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クルーゼ生存_第08話

Last-modified: 2013-12-22 (日) 02:12:32

 先の戦闘で傷んだ艦やモビルスーツの修理に追われるザフトのカーペンタリア基地にも、
パトロール隊が全滅したことの確認とほぼ同時刻に連合軍の発表が入った。
 シン・アスカはハンバーガーショップでハンバーガーを食べていた。プラントでは牛肉
は高級品で、ファストフードのハンバーガーチェーンはない。ここにはオージービーフを
使ったオーブと同じ店が入っていて値段はオーブより安い。それで彼は通いつめているの
だ。ただファストフード店としては、ここよりフライドチキンの店のほうが人気があるよ
うだ。プラントでは肉といえば一番身近なのが鶏肉だからしょうがないかもしれない。食
べなれていないせいか、牛肉特有の濃い脂肪にグラスフィードの草の臭みが加わった匂い
が苦手だというザフト兵も結構いた。
 ちゃんとしたレストランではミルクフィードの小牛料理もあったので、シンは小牛のT
ボーンステーキとレバーのソテーも食べた。ミネルバが出航するとき、どれだけの牛肉を
積んでくれるんだろうか。宇宙に帰ってもしばらくは牛肉が食べられるくらい積んでほし
いと、願うシンだった。
 名残惜しげに席を立とうとしたところに、店内のスクリーンに情報が入った。
 カーペンタリアの艦が撃沈されたこと、敵に元ザフトのエースの名前があることで、店
内は騒然とした。二年前の大戦を生き延びてここにいる兵士が多いのだ。
「テロリストが、今度は地球軍に入ってプラントに敵対しただと!?」
「あの戦艦には友達が……。大戦を生き延びたのに、なんで裏切り者に殺されなきゃいけ
ないんだ!?」
「ひどい、人間じゃない」
 店の中に怒号が渦巻く。
「この戦争だって、パトリック・ザラの亡霊が起こしたようなものなのに、その息子が…
…バカ野郎。前大戦も今も、被害は全部プラントにっていうことか!」
「アスラン・ザラの引渡しをオーブとの交渉で求めなかった、カナーバ前議長の責任だ。
軍法会議で死刑にしておけば……」
 シンにとってアスラン・ザラはじゃじゃ馬姫が暴走した挙句、ウズミ代表の失政に輪を
かけてオーブが地球上で孤立するようになった愚行の仲間だった。アカデミーでシンは白
兵戦ではレイにも差をつけたトップだったが、教官たちが密かに「アスラン・ザラの方が
一歩上だ」と言っていたことは知っている。いくら成績がよかったとはいえ、あんなテロ
リストと比べるなと、直接文句をつけたこともある。
 テロリストが正式な敵軍人として姿を現したことに、古参兵ほどでないにしろシンもシ
ョックを受けてミネルバに帰還した。

 
 

 レクルームに行ったら、非番のルナマリアとレイ、ヨウランがいた。
「聞いたか? 信じらんねーよな、まったく。ザフトアカデミー始まって以来の秀才が、
テロリストどころか地球軍の軍人に身を落とすなんてさ」
「ホント。前大戦のクルーゼ隊で活躍してた頃は、かっこいいななんて思っちゃったけど、
あーー、過去に消しゴムかけたい」
 実際アカデミーで女子生徒に密かな人気があったのは、シンも知っていた。議長の息子
でトップエリート、そしてその座をなげうって婚約者とテロの道を選ぶというのが、女の
子にとって退廃的な王子様だったのだろう。同じようにラクス・クラインの大ファンもア
カデミーの初期にはいた。地球で歌手活動は続けているらしいが、プラントで今彼女の曲
に人気があるとは聞いたこともなかった。過ぎ去った人たち、過去の忌まわしいものとし
て葬りさりたいとプラント人が思っている人間が、オーブという墓場から起き上がって、
ロンドンの替わりにワシントンに出現したドラキュラのようだ。
「父親がプラントを第一に考えた政治家だったということと、息子が裏切り者に育ったこ
とは、教育もあるだろうが、生まれ持った性格も大きいのだろう。アスラン・ザラは一度
ザフトを裏切ってテロリストになり、今度は地球軍に入った。コーディネーター排斥を唱
えるブルーコスモスが地球軍の中で強い勢力を占めていることを考えると、おそらく彼は
反コーディネーター思想に染まったのだろう」
 レイが冷静に言った。
「それって、自己否定ってやつ?」
「俺には彼の気持ちはわからんが、プラント生まれのコーディネーターが連合の士官にな
るには、それなりの覚悟が必要だろう」
「そういや、ザラ派筆頭のジュール議員が逮捕されたばっかりだったな。彼女はパトリッ
ク・ザラのナチュラルを殲滅してコーディネーターが生き残るって思想のために、この戦
争に繋がる動きをしたらしいけどさ」
「議員が武器の横流しなんて、サイテーだ」
 潔癖なシンには許せなかった。プラントに移住して日の浅い彼には、ザラ親子というの
は報道でしか知らない人だというのもあり、ザラ派というよりは対地球強硬派と考えるほ
うが自然なのだ。
「でもジュール議員の息子のイザーク・ジュール隊長は、このあいだのユニウス7破砕作
業をメインでやった軍人だわ。近頃メイリンがファンしてるみたいだけど」
「ファンって??」
 ヨウランが訊く。
「ああ、ミーハーってこと。ああいう家柄のいいエリートと恋に落ちて結婚したいって、
乙女の夢よ」
「−−家柄って、俺たちコーディネーターは二世代目じゃん。家柄も出自もへったくれも
ないと思うのは、俺が孤児だからか?」
 シンは少々きつくルナマリアに言った。
「確かに、そうなんだけどね。うちみたいに父親がコロニー公社勤務、母親が教師なんて
ごく普通の家庭に育つと、議員の子供っていうだけで別格のエリート、特権階級に思える
らしいのよ」
 ルナマリアたちの父親が血のヴァレンタインの前日にユニウス7に視察に行った。一日
違いで被災を免れた父の強運に感謝して、最初からザフト希望だったルナマリアだけでな
くメイリンも一緒にアカデミーに入ったことはみんな知っていた。
「しかしアカデミー時代、議員の娘のアリッサ・チャンがルナマリアに対抗意識を燃やし、
あげくにメイリンをいじめていたことがあっただろう」
 過去の事件を簡潔にレイがまとめた。
「あーー、あれね、思い出してもむかつくわ、アリッサの奴。ま、二度とメイリンをいじ
めようなんて気にならないようにしてやったけど」
 これはリアルタイムで一緒にいた時の事件だが、男性陣は詳細は知らない。威張りまく
って取り巻きグループを作り、自分より成績のよい女子にはつっかかりまくっていたアリ
ッサ・チャンがある日から借りてきた猫のように大人しくなった事実を知るのみ。
「確か彼女、赤服がもらえる成績がとれなかったからって、任官拒否したんだっけ?」
 女同士の争いは怖いと知ると同時に、愛国心の薄さまでわかって、可愛い女の子だと思
っていたアリッサにシンが興味を失くした出来事だった。
「そう。最終席次発表のあと、派手に泣いてたわね。『チャン家の娘には赤服しか許され
ないのに』なんて喚いて。シンじゃないけど、プラントの歴史を考えたら、どこからそん
な選民意識がでてくるのやら」
 ルナマリアの声に険が含まれる。
「赤服にそれだけの価値があるとは思えないな。座学も実技もまんべんなくできれば、そ
れに相応する成績は取れるのだから」
 主席卒業のレイにとっては実際その通りなのだろう。
 そしてシンも言う。
「ヨウランにしろヴィーノにしろ、座学の成績はすごくよくて、モビルスーツ工学のレポ
ートなんてA+だったし。確かに、実技はいまいちで、俺とレイでシミュレーターの訓練
に付き合ったけどさ。人間、得意不得意があって、あたりまえだろう」
「あれはありがたかった。夢はモビルスーツ設計者な俺たちだが、モビルスーツ実技の単
位を落とすと整備士の資格がとれねーもん。レイって、お高い優等生だと思ってたけど、
あの日から俺たちのダチになったもんな。−−でも、メイリンはいじめられても議員の子
供とかに憧れてるわけ?」
 親友のヴィーノがメイリンに恋しているのを知って尋ねるヨウランだし、ルナマリアも
わかって答える。
「みたい。家柄のいいエリートと結婚して、社交界のマダムに収まるのが夢って感じ」
 エリートはともかく、家柄がいいとか社交界のマダムとか、男性3人の理解を超えてい
た。ヨウランはこの情報をヴィーノに話すかどうか、真剣に悩んでいた。

 

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