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ウルトラマンアスカ第00話

Last-modified: 2008-01-05 (土) 02:46:28

戦いは終わった。
 全ての物はラクス・クラインの軍門に降り平和が訪れた。
 それについての是非は問わない。何故ならばそれはどうという事ではないからだ。
 彼女が人類のリーダーとなったとしても、彼女がリーダーシップを発揮する事が出来ないのは周知の事実だ。
 指導者が無能なのは美徳である。
 有能な指導者程世界を改革せんと躍起になり秩序を破壊し、秩序を破壊した事による歪みによって滅びる。
 例をあげると、ギルバート・デュランダルなどは無駄に有能であった為に身を滅ぼした事象の好例である。
 その点、無能な指導者は何する事なくただ君臨するのみ。
 君臨する為に君臨するだけであって誰かが損失を被る訳ではない。
 莫大な富を浪費して無駄に争いをするという事はこの上ない罪悪である。
 自分を上等な有能な指導者だと思い込んでいる下等な指導者ほど権力を振り回して国家に損失を与えるものだ。

 

 故に、下等の有能な指導者は上等の無能な指導者に劣る。
  クライン政権は多数の問題を抱えているが、一番の問題は軍事関連の問題である。
 平和になったのだから軍隊などは必要ないが、軍を解体するという事は多数の失業者を生み出し、更には軍需企業を涸渇させる事にもなる。
 そうなれば多額の予算を消費して失業対策をしなければならないのだ。
 その問題の解決をせんと議会が踊り足踏みをしている時、ラクス・クラインの他愛なき呟きが解決の道を作った。

 

「宇宙怪獣から地球を守る為の部隊を作ったら良いと思いますわ」

 

 普通に考えると一笑されて破棄される提案ではあるが、政治の世界は一切の常識が通用する埒外の世界である。
 提案者が稀代の無能、ラクスならば尚更である。

 

「宇宙怪獣に備える軍隊ならば恒久的に組織する事が可能であり、鯨石という存在がある以上宇宙怪獣の存在は否定出来ない」

 

 議会の総意は帰結し対宇宙怪獣特別部隊は結成された。 それを認可する為の法案を通す為にある産業に従事する企業団体が多額の献金を行った事は些細な事であり語るに足らない事である。
 対宇宙怪獣特別部隊は通称として提案者であるラクスの名を拝領してラクシズと呼ばれる事となった。

 
 
 

 シン・アスカは我が目を疑った。
 有り得ないモノ、あってはならぬモノを見つけてしまったからだ。
 それはシンが駆るデスティニーよりも遥かに巨大であり、太古の恐竜にも似たフォルムを持っている。
「バ、バケモノ……」
 シンの感想は的を射ている。それは地球外から来訪した生物に他ならないからだ。
 シンはその巨躯の持つ圧倒的な迫力に気圧されて指一つ動かす事が出来ない。
 本来ならばラクシズの一員として宇宙怪獣発見の報を本部に送らなければならないのだが、思考が止まってしまったのだ。
 宇宙怪獣はデスティニーを一瞥すると気にもかけずに悠々と進んで行く。その先には碧き宝石にも似た地球がある。
 自分が動かなければ地球が危ない。
 そう思った刹那、シンの中で何かが弾けた。
 吠える様に叫ぶとデスティニーを宇宙怪獣に向ける。自分の持てる限りの力で愛機の性能を限界まで引き出した。
 が、シンが出来たのはそこまでだった。
 高速で飛来した赤い光球に跳ね飛ばされてデスティニーとシンは共には宇宙の藻屑、否、星屑となった。
 宇宙怪獣はシンの死などを気にもせずに地球へと進んで行く。
 宇宙怪獣にしてみればその様な事は気にかける事の必要ない些細な事に過ぎないのだ。
 ただ、赤い光球だけは注意しなければならない存在であるとは本能的に感じてはいるのか光球から離れようとその速度を上げて逃げる様に進んで行った。

 
 

 暗闇の中、自分の体が冷たくなって行くのを感じる。
 何が起きたのかは分からないけど、ここままだと死ぬという事は解った。
 否、もう死んでいるのかも知れない。
 頭に靄がかかり視界が暗くなって行く。
 頭に声が響く。聞いた事のない言葉で俺に何かを言ってくる。
 混濁した思考の隅でかつて見た地獄の記憶が蘇る。
 無数に散らばる屍。漂う死臭。
 地面に転がる伸びた血で濡れた小さな幼い手。
 吐き気がする。頭が痛い。心臓が激しいリズムを刻む。
 力が欲しい。力が欲しい。欲しい。

 

 ――守る為の力が欲しい――

 

 赤い光が俺を包み込む。目を開けると光の巨人が俺を見下ろしている。 俺はその巨人に告げる。

 

 力が欲しい。

 

 全身から力が抜けて軽くなる。死を覚悟する。否、出来ない。俺はこんなところで死ねない。

 
 
 

 俺には守りたい物があるんだ。
 ――力が欲しい、死にたくない――

 

 意識が途切れ途切れになっていく。
 手放したら終わりだ。死ぬ。
 頭がぼんやりとしていく。 ただ、一つの言葉が聞こえる。
 ――ウ…ト…マ…――

 
 

 シンが目を開けると眩しい光が目に入った。目を細めて周囲を見回すと、そこが医務室である事に気付いた。
 体を動かそうとすると節々が鈍く痛む。痛みがあるという事はまだ生きているという事だ。
 僅かばかり安堵すると自分の物ではない呼吸音が聞こえた。
 呼吸音と言うよりは鼾に近いそれはシンの癇に触る。音のする方に視線を動かすとルナマリアがいた。
 目の回りにはくまを作り、口許には涎が垂れている。鼻提灯が出来ていないのが女性としてのルナマリアに取って救いであるのかも知れない。
「おい、ルナ。起きろ」
 声を出すと喉に鈍い痛みが走る。しかし、ルナマリアは寝息を立てるだけで眠りから覚める事はない。
「起きろっ!ルナッ!」
 痛みを堪え大声を出すとルナマリアの瞳がゆっくりと開く。
 まだ覚醒しきっていない目でシンが起きているのを知ると、彼女はシンに思いっ切り抱き付く。
「良かった……生きてたのねっ!!」
 ぎりぎりと締め付けられてシンは呼吸を遮られる。
 更にルナマリアの温かい体温とその体臭、柔らかい体をリアルに体感してシンは生きている事を実感する。
「はなしてくれ……このままじゃお前に殺されちまう……」
 力を振り絞り声を出すと、ルナマリアはそれに反応してはなす。
「私……シンが死んだかと……」
「どうにか生きてるみたいだ。そう言えばあのバケモノは……」
 シンの言葉にルナマリアはシンを手放して目を伏せる。
「今はジュール隊が出動してる。大丈夫だとは思うんだけど、もしかしたら私も出撃するかも知れない」
 シンが口を開こうとした瞬間、スクランブルがかかる。ルナマリアは顔を上げて反応する。
「ゴメンネ、出撃しなきゃ。シンは安心して此所にいて……」

 

 ――ダメだ。アレは半端な物じゃない。アレ相手にはMSなんて役に立たない。行くな、ルナ。

 

 止めようとしても声が出ない。ヒュウヒュウと息が漏れるだけだ。
 ルナマリアは慌ただしくない去って行き、シンは一人取り残される。
 静かになった医務室でシンは自分が何かを握り締めているのに気付く。
 

 
 

 ペンライトにも似た形ではあるが、シンはそれが記憶にない。
 記憶にない物を持っている事に訝しみを感じるが、それ以上に自分が生きている事が疑問でもある。
 確かに自分は死んだ。その感覚は今もなお不快感として残っている。
 一度死んだ自分が何故此所にいるのかが疑問である。
 取り敢えずルナマリアがいるという事はミネルバの艦内である事が分かる。
 医務室なのに医療スタッフがいないのは先の大戦の折に心ならずとも医療スタッフに暴行を加えた為に彼らに嫌われているから仕方ない。
 此所にいるという事は回収されたという事だろうが、死者を蘇生させる技術があるとは思えない。
 疑問は疑問を呼び起こしシンを出口無き思考の迷宮へと誘う。
 しかし、シンは迷宮の入口で立ち止まる。
 何故かは解らないがあのバケモノが存在している事が解るからだ。
 あのバケモノは半端な物じゃない。向かっていった物は間違いなく蹴散らされるだろう。
 それはルナとて例外では無い。
 ――ルナが死ぬ。
 去って行った彼女の姿を思い浮かべる。頬には涙の後があった筈だ。
 ――俺の為に泣いてくれたルナが死ぬ。 ――誰かが死ぬのは嫌だ。
 身体は動く事を拒否して動かず、痛みが増していく。
 しかし自分がいかなければならない。
 身体の拒否など関係ない。痛もなどは耐えればいい。

 

 シンはベッドから飛び降りると走り出した。
 ロッカールームで予備のパイロットスーツに身を包み、MSデッキに向かう。
 喧騒に包まれるMSデッキで出撃しようとしているルナマリアを見つけると駆け寄る。
「……ルナ。俺が出る」
「ハァ?アンタまだ戦える身体じゃないでしょ?」
 ルナマリアの鋭い眼光がシンを突き刺す。しかし、シンはその迫力に怖じ気付く事はない。
「お前じゃ無理だ。俺に任せろ」
 理屈などない。あのバケモノは自分でなければ倒せないと本能が告げる。
叫ぶルナマリアを無視してルナのザクウォーリアに乗り込む。
「シン・アスカ……出るッ!」
 叫ぶが反応はない。カタパルトも動かない。
 それはそうだろう。個人の自由が許される程ラクシズは甘い組織ではないのだ。
 

 
 

 舌打ちをするとシンは強引に機体を動かす。
 根拠はないが、解る。宇宙に出さえすれば後はどうにでも出来るという確信がある。 手に持っているペンライトの様な物がそう告げている。 やる事はただ一つ。機体を走らせて強引に宇宙に出る。
 後で始末書を書く事になっても構わない。減棒処分は困るが仕方がない。
 やらなければならないのはあの宇宙怪獣を止める事なのだ。
 止める事が出来なければそこで全てが終わる。
 それだけはさせない。
 この意思は鋼鉄の剣。何人足りとも触れる事は能わず、触れるならばただ切り裂くのみ。

 

 全ての覚悟を決めて飛び出し、コクピットを開けて宇宙空間へと飛び出す。
 ――そして、手にしたペンライトの様なモノを頭上に翳してスイッチを入れた――

 

 自分が自分でなくなる感覚。
 苦痛を伴い肉体が膨張する。
 フラッシュライトが放った光が霧散するとシンはシンではない何かへと変貌していた。
 一言で言えば巨人。
 赤と銀で彩られた肉体。
 胸に輝くカラータイマー。 叫ぶ言葉は。

 

 ――ジョワッ!――

 

 今此所に、M78星雲からやって来たウルトラマンアスカが誕生した。