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アム種_134_072話

Last-modified: 2007-12-01 (土) 15:58:01

第七十二話 ゴースト・ボイス



──赦してくれ。お前達を救えない、俺を。

 

 両断したバイザーバグから噴出する、脳を収めた培養液の噴出が、彼にとっては素肌を焼く硫酸だった。

 いや。素肌ではなく心だ。心が焼かれ、焦がされ。苛まれていく。



「ピープルを、守る……」



 セラが、ブーメランで切り裂き。

 ニルギースがモトバイザーからバーレスクで撃ちぬいていく。



「なのに俺たちはお前らを……守れなかったんだ……」



 こうなる前に、なんとかできなかったのか。

 いや。そもそも自分達が。あの男がこの世界にこなければ……!!



「せめて、俺たちが……俺たちが楽にしてやるから……!!」



 心を軋ませながら。

 ジェナスは6機目のバイザーバグを、切り捨てていった。







 目覚めた世界は、不思議な色に包まれていた。

 辺りを見回しても、なにもない。上下感覚すらあやふやなそこは、わずかに宇宙に漂う感覚にも似ていた。



「ここは……どこだ?」



 状況が掴めず、シンは呟いた。

 自分は、どうしてこんなところにいるのだ?

 レイや、ルナマリアは。キラやアスラン、ジェナスにセラは?

 それに、インパルスは───……



「!!」



 そう、だ。

 自分は、インパルスで奴らに……あの部隊に戦いを挑んで。負けて。



「ステラが、敵だったなんて」



 あの声は、あの叫びは。間違いなくステラだった。

 彼女は自分をかばって、それからどうなったのだろう?

 いや、それ以上に。



「俺は……ステラを殺そうとしてたんだ」



 守る、などといっておきながら。

 その実、敵として、幾度となく。



 アーモリーワン、デブリ帯、ユニウスセブン。地球に降りてからも、何度も。

 知らなかったから、で済ませてしまえればよかった。

 けれど、もうそうはいかない。



「また……戦うのか、俺は。ステラと」



 そんなの、できるわけがない。この手にステラをかける。あるいは、ステラの手を、自分の血で汚すなど。



『よお、悩んでるみたいだな?』

「!?」



 頭を抱え悩み苦しむ彼は、突如としてかけられた声に、びくりと怯えたように恐る恐る振り向く。



『よかったら、話してみないか?』



 そこにいたのは、顔立ちの整った。緑色の服を着た、一人の男であった。







「っく!!ビームは弾かれる!?なら!!」



 陽電子リフレクター。あるいはビームシールドか。

 一撃、ビームライフルを放ち判断したキラは、腰のレールガンによる砲撃に切り替える。

 しかしそれも、黒い巨体の前に出現する光の壁によって阻まれ、そこで爆散する。

 弾かれて街に被害を出すビームよりはましだが、決定打とはなりえない。



『キラ!!接近できるか!?援護する!!』

「やってみる!!」



 二丁のビームライフルを、腰へ。かわりにサーベルを引き抜き、ビームの弾幕の合間を縫って接近を試みる。

 この火力をこれ以上、街に向けさせるわけにはいかない。

 機体を上空高く、舞い上がらせて。



「この……邪魔、しないでくれっ!!」



 右の砲塔へ斬撃をたたきこもうとしたところを、紫のウインダムに妨害される。

 あと、もう少しというところで。

 アスランが即座にビームを乱射して牽制するものの、彼もカオスと性能の劣るムラサメで乱戦を演じており、完全に追い払うには至らない。



 なにより、この絶え間のない膨大な量の弾幕に、息つく暇もないのだ。

 鉄壁の防御に、止むことのないビームの雨。

 射撃、砲戦主体のストライクフリーダムでは相性の悪い相手だ。



「それでも!!」



 これ以上、やらせるわけにはいかないのだ。







『そうか、守りたいと思ってたやつが敵だった……か』



 バルドフェルドからシンのことを聞いたという男は、彼の話を何も言わず聞いてから、呟いた。



 ステラを、守りたい。

 ステラのような子を、助けたい。

 ステラと同じような子を、生み出させない。



 それらはみな、あの金髪の儚げな少女から始まっていた。

 軍に入った理由が家族を喪ったが故、力を欲した結果であるならば、今までシンが戦ってこれたのは、心の底辺にその土台があったから。



 その、もっとも根幹をなす部分が、脆くも崩れ去った。



『……ちっとばかし、つまらん話をするか』

「え?」



 自分の内面に関わることだというのに、シンはこの男に語ることについてさほど抵抗を感じなかった。

 バルドフェルドの名を彼が出したからかもしれないし、あるいは、この今自分がいる場所のもつ、非現実感からかもしれない。



『昔、な。一人の男がいた。そいつは……言ってみれば道化だった。だが、戦わなければならない立場でもあった』

「道化?」

『聞いてろ。……そいつには、心を許せる仲間がいた。常に自分を導いてくれる女性がいた。

 彼女がいたからこそ、その男は成功を収め、彼女に向かっていけば常にうまく行くと信じていた』



 道化が、戦う?変なことを言う男だと、シンは思った。



「……」

『だがあるとき、男とその女は、離れた。仲間もどこかに行ってしまった。

 そして再会したとき───……女は、男に前に敵として現れた。かつての仲間達と共に』

「え?」

『ほんの少し前まで、隣にいた連中に命を狙われるんだ。仲間だと、信頼していた人間に。

 本心からいえば、戦いたくなどなかったろう。逃げ出したほうが男にも楽だったろうよ。

 でも、男は戦った。自分の命が、奪われるまで。何故だと思う?』



 男に尋ねられて、シンは答えに詰まった。

 仲間と、したくもない命のやりとりをして死んだ男の考えたことなど、わかるはずもない。

 わかるのは、目の前の男がこの話を通して、自分になにかを言おうとしていること。

 そして自分もまたこれからさき、ステラと戦うことを望んでいないということだった。



『そいつはな。「止めたい」と思ったんだよ。仲間たちや、自分を導いてくれた女性が、

 道を踏み外そうとしているのを。自分の手で、なんとしても』

「止める───……?」

『ああ。大事な仲間だからこそ、止めたい。それが男の戦う理由だった』



 言い終えて、細身の男は立ち上がった。

 話はこれで、おしまいということだ。



『お前が戦う理由……もう一回、考えてみな。じゃあな』

「あ、あの。ちょっと……!!」

『ジェナや───セラによろしくな。ファインに決めろ……ってな?』

「あ、あんたは一体───!?」

『憎しみに捉われるなよ?止めるほうが頭に血を上らせてちゃ、意味がない』



 男の姿が、世界を包む様々な色をした靄の中に、かき消えていく。

 彼の話に、一体どんな意味があったというのだ?一向に掴みきれぬまま、伸ばした手は彼の後姿に届くことはなく。



「───シン!?」



 代わりに掴んでいたのは、ルナマリアの右手。



「……ル、ナ?」



 見開いた目が、覗き込む彼女の顔を確認し。

 ようやく彼は、自分が今目覚めたのだと知った。







「あれは……フリーダム!?」



 ルナマリアから、大筋の事情を聞き。

 彼女の見守っていたモニターに目を向けて、シンは驚愕する。

 白い身体。蒼き翼。連合のやつらとも違う、あの二年前の機体が、空を舞っている。



「後継機だそうよ。ノワールが壊れたから、キラさんが代わりに。アスラン……隊長もムラサメで出てる」

「たった、二機で!?あんな化け物を相手にか!?」



 極太のビームが、フリーダムのいた空中を薙いでいく。まるで、象に人間の子供が立ち向かっていくようにしか見えない。



──俺が。俺があの時、勝手な行動をせずにいれば。インパルスもセイバーも、ノワールも健在で、

 バルドフェルド隊長だって死ぬことはなかったはずなのに。



 包帯に覆われた拳を、握りしめる。



「……?」

「ルナ?どうした?」

「いや……変なの、フリーダムの動きが」

「え?」



 言われ、再びモニターに目を向ける。



「遮蔽物のある街を利用しながら戦ったほうが、やりやすいはずなのに……。

 上空から、降りようとしないの。あれじゃ的にしてくれって言っているようなものだわ」

「!!」



 確かに、フリーダム……ストライクフリーダムは、上空を飛び回るだけでけっして街には降りなかった。

 撃ってこいとでも言うかのように。空中を飛び回り、ひたすらビームを避け時折、ミサイルの流れ弾を迎撃する。



 そして、シンにはすぐにその意図が理解できてしまう。



(キラは……「あの時」のことを、繰り返さないために……!?)



 シンが家族を喪ったときのように、万が一にも砲弾やビームが市街地を襲わないように。

 MAの放ったミサイルを、反撃もせず全てに優先して撃ち落していることからも、間違いない。



(キラ……あんたは……!!)



 行かなければ。

 彼を望まぬ機体に載せ。苦しい戦いをさせているのは、自分なのだから。

 画面の隅に映るカオスを見て、その思いは一層強くなる。



「あれ、は」



 敵が、あの部隊ならば。ステラもいるかもしれない。



 ならば彼女を「止めなくては」。

 守りたい存在だからこそ、彼女を。この手で、止めなくては。



 仲間達を助け、大切な少女を止める。

 シンの心と身体を衝き動かすのに、これ以上の理由はいらなかった。


 
 

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