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アム種_134_027話

Last-modified: 2007-12-01 (土) 15:42:00

第二十七話 激情に染まる海



──ステラは、ザムザ・ザーと対峙する赤いMSを見ながら思った。



 あの人と戦うの、嫌。

 あの人、大丈夫ってステラに教えてくれた。

 みんなが死なないよう、おっきな石、割ってくれた。

 けど、あれは敵。戦わなきゃいけない。



『ステラ!!ザムザと連携して、そいつを落とせ!!』



 ユニウスセブン上でビームを乱射していたガイアを押さえつけて、大丈夫だからといってくれた。でも敵。

 最適化は嫌なこと、忘れさせてくれる。だからどうしてあの時あんなに嫌だったのか、覚えてない。だけど、あのMSのやったことは嫌じゃない。嫌じゃないことだったから、覚えてる。



「……わかった」



 でも、ネオが言うなら戦う。

 戦わなきゃいけない。じゃないと、ネオやステラやスティング、アウルが怖い目に遭う。

 そんなの、だめ。

 せめて、前スティングが教えてくれた殺し方で、殺す。

「一瞬で、楽にしてやる」。スティングはそう言っていた。

 ステラもそれ、やる。



「ステラ……一瞬で楽に、してあげるね……」







「うっそ、だろ……これ?マジ?かよ……」



 眼前に浮かぶMAの威容に、シンは息を呑む。

 つい調子に乗って一人でつっこんだら、これだ。



「く、ここはアークエンジェルに一旦……っ!?」



 放たれるビームをかわし、ここは逃げるが勝ちとばかりに背を向ける。

 しかしそこには変型済みのガイアが既に回り込んでいて、

 構えたシールドごと体当たりでMAめがけて吹き飛ばされる。



「ぐううぅぅぅっ!!こん、のおぉっ!!」



 衝撃に胃の内容物が逆流しそうな衝動に駆られつつも、シンは必死で機体を建て直し、後腰からビームライフルを引き抜いてガイアへと連射する。



『シン君!!そのMAの前から退きなさい!!ゴッドフリートを集中させて墜とします!!』

「り、了解っ!!」



 ブリッジからの通信に、慌てて射軸上からインパルスを退避させるシン。

 直後、4条のビームが彼のもといた場所を横切り、敵MAへと突き刺さり爆煙を起こす。

 あの見るからに鈍重そうな機体で、避けられるはずもない。



「やった!!どうだ!!あとはガイアを───……」



 自分がやったわけでもないのに快哉をあげるシンも、

 ブリッジから煙を見守るマリューも、MAの撃墜を信じて疑わなかった。

 いくら大型のMAとはいえ、その程度の大きさではラミネート装甲を積んでいたとしても艦砲レベルのビームでは廃熱が追いつくはずもないからだ。

 なのに。



「ええっ!?そんな!?」



 煙の中からそれは、無傷で姿を現した。

 砲撃に向けて背中を向けるような形で、

 光り輝くビームのような膜を展開して。



「ビームの、シールドっ!?」

『気をつけろ、シン!!光波防御帯……ち、邪魔を……『アルテミスの傘』だ!!……横!!ガイアがくるぞ!!』

「っく!?」



 援護に向かおうと飛翔するセイバーがカオスに行く手を遮られ、アスランの舌打ちが通信機から聞こえる。半ば呆然としていたシンがガイアのビームブレイドをかわすことができたのは、彼の言葉のおかげに他ならなかった。



「これ……ちっとばかしまずいんじゃないか!?」



 前方には、戦艦のビームすらはじく、巨大MA。

 後方には、地上戦を最も得意とするガイア。

 前後を塞がれて、シンはごくりと乾いた喉に唾を鳴らした。

 ガイアの始動と同時に、ブースター全開で飛び上がった。







「キラは!?どうなっている!?こっちは雑魚どもの相手で一杯だ!!アスランも緑に取り付かれてて動けん!!」

『駄目です!!海中でアビスを押さえ続けてはいますが、突破するには……!!』

「ちいぃっ!!あんのシンのアホたれがっ!!」



 戦況は不利に傾きつつあった。

 シンの独走に、MAの出現。

 最悪、雑魚を全て落とせばあちら側も退くだろうと考えていたが、甘かった。

 おそらくあのMAには、戦艦クラスの砲が備わっているだろう。

 あれだけのでかぶつなのだ、当たればアークエンジェルとて危うい。

 雑魚を落としたところで、奴らが退く可能性は殆どなくなってしまった。



「この、紫の!!こいつ……邪魔をするな!!」



 ムラサメをMSへ変形させ、ビームライフルを放つ。

 赤紫色の隊長機であろうウインダムは、機敏にそれに反応すると盾で受け、ビームをやり返してくる。



「その動き、その射撃……!!死人を思い出させるんじゃない、この!!」



 ナチュラルが乗っているとは思えないその動きに、バルドフェルドは苛立ちを抑えきれなかった。

 かつての敵にして、喪われた戦友。

 金髪のあの軽い男を連想させられて、神経がぴりぴりと逆立っていくのがわかる。



「あの男の分も……俺は彼女を、アークエンジェルを、守ってやらなくちゃならんのだっ!!どけ!!」



 こいつは、俺が墜とす。

 バルドフェルドは彼にしては珍しく、敵に対して理由の無い激情に駆られていた。







「は、あああぁぁっ!!」

『でえええぇぇぇいっ!!』



 数え切れぬ交差の、新たな一回が、二人の間にまた刻まれる。

アークエンジェル艦上でのジェナスとディグラーズとの戦いは、拮抗していた。

 不意に、ディグラースが構えを解き、対峙するジェナスへと尋ね出す。



『……そういえばそのバイザー、シーン・ピアースのものだな?何故貴様が使っている?あの軟弱男はどうした』

「……」

『あの男も、なかなか楽しめたがな……。やはり貴様を倒さねば俺の最強は──……』

「……死んだよ」

『ぬ?』

「シーンは……死んだ。ロシェットに、刺されて……」

『……ほう?あの糞餓鬼にか?それはまあなんとも情けない最期を遂げたものだ』

「なん、だと……?」

『所詮あの男も、弱かっただけのことよ。だが俺は違う。俺は……最強なのだっ!!』

「てめえ……!!」

『それを、証明させろおぉぉっ!!』



 お前に、何がわかる。何も知らないくせに。

 シーンがどんな想いで死んでいったのかを。

 彼の遺した言葉を。

 狂ったロシェットも、全ての責を負ったKKも。

 セラや皆の流した涙も、何も見ていなくて、どうしてそんなことが言える。

 彼の死についてとやかく言う資格など、貴様にあるというのか。勝手なことを言うな。

 ジェナスのうちに滾りはじめた怒りに気付くこともなく、言うが早いかディグラーズはハンマーを手に最加速で突進してくる。



「てめえええぇぇぇっ!!!!」



 ありったけの力を込めてクロスさせた二刀が、それを受け止める。

 生前、シーンの必殺であった技、クロスアタック。ジェナスもまた、その使い手であった。

 その技を持って、重いハンマーの一撃をしっかりと防ぎきる。



『ぐ……ぬ……!!』

「赦さ、ねええぇぇっ!!この、シーンの形見で!!俺はお前をっ!!」



 いや。防ぎきるどころか、弾き。ディグラーズを仰け反らせる。

 隙だらけになったアムジャケットに対し、ジェナスは右のデュランダルを振りかぶった。



──駄目だ、ジェナス──



……が。

 どこかで。

 誰かが自分に向かって、囁いたような気がした。

 ハッと我に返り、寸前で刃を止めたジェナスは、代わりに左の拳を渾身でディグラーズのボディへと叩き込む。

 その衝撃は、バランスを崩したディグラーズをアークエンジェル上からはじき出すのには十分であった。



『何いィィィっ!?ぐ、落ち……またか、またなのかあぁぁぁっ!?」



 放物線を描き、ディグラーズは水面へと落ちていった。

 肩で息をしながらジェナスは、周囲を見回し、大剣の刀身に映る自身の姿を見つめる。



「今の、声は……?」



 シーン、だったのだろうか。

 だとすれば、また。彼とこの機体には助けられたことになる。

 死してなお、彼はジェナスたちのことを見ているのだろうか。



「くそっ……悪い、シーン……。俺、まだでっかくなれてない……」



 自責の念に、頭をデュランダルの白い刃へと預け呟かずにはおれなかった。



「……ブリッジ。ディグラー……いや、艦上の敵は撃退した。引き続き迎撃を続ける」



 だめだ。もっと、しっかりしなくては。

 彼が安心して眠っていられないではないか。

 通信を切ったジェナスは、飛来するミサイル群の迎撃へと向かった。

 苦々しく、心は染まっていた。


 
 

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