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アム種_134_055話

Last-modified: 2007-12-01 (土) 15:51:55

第五十五話 想いと方法と



 警報と混乱に騒然となる、タケミカヅチ艦橋。



『こちら、J・P・ジョーンズ所属、アビス。貴艦の側面にザフト水中MS残敵を

 発見、撃破したが流れ弾が当たってしまった。申し訳ない』

「な……なん、だって?」

『気をつけなよぉ、おっさんたち?別の艦にも「また流れ弾が当たる」かもしれないんだしさ?』

「貴様っ……!!」

『ま、せーぜー死なないうちに脱出するこったね』



 ノイズ交じりの少年兵の顔が、モニターから消える。

 あとには言葉を失う将兵たちと、怒りに肩を震わせるユウナだけが残された。



 つまりは、そういうこと。

 これは裏切りに気付いた連合からの、警告。そして報復。

 自分達は、友軍から撃たれたのだ。



「くそっ!!どこだ!!どこで、気付かれた!!」



 シートの肘掛に拳を振り下ろすユウナ。

 だが、悠長なことはしていられない。

 連合によって撃たれたその場所は艦にとって、致命傷であったのだから。



(……このままではオーブ全てが、裏切り者として撃たれることになる)



 このままでは。

 上司の激した様子を見ながら、トダカは考える。

 それを避けるには、ユウナを無事国へと返さねば。彼本来の戦場へ。

 彼は元来政治家、本職の軍人である自分達が畑違いのユウナの策に頼り切っていたのが、愚の骨頂であったのだ。



 プロである自分達が真っ先に策を練らずして、どうするのだ。

 国のために血を流すことを軍人が厭うて、何になる。



 そして、自分は───……



「……ユウナ様、退艦してください」

「……ああ、わかっているよ。でもその前に色々と指揮官として───」

「いえ」



 懐を、まさぐる。

 硬く冷たい感触を掴み、トダカはそれをユウナへと向けた。

 青年の顔が、驚愕に歪む。



「この艦は、私が占拠致しました。この茶番の全ては私の指示によるものです。

 人質であったあなたは───奮起した兵たちによって解放されてください」



 自分は、全ての責を負おう。

 愛用の拳銃の銃口が、ユウナの眉間を正確に狙っていた。







「お、青の坊主、やりやがったな?」



 ジャスティスのコックピット内の彼は、あれほど急激な機動を繰り返したにもかかわらず、殆ど息も乱してはいなかった。

 彼ら二機を相手取りたった一機で持ちこたえ押し留めていたハイネには知りえず、また気の毒なことではあるが──彼らに遊ばれていたのだ。



 全ては、限界まで鍛え抜かれた強靭な肉体と、薬物による更なる強化による賜物である。



「よっしゃ!!『タフト』!!こっちもそろそろこいつ、落としちまうぞ!!」

『りょーかい!!りょーかいかいかい!!りょおーかいっ!!』



 口元に、笑みが自然浮き出る。それは狩りを心から楽しむが故のもの。



 空を舞う全身オレンジの一つ目は、

 彼らにとってもはや敵たりえず、獲物としてしか見えていなかった。







「!?タケミカヅチがっ!?」



 それを目撃したときシンの胸に去来したのは、敵が損害を受けたという安心ではなく、故郷の艦がやられた、その心配であった。



「あれには……トダカさんがっ!!」



 トダカ一佐。

 かつて家族を失ったシンをオーブで世話をしてくれた軍人。

 アークエンジェルでオーブを発つ数日前、僅かながら再会することができた彼は、今はあの艦に司令として乗っているといっていた。



 恩人の乗っている艦が、火を噴いている。



『シン!!危ない!!』

「!?」



 その動揺が、隙をつくる。

 ビームサーベルを引き抜いた数機のウインダムの接近を許し、ルナマリアの援護射撃によって救われる。



 しかしそのせいで、続き自分を狙おうとしていたダガーやウインダムの矛先が赤いザクへと向けられる。



「ルナぁっ!!」

『このおおっ!!』



 艦と、インパルス、それにザク。

 三つの標的に敵の狙いを分散させることでなんとかさばいていたのだ。

 ルナマリア一機へと攻撃を集中されると、とても追いつかない。



『しま……リロードが、間に合わな……きゃああああっ!?』



 シンのミサイルが撃ちもらし、

 赤いルナのMSのオルトロスが火を噴くのを停止すると。

 ジェットストライカー装備のウインダムはそれぞれにミサイルとビームライフルをたった一機に集中させる。



「ルナ!!ルナ!!大丈夫かっ!?」



 辛うじて左腕のシールドで、彼女はコックピットへの直撃は避けていた。

 だがカバーしきれぬ部位───頭部や、腕部。それに腰部などのコックピット以外の胴体部は直撃を受け、まるで交通事故にあった人間のように鉄塊であるそれは宙を舞い、ミネルバ後部甲板に落下した。



 そして、ほどなくしてその瞳に当たるモノアイから光を失った。



「ルナああぁぁっ!!」

『お姉ちゃん!?お姉ちゃん!!返事をして!!お姉ちゃん!!』



 死んでなど、いないはず。

 コックピットは防いだではないか。

 その想いに叫ぶシンと、彼以上に彼女を心配し呼びかけ続けるメイリン。

 二つの声がインパルスを満たしていく。



『シン!!ルナマリアはこちらに任せなさい!!今は任務中でしょう!?』

「ですけどっ!!ルナが、ルナが……!!」



 俺達の、仲間が。宇宙で死んでいったデイルやショーンのように。

 冷静さを失い動揺するシン。



『ハイネ!!だめだ、やめておけっ!!』



 そんな彼の耳に届いたのは、

 歴戦の指揮官らしからぬバルドフェルドの焦りのまじった言葉。

 警告された相手、彼が警告した理由。

 気付いたときには、もう間に合いはしなかった。







『ハイネ、ダメだ!!やめておけ!!そいつらは……』



 バルドフェルドの警告など、ハイネは既に聞いてはいなかった。

 紫の二機へと、どちらかといえば時間かせぎ、いなす戦い方であった戦法を捨て、グフを突撃させていく。



(……ルナマリアがやられた。こいつらをなんとかしないとおちおち、艦の守備にも回れねえっ……!!)



 セラと、動揺したシンだけでは辛いだろう。

 誰かが、ルナマリアの脱落した穴を埋めなければ。



 だからリスクを覚悟で、汗の滴る身体でハイネはグフを急発進させた。

 腕の一本や足の一本、持って行かれるのは覚悟のうえ。

 片腕でも機体の腕が健在なら、艦上から支援に回れる。



「うおおおおおっ!!」



 いくら相手のほうが性能が上であっても、そのくらいの自信はハイネにもあった。

 撃墜はできなくてもいい、後退させる程度のダメージを与えるくらいなら、この二機が相手でも不可能ではない。



 ビームソード・テンペストを手にビームガンを乱射。弾幕を張りつつそれを追いかけるように機体を突進させる。



 目標の二機の一斉放火をかいくぐり、「突き」の姿勢へ。

 手元のキーを叩きソードのリミッターを解除すると、ビームの刃部分が倍ほどの厚さ・大きさとなり、その先端部までを包み込んだ。



 砲弾・ビームの雨を抜けた。



(……よしっ!!)



 この距離では、射撃はもう意味を成さない。

 サーベルを抜いても、ひたすらに前進するだけの単純な動きである分こちらのほうが早いはずだ。

 これで片方を落とし、もう一機もスレイヤーウィップで捉え串刺しにする。



 まともな人間の反応速度ならば───たとえコーディネーターやナチュラルを強化したエクステンデッドであっても、回避も撃墜も不可能な間合いだった。



(とったっ!!)



 では。



 まともな人間ではなく、それすら越えた人間であったとしたら。



 コーディネーター並みか、それ以上の身体能力を持ち。

 更にその肉体を強化した人間が相手であったならば。

 ない可能性では、ないのだ。ごくごくわずかであっても。



 その可能性を、ハイネは失念しきっていた。


 
 

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