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クルーゼ生存_第40話

Last-modified: 2013-12-22 (日) 02:40:32

「昨日はヘンな集会につき合わせてごめん」
 インパルスから通信が入る。
 ニュルンベルグの基地に駆け戻った翌日だ。仕事は済んだのでミネルバへの帰途だ。愛機
が分解はされなかったとはいえ相当弄り回されたと思うと、シートの座りごごちがよくない
ような気がする。
「そんなのはかまわないが、この、ロドニアでミネルバとランデブーという指令は、なんな
んだ」
「俺達のほうが先に着きそうだけど、連合の研究所跡があるからその調査としか命令にな
いな。隊長、簡潔なのはいいんだけどなあ」
 二人はミネルバと上官のアレッシィを思い浮かべた。別れていたのはたった二日なのに、
妙に懐かしかった。

 
 

「プラント人はまったく、無礼ですな。導師のお体に傷がついていたらなんとしたことか」
「大丈夫です。彼は自分の力を知っていましたから。手を出したら私を殺してしまうことは
わかっていたでしょう」
「しかしあの子供が『SEEDを持つもの』でこれからの世の中を変える認識力を持つとは、私
にはとても……」
 マルキオは弟子からコーヒーのカップを受け取った。
「センシティヴだから動揺するのです。彼の家族は二年前のオーブ戦で流れ弾に当たって
死亡しています。私は自分の島にいて無事でしたがうちにはあの戦いの戦災孤児が何人も
います。いまだに夢に見て泣く子供も多いのです。物が分かる年齢なら、ウズミ様が取った
方策が最善と思えないのも当たり前でしょう。オーブの発展はウズミ様の指導力あっての
ことですが、それゆえに一度潰えたのですから」
 オーブの民にとっては辛い現実だった。マスドライバーもモルゲンレーテもなくなり、
大西洋連邦駐在の大使だったセイラン家が外国の資本を持ってきてなんとか復興を果たし
た。それを支えたのが、地道にオーブの島々を視察して回るカガリ・ユラ・アスハであった。
しかし彼女が、アスハに不信感を覚えた人間は戦いの後移民していったということを知る
には二年の月日が必要であった。
「カガリ様は頑張っておられる。夫のユウナ様は連合寄りなのはしかたないけれど、オー
ブを大事にしておられる。けれど……カガリ様の持つ『SEED』が政治に生かされる日が来る
のはいつでしょう。期待しているのですが」
 マルキオにしてもカガリが忙しすぎるのを知っている。火事場の馬鹿力としても彼女が
『SEED』を理解しているのか。ただ以前に見知った『SEEDを持つもの』に、マルキオは積
極的に『SEED』について話したことはなかった。今回のことは、心境の変化である。
「戦いの中でしか『SEED』が生かされないのは悲しいことです。いまラクス・クラインや
キラ・ヤマトは苦しんでいますが、彼らの苦しみはいつか花開くこともあるでしょう。世
の中が自分の思い通りにはいかない。ヤキン・ドゥーエを経験してしまったら、それだけ
で辛いことでしょう」
「一度『SEEDを持つもの』として、世界を動かすほどの経験をしたことの影響でしょうか?」
 弟子の言葉にマルキオは首肯した。
「彼らが戦いで何を学んだか。一度の戦いを通常ではありえないやりかたで収めたといっ
ても、そのあとも世の中は続き、動いていくのです。そう、アスラン・ザラはそれが受け
入れられないのかもしれません。いまはブルーコスモスのために戦っているとか。ナチュ
ラルのためにもコーディネーターのためにも、悲しいことです」

 
 

 ランデブー地点に着いたのはシンとレイのほうが早かった。連合の施設で要調査とのこ
とだが、上空から見るだけでも人気がないのは分かるし、熱源反応がまったくない。この
ままいけば廃墟になる建物なのだろう。破壊措置が取られていないからには、重要な施設
ではない。二人はこう判断して――でも用心のため拳銃のロックを外して――平屋でおそ
らく地下のある建物に正面から侵入した。
 一階は天窓から日の光が明るく差し込む、居心地のよさそうな空間だった。中央を貫く
廊下の周囲の部屋も、応接室や食堂といったなごみの場所に思えた。
「軍事設備があるとしたら、地下だな」
 シンはレイの言に頷いた。二人とももしもの時のためにパイロットスーツのままだ。宇
宙服としての機能を持つパイロットスーツは、その分高価だが軍服としてもっとも優れて
いると言える。ディオキオで背が伸びた分を鑑みて、新しいスーツを支給されたばかりの
二人であった。
「ここに階段があるぞ」
 シンがレイに告げ、二人で一歩ずつ確認しながら階段を下りる。
 トラップが仕掛けられている様子はない。二人で一段ごとに確かめて降りる。重い金属
製の扉の鍵は開いていた。その先を更に降りていくと地下室のようだと、シンの夜目の効
くコーディネーターの目が教えた。地下室にたどり着いたものの、非常灯も消えているの
で本当にぼんやりとしか見えない。シンは壁に電気のスイッチがあるのに気付き、レイに
は何も言わずに電気をつけた。
 ゆっくりと周囲が明るくなっていく。発電機は動いていなくても、バッテリーに電気が
残っていたとみえる。
 どうもここは研究室のようで、薬品の並んだ棚や、標本がキャビネットに収まっていた。
レイががくっと膝を折る。びっくりしたシンは慌てて相棒を助け起こした。
 そして、キャビネットの標本は、人間の小児のものだとやっと気が付いてヘルメットの
中で悲鳴をあげた。ここは一階の居心地のよさそうな雰囲気とは裏腹に、連合の人体実験
施設だ。
 更に驚いたことには、いつも沈着冷静でこういう事態にも冷静にあたると思っていたレ
イが、体を折って苦しそうに背中を上下させている。
 彼らはパイロットスーツに背負った空気ボンベから呼吸している。この場所にたとえ
コーディネーターを即死させる毒ガスに満ちていたとしても、関係ない。それに地下に入
るときに空気に異常がないのはレイ自身が確認した。
 崩折れそうになるレイの体をシンは支えた。パイロットスーツ越しにも、震えが伝わっ
てくるほどだ。何が起こったのかわからないが、ここにレイを置いておいてはいけない。
そう判断して、彼を抱きかかえるようにして階段を上り施設の外にでた。
 無人の庭に聳え立つ二台のモビルスーツ。シンはレイをインパルスの足元に寝かせると、
ラダーを使ってコクピットに上がった。ここからなら問題なくミネルバに無線が通じるは
ずだ。
 まずシンの無線を受けたのは艦橋オペレーターのアビーだった。彼女に焦りながらも現
状を説明する。レイが心配で言葉が乱れるシンを落ち着いて受け止めて話をきいてくれて、
彼の上司のアレッシィ隊長に回してくれた。
 アビーのおかげで何とか落ち着いて隊長に報告できた。ただいつも感情を見せない隊長
が、レイが苦しがってと言ったら少し言葉の調子が乱れたのに、シンは気付いた。ただそ
んなことより、ミネルバがあと何時間で現場にきてくれるかが重要で、約半時間と言う答
えを引き出し、人心地付いたのだった。
 インパルスから降りて、レイのヘルメットを脱がせてパイロットスーツを緩めてやる。
真っ青な顔に荒い息が心配だが、医学知識のないシンにできるのはここまでだった。
 ミネルバが来るのが何時間にも感じたが、連合施設の前の空間に巨大な母艦が着地した
時、シンは心から安堵した。バイロイトでであったヘンな宗教家のような男、レイの不例、
縁起を担ぐタイプではないが嫌なことが続いた。あの艦が自分の家なのだと、しみじみ思
えた。

 

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