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クロスデスティニー(X運命)◆UO9SM5XUx.氏 第105話

Last-modified: 2016-02-26 (金) 00:59:14

第105話 『さっさと逃げたいよ』
 
 
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ザラ派の、あの男への忠誠は、ほとんど崇拝に近いものだった
ニコルはそこまでにはなれないが、恩義ぐらいは感じている

命が助かったのは、偶然だった。
キラ・ヤマトの駆るストライクに乗機のブリッツが撃墜され、しかし半死半生だった
偶然、戦闘後のジャンクを狙ってやってきたジャンク屋に拾われて、赤十字に預けられた

死ぬだろう。そう思った。医師たちの、手の施しようがないという言葉を、あいまいな意識の中で聞いていた

生きたいか?

誰かがそう、ささやいた。生きたい。このまま、無意味に、死にたくは無い

苦しみながら、生きることになる。それでもいいか

それでもいい。なにもかも、これからだった。15才だった。
まだたくさん、楽しいことや嬉しいことがあるはずだった。恋もしてみたかった。
なにもしていない。冷たいMSの中で、任務に徹するだけの人生など、なんの意味があるのだろう

いいだろう

あいまいな意識の中で、聞いた福音。いや、悪魔からのいざない
後でわかったことだが、あの男はたった一人で手術を行ったらしい
体の中を、継ぎ代えるような、きわどい手術だったという
しかし、どんな名医もできないようなことを、あの男は平然とやってのけた

これは、君が選んだ道だ。しかし、思うことがあれば、私の下に来たまえ

翌朝、手術を行った男はこつ然とかき消えた
そして奇跡が起こった。ニコルは生き返った。医師たちが騒然としたが、ニコルは鏡を見て呆然とした

この、醜い男は、いったい誰なのか
皮膚はすべて焼けただれ、人間でなくなった男はいったい誰なのか
子供は作れない、皮膚の移植も体が耐えられないからできない。
医師たちは、淡々とした口調で宣告してきた

絶望の中にいた。夜毎、叫び、暴れた。
徐々に医師も看護婦もニコルを敬遠するようになり、孤独は意味無く深まっていった

ニコルは人々の視線に気づいた。化け物を見るような目
邪魔者を見るような目。人ではないものを見る目

プラント最高評議会議員の息子だと、言えなくなった
いや、両親にすら拒絶されるのではないか
コーディネイターはそのほとんどが、整った顔立ちである
ここまで醜くなった自分は、プラントでは生きていけないだろう

怖くなっていく。終わったと、思った
恐怖と絶望がないまぜになっていく。死。医務室から、メスを一本盗んで、それをのどに突き立てるべきかどうか迷う日々

死にたい。しかし、死にたくない。わけのわからない感情がニコルを包んでいた
15だった。青春の真っ只中のはずだった。もっと楽しいことがあるはずだった
親孝行だってろくにしていない、恋だってまだだ
なのに、なぜこんな目にあわなければならないのか

ニコルの絶望とは別に、時は進み、やがて戦争は終わった

がく然とした。アスランが、そしてニコルを殺したストライクのパイロットが、ラクス・クラインと手を組んで戦争を終わらせたのだという
しかも、アスランもラクスもプラントを裏切っていた

「ふざけるな」

ニコルは低い声でつぶやいた。やり場のない怒りを感じる
なんだこれは。やがて、父が自殺したという報を聞く
父はニュートロンジャマーキャンセラーを開発していた。
それは、フリーダム、ジャスティスに搭載されていた
フリーダムはラクスが盗み、ジャスティスはアスランが持ち逃げして、二機はプラントと敵対した
その責任を取っての、自殺だろう。

アスランをかばって、こんな目にあった。
しかし、アスランはニコルを殺しかけたストライクのパイロットと、仲良くやっている
こんなことが許されて良いのか。いったい、なんのためにアスランを助けたのか

怒りと哀しみが、ニコルを埋め尽くした
なんのためにアスランをかばったのか。これでは、まるでピエロだ
いったい自分の人生は、なんのためにあったのか
父を死に追い込み、仇敵や裏切り者と笑いあう友を、守るための人生だったのか

どうして、自分だけがこんな目にあうのだろうか

殺すしかない。そう思った。ラクス・クライン、キラ・ヤマト、アスラン・ザラ。
この三人を、どうやっても殺すしかない。自分に生き延びる意味があったとすれば、それだけだ

「久しぶりだね」

どうやって殺すのか、手持ちのMSもないまま悩み続けるニコルに、あの男が顔を見せた
ニコルを救った、あの男だ

男は老人だった。しかし、動きだけは若々しい。
なにより、ニコルは老人の顔を見て呆然とした

「ジョージ・グレン……」
「世界を壊しに行く。私に力を貸してくれ」

手を差し伸べてきた。ニコルは、無意識にそれを握り返していた……

うつらうつらとしていた意識が、覚醒した。

目を覚まし、見回すと誰もいない屋敷の中である
例の、ジョージが本拠地にしていたアジトだった
今はザラ派もジョージも引き払っているため、ここにいるのはニコルだけである

エターナルを撃沈させたのはいいものの、ラクスを殺し損ねた
それから、ザラ派に回収され、乗機のデスティニーも修理された
今も命令は受けており、依然としてラクスの暗殺である

横たわっていたソファから起き上がり、ニコルは松葉杖をつかんだ。
外に出ると、太陽の光を感じた。地球でなくとも、太陽は照る。窓越しに、日光は降りてくる

アウルの墓。周囲が、花で埋め尽くされている
そこへじょうろで水をやる。なぜこんな馬鹿げたことを続けているのか
自分はいつか、死んでしまう。それもそう遠くないうちにだ。こんな生き方をしていて、長生きできるわけがない
死んでしまったら、誰も花の世話などしないし、やがて枯れてしまうだろう

今、水をやっても、いつか必ず枯れる。だったら、こんなことに意味は無い

ニコルは、じょうろを投げ捨てた。がっくりとひざをつく。また、泣きたくなってくる

嫌だ。なにかを、取り戻そうとしている。それは、きっと、優しい心。
そんなものを取り戻してどうするのだろうか。誰も愛してくれぬというのに、どうしてそんなものが今さらよみがえるのだろうか

「どうしたいんですか、アナタは」

つぶやく。

「アナタはどうしたいんですか、ニコル・アマルフィ」

ニコルは立ち上がった。足をMSデッキに向ける
松葉杖でたどり着いた先にある、一機の巨人。

「デスティニー」

目を閉じた。殺すしかなかった。とにかく殺すしかなかった
もう、それしかできなくなっている。そして、とっくに後戻りできないところまで来ている

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キラ・ヤマトが捕まり、連行されていく
特に彼は抵抗などしなかった。
なにが起こったのか、ルナマリアにはよく理解できなかった

ただ、オルバと、その兄だというシャギアが、意味深な表情をしている
なぜかそれが不快でしょうがなかった
仲間だった頃のオルバは、いけすかないヤツだとは思っていたが、それでもこんな不快感は無かった

「あなたたちは……」

強い声を聞いて、驚いた。声の主はティファである

「ティファ・アディール。我々になにか、言いたいことでもあるのか?」

シャギア・フロストが、特に感情の無い声で告げてくる。
やはりどうしようもない不快感があった

「あなたたちは、それほど世界が憎いんですか」

ティファが、強い目線でフロスト兄弟を射抜いている。思わずルナマリアがたじろぐほどだ
少し前までは、はかなげな印象しか無かった少女が、いきなり獅子に豹変したような感じだ

「お得意の、読心術か。つまらんな」
「人に傷つけられた。人に苦しめられた。だから、人を許したり、人を愛したりすることができない。
 かわいそうな人たち……」
「……」
「どんな理由があっても、誰かを傷つけたり、殺したりしていたら、必ず自分が滅びます
 幸せになど決してなれません。あなたたちはそれがわからないんですか」

すると、シャギアはティファに近づき、いきなりその首元へ手刀を放った
首の骨を折らんばかりの勢いで、思わずルナマリアは拳銃を抜きかけた
しかし、シャギアの手は彼女の首すれすれで止まっている

「ティファ・アディール。おまえがどう思おうと勝手だ。だが、我らは止まらんよ
 おまえにあれこれ言われたぐらいで、我らの決意が揺らぐとでも思っているのか?」
「……っ」
「おまえの命、奪おうと思えばたやすい。忘れるなよ」

酷薄な目だった。人を、虫けらのように殺せる人間の目
ルナマリアは嫌悪感の理由が、はっきりとわかった
この男は、強すぎる憎しみを全身にみなぎらせている

「おい、なにしてんだ! おまえら!」

声が近づいてくる。それで、場にあった緊張感がいくらかくだけた

ずかずかと、一人の男がティファの部屋に入ってくる
長髪で、軽薄そうな男だった。確か、ロアビィ・ロイとか言うレオパルドのパイロット

「大人しくしておけ、ティファ・アディール。行くぞ、オルバ」
「わかったよ、兄さん」

フロスト兄弟は、兵を引き連れてその場から去って行った

「なにがあったんだ? ええと……」
「ルナマリア・ホーク、です。
 クライン派なのに、なにが起こったのか知らないんですか、ロアビィ・ロイさん?」
「おお、俺も名前が知られるようになったね」
「オーブ本土に核を撃ち込もうとすれば、嫌でも有名になりますよ」
「あちゃ、参ったねこりゃ」

ロアビィは気さくに接してくるが、ルナマリアは警戒を解かなかった
元はガロードの仲間だというが、それと信頼できるかどうかは別だ

「キラが連れ去られました」

背中から、声がかかる。ティファである
するとなぜか、ロアビィが驚いたような顔をした

「……ちょっとびっくりだね」
「なにがですか?」
「ティファ、今のあんた、歌姫さんに似ていた
 しゃべり方もそっくりだったな。まぁ、ひざが震えていることは大きな違いだけどね」

言われて、初めてルナマリアはティファが震えていることに気づいた
シャギアに脅されて、実は怖かったようだ。それなのに気丈なふりをしていた

ティファは、一つ、二つ、深呼吸をした

「私とあの人は、似ています。それは私も思います」
「歌姫さんも、ニュータイプってことかい?」
「力があります。強すぎる力です」
「……まぁ、そんなことは俺にとってはどうでもいいか
 それよりも、キラが連れ去られたって……逮捕か?」

ロアビィは、ティファに向けていた視線を、ルナマリアの方に変えた

「確か、逮捕って言ってました」
「キラを逮捕できるのは、歌姫さんだけだな。
 フロストブラザーズが勝手にやった可能性もあるけど、この狭いメサイアじゃそれはないか
 やーれやれ、お二人仲良くしててくれれば、護る方も楽なんだけどね」
「なにかあるんですか?」

ラクスとキラが仲の良い恋人同士だと言うのは、ルナマリアでも知っていることだ
ただ、ロアビィの口ぶりは思わせぶりである

「なぁ、ルナちゃん」
「人の肩へ勝手に手を置かないでください。あと、気安く呼ばないでください」
「お、こりゃ失礼。意外と手ごわいね。彼氏とかいるの?」
「どうでもいいでしょうが! そんなこと!
 ええ、どうせ私は仲良くはなれても恋人まではいけず、いい友達で終わるタイプの人ですよ!」
「……あ、その、ゴメンね。
 でも、君みたいなかわいい子を放っておくなんて、周りは見る目が無いな」
「あ、やっぱそう思います?」
「うん、心からそう思う。
 俺は君の敵かもしれないけど、君の魅力についてはちゃんと理解してあげられるよ
 そういうところは、きちんと認めてあげないとね
 必ず君は幸せになれるよ。それだけの魅力が、君にはある」

そう言われて、ちょっといい気分。しかし、こっちをじっと見てくるティファの視線に気づいた

「……ハッ。ダメダメ、流されるところだったわ
 そうじゃなくて、ラクス・クラインとキラ・ヤマトの間になにかあるんですか?」
「……。ゴメンね。立場上、君と僕は敵同士
 うかつになにか言えないね」
「それなら、さっさとクラウダとティファをこちらに引き渡してくださいよ
 私だっていつまでもメサイアにとどまっていたくありません」

本音だった。敵陣の真っ只中に、一ヶ月も放り込まれたまんまである
敵意の中にいれば当然、ストレスもひどいし、疲れる。
それにバルトフェルドが言を左右してクラウダを引き渡さない
おかげでルナマリアは、くたくたである

「まぁ、それは虎のおっさんに言うとしてだ
 ここだけの話だけど、なにが起こっても俺はティファの命だけは助けるつもりだ」
「……本当ですか?」
「ああ。クラウダとかは俺にとってどうでもいいけど、ティファになにかあったら俺がガロードに殺されかねないからね
 あ、これ、冗談じゃなくて本気で言ってるのよ?」

言われて見ると、納得できる部分はある。
ガロードは、決して愚かではないが、ティファのことがからむとおかしくなる
それはいい意味でおかしくなることもあれば、悪い意味でおかしくなることもあるのだ
だから、もしティファが死ねば、ガロードがどうなるか。かなり恐ろしいことになるような気がする

「ガロードにあなたが殺されるっていうのは、信じますよ
 でも、あなたは私たちになにかしてくれるんですか?」

するとロアビィは、小さな装置を渡してきた
装置と言っても簡単なもので、四角い固形に電球がくっついているだけだ

「これの電球が、もし赤く光れば、ティファを連れてためらわずに逃げてくれ
 その時は、俺もできるだけ援護する」
「……わかりました」

クラウダの受領は、無理だということなのだろうか
任務を途中で放棄するのはちょっと気が引けるが、なにかおかしなものもルナマリアは感じていた
メサイア全体が、殺気だっているような気がするのだ

ロアビィは、ザフトからの一斉攻撃を警戒して言っているのか。
それとも、これからメサイアでなにかが起こるのだろうか

「その……」

唐突に、ティファが口を開いた。
それが自分ではなく、ロアビィに向けられたものであることに、数瞬してから気づいた

「なーに、ティファ?」
「あなたも早く、逃げて……」
「……嫌な未来でも、見えるのかい?」
「ううん、逃げましょう。今すぐにでも逃げましょう
 それがきっと、あなたにとっては一番いい……」
「そうだね。俺も、さっさと逃げたいよ」

そのときだけ、軽薄だったロアビィの顔に影が差したような気がした
ひどく悲しげで、それでいて疲れたような顔だった。

なぜか、泣きたくなるような顔だった

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エアマスターは、Gファルコンと合体できる。他にもGファルコンは、レオパルドと合体することもできた
Gファルコンは用途の広い支援戦闘機で、陸戦用のレオパルドを空戦用にすることもできる
エアマスターと合体すれば、もともと持っている高い機動性を、さらに高めることができるのだ

無断でエアマスターを持ち出しているが、ウィッツには後で金でも渡すつもりだった
まぁ、何発かは殴られるだろうが、しょうがない

大気圏を抜け、宇宙に飛び出したGファルコン+エアマスターバースト
Gファルコンバーストとでも言うべきそれに乗って、ガロードは周囲の索敵を行った
予想通り、クライン派の本拠地・宇宙要塞メサイアをぐるりとザフトが囲んでいる

覚悟していたことだった。無造作にGファルコンバーストのバーニアを吹かし、メサイアへ向かう

(すげぇ)

推進力が、DXとは比べ物にならなかった
単純な速度だけなら、シンのテンメイアカツキを上回るかもしれない

ザフト艦隊が見えてくる。ゆっくりと迎撃体勢に入っていた。
ガロードは即座に、全方位通信を開く

「おい、そこのすっとこどっこいども。俺はガロード・ランだ。邪魔すんじゃねぇ」

言うと、わずかにザフト艦隊の動きが鈍った。にやりと笑う
英雄呼ばわりも悪魔呼ばわりも嫌だが、有名になりすぎたことも時には役立つ

『止まれ、静止しろ!』

指揮官らしき声が、Gファルコンバーストに飛び込んでくる
ガロードは、べっと舌を出した

「俺はおめぇらの敵か? 敵だと思うんなら、撃てよ。俺は別にかまやしねぇ」
『なにを言っている、早く静止しろ!』
「俺はまだ、おめぇらを敵だとは思っちゃいないんだぜ
 どっちのデュランダルが本物か、ちょっと考えりゃわかんだろ。なのに軍人ってのはよ。
 もうちょっと頭動かしゃ、戦争なんざしなくてすむのにな」
『静止し……』
「じゃあな、アンポンタン! 俺はてめぇらにゃ用はねぇ!」

Gファルコンバースト。さらに加速する。
ビームライフルの弾速すら上回るほどの速度で、ザフト艦隊のど真ん中へ突っ込む
ザクやゲイツといったMSが、あわててGファルコンバーストの進路上から離れる

(悪い奴らじゃ、ねぇんだよな)

心の中でやりきれない想いを抱く。ザフトも、どこかで自分を敵とし切れていない。
だからすぐに迎撃に入らなかったし、進路を邪魔しなかった

ザフトに、世話になった。それは事実である
できるならやりあいたくは無い。

すべて、あの偽者が悪いと思った。あれが出てきたせいで、ザフトは割れ、ティファは心に傷を負った
偽者だけは許すつもりは無い。やり方が汚すぎる。
デュランダルの地位と功績を馬鹿げたやり方でぶんどった。ティファを無理矢理に戦わせた
そして、ユニウスセブンを落としたのも、カガリを暗殺したのも実質的にはあの偽者だろう
しかも、すべて裏に回ってやっている。そこも気にくわない
あの腐った偽者に比べれば、まだ表に出てくるだけクソのフロストの方がマシだ
ぶちのめしてやる。捕まえて、顔の形が変わるまでぶん殴ってやる
後は死刑になろうがどうなろうが知ったことではないが、それだけは心に決めていた

メサイアが見えてきた。巨大な、隕石の塊のような要塞だ。
Gファルコンバーストの速度を落とし、通信を開く

「宇宙要塞メサイア、宇宙要塞メサイア、応答しろ」
『待て。そこの所属不明機。所属と……』
「所属不明機ってよ、ちょっとウィッツに失礼じゃねぇか?
 俺は、ガロード・ランだ。さっさとメサイアに入れろ」
『なっ、がっ……』
「ガロード・ランだ。二度も言わせんな
 ティファを返してもらいに来たぜ。戦うつもりはねぇんだ
 だから、さっさと案内しろって」
『む、迎えを出す』
「おう、丁重に迎えろよ。できたらみやげも持って来い」

軽口を叩くが、それ以上の反応は無かった
しばらくして3機のクラウダがこちらに向かってくる
ガロードは完全に、Gファルコンバーストの動きを止めた

「いい出迎えじゃねぇか」

舌打ちする。1機のクラウダが、ビーム砲をぴったりとGファルコンバーストのコクピットに突きつけてきたのだ
少しでも妙なことをすれば撃墜するという、雄弁な意思表示だった

厳重に包囲されたまま、メサイアが近づいてくる
ティファを強引に引き連れて逃げるか、それとも様子を見て、和平交渉を潰さないよう慎重に行動するか
それはメサイアの雰囲気を見てから決めようと、ガロードは思った

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平和の歌姫は、いつも笑っていなければならない
素敵な笑顔で、人々の前に立って、優しく接しなければならない

メサイアの中は劇場がある。そこでは兵の慰安のために映画が放映されたりするのだ
その劇場で、ラクスが歌っている。ラクスそっくりの歌声で、唄っている
クライン派の兵士たちはそれでいくらか心が慰められるようで、手拍子を取ったり、声援を送ったりしていた

ラクスが、広場にある壇から降りた。

「お疲れさん、ミーアちゃん」

ロアビィは控え室に戻ってくる彼女を、拍手で出迎えた

「ミーアはやめてくださいよ。みんな、あたしのことラクス様だと思ってるんですから」

ミーアが、普段とは違う真剣な表情で告げてくる
歌、それからラクスに関しては、いつも彼女は真剣だった

「わかったよ、ごめんね。今度、なにかおいしいものでもおごるからさ」
「そうやって何人の女の子に声をかけてるんですか?」

ミーアが、にぱっと笑った。彼女のひたいから、汗が流れ落ちる

控え室には、ロアビィの他には誰もいなかった
プラントにいた頃、ミーアにもマネージャーやらメイクやらがついていたのだが、単身でクライン派に身を投じた彼女だ
今は身の回りのことをすべて自分でやっている。

アイドルが、身の回りのことを一人でやるというのは大変なことだった
今日のコンサートにしても、照明の配置だとか、BGMの準備だとか、ほとんど一人でやろうとしていたのだ
見かねて、ロアビィはそれを手伝っていた

「つくづくいい子だね、君は」

ミーアという単語を使うなと言われたので、ロアビィはそれに気をつけつつ口を開いた

「そんなことないですよ。ホント、そんなことないですから
 あたし、いつもみんなの足手まといになってるんじゃないかって、心配で……
 偽者をずっとやっていたのも、やっぱりいけないことだし。それは許されないことだったと思ってますから
 ラクス様も、ずっと落ち込んだまんまだし。なんか悪いことばっかりで」
「別にそんなのは君のせいじゃない
 偽者どうこうってのも、あのバカ議長が君を勝手に仕立てあげただけのことじゃないの」
「ううん。ラクス様になれるって言われた時、嬉しかったのはホントだから」

いい子なんだけどな
しみじみとロアビィはそう思った。

表に出てこないラクスの代わりに、こうやってコンサートをやって、兵士をなぐさめている
それにコンサートをやれば、末端のクライン派は、ラクスが元気だと思いこんでくれるだろう

できれば、幸せに暮らせるようにしてやりたい。
戦争なんか無い場所へ、誰にも利用されない場所へ、ミーアを連れて行ってやりたい

俺はなにやってんのかな。
ロアビィは、よくそんなことを考える
なんで、いつのまに、こんなたくさんの荷物を背負ってしまったんだろう
たくさんで、厄介な荷物ばっかりだ。さっさと放り出したいのに、どれも大切に思えて、捨てられない

(……あなたって子供ね。カッコつけてるけど、結局答えを出さずに逃げてばっかりいるのね)

また、腕の中で死んだ女の言葉を思い出した

あー、そうですね。俺は逃げてばっかりなのかもしれないですね
自分のこと、器用だと思ってたけど、とんだ不器用野郎だったと思い知らされてますよ

でも、答えってなんだよ。俺は食うために戦ってるんですよ。金のために戦ってんですよ
あとはちょっと楽しいことがあればいいじゃないの
それって悪いことなの? みんな、多かれ少なかれそうでしょ。

女の声に反論してみるが、むなしいだけだった

「どうしたんですか、急に難しい顔して?」
「いや……歌姫様を、どうやって守ればいいか考えているのですよ」
「そうですね。ラクス様は、なんとしてでも……」
「いや、あなた様のことにございます」

ロアビィはうやうやしくミーアに頭を下げ、ひざまずいた

「ろ、ロアビィさん?」
「騎士とは、貴婦人のために尽くすもの
 姫様。このロアビィ・ロイをあなたの騎士にしてくださいませ
 さすればわたくしはあなたを命の限り守りましょうぞ」

ようやく冗談に気づいたのか、ミーアは笑い出した
そして彼女は頭にあった☆型の髪飾りを外し、ひざまずくロアビィに差し出す

「よかろう、ロアビィ・ロイ。そなたをわらわの騎士に命ずる
 これは、そなたがわらわの騎士であるという証である。受け取るがよいぞ」
「ははー、ありがたき幸せ」

うやうやしく、ロアビィは髪飾りを受け取り、ミーアの手に口づけをした
ちょっとびっくりしたように、ミーアがこちらを見つめてくる

「……ずいぶん本格的ですね?」
「いや、だってあなたの忠実なるしもべですから」

真顔で言い返すと、またミーアが笑い出した
ロアビィも一緒になって笑った。

ひとしきり笑うと、ロアビィは髪飾りを返そうとした

「いいんですよ。その髪飾り、騎士さんにあげます」
「え、だっていつもつけてるじゃない。大事なものじゃないの?」
「大事なものだから、ロアビィさんにあげます」

言って、ちょっと無理した感じでミーアは笑った

わかってる。辛いに決まっている。
信じていた男とは、敵味方同士になり、しかもその男はミーアのことを気にしている風もない
勢いでクライン派に身を投じたが、相次ぐ戦闘、敗走で、もともと一般人の彼女は神経をすり減らしているのだ
しかも時には、ラクスの影武者もつとめなければならない

自分のような男は、彼女みたいな女性を、なぐさめてやるために生きている
プレイボーイを自認している以上、それぐらいの気持ちは持っていた

ロアビィは、ミーアを抱きしめようと思った
男ならそれぐらいはしてやるべきだ、が……
なぜか手が動かない。おかしい。別にガロードのような純情少年でもないはずなのに

ああ、そうか。怖がってるんだ
俺は、誰かに慕われたり愛されたりするのを怖がっているんだ

あー、ホント、いつからこんな半端なクソヤロウになっちゃったんでしょうね

「やっと見つけたよ」

急に、控え室の扉が開いた。バルトフェルドが、息を切らせている

「なんだよ、バルトフェルド?」
「いい雰囲気のところ申し訳ないが、ちょっと来てくれよロアビィ
 ガロード・ランがやってきた。単機でだ」
「ガロードが……」

いつか来るだろうとは思っていた。
あの少年の、ティファに対する想いはちょっと圧倒されるほどのものがある

ロアビィは逃げたくなる自分を感じた。ガロードの前に、立ちたくない
あの真っ白な少年の前に立つと、今は後ろめたさだけを感じてしまうと思う

自分の半端なところを、嫌でも思い知らされることになる

「会いたくない」
「会いたくないって……おいおい。君はガロード・ランの仲間だったんだろ?」
「うるさい! 会いたくないものは会いたくないの!
 だったら、キラの方をどうにかしろよあんたも!
 なんで逮捕されてるんだよ!」
「それは……ボクの不覚と言うしかないが、それとこれとは別だろう」
「知るかよ! とにかく、俺は嫌だ。その分の金だってもらってない
 ガロードをどう扱うかはあんたらで勝手にやってくれ」
「待て、ロアビィ」
「じゃあ、ばいばいミーアちゃん」

びっくりしているミーアの肩を二度叩くと、ロアビィは控え室から出た
バルトフェルドが追ってくると思ったが、それもなかった

しばらく歩いていると、どうしようもない自己嫌悪が、ロアビィを包んだ