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アム種_134_071話

Last-modified: 2007-12-01 (土) 15:57:43

第七十一話 自由よ再び



「グラディス艦長!!待ってください!!この任務は無茶です!!」



 ブリッジを出て一旦艦長室へと戻ろうとするタリアへ、アスランは食い下がる。



「この戦力であの黒い機体とやれと!?即刻中止を申し立てるべきです!!もう一度司令部に……」



 既に、ベルリン駐留軍はほぼ壊滅状態だという。

 かなりの大規模を誇る部隊ですらそれなのだ。

 今の、ムラサメ一機しかないミネルバとアークエンジェルでどうにかなるものではない。

 殆ど生身に近いジェナスやセラたちをあの化け物にぶつけろ、とでも言う気か?



「そんなことはわかっています!!でも、これは命令なのよ」

「……そ、それは」

「勘違いしないで。『フェイス』といっても、軍の命令は絶対……!!」



 ない袖であっても、振れと言われれば振るしかない。

 アスランとて、それはわかっている。だが、これではみすみす死にに行くようなものではないか。



「機体がないのも、重々承知よ。けれど──」

「しかし!!これでは!!」

「機体なら、あります」



 二人のやりとりを遮り、静かな声が背後から届く。



 振り向いたそこには、キラがいて。



「機体なら、あります。もう一機」

「ある、ってお前……」

「ムラサメは、アスランが使って」

「まさか!?お前ひょっとして」



 詰め寄るアスランに、キラは頷く。

 そして、一言。



「僕は、スカイグラスパーで出る」

「おまっ……正気か!?」



 自身の想像が正しかったことを知り、彼は親友の肩を掴んで、激しくゆすった。

 それこそ、自殺を志願しているようなものだ。

 MSですら一撃で撃破する機体を相手に、旧式の、しかも脆弱な装甲しかもたない戦闘機で挑むなど。

 大体、キラはいままで殆ど戦闘機など乗ったことはないはずだ。



「大丈夫。昔、少しだけどムウさんに教わった」

「そうじゃないだろ!!無茶にもほどがあるぞ!!」



 言い争う少年二人に、タリアも困惑の表情で推移を窺うしかない。

 無茶を言っているのはキラのほうだとわかる。

 だが、少しでも戦力は欲しい。

 いずれにせよ、出撃はせねばならないのだ。

 命令が出ているのだし、友軍や罪のない一般人がやられていくのを、黙って見過ごすわけにはいかない。



「か、か、艦長!!」



 と、そこへ。

 ブリッジから泡を食ったアーサーが転がり出てくる。



「どうしたの?」

「き、基地管制塔からの連絡で───……」



 さっさと出撃しろ、か?

 それとも、なにか別の緊急事態か?



 だが残念ながら、彼女の予想は外れる。



「ミネルバ隊への補充機体を積んだ輸送機が到着するから、受領次第発進せよとの命令が!!」



 まぎらわしい言い回しをした彼を、タリアは思わず次の瞬間、おもいっきり殴りつけていた。







−ベルリン市街−



「……ふん」



 瓦礫と化したビルの上から、自らの指揮するバイザーバグの部隊を俯瞰し、ディグラーズは気のない溜息をついた。



 よくもまあ、これだけの数を揃えたものだ。

 あのようなつまらぬ人形を。



 顔をあげた先には、あの金髪の小娘の乗る──デストロイと言ったか──黒い機体が街を破壊し続けているのが見える。今ではもう、ザフトの攻撃は散発的だ。

 護衛に周囲を飛ぶ、緑と赤紫の二機。

 そして、壊滅した街を、バイザーバグの編隊が制圧する。



 作戦としては、間違ってはいない。人道的には問題があれど、合理的ではある。



 しかし。ディグラーズはどうにもつまらなかった。



「でてこい、ジェナス・ディラ……このようなくだらん戦いのために俺はいるのではない」



 このように戦わぬ者たちを一方的に叩き潰して、何が楽しい。

 強者を叩き潰してこそ、その力に酔うことができるというのに。



「くだらん……ん?」



 彼が再び溜息をついたとき、見慣れた二隻の艦の姿が、空の向こうにみえた。



「来たか」



 そして発進した一機のMSが、同時に五体ものバイザーバグをこの世から、消滅させた。その機体は───蒼い、二対の翼をその背に持っていた。







『キラ、本当にいいのか』

「───……うん」



 機体の感触を確かめるように、操縦桿を握り、撫でる。



 間違いない、この馴染むような感じ。

 まさに、あの機体。二年前と、なんら変わらない。



『……わかった。正直、お前が頼りだ。ムラサメではどこまでできるかわからない』



 絶対的な火力も、機動力も。あの化け物が相手では役に立つかどうか。

 親友の言に、キラは頷き返す。



 もう、二年前のようなことはさせない。

 オノゴロの戦いを。シンの慟哭を。彼から浴びた怒りの拳を、思い出して。



「僕がまだ、お前にふさわしいとは思わない」



 お前のもつ、その名前に。自分はまだけっして、相応ではあるまい。



「けど、今は」



 シンの紅い瞳。憎しみと悲しみの同居する眼光が、閉じた瞼の裏に浮かぶ。



「今は、力を貸してくれ」



 もう二度と、彼のあの目を、生み出さないためにも。

 今度は生み出さない、お前にけっして生み出させはしないから───……!!



「フリーダム。いや」



 その故郷において新たな力を授かった、生まれ変わった自由の翼。

 自由を求め、「闘い、打ち破る」ための力。



「“ストライク”フリーダム」



 新たなる鋼の天使が、背中の蒼き翼を広げ空を舞う。



 マルチロックオン。弾けた種子の破片が、脳裏に散る。

 両腕、腹部、両腰の銃口、砲門が輝いた。



 それぞれは、それぞれの向けられた方向へとまっすぐに飛んでいき。



 逃げ遅れた親子、金髪の少年。あるいは負傷し取り残された兵、

 その看護師や何も知らぬ子犬へと襲いかかろうとしていたバイザーバグたちを焼き、蒸発させていった。







───同じ頃。



 ルナマリアが戦闘の様子をモニターする、遠く離れた病院の個室において。



 昏睡を続け指一本動かすことのなかったシンの瞼が、微かにぴくりと反応した。


 
 

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