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クロスデスティニー(X運命)◆UO9SM5XUx.氏 第131話

Last-modified: 2016-02-28 (日) 00:51:46

第131話 『さようなら』
 
 
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先手必勝。
ノワールの身体を沈め、ビームを放つ。
サザビーネグザスは、悠然とそれを盾で受けていた。

ビームライフルショーティでは、火力が弱い。
重装甲のサザビーには、蚊で刺すようなダメージしか通らない。

「会いたかったぜ、偽者! 俺がどんなにおまえを殺したかったか、わかるか!?」
『私は、ギルバート・デュランダルだ』
「よくもまぁ、そんな恥知らずになれるな、エエ! 人類最高の英雄が、聞いて呆れるぜ!」

フラガラッハを引き抜いた。決定打を与えるには、対艦刀しかない。

『私は世界を変えなければならないのだ。その責任も、義務もある』
「その結果がコロニー落としか! 議長の謀殺か!
 薄汚い偽者がどんな高説吐こうがな、なんの説得力もねぇんだよ!」
『薄汚い、悪党、外道……なんとでも言え。
 私は、私の道を阻むものを倒すのみだ!』

サザビーネグザスが、肉薄する。
近づいた、そう思った次の瞬間、握ったフラガラッハごと右腕が切り落とされていた。
サザビーの、ビームアックス。軌跡がまるで、光の帯のように見える。

これほどか。
ザフト『FAITH』が、まるで学徒兵のようにあしらわれる。

次に、コクピットへ激しい衝撃が来て、ハイネはコクピットシートに叩きつけられた。
サザビーの盾で、殴られたらしい。まるで、邪魔な羽虫を払うかのように。

「俺じゃ、相手にする価値も無いってか……!」
『……』

サザビーは、止まることなく直進する。狙い。ハイネの全身に鳥肌が立つ。
相手は、初めからミネルバのみを狙っている。

「その余裕が命取りだぜ! いま、全軍におまえの位置情報を送った!
 同盟軍すべてが、今からおまえの首一つ狙って殺到する!
 そいつを全部さばききれるか、やってみろよ!」
『……』
「おまえは負けたんだよ、どうあがこうともな!
 クソヤロウが手にする未来はねぇ、覚えてやがれッ!」

サザビーは、方向を変えなかった。挑発など乗らないか。
どうする、考えろハイネ・ヴェステンフルス。
残るは、左腕。握りしめた、フラガラッハ。

それを、とっさに振り下ろした。

『やるねぇ!』
「ドムトルーパー!? まだ残ってたのかよ!」

唐突に現れたドムトルーパーのビームシールドと、フラガラッハが押し合う。
すぐに、力負けした。片腕で、バッテリー機のノワールだ。
核エンジンのドムとは出力が違いすぎる。

『おいおい、ドムは元々ザフトの開発だぜぇ、クラインのデータ使えば新車をおろすのはすぐさ』
「ケッ。ラクスからの寝返り組か、おまえ」
『ヘルベルト・フォン・ラインハルトだ。覚えてな、あの方の邪魔はさせねぇ!』
「雑魚の名前なんぞ興味ねぇよ!」

フラガラッハを、闇雲に叩きつけた。ビームシールドで、あっさりと押し返される。
とっさに、間合いを取った。右腕のダメージが深刻だ。

率いていた、ヴェステンフルス隊。
サザビーネグザスのファンネルに、なすすべも無く撃ち落とされていく。
思えば、1度たりともサザビーと敵として戦ったことは無かった。

「あんな強かったのか……」
『当たり前だ! あの方をどなたと思っている……!』
「ケッ、ただの犯罪者だろ!」

このままでは、ミネルバを落とされる。
どうにかドムをあしらって、戻るべきだ。

しかし。次々とビームを放ってくるドム。
フラガラッハで、さばきながら後退する。
心なしか、身体が重い

『3人がかりであしらわれたのも屈辱だったがなァ、どうにか恨みを晴らせそうだな!』
「そうか、おまえヒルダの下にいたパイロットか……!
 実力を隠していたのか!?」
『違うな、おまえが疲れてるだけさ。
 ああ……でもな、主と誓った人の下で働ける喜びが、俺に力を与えてくれているのかもな!』

ドムの、ビームサーベル。
フラガラッハを持った、最後の左手首。悪い冗談のように、宙を舞う。

「こ、の……!」
『両腕失っちゃ終わりだな、『FAITH』様ァ!』
「うるせぇ、勝手に終わらせるな!」

右足。アンカー発射。
最初に飛ばされた、ノワールの右腕。絡め取る。
まだかろうじて、刃のエネルギーは残っている。

「おらぁあああッ!」
『なに!?』

右足のアンカー、蹴り上げる。
同時に、フラガラッハがドムの股下に突き刺さる。

「チッ、男に挿入するハメになるとはよ」
『バカな……』
「俺も色男失格だな!」

近づいて、さらに突き刺さったフラガラッハを蹴り上げる。
刃がさらに深く刺さり、コクピットにまで到達した。

すぐに、離れる。
とてつもない、爆発が起こった。ドムの核エンジンが原因だ。
これを目くらましに、離脱する。

両腕が完全に使えなくなってしまっている。
吹き飛ばされないよう、バーニアで機体を安定させながら、状況を見つめた。

ドムを倒せたのは、運だ。本当ならやられている。
拾ったのは命だけで、ノワールはもう使い物にならない。

それでも、ミネルバに戻るしかなかった。
サザビーネグザスを、1秒でも長く足止めしなければならない。
自分の命や機体よりも、母艦を守る。MS乗りなら誰でもたたき込まれることだった。

同盟軍が、呆気なくサザビーネグザスに蹴散らされていく。
それに力を得たのか、ザフトからの反撃も激しくなった。

「……手強い」

ぼやいた。
前線を、一機で切り開く国家元首。これに心を震わされない兵卒はいない。
クラインの軍が異常に強かったのも、ラクスやキラが常に前線へ行きたがる人間だったからだ。

ミネルバに行こうとする。しかし、ザクやグフといったMSが立ちふさがってくる。
背のレールガンで牽制しながら、敵軍を突破する。
サザビーが切り開いた前線は、同盟軍を相当押し込んでいる。
数の上でも、同盟軍はザフトに負けていた。第三波に投入された兵力は、相当に多い。
おそらく、別働隊が合流してきている。

DXの補給が終わる前に、遮二無二コロニーを落とそうというのだろう。
そんなもので、本当に世界を変えられると思っているのか。

まるで山を崩すかのように。サザビーとザフトは、同盟軍を追い散らしている。
むしろ同盟軍が、よく耐えている。
陣形はずたずたに切り裂かれ、いつ壊走してもおかしくないほどだった。

「シンかアスランなら」

言っていた。言って、恥じる。
他人を頼るより、自分の力で状況を打開する。
それが、ザフトの誇りだ。

「なろ!」

レールガンを放つ。直撃を受け、バビが爆発する。
残弾は、あと3。

ザフトの弱点は、1人1人が優秀すぎるがゆえに、集団戦が苦手なことだと言われていた。
だから前大戦でも結局は、地球連合に押し込まれた。
それのどこが悪いのかと、ハイネは思う。
土壇場になっても、この絶望的な状況下でも、ザフトは果敢に同盟軍へ挑んでいる。
それは、1人1人がザフトの誇りを胸に抱いているからだ。
世界に、これほど素晴らしい軍があろうか。

失いたくない。ザフトを。腹の底から、そう思う。

いきなり、同盟軍の後方から、派手なビームが飛んだ。
それは一切同盟軍を傷つけず、ザフトだけをなぎ払う。

『なるほど、な。切り札をそろえたものだ、タカマガハラ』
『ジャミル・ニートだ、メサイアのようには行かんと思え、偽者!』

ミーティア、全速の勢いを残したまま、サザビーに突っ込んでいく。
まさかと思ったが、なんとミーティアは身体ごとサザビーにぶつけた。
その勢いで、サザビーを陣形の外へ押し出していく。

『一対一が望みか、ジャミル・ニート!』
『私の命に代えてでも、貴様は倒す!』

なんの因縁だ?
通信ノイズがひどくて、友軍のものも捉えにくい。

「だがひとまずは……」

ザフトの、狂気じみた勢いが止まった。
今なら同盟軍を立て直せる。
そう思った。

『ザフト全軍に告げます』

国際救難チャンネルで響き渡る、タリア・グラディスの声がそこにあった。

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「つよ……いな」

デュランダルは、水を飲み干し口を開けた。
言葉は枯れていて、勢いもないが、少しはしゃべれるようになった。

会議室の大型モニタに、戦場の様子が展開されている。
ザフトは押しに押していて、ジョゼフもユウナも、歯を食い縛って戦況を眺めていた。

「大軍で押し包むことがなぜ出来ん!」

ジョゼフが、苛立ちをはき出す。

「サザビーネグザスがそれほど桁違いだということですよ」

ユウナも、苦虫を噛んだように吐き捨てた。

「休まず攻めることだな。あれも人間だ、消耗する。
 それにいつまでも一人きりで戦えるものではない」

アズラエルがもっとも落ち着いていた。
といってもこの男は、度胸があるというより己の命そのものに執着していないところがある。

「一人……きりですか?」

デュランダルはどうにか声を絞り出した。ひどく聞きづらく、そして醜い声だろう。

「孤独だな。ザフトをまるで信用しておらん。
 だから自分で先頭に立たざるを得ないのだ」
「な、るほ、ど」

そうでもして士気をあげなければならない。
ジョージ・グレンの苦悩も、見えるようだった。

「それと無理に喋るな、デュランダル」
「いや……」

苦笑する。タイプして自分の言葉をディスプレイに映すより、喋った方が楽なのだ。
きっと耳障りだから、そんなことをブルーノは言うのだろう。

ミネルバまで攻め込まれるかどうかが、気になった。
我ながら未練がましい男だとは思うが、タリアが人妻になってもまだ好きだった。
タリアとは、子供が作れない。
まるで男であることをすべて否定されたような事実で、それが原因で別れることにもなったが、だらだらと関係を続けている自分も無様だった。

タリア1人振り切れずして、平和もないと思うが。未練はやはり胸の中でわだかまっていた。
ハイネが聞いたら、また顔を真っ赤にして怒りそうだ。

『ザフト全軍に告げます』

唐突に、タリアの声が戦場に響き渡った。
それでどきりとする。ブルーノの、鼻で笑う声が聞こえた。

『私はミネルバ艦長、タリア・グラディス。ザフト『FAITH』でもあります。
 いえ、ギルバート・デュランダルの愛人と言った方がいいでしょうか』
「な……」

思わず、デュランダルは目を見開いた。
一瞬だけ、プラントのことも世界のことも、頭から吹っ飛んだ。
国際救難チャンネルを開いてまで、なにを言いだしたのか。

『ザフト軍内では、ずいぶんとうわさされました。
 私はそれを否定しません、確かにデュランダル議長と関係を持ちました』

会議室を、見回す。

「不倫ですか」
「不倫か」

ユウナとブルーノの、どことなく冷たい視線が突き刺さる。
なぜか、ジョゼフだけが暖かいまなざしを向けてくれていた。

『だからこそ証明できることがあります。いま、サザビーネグザスにおられる議長?
 聞こえてますよね? 私は昔、ちょっとしたことで身体を刃物で傷つけてしまいました。
 13針も縫った、大きな傷です。その傷痕は、どこにありますか?』

戦場に、なんとなく沈黙が降りる。
なぜかザフトも同盟軍も、交戦をやめて距離を置き始めた。
一方のサザビーネグザスは、少し離れたところでドムトルーパーとやりあっているようだ。

『聞こえてないのですか、議長? それともお話しできないのですか?』
『……』

サザビーネグザスは沈黙している。
相手にしていられるか、というでもいう風に、激烈な戦闘をドムと繰り広げている。

『あれほど愛しあったのに、もう忘れてしまわれたのですか?』

いきなり、モニタが切り替わった。
ミネルバのブリッジ、艦長席の上でタリアが立っている。
ほんのりと紅潮した顔は、ぞくぞくするような色気をはらんでいた。
目の前にいたら、すぐに押し倒してしまいそうなほど、艶でもあった。

『では、アメノミハシラにおいでの議長。私の古傷はどこにありますか?』

また、会議室にいる人間からの視線が突き刺さった。
ちょっと泣きたくなるような気分になりながら、備え付けのマイクを取り出す。
すぐに、ミネルバと回線をリンクした。これで戦場に、自分の声は行き渡るだろう。

いつの間にか、カメラが回っていた。また少しだけ泣きたくなった。

「右、ふとももの、内側」

懸命に声を絞り出す。モニタの中のタリアが、にっこりと笑う。
彼女は艦長席で立ったまま、上着を抑え付けた。
そして、ゆっくりとズボンをおろす。
下着が、見えるか、見えないかの絶妙な動き。

ちょっと笑って、デュランダルはうつむいた。
この最高のショーを、見届ける勇気はとてもない。

『このラインに、確かにこのような傷があります
 いかがでしょうか?』

おおー! という兵卒の歓声が聞こえてくる。
どうだ、イイ女だろう。全世界に、そう言ってやりたかった。

『もはや誰が本当の議長か、明白ですね。
 ザフト全軍よ。討つべき敵は、誰でしょうか』

タリアの、凜とした声。
目を閉じたまま、しばらく待った。

「ザフト軍コロニー落とし、第7波、第8波、降伏の信号を送ってます!」
「同じく、第4波も同盟軍への参加を呼びかけています!」
「他にも! ザフトからの、多数の離脱者確認!」

次々と報告が飛び込んでくる。

「え、嘘でしょ? こんなので離脱するの?
 あんなに呼びかけてもダメだったのに?」

ユウナが目を丸くしている。
まだまだ、世間というものを彼はわかっていないと、腹の中で笑う。

黙って、パネルを操作しミネルバとの回線を繋いだ。
喋るのはまだ辛いが、文字だけでも会話したかった。

—————タリア、私のためにすまない。恥をかかせた。
『いいのよ』

頭にかけたヘッドホンから、タリアの声が聞こえる。

—————辛かっただろう。高潔な君が、こんなことをしたのだ
『気にしないで。ザフトを残さなくてはならないのでしょう? あなたが世界と向かい合うために』
—————ありがとう
『軍は辞めるしか無さそうね。年金、ちゃんとちょうだいよ。あと、私の子供が学校でいじめられないように配慮してね』
—————ああ
『それと。ええ、聞いて頂戴、ギル』
—————なんだい?
『あなたと別れようと思うの』
—————……。本当、なのかな
『ええ。いつまでも、こんなことしていたらいけないわ。お互いのためにも。
 夫とも別れようと思う。残った時間は、子供のために使いたいの』
—————なんて言ったらいいか。

思わず、顔を覆っていた。テーブルに埋め込まれたモニタに、水滴が落ちる。
なんだろう。全身を焼かれても、こんな無様はさらさなかったのに。

『泣いているの? らしくないわね』
—————当たり前さ
『……そう?』
—————君は、世界で最高の女性だった。女神だったよ。
『ありがとう』
—————愛しているよ、タリア。さようなら。
『ええ、さようなら。
 私も愛していたわ、本当よ?』

通信はそれで切れた。涙は止まらない。
カメラが回ってる前なのに。無様さを止められない。

「これを」

唐突に、ハンカチが差し出された。ジョゼフ・コープランドが仏頂面で立っている

受け取り、顔を覆った。

「デュランダル議長、女は辛いものですね、男に不幸しか運んでこない」
「いや、私は助けられてばかりだったような気がする」
「そう思えるなら、あなたは幸せだ。私も、女好きをやめられそうもないが」

ハンカチを、少しだけずらして目だけでのぞく。
ジョゼフは、照れくさそうに笑っていた。