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アム種_134_088話

Last-modified: 2007-12-01 (土) 16:05:14

第八十八話 僕たちの行方



――月面、自由都市・コペルニクス三番ドック――



 かつてはそこにあるのが当たり前であった小型戦闘機──コアスプレンダーが、

 ミネルバへと搬入されていく。



 クレーンで吊り上げられた機体を、シンとルナは並んで見守る。



「上手く使えるかなぁ、あたしに」



 ようやく機体が増えたのはいいことだが、果たして自分に扱えるか。

 自分がシンやレイに比べ一枚落ちるということを自覚するルナマリアはぼやく。

 元気づけるようにシンが肩を叩くが、いまいち効果はない。



「大丈夫だろ。シュミレーター、いい感じだったじゃん」

「んー、でも実戦とは違うし。しかもデスティニーシルエットって、殆どデスティニーと同じなんでしょ?」

「心配しすぎだよ、ルナは。レイだってうまくやってただろ?」



──だから、それがプレッシャーなんだってば。



 次からはインパルスが二機体制となる。

 同じ機体である以上、明確にパイロットの差が出てくるのだ。



 まだ扱いやすいムラサメに替えてもらうか。いや、それも無理だ。

 どうせアスランやタリアから、「赤服なんだから使いこなせ」と却下されるのは目に見えている。



「……って、そういえばレイは?」

「ん、ああ。ブリッジに呼ばれてったけど」



 多分プラントでの出来事と、今後のことだろうな。

 しれっと言ってのけるシンは、彼女の気持ちには思い至らないようである。



「……何、睨んでんだよ」

「いーえ、別に。せいぜい壊さないように頑張るわよーだ」



 もし、ステラが回復したとして。

 この鈍感男との間はどうなることだろうか。



 きっと、前途多難なのだろう。







『……俄かには信じ難いことではあるな、それは』



 通信は、オーブと繋がっていた。アークエンジェルが国を出立する際、

 ユウナの用意しておいた非常回線によって。



 一時はオーブとアークエンジェルとの繋がりが残っていることを

 快く思わず、疑いかけたこともあったが、今となってはタリアはそれに感謝していた。

 プラントという後ろ盾がなくなった以上、自分たちにとってはこの国との繋がりのみが

 最後の生命線であるのだから。



『あの突然の地上へのビーム攻撃と……新議長の誕生は知っていたが』



 金髪の少女はブリッジの面々を見回すようにしながら呟いた。

 通信越しでも、驚いているというのがわかる。



『最高評議会そのものが失われ、独裁体制が敷かれているとは……な』



 ミネルバのブリッジには、タリア、イザーク。

 マリューの代理としてノイマンがそれぞれの艦の代表者として集まり。



 オーブのカガリと彼らへの説明に立つラクスとレイに、視線が注がれている。



『それで?どうする気なんだ、一体。先日の声明に対する対応はこちらでも検討中だが』



 地球上では大西洋連邦を無警告に焼き払ったプラントに対し、非難の声も多く上がっている。

 と同時にその威力の前にプラン導入もやむなしという声もある。



 ガン・ザルディの恫喝に、世論が二分されている形だ。

 各国は今のところ被災地の大西洋連邦への救援優先を盾に、回答を出してはいないが。

 プラントが業を煮やす前に結論を迫られている。



「レクイエム……あの巨大砲台を破壊し、プラントを取り戻します」

『だが、どうやって。先程の話が確かならザフト本隊は動けまい。地上も最大勢力の大西洋連邦が潰されては戦力・政治力共にに乏しいぞ。話し合いに応じる相手でもないだろう』

「……カガリさん、あなたにお願いがあるのです」



 だが、現状は打開せねばならない。

 ラクスは旧知の彼女へと、深々と頭を下げ、言った。



「私に……発言の場を頂けないでしょうか。プラントに。いや、世界に向けて真実を発信する場を」







 鉄拳が、頬にめり込んだ。



「お、おいジェナ!?」



 更に、もう一人別の相手にもう一発。

 二人は倒されることもなく、歯を食いしばり踏ん張って、その場に耐えている。



「一体どうしたってんだよ!?ダークさんたち殴るなんてよ!?」



 一人状況の飲み込めないラグナが割って入ろうとする。

 しかしその肩はニルギースに抑えられる。そして、セラが彼に知らせる。



「……いいの。必要なことだから」

「はあっ?」



 周囲には、アムドライバーたちしかいない。

 ジェナスの頼みで、シンたちMSパイロット勢はアラートを既に後にし、人払いがされていた。



 肩を震わせた彼はようやく、言葉を搾り出す。



「ダークさん……あなたたちは……」

「……ああ。憶えてるよ。あのオレンジの機体。全部、憶えてる」



 もう一発。鈍い音に、セラもラグナも顔を顰めた。



「話を」

「……ああ。どこから話そうか。お前達に回収されたところからでいいか」



 ダークは切り出して、壁にもたれかかる。



「あの戦闘で墜とされて……お前達に回収されて。プラントか?送られて、薬物除去の治療を受けた」



 それと同時に、催眠療法を使って記憶の復元も試みられ。

 果たしてそれは成功した。



 記憶が戻った──その言葉を聞いたニルギースの肩が、ぴくりと動く。



「けどな……それまでやってきたことを忘れることができるほど、都合よくはなかったんだな、これが」



 気がつけば、ベッドに寝かされていたことも。

 薬と刷り込みによって、戦わされていたことも。



 もちろん自分たちが仲間たちと戦い、立ち塞がった者を殺めたことも。



 何ひとつ忘れることなく、全て記憶のうちに残っていた。



「……それで、どうするつもりなんです」



 セラの問いに、ダークは俯いた。考えるような仕草で。



「……俺達は、アムドライバーとしてやってはいけないことをやってしまった。そして、お前達も」

「俺達が……?」

「わかってないわけじゃねえだろ。お前達自身はやってなくとも、既に俺たちもお前達も、人の死を見過ごしてるんだ」



 MS同士の戦いでの犠牲。

 それからけっして目を逸らしていたわけではないが、人間同士の戦闘。

 殺めては殺められ。その繰り返しを戦いの中、ジェナスたちも見てきている。



 命のやりとりをしている仲間達に殺すななどと、言えるわけもない。

 自然、見過ごさざるを得なかった。また、慣れてきてしまっていた。

 その数は元の世界の戦争……バイザーバグが主力兵器であったそれとは桁が違う。



「それは……」

「別に、それを引き合いに出してチャラにしようってわけじゃない。だがな、そう思って色々考えたんだよ」



 自分たちがこの世界に、この世界でやってきたこと。

 これからこの世界のために、やれることが何であるかを。



「本来、俺達はこの世界にはいない人間だ……。そんな俺達がこんなにも割り込んじまってる」

「ダークさん」

「だったらきっちり最後まで、面倒見るのが筋じゃないか、ってな」



 この世界に生きるピープルたちのため。

 異なる世界の住人でありながらこの世界の戦乱に加わった者として最後まで見届け、ピープル達の暮らす世界を少しでも本来の道に戻さねばならないのではないか。



 アムドライバーとは、ピープルのために戦うものなのだから。



「それで、あの艦に?」

「ああ」



 ガン・ザルディの更なる暴走を止めるために。

 自分たちはかつて彼のした行為を知っている。そして、その本質は変わっていなかった。

 更なる取り返しのつかない犠牲が出る前に、彼を止めなくてはならない。迷惑をかけた分は、取り返す。



「それが、俺達なりのこの世界への……落とし前だ」



 ダークの言葉に、タフトも深々と頷いた。







「意外だな。反対するかと思ったんだが」



 ラクスとの通信を終えたカガリが、言葉を投げた。



 既に実権はなく、彼女の相談役としての役目のみを全うする男は彼女の言葉に微笑む。



「……そんなことはないさ。オーブにとってマイナスでなけりゃ、反対はしないヨ」



 ウナトの死後、彼がロゴスであった責任をとり(対外的には「とらされる」形で)、

 息子であるユウナは閣僚を辞任していた。

 それは彼自身がカガリに申し出たことであり、カガリはそれを受け入れ彼を罷免した。



 今の彼はカガリから情勢の相談を受け、アドバイスをする程度の立場でしかない。



「しかし、あの歌姫もよくやるもんだね。前回は艦隊を率いて、今回は……」



 オーブにおいて、現プラント政権の糾弾とともに臨時評議会の樹立宣言を行うつもりであるなど。

 親オーブ政権が生まれることは望むところであるし(無論彼女たちがプラントを取り返すことが前提だ)、

 再三再四返事を求めてくるあの巨大砲を使った恫喝を跳ね除ける口実になるから、こちらとしては良いのだが。



 地球と、宇宙。プラントの内と外を彼女は、纏めようとしている。



「……戦争になるよ、カガリ」

「ああ……わかっているさ」



 そうした場合地表への直接攻撃を行った現政権の性格からして、衝突は避けられまい。



「ま、いつまでもあんな物騒なもの向けられてちゃ、交渉もおちおちできないしね」



 近く、開戦するだろう。決戦の場は、宇宙。

 地球に向けられた脅威の排除を、その名目として。


 
 

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