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アム種_134_070話

Last-modified: 2007-12-01 (土) 15:57:10

第七十話 戦争屋たち



「妙、だな」

「……やはりあなたもそう思いましたか?アスラン」

「ああ」



 シャトル乗降場までの通路を、レイとアスランは並んで歩いていた。



「あの演説の内容とはいえ──どこか余裕のない感じだった」

「ええ。どうみてもあれは、本来の議長ではありませんでした。何かを、焦っているような」



 先程、ザフト軍の駐留する全ての地域、及び親ザフト系マスメディアを通じて可能な限りありったけの場所へと流されたデュランダルの演説は、彼と近しいレイ、直接の面識をある程度もつアスランにとってはどうにも違和感を拭えないものであり。



 二人して首を捻る。



「ロゴスを討つ、と言っていたが……これも変だ」

「変?」

「彼はロゴスの本質をある程度掴んでいたはずだ。だったら単純に討てば済むというものでないことも

 十分、わかっていたはず。あの演説のように一方的に彼らだけに非を着せるということは考えにくい」



 自分達の利益のために、戦争をコントロールする。

 戦争によって生まれる利益を啜るならば、その戦争が不利益を生み出し始めたら?

 そんなとき、利己のため彼らはどのように動く?



 それはつまり、戦争を起こしもするが、やめさせもするということ。

 コントロールするということは、そういうことだ。



「ラクスの父、シーゲル様から昔聞いた話でしかないが……良くも悪くも、奴らは『戦争のバランサー』だと」



 利益になるうちは無責任に燃え上がらせるが、損になるようであれば火消しに走る。

 そういった日和見的な存在であると、聞かされていた。



 いくら戦争屋とはいっても、それだけをやって続けていけるはずがない。

 あっても困るが、なくても困る。

 それが「ロゴス」だと、アスランは認識していた。



「長期的に見ればないほうがいいのだろうが……果たして今、討つことが必要なのか?議長はそう考えたのか?」

「……」



 それはない、とレイは思った。

 プラント評議会議長として彼は、決して背伸びをする人間ではない。

 目の前にある問題を片付けず、その背後の問題を一足飛びに扱う人間でもない。

 そのことは、もっとも身近にいた自分が、一番よく知っている。



「……ギルは。議長は、戦争の行く末に悩まれているのかもしれません。だから私を呼び戻したのかもしれません」

「……かも、しれないな」



 近しい者。親しい者にそんなとき、意見を求めたくなるものだ。

 そして彼にとってもっとも親しい存在といえば、レイしかいるまい。



「あるいは、他のなにかがあるのかも。向こうに着いたら、私のほうでも調べてみようと思います」

「頼む」



 警備の兵のいる乗船口に到着し、二人の男は改めて握手を交わす。



「それじゃあな。向こうでも頑張ってくれ」

「ええ。アスランたちも。……そうだ、これを」



 交わしてからレイが差し出したのは、一枚のデータディスク。



「これを、キラに」

「キラに?一体……」



 受け取ったアスランは、奇妙な預かりものに困惑する。



「必要になるときがくるかもしれません。ですから」

「……わかった」



 アスランは、深くは追及しなかった。

 彼がそう言うのなら、そうなのだろうから。

 いつか、どこかで必要になるかもしれない。彼はそう思い渡したのだから。



「では」



 踵を返した彼を、アスランは見送った。







「……これで、満足かね?」



 演説を終え。

 執務室へ戻り、腰掛けるなりデュランダルは吐き捨てるように言った。

 誰も他にはいないはずの、先程まで彼自身留守にしていた、自身の薄暗い執務室の影に向かって。



「ええ。十分ですとも。流石は最高評議会議長殿」



 柱の影から現れたのは、赤服。

 アップにした派手な色の髪に眼帯という、目立つ格好をした女性士官。

 名は、ヒルダ・ハーケンといった。



「それもこれも、ラクス様のプラントのため。上出来といっていいでしょう」

「……ふん」



“お前達の”プラントの間違いだろう。ラクス本人はそのようなもの、望んではいまい。

 忸怩たる思いで、デュランダルは彼女を睨む。



 迂闊だった。ザラ派と連合を警戒するあまり、同派閥だと彼らのことを甘く、軽く見すぎていた。



「このあとのことも、わかっておられますね?」

「ああ、わかっているとも」

「万一、なにかあれば……我々の『あの力』がプラントを焼くとお思い下さい」

「……」



 それも“我々の”ではなく、“あの男の”力だろうに。

 これだからいつの時代も、過激な思想を崇拝する者たちは手に負えない。



「『あの方』のもたらした力を受けた同志達がプラント各地にいることを……お忘れなきよう」







「なんだ?出撃?」



 ミネルバのブリッジにアスランが足を踏み入れたと同時に、基地そのものの警報が鳴った。

 同じように訪れていたキラとジェナスもまた、振り向かせていた顔を困惑させる。



「グラディス艦長、これは?」

「待って。今確認するわ」



 キラにラミアス艦長は大丈夫か、と聞きながら、アスランはタリアにも問うた。

 頷くキラを見て、ひとまず安心する。



「付近の部隊へ、ベルリンへの出撃命令……?これは一体?」

「艦長!!」



 メイリンがシートから振り向き、わずかに青ざめた表情を一同へと向ける。



「どうしたの?」

「れ、例の……スカンジナビアの」

「?」

「スカンジナビアを壊滅させた黒いMAが、ベルリンに!!」







 破壊されゆく町の惨状を見ながら、男は喉を鳴らして愉快そうに笑っていた。



「どうです?デストロイの破壊力は?」



 ロード・ジブリールは上機嫌だった。

 コーディネーターを受け入れた裏切り者どもを、憎き宇宙の悪魔どもを、焼き尽くす黒き巨獣が、誇らしい。

 あれがまだ、もう一機あるのだ。量産計画も進んでいる。



 さあどうだと言わんばかりに、部屋のあちこちに設置されたモニター越しに彼を見つめる老人たちへと言葉を投げかけていく。



『……ああ、確かにこれは凄いな』

『凄すぎて、何も残らんわい』



 彼らは、「ロゴス」のメンバーであった。

 ジブリールの要請によりブルーコスモスへ出資している、スポンサー達でもある。



「奴らによって穢れたものなど、焼き尽くしてしまえばいいのです!!その上で新たに造り直せばよい!!」

『……本気か?大体、我々の存在がデュランダルによって明かされたことは──』

「そんなもの!!デストロイで潰してしまえばよいのです!!デュランダルを、コーディネーターどもを!!」



 今のところ、デュランダルの演説に民衆は戸惑っている。

 だが存在を公表されたことで、動きにくくなってしまったことも事実だ。

 散発的にではあるがテロに見舞われたメンバーもいる。



 だがしかし、ジブリールは聞く耳を持たない。

 すべて、コーディネーターさえ抹殺すれば全てが済むものと思い込んでいる。



『……いいじゃろ。やってみろ、ジブリール』

『せいぜい、やってくれ』



 彼らは、そう言いながら。

 ジブリールに気取られぬよう、モニター越しにアイコンタクトを交わす。



 古狸達の腹は決まっていた。



 近いうちに彼を処分、ロゴスメンバーから除名することを。



 元々、ジブリールのごり押しで出資していたようなものだ。

 既に彼らは、ブルーコスモスへはもうびた一文、くれてやる気はなかった。

 よく使いこなされた彼らの嗅覚が、ブルーコスモスからは益はもうないといっている。



 メンバーの一人が、通信を操作し、モニターに一人の男を呼び出す。



『……聞いていたかね?』

『ええ……これだから救えない。過剰な権力を持った人間は』

『頼めるかね?』

『お任せ下さい』

『……成功すれば、君には「ロゴス」メンバーの椅子を用意しよう。頼むぞ』



 男は、足を組み、微笑を浮かべていた。



 彼らの殆どが、男が何者でどこから来たのかも知らない。知ろうとも思わなかった。

 むしろ、メンバー全員を把握している人間という者のほうが少ない。

 今までもそうしてきた。だから歴史の闇に隠れ、尻尾を出すことなく甘い汁をすすってこれたのだ。

 だから、今回もそうした。



 男の出自など、どうでもいい。

 重要なのは彼が、老人たちにとって有用となるであろう技術、明らかなオーバーテクノロジーをもたらしたこと。

 金のなる木を、彼は運んできた。

 損か、得か。それこそが唯一にして、絶対。



「……権力者など、信用できん」



 知らないが故、彼の呟きに自分達をもが含まれていることに老人たちは気付かない。



「やはりこの世界にも、神が必要だ」



 この時点では老人たちは、彼のことをコントロールできるものと思い込んでいた。


 
 

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