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アム種_134_050話

Last-modified: 2007-12-01 (土) 15:50:10

第五十話 プライベート・エネミー



 ルナマリアは、苛立っていた。

 丁度すぐに発進できたのが自分だけで、一人で迎撃をやらされていることもあるけれど。



「ええいっ!!なんなのよ、こいつらあぁっ!!」



 パイロットの毒づきと同時にオルトロスを、赤いザクが撃ち放つ。

 だがビームの噴流は目標を外し。飛行する機体、ディンたちは散開して彼女の砲撃を避け、ミネルバを目指す。



「新型に……エース級のパイロット!!一体、何者!?」



 砲塔を構えなおしたザクが二射目を放つよりもはやく、

 上空のMS部隊がミサイルの雨を放った。







「前方のボスゴロフ級三隻から、応答は!?」

「依然、ありません!!っ!?続けてMS、四機射出!!これは、バビです!!」

「そ、そんな!?最新型じゃないですか!!どうして!!」

「アーサー!!落ち着きなさい!!」

「海中よりアッシュ、三!!接近中です!!」



 ミネルバのブリッジは、混乱の只中であった。

 おそらくは僚艦のアークエンジェルも同様だろう。



「はっきりしてるのは、彼らが我々を明確に害そうとしているということよ。相応の対応をします」



 ダーダネルス海峡まで、あとわずか。

 いつ連合の艦隊と会敵するかというときに、彼らは襲撃を受けていた。



 同じ軍の仲間であるはずの、二隻のボスゴロフ級潜水艦によって、側面からの奇襲を受けたのだ。



『シンにはソードで水中のアッシュを。俺とレイが空中で迎撃します』

「ええ、お願い。ルナマリアが一足先に出ているわ、急いで」



 一体、何者だ。水中に飛び込むインパルス、飛び立つグフ。グゥルに飛び乗る白いザクを見送りながら、タリアは襲撃者たちの正体に思いをめぐらす。



……だが。相手が誰であれ、こんなところで落とされてやるわけにはいかない。

 こちらにはまだやらねばならぬ任務があるのだ。



「トリスタン!!イゾルデ!!照準!!タイミングは副長に任せる!!」

「はっ!!」



 ここは、押し通る。

 彼女の号令にクルーたちは、きびきびとした返事を返した。







「……お?警報?」



 室内に設けられたベッドに座り雑談をしていたアウルは、

 戦闘態勢への以降を告げる警報に、天井を見上げる。



「どうやら、敵さんが近いらしいな。お前らもそろそろ戻ったほうがいいぞ」

「みたいだな。あんがとな、オッサンたち。楽しかった」

「おいおい、オッサンはねえだろ。これでもまだ20代なんだぜ?俺達」



 彼らに退出を促した男は、言ってから豪快に笑った。



 男の名は、「ダーク」というそうだ。

 本人としてもそれしか知らないらしく、聞いたアウルもスティングも首をひねったが、なにかしらの事情があるのだろう、深く詮索するのはやめておいた。

 あの紫色の二機のうち、『ジャスティス』を愛機としているとのこと。



「ほら、ステラも人が来る前に戻るぞ」

「うぇい?」



 スティングが、四つん這いになった男の背中に乗ってはしゃいでいたステラに声をかける。

 彼女の馬になった男は奇声をあげつつ、部屋中を四足で走り回り、二人がダークと話している間中、ステラのことを喜ばせ続けてくれていた。



 こちらのほうは、『フリーダム』のパイロット。

 名前はダーク曰く、「タフト」。

 その妙なテンションに、スティングたちは思わず後ずさってしまったが、不思議なことにすんなりとステラは懐いていた。



「行くぞ。ネオに見つかったらおかんむりだ」

「うぇーい……」

「なに、また来いよ。こっちもヒマしてたんだ」



 残念そうにタフトの背から降りて俯くステラを、ダークがそっと撫でる。

 上目遣いの少女を見る男の目は、やさしい。



「まーた来い!!来い来い来い!!」

「な?」

「……うん、また、来るね……」



 タフトの声と、片目をつぶってみせるダークに、ステラはやっと顔を綻ばせた。

 既にドアを開いて待っている二人のほうへ駆けていくと、振り返りダークたちに手を振る。



 ステラに手を振り返してくる二人の姿が、スライドするドアの向こうに消えた。



───さあ。戦争だ。少年少女たちは、兵士へと変わる。







 ビームサーベルが、バビのガンランチャーを切り裂く。

 深紅の機体、『セイバー』の性能は予想以上、パイロットの腕も自分の能力を遥かに超えている。



「……アスラン・ザラ……」



 バビ隊の隊長、ヨップ・フォン・アラファスは自分で呟いたその名に、じわりじわりと怒りが蓄積していくのを感じる。



 通信機のスピーカーからは、あちらが再三喚いているのが聞こえるが、そんなもの知ったことではない。



「この、裏切り者が……!!」



 全ては、コーディネーターのために。

 その衝動が彼を動かす。







「!?」



 急に敵の動きがよくなり、アスランの顔に驚きが浮かぶ。

 この新型は、性能を抑えていたとでもいうのか?

 だが悲しいかな、そのスペックはセイバーに、技量はアスランのそれに到底届くものではなく。



『アスラン!!そいつでラストだ!!殺さずに捕獲しろ!!』

「了解っ!!」



 一瞬目を閉じて、意識を集中させる。

 視界と思考がクリアとなり、なにかが精神世界においてはじける。



 アスランもまた、先程まで敵に見せてこなかった動きで、相手を追い詰めていく。



「でえいぃっ!!」



 変形し逃げ回るバビを、同じく変形して追走。

 雲間に入り変型を解き、敵の眼前に急降下しつつ右のサーベルを引き抜く。



──反応し、向けられたビームライフルが右手ごと、宙を舞った。



「お前達……おとなしくしろっ!!」



 加えて、左肩からサーベルを抜き、左右ともに逆手に。

 目にも留まらぬ速さの光刃が、バビの機体上を幾度も疾る。



 その数、優に十六回。



 頭部が、両腕・両足が。翼や武装が切り刻まれ、達磨と化した機体が落下をはじめる。

 アスランは無言でセイバーを操作し、着水する前に背後からそれを捕獲する。



「……こちら、独立機動艦隊、特務隊『フェイス』所属のアスラン・ザラだ。

 そちらの機体に抵抗する力はもう残っていないはずだ、所属と目的を名乗れ。何故友軍を襲う」

『ふん。アスラン・ザラ……貴様に名乗る名なぞ、持っておらんわっ!!』

「何?」



 バビの機体には、捕獲しているアスラン以外にもレイのザクがバズーカをつきつけている。

 この圧倒的にこちらが有利な状況で一体、何を言っている?



『偉大なる御父、パトリック・ザラ閣下の意思も忘れ、クラインの小娘の妄言通りナチュラル共と馴れ合う

 デュランダルの犬めがっ!!貴様もデュランダルも、ラクス・クラインも!!生かしてはおかんっ!!』

「な……お前たちは、まさか?」

『アスラン!!機体を放してください!!そいつは……』



 ザラ派。未だ父の怨念に踊らされ続ける哀しき者たち。

 襲撃者たちの言葉から、その正体に思い至ったことで、アスランの思考が一旦停止する。

 何かに気付いたらしいレイの警告も、耳に入らなかった。



 父の呪縛……その言葉がまさに、今のアスランを締め付ける。



『我々が消えようと、志を同じくする仲間たちが……』

『ちっ!!我慢してくださいよ!!』

「え?……ぐううぅぅぅっ!?」



 ザクのタックルに、セイバーが大きくのけぞりバビの残骸を取り落とす。

 重力に引かれ落下していった胴体だけのMSは、海面に到達する少し前で、内部から爆発を起こし四散していった。



「自爆?だと?」



 その爆発に呼応するように、水中から数本の水柱があがる。

 彼らの母艦も、残った機体も。彼に続いたのだ。



『……アスラン』

「キラ」



 見下ろすと、海面からストライクノワールとソードインパルスが顔を出していた。

 彼の様子に、アスランも襲撃者たちが全員死亡したことを悟る。



『くそっ!!なんで……なんで死ぬ必要があるんだよ!!意味、ないじゃんか!!』

『ジェナス、落ち着け。終わっちまったことを悔やんでも仕方ないだろ』



 ハイネがジェナスを諭しているのが聞こえる。

 だがそれ以上に、反芻する襲撃者たちの言葉が、耳の奥、脳に直接響く。



──貴様もデュランダルも、ラクス・クラインも生かしてはおかん。



──貴様もデュランダルも。ラクス・クラインも。



「!?」



 ぼんやりと色を失っていた彼の目に光が戻り、我に返る。

 シートに預けていた背中を勢いよく起こす。

『生かしてはおかない』『貴様を』『デュランダルを』『ラクスを』。

 まさか。アスランは慌てて通信機を操作し、ブリッジのメイリンではなく、艦隊の隊長たるタリアへと直接繋ぐ。



「グラディス艦長!!」

『アスラン?お疲れさま。一体──』

「ディオキア基地……いや!!今デュランダル議長のいらっしゃる基地に、急いで連絡を!!」

『!?』

「ザラ派です!!やつらが、議長とラクスを狙っています!!」



 怪訝そうであったタリアの表情が一変し、厳しく固いものとなる。

 アスランの口調も、語る内容も、それに足るだけのものであったからだ。



「デュランダル議長とラクスが……危ない!!」


 
 

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