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クルーゼ生存_第05話

Last-modified: 2013-12-22 (日) 02:10:43

 連合軍も夜戦の準備はしていたが、先に仕掛けたのはザフトだった。インパルスの活躍
で連合軍艦隊の数は減っている。当初の目論見、カーペンタリアを落とすのは不可能。地
球軍の参謀達は、どのタイミングで撤退に入るかを協議していた。
 しかしその間も砲撃は続き、命は失われていく。これが戦争だ。
 シンへの命令は変わらず、中央を切り開けというものだった。
 暗視の利く遺伝子を持ったシンにとって、夜戦も昼間も別に変わりはない。ナチュラル
の兵士はモニターの光度を上げ、レーダーに頼って戦うので、ベテランと新米でかなりの
差が出る。気を抜くわけではないが、自信を持って戦っていたところに、隊長からの通信。
「インパルス、9時方向に動きのいいムラサメがいる。あれを落とせ。フリーダムのパイ
ロットが乗っている」
「!!!!!」
 シンは了解の返事もせずに、インパルスを9時方向に向けた。フリーダム、二年前のオ
ーブ戦で彼の家族を殺した白い悪魔、そのパイロットがこの戦場にいるというのか。なら、
倒さねばならない、いや、倒すのは自分の権利であり義務でもある。これまで中央を担当
していたのでオーブ艦隊とは当たらなかった。密かにそれを感謝していたシンだが、フリ
ーダムは違う。ザフトから盗んだモビルスーツで各地の戦場に乱入し、多くの被害を出し
たテロリスト。オーブにかくまわれているというだけで業腹なのに、オーブ軍のパイロッ
トとして戦場に出てくるとは、なんという厚顔だろう。怒りに血が頭に上った状態のシン
は、なぜ隊長がムラサメのパイロットをフリーダムのそれと判断したのか、不思議に思い
もしなかった。

 
 

 先ほどの戦闘のあと、タケミカズチでは誰もキラに声を掛けなかった。しかし明らかに
聞こえるように、陰口が叩かれた。
「あいつ、自分もコーディネーターだから真面目に戦ってないんだぜ」
「そのおかげでヤマモト二尉が戦死だなんて、許せないじゃないか、まったく」
 キラは誰も自分の心をわかってくれないのだと思う。オーブは守りたい、宇宙生まれと
はいえ彼はオーブ国民として育ったのだ。しかし人は出来るだけ殺したくない。だから一
般的なモビルスーツ戦闘のセオリーであるコクピットを狙った攻撃をしないのだ。そんな
キラを優しい方と理解してくれたのは、恋人のラクス・クラインだけだった。
 戦い方を変えることはせず、キラは必死でオーブのために戦っていた。昼は数で上回っ
ていた地球軍だが、今ではザフトに数でも押されている。
 そこに白いモビルスーツが飛び込んできた。
「ガンダム?」
 今はもう自分の物ではない『力』。あれはザフトの最新鋭モビルスーツだ。
 撃ち込まれるビームを器用に避けたが、レールガンがムラサメの頭部を破壊した。
「しまった、PS装甲なら。でも、メインカメラをやられただけだ」
 機体の性能が違うなら、腕で勝負するしかない。
 キラはSEEDを割った。サブカメラからの情報だけでも、前と同じ程度の動きは出来る。
頭部を失ったムラサメとインパルスの戦いから、他のMSは退避した。激しい戦いぶりに、
加勢するのが迷惑という状態だ。
「死ねぇーーーーー!!!!」
 シンが裂帛の気合で放ったビームが、ムラサメの胸を貫いた。そして海上に落ちる。
「コクピット直撃のはずだったのに」
 あのパイロットはシンの射撃を読んで機体をずらした。しかし直撃を避けるまでの回避
行動は取れなかったということだ。

 
 

 ムラサメは沈んでいく。キラはコクピットで軽いパニックに陥っていた。大気圏内での
仕様を目的に作られたムラサメは、1Gで動くように設計されている。軽量高速モビルス
ーツなので、装甲はけして厚くない。宇宙育ちのキラにとって、水圧、というのは未知の
領域だった。ぎしっと機体が歪む音がする。
(死んでしまう。機体が圧壊する!!!!!)
 ムラサメに深度計などついていないので、いま水深何メートルまで沈下したのかも分か
らない。このまま水圧に機体とともに押しつぶされるか、海中に出て戦闘中の海面を目指
すか。キラはアスランがコーディネーターの体はGに強いので、ナチュラルより深い海に
潜ることが出来ると言っていたのを思い出し、コクピットのシールドをあけようとした。
ボタンを操作してもシールドは上がらない。
「動け、動いてくれぇ」
 ヘルメットの下で泣きながらボタンを叩いたら、30センチほどシールドが上がった。そ
こからすさまじい勢いで海水が浸入し、コクピットの中の空気がごおと音を立てて逃げて
いった。キラは必死でその隙間に身をもぐりこませる。細身なのが幸いし、なんとか脱出
に成功した。海の中は真っ暗で、水圧がパイロットスーツを締め上げる。海面まで何メー
トルあるのか分からない。潜水病にならないよう、ゆっくり上昇していくしかない。そし
てそれはぎしぎしと頭を締め付けるヘルメットがどれだけ水圧に耐えられるか、そして頭
上からモビルスーツの破片が落ちてこないかにかかっていた。
 海面に月明かりが見える。キラにとってムラサメから脱出してここまで来る時間は、こ
れまでモビルスーツで戦場に出て戦ったどの戦闘の時間より長く感じた。
 海面に浮上したキラは、運良くオーブ戦艦に泳ぎ着くことが出来た。
 戦闘は終わり、連合軍は撤退するところだという。
「君は運がよかったな」
 結局軽い潜水病の症状を呈したキラに、軍医が言った。
「海に落とされて生還したモビルスーツパイロットなんて、見るのも聞くのも初めてだ」
 喋れる状態ではなかったが、キラは自分が敵パイロットを殺さないために武装を奪って
海に落としていたのに、そこから生き延びるのはほぼ不可能なのだと知った。そして宇宙
では、永遠に失われない速度で戦場から遠ざかり、空気が切れて死んでいくのだろう。自
分の戦いの無意味さを知り、キラはベッドの上で涙を流した。

 
 

 艦隊がオーブに帰還したのち、キラ・ヤマトは除隊届けを提出した。普通ならこの戦時
下で受け付けられるものではないが、彼は姉であるオーブ代表カガリ・ユラ・アスハに直
接願い出て、除隊を受理された。

 
 

「戦争が始まってしまいましたから仕方ありませんけど、わたくしたちのヴィザが取り消
されてしまったこと、残念ですわ」
 オーブ国際空港のロビーで桃色の髪の少女が言う。隣にいるのは傷痍軍人だろう。二年
前の戦争で戦死者もけが人もたくさん出たのだ。
「仕方ない。俺たちはテロリストと国際的に認知されている身分だからな。ただ早く戦争
を終わらせるための方策を考え、行動しただけなんだが」
「とりあえずカガリさんが泊めてくださるということですから、参りましょう、バルトフ
ェルトさん」
 タクシーに乗り込む二人は、昔の仲間が空港の出発ロビーに向かっていることには気付
かなかった。

 

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