語り、

 おおまかな事情はジェナスも、それで理解した。



「俺……強くなる。もっと、皆を守れるように」



 ウミネコの鳴き声が、すぐ近くの港から聞こえてくる。

 夕日の色が、限りなくオレンジ色に近くなって水面に反射していた。

 それが眩しくて、シンがどんな顔をしているのかどうかは、彼が立ち上がっても見えなかった。



「花を、植えに来るよ。吹き飛ばす奴が……いなくなったら」



 植えてもまた、吹き飛ばされるのなら。

 吹き飛ばされぬようになってから。



「強くなって……植えに来るよ」



 植えた花を、守れるように。

 植えた花が、焼かれぬように。



 焼かれた花は、もう二度と返ってはこないのだから。


 
 

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