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アム種_134_041話

Last-modified: 2007-12-01 (土) 15:47:13

第四十一話 戦士の過去



「……お前さあ、もっと他になんかこう、アウトドアな暇の潰し方、ないわけ?」



 部屋にやってきたハイネが、呆れたように言った。



「あ、いえ。まあ」



 ひとまずの寄港地、ザフト軍マハムール基地へとミネルバとともに入港したアークエンジェル。

 アスランの寝起きする士官室のベッドの上には、電源が一時切られた緑色の鳥型ロボットが分解され、工具とともに細かい部品まで並べわけされている。

 非番の時間帯ということもあり、部屋の主は動かしている手を休めることなく、来訪者へと会釈するだけで歓迎する意を表する。



「大体さ、なにやってんの?」

「ああ、はい。キラから頼まれていたトリィのメンテと、ついでに……」

「ほー」

「パワーアップに、小型のレーザー砲あたりをつけられないものかと」



 さらりと真剣な顔で言うアスランに、ハイネはずっこけそうになる。



「アホかっ!!してどーする!!んな物騒なもん、ペットロボに搭載すんなよ!!」

「いえ、ですが!!悔しいじゃないですか!!ジェナスが言ってたんだ!!

 あのディグラーズとかいうやつの連れていた梟のロボット、あれには搭載されていると!!ならこっちも装備するしかないじゃないか!!」

「むきになって張り合うなよ!!そんなことで!!」



 真顔で言うアスランと、本気でつっこむハイネ。

 一応この二人、トップエリートの『フェイス』である。念のため言っておくが。

 並べられ再組み立てを待つパーツの中に赤い斑点を三つの赤が囲む核のマークが見えるのは、きっと気のせいだ。うん、そうしておこう。



「……あー、もういい。本題に入るぞ」

「?」

「お前、なんであんなに怒ったんだ?」



 どっかと腰を下ろしたハイネに尋ねられ、ドライバーを握っていたアスランの指が止まる。

 彼の質問は、他でもなく。先の戦闘後にわざわざミネルバに着艦してまで

 叱咤した、シンに対しての彼の態度についてであった。







「ねぇねぇ、キラさんも一緒に出かけませんかぁ?ジェナスやミリアリアさんも誘ってますし」

「あ、いや……僕はちょっと。まだ仕事も残ってるし」



 未だ謹慎中の身であるシンは、入港後も基地へと降りることなく、食堂で食事を終わらせて自室へと戻ろうとしていたところだった。

 丁度交差路に差し掛かったところで、右側に伸びる廊下の先でなにやらやりとりをしている二人を目撃する。



「?」



 キラが来ている?話しているのはルナマリアだろうか。

 大方、こちらの艦に用事で出向いてきたところを、上陸しようとしていた彼女に鉢合わせし、強引に誘われているのだろう。

 けれど一体、何の用で?

 彼は僚艦に所属しているはずの人物がミネルバにわざわざやってきていることに、違和感を感じる。

 ルナマリアが残念そうに向こうにいくのを見届けたキラは、こちらに気付く。



「シン……あ、いたいた」

「俺?」

「ちょっといい?」



 シンはわだかまりの未だ消えぬ仇である男を、嫌そうな目で睨む。

 今なお彼はシンにとって、あまり話したい相手ではない。

 自然、表情が厳しいものになる。



「……別に」

「そんな目、しないでよ」

「すいませんでしたね、生まれつきこの目なもんで。用がないなら俺、戻りますよ?」



 艦の中で、年長者に対する対応ということもあり丁寧語だが、明らかに彼言葉はあちこち尖っていた。

 シンなりに虚勢を張って威嚇のようなものをしたつもりだったのだが、キラはそれもお見通しといった様子で苦笑交じりの微笑を返してくる。



「少し、話したいことがあるんだけど。いいかな」



 右手に持った缶コーヒーを二本、顔の横で振ってみせる。

 そのときまでシンは、キラが何かをもっていたことにすら気がつかないほど散漫であった自分を知らなかった。

 頷いてみたけれど、ものに釣られたと思われたかもしれない。







 缶の中身は、口が曲がりそうなほど甘かった。

 そういえば艦の自販機のコーヒーの中でも、一番甘いと噂のやつではなかったか、これは。

 以前ルナマリアが飲んですぐ捨てていた記憶がある。反対にメイリンは湯上りの中高年がビールを飲むごとくおいしそうにぐいぐい飲んでいたけれど。

 よく飲めたものだ。

 他に誰もいない休憩室で、二人はぽつりとコーヒーをすすっていた。



「聞いたよ。アスランと色々、大変だったんだって?」

「ああ。いえ。別に、大変とかじゃ……。殴られて、いい気はしなかったけど」

「それもそうだね」



 笑うな。腹が立つ。

 内心に湧き上がってくるむかつきごと、甘ったるいコーヒーを嚥下する。

 一体この男は何をしにきたのだろうという、疑問も一緒に。



「……きみは、昔のアスランのことをどれくらい知ってる?」

「はあ?」



 どれくらい、って。昔ってことは大戦中ってことか。

 基本的にあの人はあまり自分のことを話したがらない。

 それは今こうやって話しているキラも、そうなのだけれど。

 言われてみれば、直に接して知った人柄以外には、アカデミー時代の教本で読んだ程度のことしか知らない気がする。



「えと。元ザフトレッド、クルーゼ隊。戦争中盤で最強と言われたストライクを討ち、その後、国防委員会直属特務隊フェイス所属になって……えーと、それからZGMF-X09A、ジャスティスのパイロットとなった後、軍を裏切り、脱走……?」

「うん、まあそんなとこだろうね……当初彼が乗っていた機体のことは?」

「GAT-X303……イージス?」



 たしか、ジャスティスによく似たカラーリングと、頭部デザインの機体だったはずだ。

 でもそのようなことを今更何故、聞くのだろう?



「そう。ストライクを討ったMS……それにアスランは乗っていた」

「……なんなんですか、一体」

「そのストライクに乗ってたのはね、僕なんだよ」

「……はっ!?」



 ごくごく自然に、キラは言った。

 その頬に微笑みさえ浮かべて、遠い過去を懐かしむ老人のように。



「今、なんて?」



 シンは聞き間違いではなかろうかとさえ思った。

 キラが……先の大戦中、連合最強と言われた機体、ストライクに乗っていた──?

あのフリーダムだけでなく?ストライクにまで?



「なりゆきだったんだけどね。……僕とアスランは、何度となく殺しあった」



 地球連合と、ザフトの兵士として。



「親友同士じゃなかったんですか!?」

「……うん。でも僕らは気がつけば、敵同士になっていた」



 もともとは、友を守るためだった。

 一方のアスランも、もともとは作戦のため。

 戦いあい、撃ちあう最中、キラは、アスランの、アスランはキラの親友をその手にかけて殺し。

 互いは互いを憎しみあった。親友同士でありながら。

 怒りに身を任せ、ぶつかりあった。


 
 

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