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クルーゼ生存_第56話

Last-modified: 2013-12-22 (日) 03:06:35

「入ってろ、よそ者」
 と入れられた営倉で、ディアッカはひたすら便意が来るのを待った。二回の食事のあと、
やっと便意があり、その中からドリンカブルコンピュータとでも言うべき小型コンピュー
タを探し当てた(大変くさい作業だたが)。見えないくらい小さくダビデの星が入ってい
るこれは、ターミナル構成員の持ち物であった。生態電流でも動作、通信が可能で、月近
くのコロニーにいたときこれに『ミネルバ、宝』という二つの単語浮かび上がったのだ。
ミネルバの乗員にも何人かユダヤ系はいたし、ターミナルの構成員も一人いた。材料工学
が専門のコンスタンチン・スルツキー博士。先の大戦のPS装甲から始まって、モビル
スーツや戦艦の装甲は半年で古くなるといわれるほどの分野だ。これは今採りに行かない
と損を見ると判断したディアッカは、ミネルバに降りると、ちょっとした奇行をして――
ルナマリアへの痴漢は趣味だが――営倉にたどり着いた。
 ちまちまとドリンカブルコンピュータをいじっていると30分ほどで波長が合った。ス
ルツキー博士もこの営倉にいるのだ。(グレイトォ)と内心呟いて、会話を始めた。
『ミネルバ、宝、という言葉に惹かれてきました、ディアッカ・エルスマンです』
『エルスマン元議員のご子息か。彼はターミナルに忠実な人物だ。それなら信用できるだ
ろう』
 ディアッカは脱走しようとしてつかまったスルツキー教授に現在の状況を説明した。後
三日で議長と大統領の和平会談が始まるということ。
『私が持っている情報をターミナルが連合に売るとすると、その三日以内に交渉を決めな
ければならない』
 焦らされてディアッカは聞いた。
『ミネルバのお宝ってなんなんです?』
『先のオーブ戦でオーブが奇妙なモビルスーツを出してきたのは聞いているだろう』
『金ぴかでビームをはじくって言う』
『そうだ。そのモビルスーツのパーツは全てザフトが持ち去ったが、ミネルバの研究室に
も少量が残された。それ分析し、作り出すのに成功した』
『それをターミナルを通して連合に売れば、莫大な金になる』
『そうだ。技術を金に買える専門家は地球にいるからな――で、だ。君はここまで来た以
上私の情報を地球に届けてくれる覚悟があるのか?』
『ある。でなければ原隊から離れたりしない』
 ディアッカは前大戦でザフトを裏切ったように、確固たる忠誠心をもてない男と馬鹿に
されていたが、ユダヤ人に対する忠誠心には絶大なものがあった。遺伝子がいじられてい
ようとも流れる血は神と契約したユダヤの血だ。エヴィデンス01のおかげでキリスト教や
イスラム教といった後だし宗教がほとんど影響力を持たなくなり、神の前に跪くのが再び
ユダヤ人だけになったのはありがたいことだ。大体彼らは、地球外に知的生命体がいたら
しいからといって、どうして信仰を捨てられるのか? 全能なる神は宇宙鯨の一つや二つ、
おつくりになっても不思議はないだろうに。
『それではデータを君に託そう。神とターミナルのために』
 とまあここまで話すのに丸一日かかったわけだ。で、データ転送に半日かかった。あと
はディアッカが実行するしかない。ディアッカはなんとか人質をとろうと、ドリンカブル
コンピュータで艦内図を表示させたが、すぐに不正アクセスでひっかかってしまった。
(しまった!)覚えているのは艦長室くらいだ。
「ああ、腹が痛い・・・・・・頭が割れるようだ」
 苦しむ芝居で床をのた打ち回った。余談だがコーディネーターに盲腸はない。
「なんだ、静かにしろよ」
 たるんだ警備兵の声。
「頼む・・・よお。医者につれてってくれ」
「軍医もいまは一休み中。あーあ、こんな暇なときにお客があるなんて、そんな役回りだ
ぜ」
 引き上げようとする警備兵にスルツキー教授も声をかけた。
「病人がうるさい。感染症だったらどうしてくれる。私の頭脳を大切にしないとは」
「おっさん、ほんとにすごい頭脳なら、本土の研究所に引き抜かれるだろ」
 とはいえ警備兵も彼が軍事機密を持って逃げようとしたというのは知っていたので、少
し本気にした。
 艦内電話を取って医務室につなぐ。
『はい、医務室です』
 看護師兼薬剤師兼臨床心理士のヴァェンティナ・コストナーがにこやかに答え、すぐに
行くと言った。
(女か、楽だな)と思いながら、ディアッカは体調不良の芝居を続けた。
 しばらくして白衣のヴァレンティナがやってきた。
「とりえず営倉の中に入って、医務室に移したほうがいいか判断しますね」
 営倉の電磁ロックが開いた瞬間、ディアッカは一応エースパイロットといわれた体力で
彼女を吹き飛ばし、さらに警備兵から自動小銃を奪うと、階上に駆け出していた。さっき
の艦内図で覚えた一転に向かって進んでいく。艦自体が開店休業という中、一匹の獣が走
る。向かう先は艦長室。警備兵と銃撃戦を繰り返し、弾も受けたが、目的地にたどり着き、
ロックナンバー――これは博士がハックしてくれた――を入力する。
(やった! 神の加護は俺にあるぜ)
 ベッドの中のドット柄のパジャマの女性を抱き上げると、頚動脈を押して気絶させた。
「おい、艦長を人質に取ったぞ。脱出用のシャトルを用意しろ」
 ディアッカの声が艦内に響いた。

 
 

「いいんですか、隊長、あいつ、艦内で始末しなくて」
 シンの声には私情が混じっている。
「それは副長の判断しだいだな。タリア・グラディスも、本人に自覚があればなんとかす
るだろう」
「何より我々が現在レクイエム準備中の宙域にいますし、ここで何かあっては」
 レイは先はわかっているでしょうといいたげだ。
「ルナマリア・ホーク、追撃隊に志願します!」
 ルナマリアは制服をミニスカートからユニセックスなパンツに替えていた。シンから見
ればこれも新鮮だし、何を着てもルナマリアは美人でプロポーション抜群だった。
「その元気は買うが、シャトルが外へ出た場合、モビルスーツでの追撃はドラグーンを使
う」
 二人がレイを見たが、
「私が一人で迎撃に向かい、ディアッカ・エルスマンを撃墜し、可能ならばグラディス艦
長を救出する」
「隊長が!?」
 モビルスーツ隊にとっては、隊長が出てまで艦長を助けなくても問題ないんじゃないか
というのが本音だ。グラディス艦長が議長の愛人だったとしても、無理して助ける義理は
ないだろう。シンにしても個人的感情で行動しまくった挙句、こういう感情になっている。
大体隊長は、議長に気に入られるためにおべっかを使う立場でも性格でもない。
 嫌がらせだと見抜いたのは、同じ遺伝子を持つレイだけだった。自分はシンの未来の恋
人に、けしていやがらせや恩着せがましい行いはするまいと誓った。その日まで命があれ
ばの話だが。
 ディアッカ・エルスマンは傷を負いながらもモビルスーツを奪うことに成功したらしい。
しかしプラントの議員まで勤めた父を持つ男がなぜ? どこに逃げようとしてるのか。モ
ビルスーツの電池で行けるのはプラント本国か月面の裏のアルザッヘル基地くらいだ。何
かたくらみをもって、グラディス艦長を謀反人に仕立て上げるつもりなのか、アルザッヘ
ルに亡命するつもりなのかシンたちには想像がつかなかった。
 ディアッカのザクを追って、アレッシィ隊長が出撃して行った。一番よく見える展望室
にパイロット三人組は集まった。
「隊長はドラグーンで一気に勝負を決めるつもりだ」
 吐く銀色に輝く機体を見つめながら、レイが言う。
「空間認識力に優れた人間だけが操れるビーム兵器」
 シンの言い方は教科書を読むようだった。
「どんな感じするの? レイ」
「――前頭葉を研ぎ澄ますような感じかな」
「それって、戦場の意識や感情がスパッと見えて、自分が一段上になったような感覚と似
てる?」
「似ていないと思う。シンの感覚は、議長が言うところのSEED因子のもたらすものだ
ろうから」
「え、ちょっと待って、レイ。シンが化け物みたいに強くなるのはそれが原因ってこと」
「おい、お喋りしてると見そびれるぞ」
 三人はスクリーンと強化ガラスに注目した。
 ブレイズザクファントムの手足が、何の前兆もなく落とされていく。
「これがドラグーン・・・・・・」
 実際の戦場ではディアッカがパニックに陥っていた。
「なんだよ、あの、キラッと光るのは、うわ」
 メインカメラ、頭をやられた。でも、まだまだだ。胴体だけになって逆にバランスがよ
くなった。人質もいることだし、上手く交渉すれば。
「ディアッカ・エルスマン、投降するか、ここで不名誉な処刑を受けるかどちらかを選
べ」
 嘘は受け付けぬというクルーゼの声だった。
「へん、どっちも嫌だね、ラウ・ル・クルーゼ隊長さんよお。俺は偉そうにしてる奴は大
嫌いなんだよ」
 ドラグーンが前後からコクピットの周囲を打ち抜き、ゆっくりとコクビットブロックが
月の台地に落ちた。
 コクピットの奥で、猿轡されたタリアがうめく。
(うざってえばあさんだな。人質の効果も、思ったほどなさそうだが)
「引けよ、引かなければこのばあさんの首きって殺すぜ」
 ナイフをタリアの首に押し付けて血の玉を作った。
「議長の女だろ、フェイスだからって勝手に殺していいのか?」
「投降か、処刑か後三秒で選べ」
「だから、人質がいるんだぜ!!」
「一、二、三。処刑する」
「俺、知ってるんだぜ。あんたがナチュ」ここですさまじい爆発音が入った。コクピット
の中は加圧されているので、音がするのだ。
 ドラグーンが飛び交って、コクピットブロックは完全に破壊された。
「えっ、艦長が・・・・・・」
「彼女も覚悟はしていただろう。だいたい、一兵卒が上位のものを人質にとったからと言
って自由に動けるような軍では困る」
「かん・・・ちょう」
 別に親しく話したことはないが、ルナマリアは涙を浮かべた。ミネルバにやってきた悪
魔のような男、自分にあんな辱めをし、艦長を人質にして一緒に死ぬなんて。彼女に子供
がいるのを知っている艦員は、すべてその子の幸せを願った。
 ただレイは不思議だった。隊長の腕なら、艦長をコクピットから引きずり出すこともで
きたはずだ。それをしなかったのはやはり、ターミナルの持っている情報が脅威だったと
いうことか。
「グラディス艦長は名誉の戦死を遂げられた。アーサー・トライン副長、艦長代理として
任につくように」
 アレッシィの声は冷静そのものだった。

 

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