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クルーゼ生存_第37話

Last-modified: 2013-12-22 (日) 02:38:09

「議長が先日ユーラシアに行らしたおかげで、デスティニーの『光の翼』の技術が完璧な
ものになりました。アルテミスの傘以来、ユーラシアの得意な分野でしたから」
 工廠の責任者でプラント最高評議会議員でもあるキョウコ・イノウエが、デュランダル
を見上げて言った。彼と同じく最高評議会軍事委員長のオーソン・ホワイトは、現在の戦
況と新戦力の仕上がり具合を見に、ここを訪れたのだ。
 三人はハンガーで未完成ながらも立ち上がった二機のモビルスーツを見たあと、小さな
会議室へ向かった。代用品のコーヒーが供される。プラントでは本物のコーヒーは嗜好品
であり、それにお金をかけたい人が飲むものと考えられ、議長だ議員だという高い地位に
あるからといって、高価な飲み物が出されることはない。
「ホワイト委員長、戦況について説明を」
「宇宙では月軌道とL5、プラントを守るための戦線を張っています。エターナルが月軌
道に配備され、二日前に敵艦隊と交戦しましたが、ストライクフリーダム、インフィニッ
トジャスティスの活躍もあって、ほぼ壊滅させました。人的資源の少ないプラントにとっ
て、条約違反であろうとあの二機とミーティアは必要な兵器です」
 理論物理学が専攻で、本来こういう形而下の話は得意ではないだろうが、ホワイトは黒
い顔に冷静な表情をたたえて続けた。
「地球軍はアークエンジェルとともに、陽電子リフレクターを展開するモビルアーマーを
投入しています。これに取り付かれて大破された艦艇が10を超えました。退避が完全には
間に合わないことも多く、数百人の人的被害がでています」
 人口が少ないプラントにとって、前線で戦える熟練兵を失うのは、艦を失うより辛い。
国を挙げて艦艇やモビルスーツを作っているので、物資の補給は――食糧は除いて――い
まのところ心配はない。戦争に落としどころをつけるのは、物資の補給が続く間でなけれ
ば。三人は口に出さずとも理解していた。
 理想は月から地球の国の基地を撤廃させることだ。最低守らなければならないのは、独
立国家としてのプラント。そしてデュランダルにはさらに野心的な計画もあったが。
「地上では、大西洋連邦のヘヴンズベース基地に動きがありそうだという情報です。アイ
スランドは島ごと要塞化されていますので、ザフトがいずれあそこを落としにかかると見
ているのでしょうし、正しい判断です」
「講和に持っていく条件として、戦争の始まりがテロでプラント人が地球人を三億人以上
死なせたことにある以上、地球と宇宙の両方でザフトが大きな勝利をえて、相手の世論に
厭戦気分をおこさせなければならないだろうな」
「議長の仰るとおりだと思います。強硬論は好きませんが、一番有利な立場につくり、そ
の時に一歩地球軍に譲った講和条約を結ぶしか、プラントが生き残る道はないでしょう」
「そうですね。兵器はまだ作れますが、地球からの食料輸入ラインを打ち切られたら、わ
たしたちは飢え死にするしかありません」
「ただそれを理解せずに、ナチュラルを滅ぼせという強硬派も根強いのが困りものだが」
 デュランダル含め三人とも、穏健派である。彼は軍事関係の要職に強硬派をつけるよう
な馬鹿な人事はしなかった。しかし軍の中には、強硬派の割合が多いのも事実だった。
 空気が重くなったからか、イノウエが話題を替える。
「議長のユーラシア土産のモビルスーツの完成予定図ですが」
 空中のディスプレイに、黒っぽいモビルスーツが浮かび上がる。
 背中の巨大な円形の砲台とがっちりした足が目立つ。
「計算によりますと、高さは38メートルほどだろうということです」
「通常のモビルスーツの二倍以上か!?」
「大きいな。そしてこの足を見るに、地上運用が可能なのだろうな」
「1Gでこの大きさのモビルスーツを動かすとは。やはり、核動力か」
ホワイトが唸った。
「予想される火力を考えると、おそらくは。宇宙ではミーティア付きのストライクフリー
ダム、インフィニットジャスティスと互角の力を持ちそうです。地上では、接近戦が多く
なりますから、小回りの利くデスティニーやレジェンドのほうが有利です」
「問題は、この機体を連合に量産させないこと、そして宇宙に上げさせないこと、か」
 デュランダルの意見に二人は首肯した。

 
 

 ルナマリア・ホークは、上機嫌とはいえなかった。
 妹のメイリンは流産のあとの抑うつ状態で入院したままだったし、同僚のパイロット二
人は出張に出てしまった。仲良しの整備士ヨウランとヴィーノとはおしゃべりするが、ヴ
ィーノはメイリンに純愛だった分だけショックを受けているし、相棒が元気がないと口の
悪いヨウランも静かになる。こうなってくると気分屋でうるさかく喋り倒したりしんねり
むっつり黙り込んだりのシン、人の話は聞くけれど自分の話はしないレイだって懐かしく
なってくる。それに、なんといっても艦内のゴシップを探してくるのは性格的にも職務的
にもメイリンが得意だった。彼女が入院してから、ルナマリアは自分がミネルバのごく一
部しか直接知らないし関わっていないことに気付いた。それは一介の兵士として当たり前
のことなのだが、メイリンが甘えたような声で自慢げに噂話を披露するのを思い出すと、
一日も早くおしゃべりでちょっと軽率な妹に戻ってほしいと願うのだった。
 そんなことを考えているうちに、スタンバイ時間が終わった。いまミネルバにモビルス
ーツパイロットは隊長を含めて二人しかいない。基地に入港しているので、シンとレイが
いなくてもスタンバイスケジュールに変更なしと言われたので、いつものように勤務して
いる。
 彼女が部屋を出ようかと考えた時、アレッシィ隊長が入ってきた。ノースリーブの改造
軍服からにょきっと出たマッチョな褐色の腕に最初はびっくりしてハードゲイだと思い込
んだものだが、シンとレイは無事だし、優秀で公平な人柄を知ってからは尊敬している。
ただ疑問なのは、このまま季節が地球の冬になっても、ノースリーブで通すのかというこ
とだ。
「隊長、お先に失礼します」
「ルナマリア・ホーク、出港までまだ時間があるし、インパルスかセイバーのシミュレー
ターを試してみてはどうかな。セカンドシリーズは扱いにくい機体だが、君はこなせる段
階に来ていると思う」
 これは、褒められた、と思っていいのだ。戦争が起こる前、ミネルバ配属が決まった時
インパルスのシミュレーターを試したが、シンにくらべて半分ほどしか思ったように機体
を動かせず悔しかった。でもザクで実戦の経験を積んだし、何より生き残ってきた。
「はい、ありがとうございます、隊長。インパルスのシミュレーターに取り組ませていた
だきます」
 我ながら現金だと思うほど、元気な声が出た。
 そしてそれを見て隊長が唇の端で笑ったいるのがわかった。

 

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