Top > クルーゼ生存_第03話
HTML convert time to 0.006 sec.


クルーゼ生存_第03話

Last-modified: 2013-12-22 (日) 02:08:55
 

 ブレイク・ザ・ワールド、宇宙から落下したコロニーの破片は、地球の赤道中心に降り注ぎ、
多数の都市を壊滅させ、世界中を覆った津波による死者など、直接被害の累計をだすまで
かなり時間がかかるほどの被害だ。そして、小規模ながら「核の冬」が訪れる。気象学者
によると数十年単位での異常気象、それにともなう農作物の不作が予想された。#br
 赤道付近に位置するオーブは、思いのほか被害が少なかった。直撃がなく、津波に対し
てはもともと火山島であり徹底的なシェルター確保が行われているので、市民は速やかに
避難した。
 しかし、テレビで伝えられる世界の惨状を見るに、自宅に戻ったキラ・ヤマトの心は痛む。
宇宙育ちで映像でしか見たことがない人類の歴史が崩れていく。
 ただオーブの一医学生でしかない彼にできることは、津波のあとの瓦礫撤去のボランティア
くらいだ。
 だが心配なこともある。
 そこに母親が彼の親友、アスラン・ザラの来訪を告げた。大学の海洋学部に入り、
寮と学校、実習で船に乗る日常の彼と会うのは、三ヶ月ぶりだ。
 とりあえず、お互いの無事を祝いあう。
「本当に、アスランが無事でよかった」
 幼少期からの友達ゆえの秘めた言葉。アスランはそれをたがえず受け取った。
「ああ、大学の仲間と山のシェルターでテレビを見ていたら、あれだ。一斉に白い目が向
けられたよ、当たり前だが」
 よく日焼けしたハンサムな顔が歪む。実習でアスランの体力を知っているから、暴力行為に
至らなかったのだろう。Gに強く船酔いもしないコーディネーターは、宇宙開発だけでなく
海洋開発にも向いた体質を持っているのだ。
『我が娘の墓標。地球のナチュラルどもを焼き尽くすことこそ、娘への唯一の手向け。そ
なたらもコーディネーターならば、パトリック・ザラ議長の取った政策こそ、我らコーデ
ィネーターにとってたった一つの正しき道であったと知れ!』
 地球圏全てのテレビで放送された言葉。
 ユニウス7を安定軌道から地球に落下する軌道に乗せたのはザラ派のコーディネーター、
いくらザフトの兵士がそれを防ぐために戦い、犯人達の希望ほどの被害から地球を守ったとはいえ、
所詮コーディネーター同士の勢力争いに地球が巻き込まれた。こう思うのが地球住民の素直な
気持ちだ。キラですらそう思わなかったといえば嘘になる。
 だからパトリック・ザラの一人息子のアスランが、とりあえず五体満足で生きていてくれるだけで嬉しい。
 アスラン・ザラはヤキン・ドゥーエの戦いの後、プラント政府とオーブ政府、連合軍の
取り決めによって、ザフト軍籍とプラント国籍を剥奪された。そしてプラント政府からは
MSジャスティスの建造費とジェネシスの建造費、ジャスティスが破壊したMSや戦艦の建造費と
そのために戦死したザフト兵士への賠償金を、連合軍からは同じくジャスティスの被害にあった
人と物への賠償を請求されている。三隻同盟にオーブが加盟していたおかげで、オーブ国籍を
得て、返す当てのない賠償金の桁の大きさを考える日々である。プラントに
残った父の遺産を処分したが、そんなものでは賠償金額の利子一日分にしか満たなかった。
正規の軍に属して戦争をしている限り、装備は軍から貸与されるもので、その兵器で敵兵
士を殺しても、賞賛されることはあれ非難されることはない。しかし一旦国の枠組みから
外れると、すべてが自己責任になる。あれから二年たったが、アスランは自分の行動は間
違っていなかったと信じている。三隻同盟の行動によって、ザフト、連合の戦死者、民間
人の死傷者は減って、早く平和をもたらすことができた。ただ世の中というのは、そうい
う楽観的な数字で動くものではない。それをかれらに教えてくれたのは、アークエンジェ
ルの士官たちの行動だった。
 連合軍からの脱走艦アークエンジェル。大天使の名を持つ船は、戦争を終わらせるため
に三隻同盟の中核を担った。戦後連合はアークエンジェルの返還と乗員全員の引渡しをオ
ーブに求めてきた。オーブには、アークエンジェルを連合軍に返還しないという判断は、
一緒に戦場に出たカガリ・ユラ・アスハにしても出来なかった。
 そして乗員の引渡しに関しては、艦長マリュー・ラミアスが、「自分たち士官の命令に
沿って下士官以下の兵士は動いただけであり、実際自分たちは銃で威嚇して彼らを脱走、
三隻同盟で働かせました。加害者は艦長の自分以下士官であり、下士官および兵士たちは
脅迫された被害者であります」と主張した。
 そのときの連合軍の遺族連盟を中心とした非難中傷の嵐、ネット上にはアークエンジェ
ルヘイトサイトが乱立し、クルーを捕まえて虐殺するゲームのダウンロード数が億の単位を超えた。
 巻き込まれてアークエンジェルに乗って以来、苦楽をともにしたキラには辛いことだっ
たが、連合軍とオーブの間では士官のみ引渡しで決着がついた。カガリは泣いたが、大西
洋連合と近いセイラン家がこれからの連合への優遇を約束して下士官以下を助けての決着
だという。
 連合軍に引き渡されたアークエンジェルの士官たちは、脱走罪と反逆罪で処刑された。
非公開で行われた処刑のスナッフフィルムが堂々とネットに流出し、それに対して、連合
軍はなんの処置もとらなかった。
 母親が運んできたくれたコーヒーを飲みながら、渋い顔でキラが言う。
「ラクスは、アフリカにいると、一週間ほど前にメールがあったよ。大丈夫だろうか。バ
ルトフェルトさんと一緒だけど、あの髪は一目でコーディネーターだとわかるし、色んな
意味で有名人だし」
「アフリカはブルーコスモスの勢力は弱いし、バルトフェルト隊長のコネでなんとかなる
だろう」
 アスランはこう答えたが、彼はオーブに住むようになってから、ブルーコスモスの本来の姿、
環境保護団体としての活動を知り、近しくするようになっていた。
「ラクスは、僕にフリーダムをザフトから与えたこと、そして僕が殺した連合とザフトの
兵士の賠償金まで、自分で責任を負うって言って……」
 キラの声は、「僕が殺した」というところで震えた。彼にはいまだに二年前の大戦で自
分がモビルスーツパイロットとして、たくさんの人を殺したということを受け入れたくない部分が
あるのだ。人殺しをしたから今度は人助けをと、医学部に通っているが、ナチュラルの学生と
同じように6年かけて卒業する予定で、ゆっくり生活している。生きるか死ぬかの瀬戸際で
モビルスーツに乗ってしまったから、コーディネイトされた遺伝子がひとつ花開いた。でもそれ
以外の優秀な遺伝子が発現するのは、キラにとって恐怖でしかない。
「ラクスは、コーディネーターとナチュラルが別れて暮らし、いがみ合うのを止めさせたいと思って
行動した。父親のパトリック・シーゲルは遺伝子的適性で子供の出来にくいコーディネーター
二世代目のことを思って、相性のいいラクスとオレを婚約させたが、ラクスはラクスで、自分の
道を選んだ。ただそれには、プラント国民の税金と必死の努力で作られたフリーダム、エターナルの
強奪が必要だったんだ」
「ラクスは、エターナルだけじゃなく、フリーダムが出した被害まで、かぶってくれた。
『だって、わたくしが決めて、やりとげたことですもの。責任をとるのは当たり前ですわ』
って」
 可愛らしくて歌の上手いだけの婚約者だと思っていたが、劇場で自分についてきた警官
をラクスの手下のものが射殺したのを思い出すと、アスランの背に寒気が走る。
 キラはラクスに恋しているし、ラクスも同様に思えた。ただアスランにとっては、ラク
スはハロに喜んでいたプラントのアイドルでは、もうないのだ。彼女に罪を着せる気はな
いが、犠牲者を減らすためとはいえ、テロルに手を出し、先導した事実は消えない。それ
に乗ったのは自分なのだから。
 オーブに逃れた後、この地の音楽配信会社と契約し、歌を売っているラクスだが、最初
はコーディネーターのテロリストの歌姫とやらの歌を試し聞きする人間も多かったが、定
着した人気は得られなかった。それでも、自分の生の歌を聴いてほしいと、プラントでは
けしてしなかった巡業の旅に出ている。キラにとってラクスは現実の恋人だが、アスラン
にとってはもう思い出の中に住む少女だった。
「戦争に、なると思う?」
 キラの瞳が揺れる。ナチュラルとコーディネーターという二つの民族が殲滅戦争をした
愚行から、たった二年しかたっていない。とはいえ三隻同盟の横槍で終戦させられたと思
っている連合にとって、今回のコーディネイターによる地球への無差別攻撃は、いくらザ
フトが迅速に被害地に救援活動に向かおうと、開戦すべしという符号でしかない。
「連合は、一気にプラント壊滅作戦にでるかもな。彼らは突発的で、容赦がない」
 しかし前大戦でエースと呼ばれた青年二人には、自分たちの国オーブがどういう状況に
なるのか、まったくわからなかった。ただカガリが国家元首であるからには、オーブは連
合の圧力を受けようともナチュラルとコーディネーターが共存する国であり続けるという
ことだけは、信じられた。

 
 

「私、プラント議長ギルバート・デュランダルは、地球連合軍の核攻撃への対処として、
積極的自衛権の行使を宣言するものであります」
 地球圏全てに流された放送。ユニウス7が地球に落下したことへの報復として、地球連合軍は
プラントに向かい大量の核ミサイルを撃ち込んだ。核技術に関しては地球より進んでいるプラントが、
もしもの時のために開発していたニュートロンスタンピーダーが役割を果たし、一気に戦いを
決めようとした連合軍の意気をくじいた。
 そしてこの宣言と同時にザフトは動き始め、プラント本土の防衛、月のアルザッヘル、
ダイダロスの両連合基地に宇宙軍が向かう。月を含めた制宙圏の確保が、プラント防衛の
第一歩である。連合軍の基地を落とすのが理想だが、連携をとれなくして月面にはりつければ、
戦略的意義は失われる。あとは地球から上がってくる戦力との戦い、そして宇宙へ
新たな戦力を投入させないため、ザフト軍地上部隊の戦いが要となる。
 そのシミュレーションは幾百通りもできていたし、優秀な参謀が今も変化する状況に
あわせて対応している。
 デュランダルは、そういった打ち合わせを終え、自室に戻った。
「また戦争か。まったくヒトとは愚かな生き物だ。大地溝帯からヒトの先祖が出た日は、
永遠に呪われてあれ」
 まったく自分の物のようにリクライニングチェアでくつろいでいた青年の声。
「その原因のひとつは、君も噛んでいるだろう。ドラグーン使いでなければ、あれは
できなかったのだから」
 デュランダルは自分の椅子に腰掛けながら言う。
「情に狂った哀れなザラ派か。単純な連中は馬鹿すぎてつまらん。まあ、一アースダラーの
賠償金も返す気もなく、オーブで気楽な学生生活を送っているザラの息子とコンタクトを
とるほどには、愚かではなかったが」
 青年はくるりと椅子をデュランダルに向けた。ザフトの隊長職を
現す白服の襟元には議長直属の特務隊フェイスの徽章。しかし大胆にも上着は袖なしに
改造され、下も本来はゆったりしたシルエットなのだが、肉体美を強調する細身のものに作
り変えられていた。
「元部下に対して手厳しいな、ラウ、いやニノ・アレッシィ隊長」
 大きな黒いサングラスで顔を隠した小麦色の肌の金髪の青年だった。
「タンニング、そしてフレグランスも変えたのか。確かに別人には見えるが、髪の色は?」
「毛染め剤は匂いがきついので染めていると気付かれやすい。トワレはもちろんシャンプー、
石鹸、歯磨き粉まで変えて化けているのだよ」
「君に行ってもらう船には、以前の君と直接の面識があるコーディネーターはいない。
嗅覚を強化されているのは、厨房のスタッフだけだ」
「コーディネーター、か」
 アレッシィと呼ばれた男は片頬で哂った。そして立ち上がる。
「まあいい。ギルバート、キミの考える理想の世界の実現の始まりだ」
「好きに動いてくれてかまわんが、要観察者の報告は密にほしい」
「SEED因子か。キミの好きな遺伝子にまたやっかいな要素が増えたわけだ。
地球にはジャンク屋ギルドと繋がった怪しい宗教家までいる」
 ほとほと呆れたというように、手を広げてみせる。
「SEED因子の正体を掴んだものが、人類の将来を左右する可能性は非常に高いのだよ」
「そのSEED因子が人間の愚かさを拭い去り、進化させるものだとでも思うのかね?
それこそ時代錯誤の宗教屋と変わらんぞ」
 デュランダルの秀でた額が曇る。
「確かにこれまでのSEED因子を持っていると思しきものは、エゴイズムの塊のテロリストに目立つ。
要観察者をまともな軍人に育てることができるのは、君しかいないと思うのだよ」
「口で言うだけなら、いくらおだててもただだ。キミもすっかり政治家になったものだ」
 アレッシィは喉の奥で笑った。
「まあいい。明日、カーペンタリアに降り、ミネルバのモビルスーツ隊隊長として赴任す
る」

 
 

 またもや地球連合とプラントは戦争に入った。宇宙での戦闘、制宙圏争いはザフトが優
位に進めていた。ただ二年前のニュートロンジャマーによるエネルギー危機、そして今回
のブレイク・ザ・ワールドによる被害があっても、地球連合軍が物量でプラントを圧倒する
という図式は変わらない。
 ザフトは連合軍が宇宙に戦力を送れないようにマスドライバーを確保したかったが、二
つの基地しかない状況では、宇宙からの降下作戦頼みである。ただそれもカーペンタリア
とジブラルタル、この二つの基地を死守しないことには、はじまらない。
 地球降下のあと、ほうほうのていでカーペンタリアに逃げ込んだミネルバだったが、
修理を終え、新任のMS隊隊長を本国から迎えて、連合からの防衛戦に参加することになった。
 カーペンタリアのある大洋州はプラントとの貿易関係が密なので、背後から撃たれる憂いは
ほぼ100%ない。しかし太平洋の中立国、オーブは連合軍と同盟を組んだ。ヤキン・ドゥーエでの
三隻同盟が連合にもたらした被害に関して、テロリストのプラント人たちに国籍を与え、
連合軍からの脱走船アークエンジェル乗員のうち、士官しか引き渡さなかった。
 次に何かあったときには、連合軍に付きますとの言質がなければ、もう一度オーブが戦火
に焼かれていただろう。脱走艦やテロリストが戦場の戦況を左右したなど、近代戦争史の
恥だと、連合軍幹部は考えたし、連合加盟各国の国民も、オーブに不信感を持った。
 元々中立国であるがゆえに、国営企業で兵器開発、製造を行い、プラント以外の地球各
国に輸出していた。コーディネーターもナチュラルも差別しない国というのも、優秀なコ
ーディネーターを自国の企業で労働させるためと冷めた目で見ている人も多い。
 『平和を愛する南国の楽園・オーブ』というウズミ・ナラ・アスハが作った虚像は、彼
の死とともに潰えた。テロ支援国家として連合に目を付けられたオーブは、自国の独立を
守るために、連合軍に同盟して艦隊をカーペンタリアに差し向けていた。
 オーブの理念、「他国に侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介入せず」とある。
しかし三隻同盟に加盟したことは明確にその理念に反していたし、更に戦後処理でその仲間を
カガリ・ユラ・アスハ代表が個人的感情から守ったのは世界中に知られている。
 オーブは二年前のツケを払わされている。
 それは志願兵として空母タケミカズチに乗り組んだ、キラ・ヤマト三尉にもわかっていることだった。
ザフトからラクス・クラインとともに盗んだフリーダムのパイロット、罪は首領のラクスがかぶって
くれたので暢気に学生生活を送っていた彼だが、自国の危機に、モビルスーツに乗れるという
特技を生かして志願した。腕は衰えておらず、軽量で小回りの利くムラサメを実戦で乗りこなす
技量があると認められての実戦配備である。キラにとっては、友人のアスランが志願しなかったのは
少々不思議だった。ザフトからの脱走によりプラント人としての権利を剥奪されて、オーブ人として
生きていくより仕方のない彼である。志願することによって、オーブへの忠誠とカガリへの感謝を
示すだろうと思っていたが、彼はそれをしなかった。大学も休んで、オーブの昔ながらの生活をする
漁村に住み着いているらしい。親友、だが生き方は別れてしまった。いや、あの幼年学校の
卒業式の日に、彼らは違う道を歩み始めたのだ。

 
 

【前】 【戻る】 【次】