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クロスSEED第07話

Last-modified: 2007-11-09 (金) 23:20:19

第七話「うばわれたもの」

『ちっ。やはり消されているか……!』
 MAからMSへ。形態を変え、振り下ろされたビームサーベルを、フリーダムが盾で受け止める。
「君は!なぜカガリを攫った!」
『おまえのやろうとしたことを先にしたまでさ!結婚式を見たくなかったんだろう?国家元首を誘拐してでも!そうだろうキラ!』
 訳の分からないことを言ってくる敵のパイロット。
 なぜ彼は僕の名を知っている。
 "まるで旧友のように"語りかけてくるパイロットに、キラは困惑の表情を浮かべる。
「僕は!ただカガリを助けたかっただけだ!」
 頭の中で種が割れた。クリアな視界に、ただ赤いMSが入る。
 サーベルを横薙ぎに振り、敵MSの頭部を狙う。
 間違っても中のカガリは狙えない。
 大丈夫だ。いつものようにやればいい。
 いつものようにやれば、中の人間は絶対に死なない。
 そうやってラクスは教えてくれた。
 空中でスライディングをするようにして避けた"敵"が、フリーダムに蹴りを放ってくる。
「そんなもの!」
 蹴りと、脚から発生したビームサーベルを避け、己のビームサーベルを振りかぶる。
「カガリを……返せ!」
『元々お前の物ではないだろうにっ!』
 サーベルとサーベルがぶつかりあい、火花を散らす。
 脚部のスラスターを使って赤いMSが距離をとる。
「逃がさない!君にカガリを奪う理由はない!」
『お前にもないよ、キラ!』
 MA形態に変形して一気に距離をとる、敵。
 フリーダムも慌ててそれを追う。
 そして。
 赤いMAの姿は天空へと消えた。

「主を守れなかった従者がなんの用だ」
 薄暗い部屋の中で、ユウナは拳を固めて言った。
「答えろアレックス・ディノ!いや……アスラン・ザラ!」
 続けざまにユウナが吠える。よほど拳に力をいれていたのか、手のひらには血が滲んでいる。
「わたしには……それに答える資格はありません」
 唇を噛みしめ、アスランが答える。その目にあるのは、哀しみ、己への怒り。
 瞬間、二人の目があった。一瞬でユウナの怒りが頂点に達した。
「なんだよその目は……花嫁を奪われた男への哀れみか!」
 ユウナの拳がアスランの右頬を捉えた。その刹那、赤い液体が飛ぶ。
 アスランの血ではない。ユウナの、拳に溜まった乾きかけの血である。
「せっかく……お前からカガリを奪えたのに!愛する女と一緒に愛する国を守っていけると思ったのに!なんだよこの茶番は!」
 左頬にも拳が飛ぶ。アスランは抵抗しない。抵抗する資格はないと思っているから。
 事実を言えば、アスランに非はなかった。あの結婚式の日、アスランは結婚式会場から離れた港の警備をさせられていた。
 騒ぎを聞いて駆けつけてみれば、フリーダムとイージスの背中が見えた。
 なんとかしろというのが無理な話だ。 それでも、アスランは抵抗しない。
「気のすむまでお殴りください……わたしは……確かにカガリを守れなかった」
「それは守れなかった俺へのあてつけか!」
 ユウナがアスランに飛びかかり、馬乗りになる。
 ユウナとて、カガリが誘拐されたのはアスランのせいではないことはわかっていた。
 もっと周辺警備を厚くする指示を出せば、まがりなりにもエースであるアスランを配置しておけば。
 もっと言えば、イージスが最初に出現した時に確実に捕らえておけば。
 全てユウナの指示でできることである。彼が悪いと言われれば、反論の余地はない。
 ユウナの目に涙が滲む。それは、アスランが初めて見た、ユウナの涙。
「セイラン代表代行……」
「子供の頃に勝手に決められた結婚で……でも相手がカガリで嬉しくて……それでもカガリの心にはお前がいて……」
「それでも愛しているなら……」
 頬に痣を作り、アスランが呟く。
「俺を、カガリを救う道具として使ってください。カガリは死んだわけじゃない。カガリを愛する人間として、救う義務がある。あなたも、俺も」
 それを聞いて、ユウナの目に決意の光が浮かんだ。すっ、と立ち上がる。
「……綺麗事か?」
「はい」
 淀みない、アスランの言葉。
 代表たるカガリがいない今、オーブは混乱の極みに達している。
 カガリの奪還を優先する余裕はない。同盟を結ぶ予定の地球連合も協力をしてくれる可能性は少ない。
 それでも……カガリを救いたいならどうするべきか。
「ザフトと結べというのか?政治とはそんなに簡単ではないぞ」
 立ち上がるアスランにユウナが問う。
 ザフトには貸しがある。カガリを奪われた時、ザフトも警備についていた。
「わたしはオーブの政情を知り尽くしているわけではありません。ただ、代表代行がそれを必要とするのなら」
「利用するか。このユウナ・ロマ・セイランを」
 襟を正し、ユウナは続けた。
「なら利用されてやるよ。その代わりに、お前も利用してやる。カガリを救うための道具として」
 そこまで言って、くるりと背を向ける。
 扉へと向かうユウナの目には、決意の炎が宿っていた。

 それは小さな宇宙ステーションだった。
 前世紀に廃棄された、システムが生きているのが不思議なぐらいの宇宙ステーションである。
「上手くいったようだな、トール」
 ひときわ大きな空間に、くぐもった声が響く。
「上手く……ね。正気に戻ったこいつに噛みつかれるわ、そのせいでイージスの右腕に被弾するわってあたりを除けば上手くいったかもな」
 トールが後ろに、ちらりと目をやる。そこには右腕を失ったイージスと、開かれたコックピットで眠る、カガリの姿。
「ふふふ……それは確かに大きな被害だな。下手をすれば、"あれ"を完成させるまでの時間稼ぎができなくなる」
 トールの言葉に、男がおどけたように笑う。その顔を仮面で覆っているため、表情は読めない。
「確かに笑い事かもしれないけれど、イージスの修理はどうする?フリーダムは不完全なイージスで倒せるほど甘い相手じゃないぞ」
「イージスは早めに直すさ。ところで」
 苦笑するトールに、仮面の男が言った。
「君は……未知の武装は好きかね?」