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シン死亡エンド

Last-modified: 2014-03-10 (月) 15:39:46

シン=アスカの処刑は、明日であった。



彼は、そのことをすでに聞かされて知っていた。



(俺が死んだら、死んだ人たちに、なんて言えばいいんだろう。

マユ。俺は、みんなが幸せになる世界をつくることができたんだろうか。

でも、俺にはもう、確かめる手段も時間も無い。

ステラ。ステラみたいな子が救われる世界ができたんだろうか。

でも、俺は明日…。)



彼は、メサイア攻防戦などにおける、プラント議長派の責任を問われたのである。

彼と、彼の乗ったモビルスーツは、議長派の象徴であった。

実際、彼は一連の戦いにおいて、戦場で多くのことをしてきた。

マスコミによって、彼のことは、プラントの人々はもとより

地球上にいる人々にも知られていた。

議長は、彼のことを、意図的にメディアに流すことによって、

彼を、プラントの象徴にしようと考えたのである。

しかし、そのことが彼の処刑につながっていったのである。

クライン派は、一連の戦いの責任を、できるだけごく一部の者に取らせ、

大部分の者の責任を軽減しようとした。

大部分の者というのは、たとえばメサイア攻防戦において、

クライン派と戦った者たちである。

彼らは、ザフト軍の大半を占めていた。

彼らを罰しようとすれば、ザフト軍の大半が責任を取ることになる。

クライン派はそれを軽減しようとした。

また、彼らは、議長派やクライン派といった主義主張に関係なく、

言われたから戦ったという者が多かった。



それに対し、シンは、責任を取らされる、ごく一部の者であった。

シンの場合、どちらかといわれたら、議長派に属しているといえるだろう。

その理由としては、シンが、妹を殺された原因、

キラに対する嫌悪感を持っていたこと、以前住んでいたオーブの代表、

カガリへの不信感があることが挙げられるだろう。

しかし、シンの場合も、一般のザフト兵と同じく、

単に、言われたから戦ったという側面を、否定することはできない。

だが、シンは、議長派の象徴であった。

エリートである赤服で、議長の懐刀であるミネルバのエース。

数々の功績をあげ、フェイスの一員であり、

最後まで議長に付き従った、新型モビルスーツのパイロット。

すべてが、シンを、不利な方向に導いていた。

こうして彼は、責任を取らされる、ごく一部の者になっていったのである。



さらに、前述したように、クライン派は、

責任を多くの者に取らせることを、できるだけ避けようとした。

その一環として、戦いの責任は、死亡した者の責任が大きいとした。

それは例えば、メサイア攻防戦で死亡したといわれている、

議長派のリーダー、議長本人の責任を問う、世論の声につながった。

さらに、議長と同じく死亡したといわれている、ミネルバの艦長、タリアにも、

世論の責任追及の矛先が、向けられていった。

シンとは違って、一般的に知られていなかったタリアの名前が、

広く知られることになったのは、攻防戦以後のことである。

議長とタリアの一連の関係が、マスコミによって、すぐに知られるようになると、

それは、スキャンダルとして大きく取り上げられ、

あることないこと書きたてられたのである。

彼女が議長と会っていた、あるいは連絡をたびたび取っていたのは事実であったし、

ミネルバに、新型のモビルスーツが来ていたのも事実であった。

だが、そうした事実に合わせて、事実ではないことが、報道されていったのである。

このことは、彼女の名誉を非常に傷つけることになった。



こうした報道、そして世論の認識は、

議長が軍を私物化している一例ではないか、という世論につながっていった。

それは同時に、ミネルバの乗組員にも、疑惑の目を向けさせることにつながった。

シンが、ミネルバのエースであるということが、

この点で大きくマイナスに働いたことは間違いない。

その結果、シンは銃殺刑と決まった。

彼の処刑が決まってから、実際に処刑が行われるまで、

しばらく日にちがかかっていた。

彼の処刑は、軍の施設で行なわれることになっており、

民間人は見ることができないものであったが、

彼が処刑されることは、実際に処刑が行われるまでの間に、

すでに大々的に報道されていた。

彼自身も、そうした報道を、すでに聞いて知っていた。

彼にそのことを告げたのは、シンが捕まっている施設で、

彼の世話を担当する係のザフト兵である。



(ミネルバのみんな、どうしているかな。)



シンが座って、壁に寄りかかりながら、ミネルバの乗組員について、

色々と考えている時、通路から足音が聞こえた。

ここには、足音以外に音はなかった。







シンは、足音以外に音が聞こえてこないことを知っていた。

近くの部屋の住人は、すでに責任を取らされて処刑されていたのである。

彼はそのことを、見回りに来るザフト兵から聞いて知っていた。

そのような捕まえられた者の中にはザフト軍以外の者、

地球で捕まえられてわざわざ連れてこられる者もいた。

シンはそうした者たちに対し、申し訳ないと思う気持ちを持っていた。

しかしそれ以上に、処刑されるためにつれてこられる者たちが

ミネルバのクルーではないことを、ひそかに喜んでいた。

シンが話したここの担当のザフト兵たちの話を聞くと、

シンのいるフロアに捕まえられている者たちの中には、

ミネルバのクルーはいないとのことだったのである。

仮に大声を出せばシンは、隣の部屋の主と会話をすることができたはずだった。

実際、すでに処刑された者の中には、そうした手段をとった者もいた。

しかしシンは、そうした会話を良しとはしなかった。









とりわけシンが嫌がったのは自分が何者かと問われた時である。

シンはウソをついても良かった。だがシンはそうしたくはなかった。

自分から話しかけることはなかったが、周りの住人同士の会話は聞いていた。

彼らのシン=アスカに対する評価は、あまり良いものではなかった。

だが、彼ら捕らえられたごく一部の人間にとっては

シンやミネルバの話よりもクライン派がいなければという話、

あるいは敗北した議長自身の責任を問う話のほうが重要であったので、

必然的にそうした話が出る回数が多く、シン=アスカの話はあまりされなかった。



(もし俺は生まれ変わるなら…。)



シンはミネルバのクルーのことを考えた後、そのことを考えていた。

シンの中では結論がすでに出ていたが、

シンはその結論を頭の中で必死に打ち消そうとしていた。

なぜ打ち消そうとしているかという理由はすでにわかっていた。

どうやら足音は部屋の扉の前で止まったようだった。



(たくさんの足音。いつもなら一人ぐらいだ。どうやら処刑が早まったか。)



シンは処刑される日が明日ではなく今日だと考えたので

心の準備をすることにした。



「ほら、ここだ。」



シンはその声がする方向をまっすぐ見ることができず、部屋の床を見ていた。

シンの心の準備がまだだったからである。

扉が開く音がした。



「入れ、一晩だけだぞ。」



(俺は死ぬんだ。俺は覚悟を決めないと。…入れ? 一晩?)



シンが声のする方向に顔を向けると、

そこにはシンにとってはいるはずがない顔がいた。

そこにルナマリアがいた。



(何で?)



「シン、会いたかった。」



シンはルナマリアの後ろにザフト兵が数人いることを確認した。

そして二人を部屋に置き去りにして扉を閉めていることを確認した。

そして鍵を掛けた後にどこかに去っていくザフト兵たちの足音も聞いた。

それから彼女に声をかけた。

それまでは驚いていたので

どのように声をかけていいかわからなかったのである。



「何で…?」



彼はそうとしか言えなかった。

彼女は彼の近くに来て座った。



「私、シンと一緒に殺されることになったから。



それで最後の夜だけ色々させてもらえることになったの。

信じられないよね。これも私の日ごろの行いがいいからかな?」



「殺されるって…! 何でだよ!



ミネルバで殺されるのは俺だけじゃないのかよ!」



「…シン、知らなかったのね。シンの処刑が決まった後に決まったのよ。

私とアーサーさん。」



「うそだ!」

「うそじゃないわ。



他の人たちは責任はあっても軽いってことで死ななくてすんだわ。

ただミネルバの評価ガタ落ちだから、

みんな他の部署に配属してちりぢりばらばらってできなかったみたい。

他の部署でミネルバに所属していたってわかったら、どういう扱いされるか。」



「…それで?」

「アーサーさん、一応副艦長だし。責任問われたのよ。



で、トップだけ変えて後はみんな同じメンバー。

ミネルバは壊れちゃったから別の戦艦に乗艦ってことで。」



「ルナは何で…。」



「一応私もミネルバの一員で、シンと同じ赤服だしね。

責任取らされることになったってわけ。…あ、そうか。

モビルスーツのパイロットは交代するんだ。私たちがいないから。」



「うそだ。」



「うそじゃないわ。

ミネルバはあの時のザフトの象徴みたいなものだったじゃない。

その時はそう思わなかったけど。でも今はなんとなくわかるわ。

それで私もミネルバの一員として、責任取らされることになったわけ。

アーサーさんはもう亡くなったそうよ。聞いた話だけど。

ここじゃない所にいたみたい。」



「…うそだ。」



「だからうそじゃないわ。

行方不明になったから生きているかどうかわからないけど、

レイがいたら私と同じように殺されることになってたかも…。

私、今夜だけあなたに会えることになったの。それで明日には銃殺刑。」



「…そうか。」



「そう…。もう、あなた、目から涙出てるわよ。」



「そりゃ泣くさ。ルナは強いな…。」



「強くないわ。私が処刑されるって決まった日の夜は泣いたわ…。」



「そっか…。」



「それからは涙出てこなくなっちゃった。」



「俺、処刑が決まってからルナと二人でこうして話をすることを

考えないようにしてきたのに。」



「どうして?」



「俺一人が死ぬと思っていたから。

それでルナは誰かいい人別に見つけてさ。

ルナが殺されるなんて思っても見なかったから。」



「あはは。何それ? 自然消滅ってこと? 全然違ったわね。

文字通り地獄の底まで一緒にってことでさ。」



「なあ、他にもいろいろ聞きたいことがあるんだ。」



「ええ、なんなりと。私にわかることだったら。」



「そうだなあ。まず…。

そういえばルナの妹は、メイリンはどうなったんだ?」



「最初に妹の話? 私という女がいながら? …まあいいわ。メイリンねえ…。

あの子はラクス=クラインの側近というところかな。でも私は…。

私からあの子への感情も複雑だし、あの子から私への感情も複雑だわ。

あの子からあなたへの感情も。」



「…。」



「あの子が元気でやっているってことだから、

あの子にとって一番いいことなのかもしれないけど。でも私は…。」



「今の話、矛盾がないか? だってラクスの側近ならルナを助けられないのか?

責任を誰が取るかはあいつらが考えてるんじゃないのか?」



「さあ? 言ったでしょう。複雑な感情があるって。

…それと世論。世論が私たちを生かしておくのを許さない…。」



「…。」



「それでね、私が殺されるかどうか上の方でさんざん揉めたみたい。

結局処刑されることになったわけだけど、

私の希望が最後にかなって、今ここにいるというわけ。

殺されるんだけど特別待遇ってことかな?」



「…ひょっとして、俺が殺される日がのびてたって感じてたのはそのせい?

ルナが殺されるかどうか揉めてた…。俺が殺されるかどうかも揉めてた?」



「さあ? それもどうかな。

シンが処刑されることはずいぶん前から決まっていたみたい。

正式に発表される前から。

だけど最後のあたりまで、処刑する順番を取っておく気だったみたい。」



「何で?」



「その方がメディア受けがいいからじゃない?

なんせザフト軍の象徴、ミネルバのエース、シン=アスカ。

正義は彼のような悪者に勝ちましたって。

クライン派のいう正義もわかるところはあるんだけどね。でもさ…。

歴史には私たちみたいなことが時々あるってこと?」



「…ルナは強いな。俺、自分が死ぬって時の前なのにそんなこと考える余裕ないよ。」



「そりゃあ、悪者シン=アスカに付き従う毒婦、ルナマリアよ、私。」



「自分のことをそんな風に悪くいうなよ。

他の人が思うほどルナは悪い人間じゃないさ。」



「けど、このままいったらそうなるわよ、私。歴史の上ではそうなるでしょうね。」



「でも…。」



「それでもいいわ。私はもう、悪く言われてもいいっていう覚悟を決めたし。」



「ごめん。俺のせいで…。本当なら俺だけ悪人扱いされればよかったのに。

ルナも殺されることになって…。」



「そりゃあ、長生きはしたいけどさ。仕方なかったのよ。」



「でもさ、処刑されるならこれ以上俺とかかわらないほうが良かったんじゃないか?

その方が…、処刑された後にルナがまだ色々言われなくてすむし。」



「だから言ったでしょう。悪く言われてもいいっていう覚悟を決めたって。

それにシンと一緒のほうがいいの。」



「だけど…。」



「私は自分が殺されるってわかった次の日から涙が出なくなった。

それまでずっと泣いてたからよ。

あなたが連れて行かれた日も泣いたわ。

あなたの処刑が決まった日も泣いたのよ。

あの日、わざわざ私にあなたが殺されるってことを伝えに来た、

オーブの服着たあいつの顔を私は一生忘れない。」



















次の日







「う、うーん。」



シンは、目を覚ました。



(昨日のことは夢…、なのか?)



だがシンのいる部屋にはルナマリアがいた。



「おはよう。」



「あ…、おはよう。」



「あ、ごめん。起こした?」



「いいの。そんなこと言わなくても。…やっぱり会ってわかったの。

あなたは私が思ったとおりの人だから。会えてよかった。」



「…いや、起こしてごめん。今日のことが気になって。

普通に寝ることができるのは今日が最後だし。」



「そうね…。でも私、今すごくうれしいのよ。昨日の夜、やっと普通に泣けたの。」



「俺…。」



「待って。誰か来る。足音が聞こえる。」



それはたくさんの人間の足音だった。



(覚悟を決める時、か。)



足音は部屋の前で止まった。



「昨日はいい一日だったか?」



壁の向こう側から、おそらくザフト兵だろう男の声が聞こえた。



「ええ。とっても。私の中にはシンがいる。

昨日会って、話して…。

だから…、だから昨日はいい一日だったとはっきり言えるわ。」

ルナマリアは真顔でそう言った。











シンもルナマリアもついに銃殺刑にされようとしていた。

手足を拘束され、目隠しをさせられていた。係の者と思われる男の声がした。



「一応、規則だ。思い残すことはないか? 一言ぐらいは言えるぞ。」



「ルナマリア! 好きだ!」



「私も! シン!」



「ようい。」











(もし俺は生まれ変わるなら…。)