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クロスデスティニー(X運命)◆UO9SM5XUx.氏 第086話

Last-modified: 2016-02-22 (月) 23:56:12

第八十六話 『もう、終わらせたいんです』
 
 
イザークは、ラクスを、あの日に始めて見た
まだ子供の時分だ。コーディネイターが置かれている立場の難しさも、世界の苦難もわからぬ頃に、彼女を見た
母親であるエザリア・ジュールに連れられて、シーゲル・クラインの邸宅を訪問した頃のことだ

偶然、見た。頬を染めて花束を贈呈する少年と。それを受け取る少女

幼い頃のイザークは、その少女に釘付けとなった。
「どうしたの?」
母が、イザークの手を引く。もう少し少女を見ていたかったが、その手があったため、見つめ続けることはできなかった

しばらくして、その少女の名を知った。ラクス・クライン。アスラン・ザラの婚約者である
イザークはそれを知った時、アスランに対して嫉妬を感じた。今は、もうそれは無いと思っているが、どこかで生きているのかもしれない

=========================

地球が大きく見える。オーブ上空の宙域では交戦が続いている

そこから少し離れた場所。戦艦の残骸から、三機のMSが顔を出した
ブルデュエル、ヴェルデバスター、カオスである
ジュール隊はデュランダルに命じられ、偵察任務を帯びていたのだ。
特にヴェルデバスターはその機体特性から、策敵能力も高い。敵をきちんととらえられねば、狙撃はできないからだ

『おいおい、マジかよ……』
ヴェルデバスターのディアッカが、嘆声をあげる
イザークもブルデュエルのコクピットで映像を確認した。ヴェルデバスターから直接送られてくる、オーブ上空宙域の映像だ

「ストライクフリーダムが撃墜されたのか……?」

イザークはつぶやく。離れているため画像は鮮明でないが、サザビーネグザスは確かにキラのストライクフリーダムを撃墜したようだ
Sフリーダムは陽電子砲で粉砕されたらしく、残骸が浮いているぐらいで後はなにも残っていない

(陽電子砲を積んだMSだと?)

そんなものがありえるのか。どう考えてもMSに扱いこなせる兵器ではない
少なくとも現段階の技術では不可能なはずだ
陽電子砲は巨大な兵器で、戦艦に積むか、ガルナハン基地のように砲台へ固定するしかしないと運用できないはずだ

『しかし、これでオーブ政権も終わりですね』
カオスのシホが、どこか冷たい声を張り上げた
『いや、わかんねぇぜ。セーフティシャッター付きの脱出ポッドが、撃墜寸前にSフリーダムから出てる』
『でも、このままじゃザフトにキラは捕獲されるでしょ?』
脱出ポッドの周りへ、ザフトのゲイツが集まっている。捕獲しようというのだろう
『ま、そりゃそうなんだけどな』

ディアッカが微妙な声をあげている。そういえばディアッカは、前大戦でキラとは戦友の仲だった
とはいえ本物のデュランダルにすれば、ここでキラが死ぬのは悪くないことだろう
オーブ政権の瓦解は早まるし、キラの離脱はクライン派の戦力を大きく落とす

だが、ラクスにしてみればどうか
キラの離脱は痛いというどころではないはずだ
なにより、仲むつまじい恋人同士だという。それを無くせば、ラクスはどうなるのだろうか
イザークはそれを想像した時、なぜか物悲しくなった

「ディアッカ。この距離から狙えるか?」
『ん? サザビーか? そういえばなんか動いてないよな。でも、遠距離砲撃じゃキツイと思うぞ
 見てのとおり、やっこさんの装甲はすごそうだからな』

クラウダやDXほどの堅牢さがあるかはわからないが、確かにサザビーは見た目からして大きく、装甲が厚い

「いや、キラ・ヤマトだ、ディアッカ」
それぐらいのことはイザークにもわかっている。だからサザビーを狙えと言ったのではない
『キラ?』
「ここから、キラ・ヤマトの脱出ポッドを狙撃できるかと聞いてるんだ」
『そりゃ、できないことはないけどさ……。でもそれこそ無理じゃないか?
 覚えてるだろイザーク。セーフティシャッターは、イージスのゼロ距離自爆に耐えたほどのシロモンだぜ?
 サテライトキャノンとかならまだしも、ヴェルデの複合バヨネット装備型ビームライフルじゃな……』
「かまわん。撃ってみろ」
『はいはい。了解っと』

ヴェルデバスターが二本の大型ビームライフルを引き抜き、連結させると、砲撃体勢に入った

「シホ、カオスを変形させろ。ディアッカが撃ったらすぐにミネルバまで逃げるぞ」
『隊長。キラ・ヤマトを生かすおつもりですか?』

シホに言われ、イザークはどきりとした

「……なにを?」
『この角度で撃てば、キラの脱出ポッドは勢いを得て、地球に降下します
 お忘れですか。私は兵器開発出身ですよ。それぐらいの計算はできます』
「深読みのしすぎだ。ここでキラを殺せるなら、それに越したことはない」
『ならばこの宙域からの離脱を上申いたします。交戦は無意味であり、キラへの攻撃は彼を生かすことになります」
「却下だ。ディアッカ、いいから撃て!」

イザークははき捨てると、叫んだ
同時にヴェルデバスターの連結ビームライフルが火を吹く
 
『グゥレイトォ!』

さすがである。長射程のここから、バスターのビームはMSよりはるか小さなSフリーダムの脱出ポッドに命中した
それはシホの言葉通り、破壊されること無く、ビームによる衝撃で推力を得て、地球に向かって押し出された

(生き延びられるかどうかは、半々というところか)

ザフトが、あわててキラの脱出ポッドを追う。それを邪魔してまで、助けてやるつもりもなかった
後はキラ自身にどれだけ運があるか、ということになるだろう

なにが起こっているのかわからないが、ザフトのオーブ軍への攻撃はおとなしくなっているように見えた
そのためか、オーブの増援軍は次々と地球へ降下している
だが、一方的に攻撃を受けていたのだ。だいぶ損害は出ているだろう

「シホ、引きあげるぞ」
イザークは少し気まずさを感じながら、告げた。カオスが変形する
カオスは、宇宙空間での高機動戦闘をコンセプトに作られたMSだ
変形すれば、並のMSよりはずっと早い

砲撃に気づいたザフトの一小隊が、こちらに方向を変えるのが見える

ヴェルデバスターとブルデュエルは、変形したカオスに手を伸ばしてつかむ
たちまちカオスのバーニアは推力を得、一筋の流星になった

『デュランダル議長への裏切りではないのですか?』

交戦空域からある程度離れたとき、シホがイザークにそう告げてきた
確かに、後ろめたさがないわけではなかった

「……」
『先ほどの行動は解せません。なぜにキラ・ヤマトを生かすようなことを?』
「キラを殺そうとした。しかし失敗した。それだけだ
 それ以上の質問は許さん」
『それは上官命令でしょうか、隊長』
「いい加減にしろ、シホ。なにを怒っているんだ」
『怒ってなどいません! 
 ザフト軍人として、ラクス・クラインに塩を送るような真似が、納得できないだけです!』
「誰がラクス・クラインに塩を送った!」

イザークはいらだって、思わず叫んだ
それで本心に気づかされる。俺は、ラクス・クラインのためにキラを生かしたのか

『恐れながら、先ほどの行動、そうとしか思えません……そんなにラクス・クラインが大事なのでしょうか
 いま、苦難の底におられるデュランダル議長よりも? これでは再び裏切り者の汚名を……』
「いい加減にしろと言っている!」

イザークはかんしゃくを起こしそうになった
すると軽い衝撃がくる。同じくカオスにしがみついている、ヴェルデバスターがデュエルの肩を叩いたのだ

『それぐらいにしときなよ、シホちゃん。イザークもな』

ディアッカが間に入ってきた

『エルスマン、あなたは黙ってて!』
『イザークにはイザークの考えがあるんでしょ
 シホちゃん、あんたはイザークの部下だろ。ちょっと言いすぎじゃないの』
『それは……!』
『それに、裏切り者とか、そういうのだったらまず俺に言うべきだぜ?
 なにしろ俺は裏切りのエキスパートだからな。前大戦から通算で二回も裏切ってんだから』

言って、ディアッカは笑い出した
それでいくらか、イザークの激情も退いていった

戦艦ミネルバが見えてくる。また大西洋連邦の基地に帰還するのかと思うと、少しだけ嫌な気分に襲われる
大西洋連邦大統領ジョゼフ・コープランドの思惑はともかく、一兵士たちは必ずしもデュランダル一行を歓迎しているわけではないのだ

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アマギたちと落ち合った灯台の地下室で、半日ほどじっとしていた
もともとは倉庫などに使われていたようだが、『自称オーブレジスタンス』のアマギたちはここを改造して拠点に使ったりしているらしい

オーブが攻撃を受けている。だから今はここを動くことはできない

ユウナは、地下室のすみでじっとツメをかんでいた
どうにも落ち着かない
戦場を経験したことで、いくらか度胸がついたかと思っていたが、爆撃の音が響くたびに心臓がのどから飛び出そうだった

護衛としてついている、ウィッツなどは爆撃があっても平然としている
なんと彼は、爆撃が始まって動けないと悟ると、毛布を一枚引っかぶって昼寝を始めたのだ

(なんて男たちだ)

ユウナはつくづくと、AW世界の凄まじさを思う
軍人であるアマギですら、落ち着かない表情をしている
そういう状況で眠るとは、どういう神経をしているのだ

(だが……)

そういう図太さや度胸のよさが、かえって政治では邪魔になることもある
臆病さは、配慮にも変わるのだ
それにユウナにはユウナなりの意地もある。この戦争は、やはりCE世界の人間が終わらせたい

「終わりましたかな。ちょっと外を見てきます」

周囲が静かになったので、アマギは外に走った
ユウナはほっと息を吐く。どうにか生き延びたという気分だったが、今度は逆にオーブ本土への被害が気になった
最悪、ザフトに制圧されているということもありえるのだ

しばらくして、アマギが降りてきた。ウィッツはまだいびきをたてて眠っている

「ユウナ代表。オーブ軍はどうやら防衛に成功したようです」
「へぇ……」

『防衛に成功』という言い方をしたということは、オーブは自力で追い返したということだ
ザフトが今日はこれで頃合よしと、戦略的な撤退をしたわけではない

「宇宙から、オーブ主力軍の一部が降りてきたのかもしれません」
「なるほどね」

それから、アマギは外を走り回って情報を集めてきた
こんなことをしているとはいえ、一応彼は軍属である
みずから望んで閑職についているようだが、軍機もある程度は手に入るのだろう

聞いた情報によると、オーブ軍はアマギの見立て通りオーブ主力軍が降下してきたらしい
降下時にザフトの待ち伏せがあり、それなりに損害は出たが強行突破
その後はクラウダ隊などの活躍などもあって、ザフトをどうにか撃退したようだ
ただ、あくまでザフトはオーブを狙う構えを崩しておらず、近いうちに再戦となるだろう

オーブ本土は、ザフトの爆撃でいくらかダメージを受けたらしい
今は軍事施設が集中的に狙われているが、それがいつ市街に向くかわからない
それも、ユウナは気になった

もう一つ、気になる情報があった

「キラが撃墜された?」
「不確定情報ですが……どうもそんな声がありました。オーブ市民には伏せられている情報ですが……」

ユウナは腕を組んだ。キラが異常に強いというのはわかっている
そうそう落とされる男ではないはずだ。しかし、自分の強さを信じすぎているのか、彼は単独で戦うところを好むところがあった
そこを、突かれたのかもしれない

「やったのはシンか?」

いつの間にか、ウィッツが起き上がってユウナやアマギのそばにやってきた
彼は大あくびを一つして、話に加わってくる

「いや、そこまではわからん、ウィッツ・スー」

生粋の軍人であるためか、アマギはウィッツの不真面目な態度が気に入らないらしく、表情にとげがあった

「シンは出撃していないはずだよ。ヤタガラスやDXは地上にあるんだ
 そんな状況で交戦できるはずがない。テンメイアカツキは、強力なMSの支援無しじゃ辛い機体だからね」
ユウナが口をはさむと、ウィッツはそれもそうかとうなずいた

ならば、落としたのは誰だ。いや、本当に落とされたのだろうか
ストライクフリーダムはそうそう落とせる機体ではない
アスランのインフィニットジャスティスがほとんど子供のようにあしらわれた機体なのだ
シンのテンメイアカツキ以外、正攻法ではまず落とすのは不可能な機体だ

あるいは、サザビーネグザスか

そう思ったが、偽のデュランダルが操るあのMSは正確な実力がよくわかっていない

それより、キラが死んだかもしれないという情報の方が有益だった

「アマギ、すぐにうわさを流してくれ」
「はっ」

アマギにいくらか指示を行う
とにかく、これから危ない橋を渡り続けることになるだろう
工作が成就するまでは、ザフトにオーブが制圧されることも考えておかねばならなかった

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最初は、なにが起こったのかわからなかった。数瞬して、シンは撃たれたということを悟った
オーブ奪還作戦、オペレーション・オケハザマの打ち合わせが終わり、ヤタガラスが地球へ降下した直後。
ダイダロス基地内での出来事である

デュランダル議長が、歓迎されていないのはわかっている
とはいえ、今は大西洋連邦と協力関係にあるのだ
そこに油断があったのだ

場所は、人気のない通路である。そこの影から銃声が現れた

「シン!」

銃声の後、一緒にいたステラが飛んだ
そう思うほどの速さで、ステラはふところからナイフを引き抜くと、そのまま犯人らしき人物へ投げた

ぐぇ。そういう声がして、鮮血が散る。しかしそこまでだった。すぐにシンは叫んだ

「やめろ、ステラ!」
「……え?」
「追うんじゃない!」

シンは自分の体を確認した。幸い、弾は命中していない
ステラが足を止めると、犯人らしき足音は遠ざかり、やがて消えていった

「シン……」

ステラが怖い顔をしている。自分が撃たれたことに怒っているのだろう
返り血を少しだけ浴びていて、彼女の頬が赤く染まっていた

犯人は誰だか知らないが、シンがとっさに考えたのはここで問題を起こすのはまずいということだ
大西洋連邦の一般兵士は、必ずしも自分たちを歓迎していない
シンは被害者だが、揉め事になるのは避けたかった

「馬鹿者馬鹿者馬鹿者」

シンたちがダイダロス基地で使っている区画に戻ると、ミナがあきれた顔でそう連呼してきた
ミネルバ、ヤタガラス、ともに出航しており、ここにいるのは他にルナマリアぐらいだった

「事件にするつもりはありませんよ。だから俺は、犯人を追跡せずに戻ってきたんですよ」

自室で、事件のてん末を書き記しながら、シンは頬をふくらませた
事件を表ざたにするつもりは無いが、一応デュランダルへは報告しておこうと思ったのだ

「そういう意味ではない」ため息とともに、ミナはつぶやく「おまえは顔が、
売れ始めていることを忘れたのか。私は言ったはずだぞ。名を売るということは、それだけ敵を作るということなのだ
それをなんだおまえは。ステラをつれて人気のない場所をうろうろと。襲ってくださいと言っているようなものだ」
「そんなこと言われても……」
「まだ実感がないとかほざくなよ。おまえはまず、クライン派に命を狙われる可能性がある
 他にもブルーコスモスやザフトもそれぞれおまえを殺す理由がある
 おまえも、暗殺で殺されてはたまらんだろう。もう少し身辺を気をつけろ」
「まぁまぁ、ミナさんそれぐらいで」

ルナマリアが苦笑を浮かべて、話に割って入ってきた
護衛のつもりか、彼女は手元に銃を引き寄せている
そのそばで、ステラがきょろきょろと周囲を見回していた。敵を、探しているのだろうか

しゅぅっと音がして、シンの部屋の扉が開いた

「よぅ、シン。襲われたんだって?」

顔を見せたのはハイネだった。まるで昨日食べた夕食の話でもするように、そう告げてくる

「……まぁ、多分」
「フーン。ま、おまえのそばは花が咲き誇ってるからな。それを独り占めしてるんじゃ、恨まれもするだろ」

ハイネが、ステラとルナマリアを見て笑う
一瞬、どういう意味なのかシンははかりかねた

「ヴェステンフルス隊長!」
ルナマリアが鋭い声をあげようとしたが、ハイネは即座に首を振った
「ハ・イ・ネ」
「え……?」
「呼び捨てていいよ、ルナマリア。そんなかたっ苦しい
 ザフトは赤服だろうが緑だろうが『FAITH』だろうが、戦場に出ればみな同じ
 それがザフトMSパイロットの慣例だろ? 命令どおりに群れなきゃ戦えない地球軍の連中みたいな、堅苦しいのはやめようぜ」
「ハッ。その地球軍の世話になっといてなにを言ってるんだ貴様は」

ミナから鋭い声が飛ぶ。ハイネは、少しだけ首をすくめた
否定とも肯定ともつかぬ仕草だった

「それはともかくだ」ハイネが、手近なイスに腰を下ろす「おまえが暗殺されそうになるとはな、シン」
「……」
「俺は、襲撃を受けるのは議長だけだとどこかで思い込んでいたが……
 なるほどな。おまえを殺されるのは痛い。こりゃ盲点だった」
「そうですか?」

どうも、いまいち実感が無い。そこまで自分の名は大きくなったのか

「シン。おまえは、有名っぷりならラクス・クライン並だぞ
 ユウナ代表や議長が、おまえをプロパガンダに使っているのは事実だが、
 凄まじい戦果があるのもまた事実だ。それに、ラクスを足止めしたあの舌戦
 あれが世界中へ放送されたのも忘れるなよ」
「……」
「名が売れる。売れ続ける。それが良い方向に突き抜けると、やがてそれを人は英雄扱いする
 それが今のおまえだ。そういうおまえが抜けられると、俺たちにも痛い
 いつの時代もな、人間ってのは英雄が好きなんだ
 シン。だからおまえは、もうしばらく英雄でいろよ。この戦争が終わるまで、な」
「いえ……」

ハイネに言われると、なぜか無性に恥ずかしくなった
よくラクスと舌戦などやれたものだ。目の前でネオが死んで、頭のネジが三本ぐらい抜けていたのだろうあの時は

ただ、託されたものがあった。それはまだこの手の中で生きている
平和を、己の手でつかむ。その誓いを忘れたことはない

「ならばもう少し、生き延びる工夫をせねばな」

唐突にそんなことを言って、ミナが笑った
ぞわり。シンの全身を、悪寒が走り抜ける。まずい

この人がこんな風に笑ったとき、ろくなことがない

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「はっはっは。良いではないか良いではないか」
「や、やめてくださいミナ様! ちょ、なんでそんなもの持ってるんですか!」
「伊達にオーブ五大氏族の頭領ではないのだよ。ふふふ、ここをこんなに硬くしおって」
「や、やめ、そんなの入んないって!」
「ゴールドフレームを壊したオシオキだ。ククク、いいぞその顔。たまらん……!」
「お、あ……アッー!」

ハイネ、ルナマリア、ステラが追い出された後、シンの部屋からそんな叫び声が聞こえたという

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「とまぁ、こういうわけだ」
「うぐぐぐ……」

ミナが、ツヤツヤした顔でシンの肩を叩いてくる
それを見たルナマリアが、目をきらきら輝かせてこちらをのぞきこんできた

「し、シン……。わ、私好みにかわいくなっちゃって……」
「うぇーい」
「ぷ……くくく……」

ハイネは部屋の隅にうずくまって、顔を真っ赤にしている

「ククク。さぁ、ご挨拶だ」
ミナがシンの背中を叩き、うながしてくる

「ま、マユでーす(裏声)」
「ぶはははは! も、もうダメだ!」

ハイネがその場で笑い転げている。シンは少し、泣きたくなった

どこから手に入れたのか。いま、シンが着ているのは、妹のマユが通っていた学校の制服である
悲しいことに、シンの背は低い。尺は少し違うが女物のそれを身に着けることができた
しかも、頭にはかつらをかぶっている

そして鏡に映る自分は、少し大きくなったマユ・アスカの姿だった

「ふはははは、完・璧!」
どこかの強化人間みたいな口調で、ミナは親指を立てた
「こ、こんなことする意味があるんですかミナ様!」
「あるぞ。少なくとも、これでおまえは襲われまい」

急に真顔になって、ミナは告げた
少し、虚を突かれる。確かにそのとおりだ。いくらなんでも、この容姿なら誰も自分をシン・アスカとは思わないだろう
ミナはそこまで考えていたのだ。……遊んでいたのではなかったのか

「でも、下着まで女物なのはどうしてですか?」
「……フッ。そっちの方が楽しいからだ」

前言撤回

「ちなみこれが着替え中の写真な」
なぜかミナが、ルナマリアに写真データを携帯端末で手渡している。シンはそれ以上考えないことにした

「シン、かわいい……」

女装してスカートはいてる情けない男に、ステラは腕を組んでくる

それから、ミナらとは別れた。そろそろ彼女もアメノミハシラに帰らねばならないだろう
守備にタカマガハラ第二、第三部隊がついているものの、いつザフトに襲われるかわからないのだ

デュランダル議長に会わねばならなかった。少し、考えたことがあるのだ

「……」
「そんな目で見ないでください、議長」

デュランダルの部屋につくと、彼は怪訝そうな顔でこちらを見てきた

——————ああ、君はシンか
いつもの、彼の手元にある大きなディスプレイに字が映る
「こんな格好ですみません」
——————暗殺されかけたと聞いたが、その対策かね?

どこかのセクハラ大王と違って、理解があるから助かる

「そうです」
——————ジョークがきいているな。で、今日はどうしたのかね?

デュランダルが柔和な笑みを浮かべる
シンはステラを離れた場所に座らせておいて、無声の政治家と向き合った

「ブルーコスモスのことです」
——————ブルーコスモスか?

反コーディネイター団体ブルーコスモスは、ダイダロス基地制圧後、母体となるロゴスが崩壊したことで不安定な存在になっている
ブルーコスモスが持っていた軍事力は、大西洋連邦が接収し、そこのパイロットなどは捕虜となっていた
ただ、ブルーコスモスは巨大である。民間人にも構成員はいるし、潜在的な力はなお失っていないと考えたほうがいい

頭を失っているのだ。頭を失った蛇は、力がないかもしれない
だが、ブルーコスモスは大蛇だ。頭を失おうと、暴れまわる余力を残している
そして頭がないから、どう暴れるのか予測がつかない

「議長。このまま解体されるのでしょうか、ブルーコスモスは?」
——————おそらくはな。コープランド大統領も、いつまでもアンチコーディネイターではダメだと考えていよう
         それにこの戦争、ラクスが勝ってもあの偽者が勝っても、ブルーコスモスの存在は許されまい
         だが、哀れとは思わないよ。彼らは危険すぎるし、人を殺しすぎる
         レクイエムで、150万ものコーディネイターが死んだのだから

そう言われると、シンは二の句が難しくなった
考えようによっては、自分の考えはコーディネイター全体に対する裏切りともなりえる

「……そうですね、レクイエムで」
——————どうしたのだね?
「……いえ」
——————なにかあるなら、話してみたまえ
         君は、話があってここにきたのだろう、シン
「その……ブルーコスモスを復活させるべきではないでしょうか」

シンが思い切って言うと、デュランダルは少し驚いた顔をした

——————なぜ?
「……お、怒らないのですか?」
——————私は政治家なのだよ。感情を優先する者は、政治家でない
         言葉を続けたまえ、シン
「あ……はい」

シンはできるだけ、落ち着いて語りだした

そもそもこの戦争の根底に、コーディネイターとナチュラルの対立があると言われている
だが、それは違うとシンは思った。本当は、コーディネイターとブルーコスモス、ロゴスの対立である

前大戦以来、戦争に積極的だったのは地球連合のどの国でもない
ブルーコスモスという、国家でない集団である
しかしそれは国でないがゆえに、これまでプラントと交渉の席についたことがなかった

戦争は、敵同士が和平を結ぶことで終結する
ならば、本当にプラントが和するべきは、大西洋連邦でもユーラシア連邦でもなく、ブルーコスモスではないのか

その和のため、ブルーコスモスを復活させる。そして、その団体を穏健派に変えていく
時間をかけて、対立感情を軟化させていく。それが、本当の平和を築く方法ではないのか

シンは、そう考えた

——————シン、それを誰かにしゃべったことは?
「いえ……誰も」

デュランダルがそれから、言葉を止めた。沈黙が重くのしかかってくる
ステラが、足をぶらぶらさせて退屈そうにしていた。気楽なもんだ
女装していることも忘れて、シンは生唾を飲み込んだ

——————私は

沈黙が、終わった

「は、はい」
——————私はまだプラント最高評議会議長であるつもりだ
         プラントをみすみす敵に回すような君の意見を支持するつもりは無い
         レクイエムの傷跡は生々しく、コーディネイターたちの心を苦しめているだろう
「……」
——————そしてもう一つ。君のプランは不可能に近い
         人はさほどにたやすく、憎しみや悲しみを忘れ去ることはできん
         ブルーコスモスは、コーディネイターへの憎悪をたやすく軟化させられるとは思えん
「でも……」シンは、顔をあげた「不可能を可能にしろって。俺、言われました
 だから、無理でもなんでも……もう、終わらせたいんです」

また、沈黙が支配した
デュランダルがじっとシンを見据えてくる
凄い威圧感だ。殴り合いでは間違いなくこっちが勝つだろうが、それだけではない、人格の高さが彼にはある

負けずに、にらみ返した。デュランダルがなんだ。シン・アスカは英雄だ。心の中、そううそぶいてやった

——————支持はしないが、私は反対もしない
やがて、デュランダルの視線はやわらぎ、そんなことをディスプレイで語った
「議長……」
——————プラントに再潜入する度胸があるなら、やってみたまえ
「プラント、ですか?」
——————行くなら、オーブ奪還戦までに帰って来るのだよ?

言って、デュランダルは車椅子を動かし、棚から一枚のメモと写真を置いた

——————彼は、最後のメンバー。前ブルーコスモス盟主、ムルタ・アズラエルの父
         アズラエル財閥総帥、ロゴス穏健派、ブルーノ・アズラエルだ 
         ブルーコスモスの復活と言うなら、会う価値はあるだろう

写真には、初老の男が写っている。シンはかすかに震える手で、それを拾い上げた