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アム種_134_058話

Last-modified: 2007-12-01 (土) 15:52:52

第五十八話 散る命



 なんだ、あれは。

 一体あの男は、どういうつもりだ。



「ジブリールに繋げ!!今すぐにだっ!!」



 ディグラーズは帰艦するなり、ヘルメットを投げ捨て壁の通話機に怒鳴りつけた。



『はぁ?一体どうしたんだよ、客人』

「繋げと言っている!!あの下衆に問いたださねばならん!!」

『無茶いうなって。今は戦闘中だぞ?あとでにしてくれ』



 彼は激昂していた。

 ジブリールより送られた、バイザーバグのまがいものたちについてである。



 だが言葉を受けた通話機の向こうのネオは、そんなことを知る由もなく、それが一層彼の長くない気を逆立たせる。



「あんなもの……使えるか!!」



 確かに、バイザーバグの性能は元の世界で生産されていたものよりも高かった。

 だがそれも、攻勢に回っている場合に限る。



「くだらん……俺を、欺きおって……!!」



 守勢へと転じた、その場合。

 一転して奴らは足手まとい以外の何者でもなくなる。



「機械が……弾に怯えてたまるかっ!!」



 バッテリー式だと奴は言っていた。だが、ならばあの液体はなんだ?

 飛び散った残骸の中にあった、肉色の生々しい物体は?

 得体の知れぬ、碌に役にも立ちはしないものを戦力として使おうと思うほど、ディグラーズも酔狂ではない。



「奴が俺を嵌めるなら……こちらにも考えがある」



 彼は通話機を壁に叩きつけると、肩を怒らせてその場を立ち去っていった。







「こっちだ!!はやく!!」

「すまん!!これで全部だ!!」



 ジェナスの指した先には、セラの護衛するシルエットフライヤーが着水している。

 元来が重いシルエットパーツを搬送するための機体だ、内部に多少の人間が乗ったとして飛行に問題はない。余剰の人員はエッジバイザーとストームバイザーで運べばいい。



「シン!!そっちはどうだ!?」

『悪い、まだかかる!!先にメイリンに連絡して、行ってくれ!!』

「わかった、急げよ!!」



 セラに頷き、後ろに一人、兵士をしがみつかせ、エッジバイザーのエンジンを噴かす。

 同時に兵士を乗せたストームバイザーが離水し、ミネルバの誘導を受けてシルエットフライヤーが飛び立った。



 空を舞う二機を追う様に水上をエッジバイザーに走らせながら、ちらと連合艦隊のほうへと目を向ける。



 空母の甲板上に、紫の二機のMS。フリーダムとジャスティス。

 弾薬の補給か、それとも単に特攻の爆発に巻き込まれることを懸念してか、敵MS部隊はタケミカヅチ近辺のジェナスたちには散発的な攻撃をしかけてくるに止まっている。



(……もし、あれがダークさんたちだとしたら)



 ハイネは、彼らが殺したも同然だ。

 自分達の仲間が、彼を。



(……いや!!まだそうと決まったわけじゃない!!)



 まだ、確証がありはしないのだ。

 そもそも、彼らがあのような残酷なやり方でハイネを殺すわけがないではないか。

 誰よりも、「人を救う」というアムドライバーのあり方に誇りを持っていた二人が。



 後ろ髪を引かれるような思いがあった。

 だがジェナスは、そんな感傷を振り切るがごとくスピードをあげ、セラたちを追う。



 甲板上に降り立ったインパルスとすれ違い、彼は離脱していく。

 彼の後ろでMSが飛び立ったのは、殆どミネルバ近くまで彼らが撤退をしたときであった。







「お願いです!!はやく脱出してください!!時間が……」

『……わかっている。だが私は、ここを動くわけにはいかん』



 一方。

 タケミカヅチへと降り立ったインパルスのコックピットで、シンは一人の男と対峙していた。



「トダカさん……!!」

『誰かが、責任を負わねばならんのだ。そしてこの艦の責は、艦長たる私にある』

「そんな!!だからってこんなこと!!」



 かつての恩人。再会を果たしたのはほんの少し前のことだというのに、シンとトダカはこのような形で相見えていた。



 船窓の窓は殆どがひび割れ、あちこち火花を噴き出すブリッジに、トダカは一人背筋を伸ばして立っている。



「艦を破壊します!!だから脱出を!!」

『……できんな。どうしてもやるというのならば、私ごとやればいい』

「できるわけ、ないじゃないですか!!あなたを!!」

『だが、やらねばそちらの艦が沈むかもしれんのだぞ?』

「けど!!」



 トダカの言うことも、事実ではある。

 ミネルバとアークエンジェルまでの距離は、もうさほどない。

 二艦が沈むことは無いにしろ、ぐずぐずしていてはシンまでもが陽電子砲に巻き込まれてしまう。



 だからといって、彼を見殺しにすることなど、シンにはできない。



『勘違いするな。あくまでザフトとオーブは敵なのだ。敵を助けて自軍に被害を及ぼすなど、言語道断』

「敵……?あなたが敵だっていうんですか!?」



 恩人が、敵。故郷を同じくする者が敵。

 そのトダカの物言いは、若いシンには納得のいかないものであり、困惑をさせるものでしかない。



 当然、インパルスの腕に握られたエクスカリバーが持ち上がり、振り下ろされることはなく。



『そうだ。上に立つ者が定めた目標こそが敵。オーブにとってはザフトが、ザフトにとっては連合に与する者が』

「理屈、こねまわしてる場合ですか!!いいから脱出を───」

『ダメだと言っているだろう!!君も軍人だろうに!!』

「ですけどっ!!……!?反応!?」



 レーダーの、警告音。

 トダカとシンが同時にその指し示す方向を見た直後、タケミカヅチへとビームと砲弾の雨が降り注ぐ。



 ただでさえ沈没を時間の問題に控える空母の船体は、それだけで大きく傾いだ。



「……フリーダム、ジャスティス……!!」

『ガイアにカオス、アビスだと……!?ぐうっ!?』

「トダカさんっ!?」



 対峙するブリッジ付近に、フリーダムのレールガンの至近弾が被弾。

 窓ガラスが砕け散り、爆風の中にトダカの姿が消える。



『シン、何をやってる!?はやく戻ってこい!!』

「アスラン……でも!!」



 ミネルバ上空で待機し、ミサイルを迎撃するアスランからの通信。

 たしかに彼の言う通り、もう時間は無い上に、この五機に囲まれたままではまずい。だが、シンにはトダカのことが放ってはおけない。



『裏切り者と仲良く消えな!!白いのぉっ!!』

『滅殺抹殺撃滅殲滅必殺瞬殺ぅぅぅーっ!!やるぞやるぞやるぞuryyyyyy!!!』



 タケミカヅチと同調させていたせいだろうか、敵MSのパイロットたちの声がスピーカーに拾われる。

 ビームと砲が乱射され、至近弾を浴びるインパルスとともに、空母の飛行甲板へと

いくつもの穴を穿っていく。



 五機ものMSから放たれる破壊の驟雨は嵐となり、とても手がつけられるものではない。

 左腕に折りたたんで装備していたシールドが砕ける。

 額のVアンテナが半分折れ、右のエクスカリバーも失った。



『シン!!急ぎなさい!!もう時間が無いわ!!』

「っけど、まだ人が……!!」

『……うだ、やれ、シン・アスカ……』



 艦長たるタリア直々の叱責にも躊躇するシン。

 ためらう彼は、ノイズと爆音にまみれた、呻きにも似たトダカの声を聞く。



「トダカさん、無事で……」

『やれ!!』

「え……?」

『時間がないのだろう、はやく艦を沈めろ!!そして離脱を!!』

「そんなっ……」



 ミネルバとアークエンジェルの陽電子砲は、既に十分すぎるほど輝きを満たしていた。インパルスがブリッジを潰し、離脱したのを確認すれば、即座に砲撃を加えることだろう。



『どの道……私は無理だ!!さっきの爆発で……やられた……』

「な……でも!!」

『きみは生きろ。生きて再びオーブに戻ってきてくれ』

「……」



 オーブ。トダカが身を賭してまで守ろうとしている、シンの故郷に。



『さあ、やれ!!シン・アスカ!!軍人として、守るべきもののために敵を討て!!』

「……う、く……」

『私を犬死にさせる気か!!連合のためではない!!私に、君やアークエンジェルを……

 オーブの者たちを護るために死なせてくれ!!オーブの盾となって死すれば、それが本望だ!!』

「う……あああああぁぁっ!!!」

『私は土となって……還ろう!!オーブへ!!』



 遂に、インパルスの右腕が上がる。両腕で対艦刀を握りしめ、最上段に。



 寸分違わぬ狙いはブリッジに向けられ、大質量の剣が弧を描く。



──これで、いいのだ。



 これは、彼の望み。軍人として、自分が成すべきこと。

 言い聞かせ、目をきつく閉じて遮二無二シンは剣を振るう。



 止めるな。止めてはならない。

 顔は苦渋に歪み、目からは涙が零れ。

 脳裏には二年前のオーブでの彼との出来事が再生される。



 止めない。止めてはならない。

 彼の遺志を、叶えてやるのだ。

 シンは顔を背け、目をきつく閉じながらも、最後までそれをやりきった。

 インパルスの背丈ほどもあった艦橋はひしゃげ、潰れ。爆発に包みこまれていく。



『ローエングリン、一番二番!!』

『タンホイザー、照準!!』



 二人の艦長の声を耳に、シンは無言でインパルスを上昇させる。

 ビームブーメランを投擲、更に機体を各パーツ毎に分離。

 コアスプレンダー以外の各機を、二枚のブーメランとあわせそれぞれ五機の敵MSへと向かわせる。

 彼らに生まれた隙をついて、シンはその場を離脱した。



 なにも、見たくなかった。

 自分が殺した恩人や、自分が潰した空母が。自分の母艦の砲に焼かれていく様など。



「ちく……しょう……」



 陽電子に燃え尽きていく空母を背に、シンはひとり、涙した。


 
 

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