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クルーゼ生存_第23話

Last-modified: 2013-12-22 (日) 02:25:45

 スタンバイ状態ということで、ソファでごろ寝、音楽を聞きながら雑誌を読んでいたシ
ン・アスカはエマージェンシーの音で、飛び起きた。ガルナハンからディオキアにいたる
空路には、連合の勢力はないと聞いていたのでお気楽モードだったが、世の中そう甘くは
ないらしい。
「敵空中空母確認、パイロットは各機で待機してください」
 メイリンの声に、シンはモビルスーツハンガーに向かった。他のパイロットが出撃体制
をとれるまで最低でも15分はかかる。もしものとき、その15分を死守するのがスタンバ
イパイロットの仕事だった。
 他のパイロットが揃うのが早いか、自分の発進シークエンスが始まるのが早いか、シン
は操縦席でいらついていた。爪を噛みたい気分だが、パイロットスーツのためにそんなこ
とはできない。オペレーターから情報は逐次入るのだが、敵の全容はまだわからなかった。
そんななか、他のパイロットが順次機体に乗り込んだというのを聞くだけでも、少し安心
する。
「敵は先日までパナマを攻撃していたイージス改とウィンダム二機、それと以前交戦した
カオスと紫色のウィンダムと確認された。パイロットは最終チェックの後、発進すること。
イージス改とウィンダム二機はパナマからの情報によると、非常に上手く連携をとって戦
う。インパルスはまずその三機を引き離し、イージス改を叩け。パイロットを鑑みるに、
あれが敵部隊のエース機だ。セイバーはカオスを。私はウィンダムを相手にする。ルナマ
リア・ホークとイザーク・ジュールのザク二機は、甲板上からオルトロスで援護をするよ
うに」
 隊長のいつもながら明確な指示が入り、シンは自信を持って発進シークエンスに入った。
「シン・アスカ、コアスプレンダー、発進する!」

 
 

 『アスラン、あなたが信じて戦うものは何ですか?
  いただいた勲章、それともお父さまの命令?』
 二年前婚約者の少女の口から、滑り出た言葉。あの時、自分はまだ子供だったので、ラ
クスの言葉に惑わせれた。しかし今の自分は違う『青き清浄なる世界と同志のために、俺は戦う』胸を張ってこう答え、ラクスも、幼馴染の親友だったキラも射殺できる自信がア
スランにはあった。彼らは汚らわしいコーディネーターなのだから。
「アスラン・ザラ少尉、アシーネイージス、出る!」

 
 

「おい、あんた、メイリンに何してんだよ」
 シン・アスカは、廊下の端でイザーク・ジュールがメイリン・ホークにきつい語調で話
しているのに気づいて言う。イザークと個人的な会話を交わすミネルバクルーはメイリン
だけだったし、まあそれも彼女自身の好みだと−―ヴィーノはショックだったようだが―
−受け入れてきたアカデミー仲良し組だったが、一方的に年下で
非戦闘員で女性のメイリンが詰問されてるのは、許してはおけない。
「個人的な話し合いだ、さっさと去れ」
 イザークが持ち前のきつい口調で答えた。
「さっき、グゥルがどーとか、聞こえたんですけどね」
 シンも嫌味を込めて答える。コーディネーターは聴覚に優れているので、
廊下のひそひそ話くらいなら、かなり遠くからでも内容はうかがえる。
 イザークの白い頬に血が上ったのを見て、さらにやりこめる。
「隊長にグゥル出すの、命令で、止められたでしょ。オペレーターのメイリンにはなんの
責任もないじゃないか。大体、あんな前大戦のモビルスーツ用空中移動機に乗ったところ
で、ウィンダムやあんたのこだわってるイージス改と互角の戦いが出来るとは思えないね。
甲板からオルトロスで射撃したほうが、ずっと効果的じゃないか」
「貴様に何がわかる!! アスラン・ザラはアカデミーで俺の上、主席だった。その男が、
地球軍のパイロットになぞなりさがって……。あいつは俺が討つ。そのために宇宙から降
りてきたんだ」
「へ!? 左遷じゃなかったの??? まあ、アレッシィ隊長の下で一から鍛えなおせって
いうなら、結構思いやりのある左遷だとは思うけど。しばらく前まで、隊長で駆逐艦の指
揮してたんでしょ、あんた。それが平パイロットだもんな、いまは」
 シンが喋ったことは、この船に乗っている人間の総意に近い。同じ船に乗っているだけ
で身が穢れるという、昔のイザークなみに潔癖な乗組員だっているのだ。
「それに敵パイロットに国際救難回線で話しかけるなんて、
 軍人として恥ずかしいと思わないのか?」
 シンは呆れたように両手を広げ、少し仕草でおどけて見せた。
「『アスラン・ザラ! 聞こえているなら、俺と勝負しろ!!』なんて、子供のヒーローご
っこじゃあるまいし。相手は空中飛行可能なモビルスーツなんだから、あんたのことを覚
えてたって、甲板のザクと勝負なんてしないでしょ。あれの相手はインパルスとセイバー
でしますよ。確かに強かったし、スキュラの直撃をミネルバが食らわないように牽制する
ってのが隊長の出した一番優先順位の高い命令だったし」
 シンの言葉には嫌味の針がちくちくと植えられていたが、アレッシィの指示が戦闘を通
じて理にかなったものだったのは、イザークにもよくわかっている。艦載モビルスーツの
第一の役目は、母艦を守ることなのだ。
「で、なんか前大戦のテロリストはブルーコスモスの教義について、あんたに喋ってまし
たね。裏切り者のテロリストに、結構信頼されてるんじゃないですか? あんなふうに『お
前は間違っている!』なんて説得されるくらいなんだから」
 イザークはぐいと拳を握って耐えた。一度、シン・アスカを殴った。二度となれば今度
は営倉入りだ。メイリンは自分をかばうだろうが、それはプライドが許さない。イザーク
の夢、最終的にプラントが地球のナチュラルどもを支配する体制を作る最高評議会議長と
なり、母のエザリアに恩赦を施すためには、ここはどんな屈辱でも耐えねばならない。
 苦々しく、アスランの言葉を思い出した。
『イザーク、イザーク・ジュール、お前は間違っている! お前達、コーディネーターは、
自分の遺伝子がいかに優れているかをひけらかすことばかりに夢中になって、人類にとっ
て一番大事な、生命の源、地球への愛を見失っている。このあいだのユニウス7落下の直
接の被災で一億8千万人が死んだ。津波でもやはり一億人以上が。そして巻き上げられた
粉塵は太陽光線を遮り、何年作物の不作が続くかわからない。地球上の人間が、今にも飢
え死にしそうだというのに、お前達コーディネーターは積極的自衛権の行使と言葉だけ飾
って、地球を攻めてくる。矛盾していると思わないか? 選民思想を捨てろ!! 自分がバ
クテリアや細菌と同じ命だと認めて、歪んだプラントのエリート教育は忘れろ!!』
 明らかにこれを敵のプロパガンダ放送と判断したアレッシィ隊長は、無線を完全に切る
ように命じた。イザークを除くミネルバパイロットと艦のクルーの間には、この程度の戦
闘なら無線はもう不要のものだった。砲手はモビルスーツの射線からの退避を予想して討
つことができたし、コンビネーションはできたいた。それには空を飛ぶモビルスーツのパ
イロットの二人がアレッシィとレイという、異常に勘のいい人間なのが重要だったが。
 そして無音の戦闘の中、ミネルバ本体に何とか攻撃をかけようとインパルスとバビの間
をすり抜けたウィンダム。シンのインパルスはイージス改と戦闘していたのにくるりと敵
に背を向けた。当然その背中にイージス改のスキュラが浴びせられたが、シンはすいっと
背中に目があるかのようにそのビームを避け、それまで手こずっていたウィンダムをライ
フルで撃破したのだ。
 その戦果が悔しくて頭に血が上ったイザークは、それでも歴戦のつわものであることを
示し、オルトロスでカオスの右足膝に直撃を食らわせることに成功した。
 それで連合のモビルスーツと母船は引き上げていった。しかし敵母船からガイアの長距
離砲がいくつかミネルバの甲板に命中していた。
 引き分け、なのだろう。
 ミネルバはもう敵と遭遇しないことを願って、ディオキア基地に向かっていた。
「とにかく、メイリンはちゃんと命令を守ったし、あんたに絡まれる筋合いはないですよ。
行こうぜ、ルナマリアがディオキアで休暇が取れるから、その過ごし方の相談したいって
言ってたし」
 シンはそのまま、メイリンを引きずっていった。メイリンの目は、悲しげにイザークを
見詰めていた。

 
 

「タニス……」
 自分が両親のエゴで作られた証の金髪を地味な茶色に染めた女性。それでも泣きじゃく
る彼女は、男性機能のないアスランにとっても非常に魅力的で、こういう女性を守るため
に男性は生まれたのだと思わせる。
「スティーヴンが…ステフが……ああ、アスラン、信じられないわ」
 アスランには、ただ彼女を抱きしめて、まだ同胞がいるということをぬくもりで伝える
しか出来なかった。
 明るい笑顔のスティーヴン・アゴスト、陽気でそつがなくて、彼ら三人のリーダーだっ
た。そしてザフトでコーディネーターにとってもきつい訓練を受け、才能を評価されてき
たアスランの目からしても、彼にはまぎれもないエースパイロットの素質とそれをかなえ
るだけの実戦経験があった。しかし、母艦を守るために姿を翻したインパルスをスキュラ
でしとめたとアスランが確信した瞬間、白い機体はビームの射線から消えて、アゴストを
正確に射撃し、ウィンダムのコクピットを背中から打ち抜いたのだ。
 あんなことができるのは自分とキラだけだと思っていた。しかしザフトの広報番組で流
れていた赤い目のエースパイロットは、あの無我の境地をおそらく知っている。多分コク
ピットもモニターも関係なく、全天が意識の中に入り込み、それに反応して行動したのだ
ろう。だからスティーヴンの実力が足りなかったとは思わない。パナマで少々モビルスー
ツを破損させることはあっても、エースの称号を得るだけザフトのモビルスーツを落とし
てきた彼を。
 上官のエルドリッジ少佐がハンガーに降りてきて、優しげな声で告げる。
「アゴスト中尉のことは、本当に残念だったわ。パナマで戦ってきて、上手くひとつの小
隊になれたと思っていたのに。ヴァーチャー少尉、ザラ少尉、あなたたちには辛いことで
しょうが、臨床心理士とのカウンセリングをすぐに行ってください。アゴスト中尉の死を
無駄にしないために、必要なことです」
 抱き合ったままタニスを立たせたアスランは、
「はい、少佐」
 スキンヘッドの頭の横で敬礼をして答えた。
「さて、今日のミネルバとの戦闘の解析の時間だ。アゴスト中尉の戦死と、スティングが
敵ザクから直撃をもらったことについてを主な議題にしたいと思う」
 ネオ・ノアローク大佐が口を開く。メンバーはエルドリッジ少佐、エクステンディッド
部隊のメンテナンス責任者のバウアー博士と助手のボイタノ博士だ。
 ファントムペインはロゴス直属の特別部隊であり、コーディネーターやエクステンディ
ッドの実験部隊でもある。戦果を挙げることも大事だが、挙げられなかった場合の原因究
明こそがナチュラルの明日に繋がるのだ。
「では、私から発言させていただきます」
 立場を考えて、エルドリッジ少佐が口を開いた。彼女が手元のコンピュータを操作する
と、コーディネーターたちの戦闘中の感情グラフがディスプレイに表示された。
「ザラ少尉が敵から国際緊急回線で声を掛けられたとき、感情のぶれが見られますが、す
ぐに落ち着きました。そのあと彼が相手に呼びかけたときも、感情が高ぶった状態にはな
っていません。しかし愚劣なコーディネーターの言葉に反応して、言葉で答えるというの
は、まだ彼が地球軍の兵士として一人前ではない証です。そこはカウンセラーが理論的に
話をして、教育的指導をしたということです」
 ここで彼女は一度言葉を切った。
「アゴスト中尉の戦死のあと、ヴァーチャー少尉がかるいパニックに陥っています。早期
に撤退を決められた大佐の判断は正しかったと思います。あのままでは、彼女も撃墜され
ていたでしょう。そして、アゴスト中尉を撃墜したインパルスの動きに注目したいのです
が、これはアシーネイージスのカメラからの映像です」
 ミネルバに取り付こうとするウィンダム、それを追ってアシーネイージスに背を向ける
インパルス、そしてスキュラの発射。ザラ少尉の攻撃に一切の無駄はありませんし、コー
ディネーターとしても最上位の反射速度です。しかし、インパルスはスキュラの射線を予
測していたように避け、簡単にウィンダムを撃墜しました。これまでのデータで、インパ
ルスは高性能機でパイロットも優秀だということはわかっていましたが、こういう、一線
を越えたような動きをしたのは、カーペンタリア攻防戦の時にあっただけです」
 ネオも実際見ていて、驚いたのだ。自分には異常な勘のよさがあって、その助けで生き
延びてこられたと思っている。あの母親とまっとうな関係を作れたのも、そのおかげだ。
ただ、ミネルバのほかのパイロットには自分と共通するものを感じるのだが、インパルス
のパイロットには感じない。自分の勘のよさとはまた別の能力なのだろう。
「オーブの小島に住む宗教家が、SEEDを持つ者は、人間の能力を完全に解放できるという
教えで人気が上がっているらしいが、インパルスのパイロットがそういう人間なのかもし
れんな」
 不意に思い出して、口に出した。
「人間の能力、私たちエクステンディッドを管理する者として、今一番興味があるのがそ
の部分です。もちろん、私たちは科学者ですから、オカルトとは一切関係ありませんが」 バウアー博士の言に、ノアローク大佐はそのまま続けるように促した。
「スティング、アウル、ステラの三人はザフトのセカンドシリーズ三機の情報が入り、そ
れにもっとも適応する能力と素質があるので、パイロットに選ばれました。実際初めて乗
ったモビルスーツでそのまま実戦ができるだけの能力がありましたし、機体に慣れた現在
では初期よりいい反応を示すようになっています」
 ここでボイタノ博士が、反応値のグラフをいくつか表示した。
「ただ問題があるとすれば、この反応値の上昇率はナチュラルとしては十分なものですが、
コーディネーターに比べると低いのです」
 グラフにアスランとタニス、死んだスティーヴンのものが重ねられた。
 アスランは一番データ採取期間が短いが、最初からエクステンディッドの三人の上の数
値を取り、上昇率も三人より高い。そしてタニスとスティーヴンは、エクステンディッド
より3割がた低い数字から始まっているが、実戦に出るようになってからぐんぐん数字が
上がり、いまでは三人を追い抜こうかという勢いだ。
「私たちの持つ実験体の母数が少なすぎるので、可能性しかいえませんが、適性のあるコ
ーディネーターを鍛えた場合と適性のあるナチュラルをエクステンディッドとして育てた
場合、前者が後者より高い成長をするということです」
「――エクステンディッドは、一定値を過ぎると普通のナチュラル程度の成長しかできな
い、ということか? これまでの理論では、肉体と精神を強化すれば、成長の幅も大きく
なるということだったが」
 ネオが冷ややかな青い目を二人の研究者に向けた。
「現在の技術では、限界が見えてきたということです」
「君達の話では、エクステンディッド三人の成長は頭打ちで、敵コーディネーターの能力
はまだまだ伸びるというように聞こえるが」
「現状、その可能性が高いのです。エクステンディッドの素体を選ぶ段階で、これまでよ
りもっと厳しい選別をして、運動能力の高いコーディネーターに匹敵するような遺伝子を
持った子供を選ばないといけないでしょう」
「それは無責任だ、バウアー博士。あのエクステンディッドたちを作るためにブルーコス
モスがいくらの予算を費やしたか、君が知らないはずはあるまい。運動能力の高いコーデ
ィネーターに匹敵するナチュラルが100万人に一人いたとする。その100万分の一を探すた
めに、また予算を組めというのかね? 元々エクステンディッドは、身体能力で劣るナチ
ュラルにコーディネーターより優れた能力を与えるためのプロジェクトだ。そしてその中
で、厳しい選抜を君達が行って作り上げたのがあの三人だろう。君の言っていることは、
本末転倒、言い訳に過ぎん」
 バウアー博士は口紅も塗っていない唇を噛んだ。
「申し訳…ありません。大佐」
「差し出口をお許しください。デストロイが完成すれば、少々のパイロットの成長曲線な
ど簡単に逆転できるはずです」
 エルドリッジ少佐の意見は、ノアローク大佐に切り捨てられた。
「あれは戦略兵器だ。戦術兵器である艦載モビルスーツと一緒にするとは、
君らしくもない」
 そしてバウアー博士に訊く。
「デストロイと一番相性がいいのはステラだ。ステラをデストロイにまわしたあとのガイ
アのパイロットは北米のラボから来ると報告があったが、日時は決まったのか?」
「検討中です。候補者は複数呼び寄せます」
「我々が今いるのが西ユーラシアだということを忘れるな。ガイアのテストなどしていた
ら、地元の反乱分子からザフトに情報が筒抜けになる」
「はい、では、どのように?」
「それを考えるのも、君達開発管理班の仕事だ」
 厳しいネオの声に、バウアー博士は沈黙した。

 
 

 ようやくたどり着いたディオキアは、黒海にユニウス7の破片が落ちなかったこともあ
って、少々ひなびた田舎の避暑地にザフトの軍港と基地があるという感じの街だった。ユ
ーラシア連邦自体は地球軍の一翼を担うが、生産力の高い西ユーラシアでは、大西洋連邦
主導の地球軍のありかたに疑問を持ち、敵の敵は味方と、ザフトに親近感を持っている住
民は多い。先日ガルナハンのローエングリンゲートで、その土地に二千年以上住んでいる
という人間の誇りを見せ付けられたミネルバだ。
 入港手続きをすませたタリアとアーサーは、空からピンク色のザクがディンとオレンジ
色の新型空中飛行能力付きのモビルスーツに支えられて、降りてくるのを見た。そのザク
の胸には白い大きな文字でLOVEと書いてある。そしてスピーカーから、大きな声が響
いた。
「はーい、ミーア・キャンベルです!! 
がんばってるザフト軍兵士の皆さん、一緒に楽し
みましょう!!!」
 プラントで一番人気のアイドルだ。ミネルバの乗組員にも人気が高いことは、タリアも
知っている。若い兵士にとっては、ありがたい慰問だろう。
「はい、問題はありません。整備や補給など、
御自分の母港に入られたと思ってください、艦長」
 なかなか口の滑らかな係官だと思っていたら、脇をアレッシィを乗せた車が走り抜けて
いった。彼の持つフェイス特権には、すべてのザフト基地での行動の自由が含まれる。
 別に彼と敵対しているわけではないし、モビルスーツ隊を上手く扱ってくれていると評
価しているけれど、自分の指揮下に入らない人間が艦に乗っているというのが、どれだけ
艦長にストレスを与えるか、ザフトの保健部で研究すべき課題だと思った。
 二機のモビルスーツから下ろされたピンクのザクの掌で、黒髪の少女が歌い始めた。お
そらく危険域を示す枠がザクの掌に書かれているのだろうが、ハイヒールで軽やかに踊っ
ている。タリアの息子はミーアのファンなのだが、今度プラントに帰ったら、ミーア・キ
ャンベルは勇気のある少女だと伝えてあげなければと思った。彼女の顔の遺伝子が操作さ
れてないらしいらしい欠点の多い部分と、完璧なプロポーション、愛らしい歌声で「アグ
リキュート」と人気のあるが、立派なプラント人としての心とコーディネーターの身体能
力を持っているようだ。
「このあと、夜に花火を上げてミーア・キャンベルのライヴが行われる予定ですので、ミ
ネルバからも非番の方はぜひ楽しんでください。
プラントから降りてこられた議長のお計らいです」
 タリアは声を飲み込んだ。これはプライドの問題だ。アレッシィがさっさと出て行った
のはデュランダルと密談するためだろう。彼は最高会議議長のスケジュールを知っている。
自分が知らないのを悔しがるのは、フェイス制度より昔二人の間にあった男女の愛情のた
めでしかないのだ。振ったのは自分だ、そしてその代償に自分は素晴らしいコーディネー
ター三代目の息子を手に入れたと、タリアは何度も心の中で呟いた。

 

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