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アム種_134_054話

Last-modified: 2007-12-01 (土) 15:51:34

第五十四話 フェイタル・ブロウ



「───なめてくれるねェ、俺達『ファントムペイン』を」



 ヘルメット状のマスクから覗く口元には、皮肉の笑みが浮かぶ。

 だが実、その内心はそんな薄い表層的なものではなく、ふつふつとした屈辱の怒りが渦を巻いているのが自覚される。



「とんだ茶番をやってくれるもんだ、ったく」



──また一機、ムラサメが四肢を飛ばされて着水した。これで、何機目だ。



 まったく、ふざけた真似をしてくれるものだ。

 自分達の目はそれほど、節穴ではない。

 その程度に思われていたのだとしたら、屈辱であり、冒涜だ。



 罪にさえ、等しい。



「また焼かれたいのかね?奴らは」



 なんにせよ、このツケは払わせてやらねばなるまい。

 あいにくとこちらも白の坊主と黄色の奴のせいで、見逃してやれるほど寛大な気分ではない。

『ファントムペイン』の眼力を侮った、下らない見世物に付き合わされた報いは、

ちゃんと値段分払わせてやらねば。



「悪い子たちには……おしおきだ」



 白いザクの追撃を振り切り、艦隊近くまで後退。

 通信機を操作し。



 彼は、海中に待機させておいた蒼き機体を呼び出した。



「いいか。自分達の立場を、よーくわからせてやれ。いいな?」



 懲りないやつらに、自分達が轡を並べている相手のことを存分に理解させてやれ。







 こんなものまで、用意していたのか。

 この男はどこまで戦いを私物化し、自分を中心に据えているのだ。



「バイザーバグ……こんなものまで作らせたのか、ディグラーズッ!!」



 ジェナスもまた、怒っていた。

 内には秘めず、思う様吐き出し、叩きつけながら。



「ふん……条件はなるべく、あっちと同じほうがいいからなぁっ!!」

「てめえぇっ!!ふざ、けるなああぁっ!!」



 振り下ろした大剣が空を斬り、海面を叩く。

 すかさずそこを狙い集中的に降り注ぐステルス機型メカの火線を避け、ジェナスは背面のブースターを咆哮させディグラーズを追う。



「っ!?……こいつら?動きが……違う!?」



──わずかに、早い。



 あちらの、元の世界で相手取っていた機体群よりも、ほんのわずかに。

 ごくごく微細なその違いが、身体で覚えていた彼のリズムを狂わせ、

 戦闘をやりにくいものとする。



 苛立ちは、比例して募っていく。



「邪魔……ッ!!……すんなっ!!」



 ネオエッジのパーツをパージ、その排出される慣性の勢いでビームを避けつつ、ビークルモードへと可変した機体に跨る。



 腰のアブソリュートソードを一閃、すれ違いざまの一機を一刀両断に切り捨てた。



「!?」



 だが、戦闘能力と同じく、その撃破の感触もかつてのそれとは異なっており。



(……液体!?)



 ぬるりとぬめるような手ごたえのもと、真っ二つに分かたれた暗色の機体は、爆ぜることなく。

 僅かに濁り色づいた液体を撒き散らしながら海上へと落下していく。



 今までに奴らとの戦闘では感じたことのない、生々しい感触だった。



(構造そのものが違うのかっ!?)



 あいにくと、足を止め、振り向いて回収している暇はなかった。



 続くようにディグラーズの載った一機と、その周囲に配置された数機の同型から

射撃の雨が降り注ぐ。



「くそっ!!やっちゃる!!」



 振り向くどころか、もう彼は見てさえもいなかった。

 海中に沈みゆくバイザーバグの残骸のことなど。

 倒した機械になど、かまっていられないとばかりに。



 しかし彼が捨て置いたそれはまるで、力尽きた人間が助けを求めるように。

 意志持たぬはずのその身の最期を厭うかのように、天高く右腕を伸ばし、掴むものもないまま水中へと静かに沈んでいった。







『被弾したムラサメ、帰還します』



 八百長試合は、怖いくらいに順調だった。



『部隊損耗率、20パーセントを超えます』



 けれど。

 オペレーターや甲板員たちの報告を聞きながら。

 それでもトダカはやはり一抹の不安を拭うことができない。



(確かにこれならば、被害は最小限で済むだろうが……)



 言い訳もつく、遠征の疲労という理由もある。

 確定した不安要素は今のところ、ない。

 変な言い方ではあるが、船窓から見える赤と黒の二機のMSは、

 順調に自軍のムラサメやM1の数を減らしてきている。



(果たして、通用するのか?)



 この、茶番が。

 あくまで文民、政治家であるユウナの考えた策が、戦場において。

 平時の理の通用せぬ、非情の場であるこの海で。



 万一この裏切りに等しい行為、舞台裏が連合に気付かれれば、国も自分達もただでは済まないであろうことが、想像に難くない。



 その疑念が、芝居を演じているという己の背徳感からきているだけのものであるということを、トダカは切に願う。

 と同時に、何かあったその時は。

 自分が国を、部下達を。そしてユウナを。守り通さねばならないとも思う。



 誇りあるオーブ軍人として、この艦隊を預かる者として。

 一命を賭してでも。



「!!か、艦長!!」

「!?……どうした?」



 彼の決意は、確かなものであった。

 だが指揮官として戦況に目も向けず自己に埋没するなど、あってはならぬ行為。

 そのことも自覚していた彼は索敵の慌てた声に答え、そちらへと意識を戻す。



「九時方向より、魚雷接近!!」

「!?」



 九時?その方向には上空どころか水中にも敵機の反応はなかったはず───……。



 彼の動揺は、状況を正確に把握していた指揮官であるが故、一層深かった。

 それをまるで体現するかのように、タケミカヅチ艦体側面に立ち上った水柱が吼え、大きく艦体を揺さぶった。



「な、何事だよっ!?」

「ちょ、直撃です!!第八、第七ブロック浸水!!火災発生!!」

「ダメージコントロール、急げ!!消化、はやく!!」



 そしてそこは、もっとも弱く脆い、船腹の部分であった。

 一番、狙われてはまずい、艦の急所。

 そこが黒煙を吹き上げ、直撃を受けている。



 動揺し、狼狽するユウナ。

 彼をシートに押さえつけながら、各員に指示をトダカは飛ばしていく。

 副官のアマギの復唱がひびき、タケミカヅチ艦橋は大いに混乱の様相を呈していた。



 直撃の被弾に揺れるオーブ軍旗艦の姿を、

 海中からオレンジ色の一対の目が、見つめていた。


 
 

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