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アム種_134_048話

Last-modified: 2007-12-01 (土) 15:49:28

第四十八話 刹那の邂逅



 みんなで出かけるというルナマリアたちの誘いをパスして、シンは基地で借りたバイクに一人飛び乗った。

 とてもそんな気分にはなれなかった。



 憤りは、深い。

 しかし、自分になにができるだろう。

 ロゴスという存在はあまりに大きすぎて、雲を掴むような話だ。

 フリーダム一体倒せない自分に果たして、何が出来る。

 一晩眠れば忘れるかとも思っていたが、色々と考えてしまう精神状態は、数時間の十分な睡眠程度では消え去ってはくれなかった。



 一人になって。

 なにもかも忘れ去ってしまいたくて。

 バイクのスピードをシンはあげていく。



「……ん?」



 前方に、道路わきに寄せられたオープンカーが見えた。

 三人の男女がその側に立ち、なにやら話している。

 ボンネットが開いているところをみると、故障だろうか。



 バックミラーにも、対向車線にも、自分以外に走っている車両は見えなかった。

 放っても置けず、スピードを落とし車の横にバイクを停車させた彼は、三人組の男女に声をかける。



「故障ですか?どうしました?」

「あ、いえ。大したことは。ちょっとガス欠で───……」

「って、スティング!?ステラ、アウル!?」

「?」



 だが。フルフェイスヘルメットのスモークバイザーをあげたところで、素っ頓狂な声を発することになる。



「失礼、あなたは───……?」

「ああ、俺!!俺だよ!!シン!!」

「あ───!?アーモリーやインドの海岸で会った、あのときの!!」

「なんでここにいんの!?」



 慌ててヘルメットを外すと、先方も顔を覚えていたのか、指を指して驚く。

 ただ一人、ステラは首を傾げてきょとんとしていたけれど。



 スティングたちに説明をされ、ぽん、と両手を打ち合わせたステラは、

 突然顔を輝かせたと思うとシンの胸に飛び込んでくる。

 身構えていなかったシンは押し倒される形になり、地面にしたたかに後頭部をぶつけた。



「あっつ、つ……!!」

「……シン……ひさし、ぶり……」

「ああ、うん、そうだね……」

「大丈夫か?」



 頬を摺り寄せてくるステラを跳ね除けることもできず、覗き込んでくる二人に向かい笑って返す。目尻にほんのり痛みの涙を浮かべて。



「と、とりあえず燃料切れなんだな?ひとっ走りバイク飛ばして、町までいってくるから」







「ご苦労さまです」

「レイ」



 つなぎ姿に着替え、レジェンドのOS構築を続けていたキラの目の前に、飲み物と軽食の載ったトレーが差し出された。

 そういえば朝からなにも食べていなかったな、と顔をあげると、自分と同じくつなぎ姿のレイがいた。



「ありがとう。……どうしたの?その格好」

「ギル……失礼。議長にお聞きしたところ、ここにいると聞きましたので」

「ふぅん。きみはルナマリアたちと行かなかったんだ」

「……どうも、賑やかなのは苦手でして。恥ずかしながら」



 この、無感動な性格なものですから。

 レイにしては珍しく、困ったように頬を掻く。

 その様子がぎこちなくて、キラは吹き出しそうになる。



「だから、こちらで手伝おうと」

「手伝う?けど」

「ドラグーンのことならば、ある程度は助言できますし。シンのクセもそれなりに知っています」



──ああ、そうか。

 キラは言われ、納得した。



「きみも……使えるんだ、ドラグーン」

「ええ。ですから、多少なりとも参考にはなると思います」

「わかった。じゃあ、お願い。実際僕もこの手の兵器はメビウスのガンバレルくらいしか知らないんだ」



 トレーを側に置き、空いた隣のスペースにレイを招く。

 彼は長い金髪を邪魔にならぬよう束ねると、コンピュータの画面を覗き込んだ。







 無事街までたどりついたシンたち四人は、喫茶店に入った。

 それぞれに注文を終えると、互いのことについて説明をしだす。



「そうか、仕事って……前、海で迎えにきた四人と?」

「ん、まあ……そんなとこ。艦(ふね)に乗って、あちこち」

「奇遇じゃん、俺達もだぜ?」

「ネオやみんなも……いっしょ」



 もちろん双方、相手が軍人である、敵であるとは知らず。

 自分達が軍人であるということは、隠したままで。



 不思議な対話に、思いもかけぬ再会ということも重なりシンの心は安らぐ。

 安らぎが、不安で乱れていた心に勝っていた。



「しっかしまあ……ステラが忘れてなかったってのが驚きだよ、なあ」

「ああ、まったくだ」

「へ?」



 事あるごとにシンの腕を引っ張ってくるステラを見ながら、

 向かいの席の二人が呆れ顔を見せてきた。



「いや、忘れっぽいんだよ、そいつ」

「なんかやらかしたんじゃないだろうな、お前ステラに」

「い!?いや、別に心当たりは───……」



 エクステンデッドは、その戦闘能力維持のために、「最適化」とよばれる特殊な睡眠を必要とする。

 それはは、記憶に対するイメージの希薄化を促し、しがらみを薄くすることで戦闘時に残す心残りを断ち、恐怖を消す。

 元々ぼうっとしたところのあるステラにはそれが、健忘を起こさせやすくする要因となっていて、スティングたちはそのことを言ったのだが。



 けれどシンが彼らの事情を知る由もなく、

 彼はただアーモリーワンで自分がステラにした狼藉(?)のことを言われているのではないかと

 気を回し、勝手に冷や汗を流していた。



 いつのまにか引っ張られていた右腕は、しっかりと握られていた。

 注文した料理が運ばれてくるまで、ステラはその手を離そうとしなかった。







「はー。しっかし、ほんとに使えるのかねェ、この『バイザーバグ』だっけか」



 搬入される、ステルス戦闘機にも似たフォルムの機体を見下ろして、ネオが言った。



「例によって整備は専門の連中以外、見せてもらえないし」



 一応指揮官なのよ?俺。

 がっくりとネオが肩をおとしたところで、艦橋へとディグラーズが入ってくる。



「お、客人。どうだったよ?被験体のお二人は」

「……やつらのことは言うな」



 ディグラーズはこの艦の戦闘員で唯一、二人の被験体──通称、「D」と「T」との接触を許されていた。しかも彼らと対面したあとでは決まって、彼は不機嫌になって戻ってくる。一体、何が気に入らないというのだろうか。



「あれでは……強さも弱さもない。人形だ」

「はぁ?」

「それより、バイザーバグ共は到着したのか」

「ああ。あとは夕方ステラたちが戻ってくればいつでも出航できる」



──人形、か。

 答え、眼下の光景を示しながらネオは思う。

 部下であり、わが子であるような三人の男女。

 彼らも、自分が操る人形のようなものかもしれない。

 情を移すと辛いと言われていながら、移しつつある自分を自覚する。

 そしてそれは、罪悪感を彼に覚えさせる。



 彼は、今三人の子供たちがエクステンデッドではなく、人間として満ち足りた時間を、彼が意図した以上に送ることができているということを知らない。



 三人の心からの朗らかな笑顔を生み出しているのが、敵である少年ということも。

 何も知らず、次の戦いへの準備が整っていく。


 
 

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