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アム種_134_038話

Last-modified: 2007-12-01 (土) 15:46:02

第三十八話 さまよう心



「どう?ジェナ」

「……」



 ミネルバ甲板上に、ゼアムジャケットを装備したジェナスが立っていた。

 少し後方の離れた位置からはセラが見守っている。

 こちらもアムジャケット装備だ。ヘルメットはしていない。



「……ある、な」



 右手を掲げると、その掌が淡く光り出す。

 と同時に緩やかな風がそれを中心に巻き起こり、細かな光の粒が彼の右腕全体を包み込むように集まり、収束していく。

 集まってきた光の粒たちの集合は、風が止む頃にはゼアムジャケットのアムマテリアルへとすべて吸い込まれていった。

 この世界に散らばるイレギュラーなエネルギー、アムエネルギーの蒐集作業だ。

 フルゼアムジャケットがほぼ無尽蔵の出力を持つとはいえ、万が一ということもある。補給を定期的にしてやるべきだろう。

 とくにこの世界では、供給なんて碌にできないのだから。



「……ふう」

「どうだった?」



 ヘルメットを取り一息つくジェナスにドリンクを差し出しながら、セラが尋ねる。

 彼は頷くと、ドリンクを一口飲んで答える。



「やっぱり……この世界にもアムエネルギーがあちこち、拡散してる。それも結構な量」

「そう……それじゃあ」

「ああ、多分俺達が来たときに……飛ばされた時に一緒に、この世界に撒き散らされたんだと思う」



 議長さんやエイブス班長が言うには、ついこの間まで観測されていなかったそうだし。

 付け加え、ジェナスはセラから受け取ったタオルで顔の汗を拭いた。

 ゼアムエネルギー。その散らばった力のおかげでこの世界でも当分はアムジャケットやギアの運用には困らないものの、やはり使っている彼ら自身にももてあます、謎の多いエネルギーである。

 アムエネルギーを吸収するゼアムジャケットのシステムを完全に落としたことを確認し、ジェナスは嘆息した。







「何よォ!!いいじゃない、あたしがキラさんと話したいんだから!!」

「?」



 着替えたジェナスたちが艦内に戻ると、通路の曲がり角から怒声が聞こえてきた。

 声の主は……おそらく、ルナマリアだろう。



「なんだ?」

「さあ……?」



 角から顔を出してみると、シンとルナマリアが言い争っていた。

 二人ともえらく、感情が沸点に近づいているらしい。



「キラさん、大人だし教え方うまいし……何が不満なのよ?」

「いいだろ、ルナにはわかんねーよ!!」

「なによそれっ!!だったらキラさんのこと『あんな奴』なんて言わないでよね!!」



 なにやら、キラについての接し方でもめているらしい。

 余計な真似かとも思ったが、ジェナスとセラは二人の仲裁に入る。



「ま、ま。どーしたんだよ、二人とも」

「ジェナス。セラ」

「……」



 ぱっと表情を明るくするルナマリアとは対照的に、シンのほうは見られたくないものを見られたといった様子で顔を背ける。

 そんな彼の様子にも気付かずルナマリアは、ジェナスたち二人に向かい溜息まじりに事の次第を説明する。



「聞いてよー、シンったらひどいのよ?人がキラさんに海上戦のレクチャー受けに行こうと思ってたのに『あんな奴の教えなんているかよ』ですって。ひどいと思わない?二人とも」

「シン……」



 どうも、あの合流時の戦闘で助けられて以来彼女はキラにお熱らしい。

 キラとは複雑な関係にあるシンとしては、それが面白くないのだろう。



「あ、それとも何?妬いてたりするわけ?キラさんかっこいいし、大人だし。シンとは違うわねー」

「ルナ」

「MSの操縦も、うまいし」



 やめておけと袖を引っ張るも、彼女の小馬鹿にした口調は止まらなかった。



「なにが気に入らないかしらないけどねー、敵わない人を一方的に嫌うの、ガキっぽすぎるよ?」

「ルナ!!」



 彼女のほうも随分感情的になっているようだ。

 ジェナスに強く言われ、ようやく不承不承に口を閉ざした。

 一方のシンは俯き、拳を握りしめて震わせている。



「……そんなんじゃ……」

「シン?」

「そんなんじゃねーよっ!!」

「あ、シン!!」



 怒声を、ひとつ。

 荒々しく三人に背を向け、乱暴な足取りで早足に歩き去る。

 セラが思わず手を伸ばそうとしたが、ジェナスはそれを押し止め自分が前に出た。



「え?え?あ、あたしなんかまずいこと言っちゃった?」



 おろおろとシンの背中とジェナスを交互に見るルナマリア。

 彼女のこともまた制しながら、彼女たちにジェナスは言い置いてシンを追う。



「俺が行ってくる。二人はどっかで待っててくれ」



 通路の向こうに消えたシンの背中を求めて、追いつくべく彼は走った。







 部屋には誰もいなかった。

 レイはまだ帰っていないらしい。

 暗い部屋のベッドに、シンは身を横たえる。



「シン?いるか?入るぞ」



 ほぼ直後と言っていいタイミングで、ジェナスが入ってくる。

 一瞬、鍵をかけておけばよかったかと後悔する。



「……」

「やっぱ、キラのことか」



 わかりきったことを聞くな、と普段のシンなら怒鳴りつけていたところだろう。

 ジェナスにとっては幸いなことに、今の彼にそれほどの気力はない。

 来訪した少年は断りもせずに、向かいのベッドに腰を下ろす。



「まだ……ゆるせないよな、そりゃ」

「当たり前……だろ」



 ぶっきらぼうな返事を聞き、色々な感情の織り交じった表情をジェナスはしていた。

 まるで自分も、そういった相手がいる……あるいはいたかのように。

 シンは彼の顔からも、そこから窺える心境からも目をそらし言う。



「色々……。色々、わかんないんだよ、最近……」

「色々?」



 オーブからこっち、自らの目で見、耳で聞きしたことについて、自分の思っていること、そのものが。



「アスハのお姫様のこと……理想ばっかで嫌いだったはずなのに……あいつなりに

 国のこと守ろうとしてるって知って……協力頼まれて……」

「……」

「キラのことも、憎くて。嫌いで。殺してやりたくて仕方なかったのに……やれなくて」



 周囲の人間に対する自分の感情が、整理できていない。

 それに。



「赤道で戦ったフリーダム……俺、あいつを倒そうとした……けど、勝てなかった」



 自分の「力」に対する懐疑が生まれていた。

 己が望み、得たはずの力が何一つ、通用しなかった。

 果たして、自分は思っていたほど強くなったのだろうか。

 悔しさとともに、自身の力が、シンは信じられなくなっていた。

 そこにきて、先程のルナマリアの一言である。



「なんにもできなかったんだ……こんな……こんな力で……」

「シン」

「アスハやキラに、言う資格あったのかよ……ッ!!守れ、気付け、なんて……!!」



 なにもできない弱い人間は、自分のほうであったのかもしれない。

 守る、なんて綺麗事。ステラとの約束なんて、自己満足の勝手な安請け合いだったのだろうか。



『もっと、強くなる』……家族の眠る慰霊碑の前での誓った言葉が、あまりにも虚しい。

 全然、強くなんてなれていない。自分はまだまだ弱い。

 あのフリーダムは強い。それを差し引いても。

 ジェナスが見ているのも気にせず、シンは自分のちっぽけさに埋没し。全てを遮断するように、枕に突っ伏した。

 出航の時は、近い。


 
 

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