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クルーゼ生存_第52話

Last-modified: 2013-12-22 (日) 03:01:38

「アーモリーワンが!」
「繰り返します。連合軍のモビルスーツ、デストロイとの交戦のためアーモリーワン全壊、
避難中の艦艇にの近くに連合の艦艇はいない模様」
 アビー・ウィンザーのいつもの落ち着いた声音がこころもち上ずっているように思うの
は、自分の気のせいだろうか?とグラディス艦長は思った。
 アーモリーワンからカオス、アビス、ガイアの三機を強奪した部隊がデストロイの運用
も行っているようだが、打つ手が早すぎる。ミネルバはいつも後手後手に回っってしまっ
ている。あちらは独立部隊でブルーコスモスの直属、現場がトップと直接つながっている
わけだから話が通るのも早いというものだ。タリアは少しその立場をうらやましく思った
が、すぐに打ち消した。ザフトはナチュラルの軍隊に比べ風通しのよい組織なのだ。
「あのデストロイ、これまでのものとは中も外も違う」
 いきなり背中からアレッシィの声がしてびっくりした。彼がブリッジに来るとは青天の
霹靂だ。
「どう違うのですか? アレッシィ隊長」
「まず構造からして、足が小さい。1Gでの運用を考えていない宇宙型ということでしょ
う。そしてストライクフリーダム、インフィニットジャスティスとの戦いを見ると明らか
に装甲が強化されている。そしてパイロットは、アスラン・ザラ」
「アスラン・ザラ!!」
 確かに彼はこの、ファントムペインという部隊のパイロットだ。ヘヴンズベースでハイ
ネ・ヴェステンフルスを斃すという戦果を挙げていた。強化人間しか乗れないという情報
があるデストロイだが、強化人間自体ナチュラルをコーディネーターに近づける実験だっ
た。高性能のコーディネーターであるアスラン・ザラなら、デストロイの性能を100%引き
出すパイロットとなりうる。
「遭遇したとして、これまでのようには行きますまい。戦術は私からパイロットに指示を
出すので、あとはよろしく」
 タリアは一瞬むかっとしたが心を静めた。なんのかんの言っても、モビルスーツ隊の優
秀さは認めている。ほかの戦艦の艦長にうちとあなたのモビルスーツ隊を交換しましょう
といったら、断るものはおるまい。ただ彼らのおかげで、新米女艦長がうまくやっている
といわれるのも事実であり、タリアのプライドを傷つけているのだが。あのアレッシィは
タリアのプライドなどに何の配慮も払ったことはないし、必要も認めていない。それが彼
女には不愉快でたまらなかった。
 アレッシィは部下のパイロットたちにも同じことを伝えた。
「ハイネを殺したやつが・・・・・・」
「宇宙だと、デストロイのあの重量がなくなるわけですから、地上よりずっと稼働時間や
ビームの使用時間が延びるんですね」
「その分スピードも増して、今までのように切り刻めばいいというわけではないと。機体
もパイロットも性能が上がっている、そうですね?」
 三人はハイネを殺した裏切り者のコーディネーターの顔を思い浮かべていた。といって
も、連合のニュースに流れたずいぶん前のアスラン・ザラのよく日に焼けた顔だったが。
「今のところ、こちらはドラグーン搭載機が二機と実剣装備機が二機、ドラグーンで小さ
い傷をたくさん作れるかにかかってくるな。レイ・ザ・バレル、ドラグーンを使っての実
戦の初陣がデストロイ相手になるかもしれん。シミュレーションしておけ」
「了解しました」

 
 

「ああ、SEEDの力がまた戦いに、こんなに強い力なら、人々を救う力になるでしょうに」
「世迷いごとはやめろ。わがブルーコスモスの兵器の力を見たか、ハハハ」
 勝ち誇るロード・ジブリールに、マルキオ導師は言った。
「あなた方も、戦うだけでなく手を取り合って生きる道を考えなければ」
「馬鹿な。あんな化け物と一緒に暮らせるものか。毒蛇と同じベッドで寝ろといわれてい
るようなものだ」
「そこまで・・・・・・」
「だから私をダイダロス基地へ連れて行け。宗教屋が見返り云々抜かすでないぞ」
 大げさな身振りでジブリールは言ったが、マルキオは盲目だった。
「あなたと私の人類への見解は平行線をたどるのみですから、このシャトルがコペルニク
スについたら、後はご自由にどこなりとお行きください」
 ため息交じりの導師の声だったが、ジブリールは笑い飛ばした。
「自然に反したコーディネーターには生きる資格がないのです。この戦争は、コーディ
ネーターを全滅させるために愚かなコーディネーターが起こした結果なのです」
 マルキオにしてもオーブでさえ、ナチュラルとコーディネーターは分かれて住み別々の
コミュニティを作っていたと知っている。人間誰にでも生まれつきの能力差はあるものだ
が、それが母体に戻される受精卵の時点ではっきりと優劣がついているというのが、ナチ
ュラルがコーディネーターを同属として受け入れない元だ。
「私はコーディネーターを滅ぼしてみせる。奴らの自慢の遺伝子をすべて灰にする。さて、
私を自由にさせろ。お前はジャンク屋組合などという下賎な組織を持っているようだが、
私は連合軍の実質的な統帥権を持っている」
 これだけのことを言わせるバックボーンが、確かにジブリールにはあった。コープラン
ド大統領はロゴスの支持の元に選挙に勝ったのだから。
「――分かり合えなかったのは残念ですが、あなたの道を開きましょう」

 
 

 月軌道上のシャトルでそんなやり取りが行われていたころ、デュランダル議長は最後の
ヴィデオチェックを行っていた。これだけ重要な発表なので自信家の彼でも生は遠慮した。
何度も直して、クレオパトラからのチェックも受け入れて、修正に修正を重ねたデスティ
ニープラン説明ヴィデオだ。この放送で、プラントの余剰人員が自分のための仕事を探し
にきてくれればという思いが、彼にはある。生物はある程度の割合は働かずにすごすもの
だが、プラントの人口と敵対する相手を考えると無職人口はできるだけ減らしたい。なの
で本意ではないが、無職の人間、大学、大学院在学中の人間に自分にあった仕事を遺伝子
で見つけて働くように導く。
 そのヴィデオが放送される時間を、デュランダル珍しく額に汗をかいて待った。皮肉屋
の友人がいれば、『キミの覚悟はその程度か』と嘲笑われるだろうが。
 時間ぴったりに女子アナウンサーの美しい声で「一時間後から、デュランダル議長によ
る特別番組が放送されます。局のオンデマンドでもご覧になれますので、途中から番組に
参加なさる方も心配は要りません」
 放送局自体が詳しい内容を知らないのだから、この程度しかアナウンスの仕様がない。
デュランダルにしろ、デスティニープラン――運命計画――という言葉がこの計画にそぐ
うとは思ってはいない。ただ最初に思いついた言葉だから、強烈な強制的なインパクトを
持っている言葉を残した。だがこの計画の名前を受けたモビルスーツのパイロットは、好
きになった敵の少女を己の手で殺すという兵士の運命に従った。基本は職業の向き不向き
を判断するものだが、突き詰めれば兵士の覚悟までさぐれるということ。ただストライク
フリーダムとインフィニットジャスティスがデストロイに破壊されたというニュースは、
彼を驚かせた。
 遺伝子で選ばれた二人のパイロットは、これまでの戦場ではモビルスーツの性能とそれ
を生かす相性もあり、無敵だった。それが力押しで敗れたという。
 デストロイのパイロットはアスラン・ザラだとの情報がはいっている。彼の遺伝子とデ
ストロイの相性を見るほどのデータはないが、インフィニットジャスティスなら選ばれた
パイロット以上の適性だった。遺伝子改造を嫌っているブルーコスモスが、宇宙用のデス
トロイをアスランの遺伝子にあわせて改造したとは考えられない。よほど、はまったのだ
ろうと推測する。彼もザフトの誰もが、アスラン・ザラが強化人間にされ、コクピットの
薬品の海の中を漂う存在だとは知らなかった。
 ちょうど時間が来て、プラント全土とプラント領オーブへのデュランダル議長の演説が
開始された。数秒れて連合に届くのも計算のうちである。
『プラント最高評議会議長、ギルバート・デュランダルであります。本日はプラントが抱
える偏った職業構成についてお話したいと思います』
 デュランダルが見守る中で、モニターの彼が話し始めた。

 
 

「あなたは今の仕事に満足していますか?」
「この仕事は自分に向いていないと思って落ち込んだりすることが、多い人はいません
か? わたしはプラントの最高議長として国民が最もストレスの少ない状態で、仕事をし
たり教育を受けたりしてほしいと思っています」
「そのために、皆さんが登録している遺伝子の力を借りたいと思っています。スポーツの
才能がある、コンピュータの才能がある、文学の才能がある、料理の才能がある、整理整
頓の才能がある、熱心にひとつのことを毎日できる才能がある。こういうのはすべて皆さ
んの遺伝子情報から読み取れることです。誰にも色々な才能があって進路を決めているの
ですが、すべて上手く行くとは限りません。たとえば今、われわれは戦争していますが、
ザフトに志願した青年で運動能力に優れているからと前線に出したとしても、心が優しく
引き金が引けなければ、その青年は無駄に戦死させられてしまいます。それより後方勤務
で実力を発揮するか、それも向いていなければ、民間で適性にあった仕事を紹介する」
「そういうシステムをこのプラントに構築したいと、私は考えます。
デスティニープランと私は呼んでいますが、最適な人材を最適な職業に付けることによっ
て、この国の人口の少なさを補い、労働者には働く喜びを味わってもらいたい」
「これからご覧いただくヴィデオが簡単な例です」
 画像はアニメーションに切り替わっていた。

 
 

「あ、あたしにも、何ができるかもしれない。前線に出ることだけが戦いじゃない。この
議長ののプランで遺伝子判断してもらう」
 まだふさぎがちだったメイリン・ホークの頬に朱が差した。

 

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