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スタートレックヴォイジャー in Gundam SEED_第14話

Last-modified: 2012-07-08 (日) 17:37:05
 

 スタートレックヴォイジャー in Gundam SEED
 第14話「飽和」

 
 

 ―艦長日誌―
 我々はZAFT軍の攻撃に遭い、旗艦モントゴメリを失いつつも先遣艦隊と合流を果たした。
 私達は地球連合の護衛艦「バーナード」と「ロー」の艦長達をアークエンジェルに招き、今後の航海の話し合いの席をもった。
 会合の前には戦死したモントゴメリの将兵達に対して黙祷を捧げた。

 

「……あのZAFTのナスカ級二隻を相手に撃退された手腕、本当に感服しました」

 

 バーナード艦長であるロドリゴ・グライン少佐。
 彼は年齢的にはフラガ大尉よりは上の30代半ばといったところだろうか。
 武官というよりは文官上がりという容貌の男だ。
 彼の隣のローの艦長も彼の言に頷いて続く。

 

「私も久しく勝利の喜びから遠ざかっていましたが、あの圧倒的な戦闘。本当に感動しました」

 

 ローの艦長はレッティ・ブライトマン少佐。
 彼もグライン少佐と同期くらいの年齢だろうか。
 顔つきはブライトマン少佐の方が軍人らしい精悍な顔つきをしている。
 連合軍の将兵は敗戦に次ぐ敗戦で、若い世代を積極的に昇進させなくては維持出来ない領域にきているのだろうか。
 彼らが言うこの勝利への感動も実感としてのものなのだろう。

 

「……私は助言しただけ。全てはラミアス艦長の采配と、ここにいる全てのクルーの協力があったからよ」
「そんな、正直私にはあれほどの戦術は思いつきませんでした。
 ここに大佐がいてくれて、本当に感謝したい気持ちです」

 

 彼女は私に感謝の言葉を述べるが、私としては当然の結果を出したまでだ。
 それでも、人に褒められることは素直に嬉しいもの。
 しかし、ZAFT軍の引き際もなかなかに鮮やかだった。
 彼らはこの戦いでほぼ損失ゼロで引いてみせたのだ。
 それに対して我々は一隻を沈められ、MAも数機が撃墜されている。
 数に目を向ければ……勝利というにはなかなか厳しい成績だ。
 それもこれも連合とZAFTの決定的な技術格差にある。
 アークエンジェルとMSという装備は、ようやくキャッチアップしたに過ぎないのだ。
 私は彼らにその事を言わざるを得なかった。

 

「……勝利、確かに相手を引かせる事は出来た。
 でも、艦は一隻沈められ、死者の数も……厳しい結果に違いないわ。
 彼らはほぼ無傷で引いたのだから、戦いはこれからよ。
 むしろ状況は悪くなっているかもしれない。
 こう言ってはなんだけど、足の遅い二隻に合わせながら私達は進まなくてはならない。
 これがどういうことか、わかるわね」
「……連戦に継ぐ連戦……になるかもな」

 

 フラガ大尉の言葉はストレートだが現実的な答えだ。
 彼らは今後も仕掛けてくるに違いない。
 我々は足かせを履かされたに等しい。
 それは二隻の装備が貧弱過ぎるということもあるが、アークエンジェルが世代を大きく飛び越えている事も言える。
 この差をどう詰めるかを考えなくては、彼らを生かして進む事は難しい。
 私は「大佐」としての権能を使い、3隻の事実上の指揮官として振る舞う事にした。
 アークエンジェル一隻を支援するならともかく、3隻全てを指揮するにはこの立場を使う他は無い。

 

 大佐としての最初の仕事は、この艦隊の持てるもの全てを把握することからだった。
 新たに加わった2隻の艦には、メビウスというモビルアーマーと呼ばれる戦闘機が6機、クルーも1隻200名程の人数が居る。
 推進力の低さは我々の技術で多少は改善出来るだろう。
 そして、これらの艦艇からの物資により、フラガ大尉のメビウス・ゼロの修復は可能となった。

 

 そのメビウス・ゼロだが、セブンは機動性の低さを可動式ブースターを搭載する事でクリアし、ガンバレルシステムの簡易化を提案した。
 彼女の提案では、大尉のシステム運用負担を軽減するOSサポートを提供すると共に、ゼロ以外のノーマルメビウスにも大尉の空間認識能力無しにガンバレルを使用出来るAI、いわばフラガAIというものを載せるようだ。
 これによりガンバレルシステムによるミサイル制御等に道が開かれると共に、このシステムが抱えていた汎用性の無さを克服する道を付ける事となる。
 私はこの提案を了承し、これらの開発は新たに加わった2隻のクルー達にチームを編成させた。
 また、彼女が秘密裏(?)に開発をスタートさせたモビルスーツ開発計画は、正式に私が了承した。
 新たに開発するMSはGAT-X105と共通の装備を運用出来るジン(仮名)とし、パイロットをクルーから公募し、シミュレーターの成績を元に養成する事とした。

 

 それから、私はアークエンジェル内に新たな執務室を作り、そこに部隊の情報を集約出来る情報センターを構築することとした。
 いわば天体測定ラボのアークエンジェル版とも言うべき部屋だが、システム設計自体はアークエンジェル一隻で完結する作りではなく、こちらに搭載するのは基本的な処理をするプロセッサのみで、後の殆どの処理はシャトル・アーチャーの方で引き受ける形をとる。
 このようなシステム設計にしたのは、アーチャーが持つセンサー類を利用することもあるが、彼らに我々の技術が行き過ぎるのを防ぐ為でもある。そして何より、この設計によりシャトルから艦全体を制御する道を付けられることにある。
 艦の制御はシャトル・アーチャーのコンピューターで遠隔制御出来る様改造しており、この部屋からのコントロールはアーチャーを通して全艦へ伝達される。
 ……元々アーチャー自体を制限して作ったわけだが、リミッターを解除したことで十分なパフォーマンスは得られる。
 艦に装備するためにレプリケートした、この時代の最先端程度のCPUと連携させる事で、当面情報力の問題は起こらないだろう。

 

 この部屋はトゥヴォックを中心に編成した民間クルーの保安部隊が警備することとし、この機会に民間人の生活環境改善を進めるため、生活区画を民間人用に再設計した。
 彼らの中には学生も多いため、学校の必要も迫られていた為だ。
 また、民間人らに艦隊への娯楽の提供も奨励し、船内に放送局を設ける等、積極的に民間人の力を活用する事とした。
 殺伐とした艦内では民間クルーは勿論、正規クルーの精神的負担も増している。
 軍はレジャーランドではないが、福利厚生の低い環境はモチベーションを下げる。
 何よりそうしたストレスは新たな問題の引き金になり易い。
 出来る限りクルーの融和を醸成する環境づくりは大切だ。

 

 こうした作業を進める上でしばしの時間が必要と考えた私は、あえて暗礁宙域に戻る進路を取った。
 ZAFTが追ってくるにしても、我々が身を隠すには丁度良いからだ。
 サイレントランで潜り込むにも丁度良い距離と判断した私は、予めラミアス大尉に対し、交戦後ZAFTが目視領域から撤退したのを見計らってから進路変更するよう指示し、暗礁宙域へと潜り込んだ。
 相手も勝利した我々が戻るとは思わないだろう。

 

「……あんた達が!あんた達がいるから!!!
 あんた、本気で戦わなかったんでしょう!!!」
「フレイ!!!」

 

 サイ・アーガイルが叱る様に彼女の名を呼ぶ。

 

 フレイ・アルスターは荒れていた。
 彼女は唯一の肉親を失い、コーディネイターであるキラに当たる他無かった。
 しかし、キラが出た時には既にモントゴメリは墜ちた後だったのは周知の事実。
 彼が責められる理由は無い。
 それでも、キラからすれば、好きな相手から浴びせられる暴言はショックが大きく、自身の無力さを感じていた。

 

「……フレイは、君の父さんが生きているなら誰が死んでも良いと思ってるんだね」
「な!?あ、あたしは!?」

 

 カズイは彼女の方を冷めた表情で見ていた。
 彼の言葉はピンポイントに自分の言動の問題を指摘していた。
 いや、彼だけではない。彼女の事を周囲の誰もが冷めた目で見ていた。
 図星を突かれた格好の彼女は、ただその場に黙るしか無い。
 彼女からすれば、あの時心の中で願う様に祈っていたのだ。
 父の無事を。それはそれは何度も。
 それを裏切られた思いがこの場に居る全員に伝わらない歯痒さは無い。
 あまつさえ自身の言動を批判され、「敵」であるコーディネイターが擁護される。
 その場に居続けるのを苦痛に感じた彼女は、食堂を駆け出して行った。

 
 

 ZAFT軍ヴェサリウス執務室では、アスランが今後の作戦を練る為にグラディスとモニター越しに話し合っていた。
 彼女は前回の戦闘での戦果は結果的に旗艦ネレイド級の撃墜という形になったが、力押しで行けばまだ戦えたのではないかと考えていた。

 

「……グラディス艦長。それでも不確定要素を引きずるのは嫌なんです。
 我が方は確かに装備も充実していました。
 力押しでやれるだけの戦力は有ったと思います。
 しかし、先行試作機の投入やブラックボックスのGATのOS問題、また我々の部隊の連携など、課題というより問題と言った方が良い不安を抱えていました。
 今回の戦闘でハッキリしたことは、ゲイツの武装は見た目より燃費が悪いこと。
 そして、GATのOSはやはりトロイの木馬であったことです」

 

 彼女は手持ちのパッドの情報に目を通していた。
 そこには先の戦闘の分析データが詳細に並んでいる。
 彼の言う事は理解出来るが、理解した所で腑に落ちる話ではない。

 

「……結果論を言えばそうね。でも、指揮官として慎重過ぎては突破力に劣るわよ。
 アーサーにも言ったけど、私達は常に万端で戦えるとは限らない。
 場合によっては少数で大群を相手にしないといけない。
 そんな不利な状況でも勝ち抜く力が戦場では問われているの。
 確かに戦力の温存は為され、徐々に削るという安全策も使える。
 だけど、それでは決定力不足は否めないわ」

 

 彼女の言葉は正論だ。撃てる時に撃たなければ撃たれるかもしれない。
 そんなことは自分でもよくわかっていた。
 そして、自分が躊躇う理由が「それだけ」なら結論は早かった。しかし、個人的にも躊躇する理由がある。それはキラだ。
 あいつが乗っているかもしれない。いや、乗っているのだろう。
 願わくば戦いたくなんて無かった。
 それでもそうと分かっていて撃たなければならない理不尽さに、まだ齢16の少年の心は揺れていた。
 とはいえ、目前の人間にその揺れを悟らせるわけにはいかない。

 

「……彼らに痛打を与えるだけが戦争ではない。
 私は、少なくとも遂行し難い状況を作る方がずっと効果的だと考えます。
 確かに決定力には欠けますが、相手もまた同じでこう着状態には持って行ける。
 今は焦るときではないと考えています」
「分かっているわよね。このまま泳がせれば、第八艦隊と合流よ。
 ……そうなればより多くの艦艇と対峙しなくてはならなくなる。
 敵の指揮官はこれまでのタイプとは違って全く予測が付かない。
 その彼らが大軍を指揮して襲ってきたら……私達は大幅に不利になるかもしれない。
 今打てる策を打つ。敵を前に舌舐めずりは愚か者の行動よ」

 

 第八艦隊との邂逅前に片が付けられるのであれば、それは確かに嬉しい話だ。
 だが彼女の言う通り、これまでのところ敵の指揮官にはしてやられてばかりだ。
 戦力では圧倒しているはずのZAFTが、たった一隻で、しかも2機しか搭載しない艦艇に逃げられ続けている。
 外聞が悪いのは百も承知だし、出来れば倒すさと心の中で呟いた。

 

「……お言葉ですがグラディス艦長、これでも私はフェイスです。
 そして、この隊の隊長です。
 経験不足や若輩のそしりは甘んじて受け入れましょう。
 しかし、決定権は私にある事をお忘れなく」
「……そうね。ご自由に為されば良いわ。
 私は苦言は呈すけど、飽くまで軍人。命令には……従うわ。では」

 

 グラディスは敬礼して通信を切った。
 その表情はとても憮然としていた。
 アスランは溜息を吐いて椅子の背もたれに深くもたれかかった。
 何気なく頭をぽりぽりと掻いた時、違和感を感じた。

 

「……はぁ。勘弁してくれよ」

 

 彼の手には、数本の毛があった。

 
 

「はい、どうぞ」

 

 ドアを開ける音がする。
 食事のトレイを持って入ってきたのは、連合の制服を着た少年の姿だった。
 彼女はにこやかに語りかける。

 

「あら、今日はフレイさんはいらっしゃらないのですね」
「……えぇ。今日は僕が代わりに」
「そうですの。どうもありがとうございます」
「いえ、……どういたしまして」

 

 彼女は彼の様子がとても元気が無い様に感じられた。
 それは表情は勿論、姿勢にも覇気が無い様に見えたからだ。

 

「どうなさいましたの?
 もしお時間がよろしければ、わたくしとお話してくださいませんか?」
「……あ、ぐ、あぁ、あ、ぅ、ぐぅぅぅぅ、あぁーーー!!!!」
「!?」

 

 少年は突然こらえ切れず堰を切った様に泣き出した。
 彼女は驚いたが、すっと立ち上がると彼の頭を胸に抱き寄せた。
 少年は驚いた表情を見せて彼女の顔を見るが、彼女は笑顔を見せて彼の頭を優しく撫でる。
 その優しさに、彼は素直に甘えて胸の中で涙を流した。

 

「おや、そこのねーちゃん、こんな所にどうした?
 確か君、あの学生達の仲間だろ。えーと、フレイ、アルスター、だろ?」
「……」

 

 フラガは話しかけても反応しない彼女に苦笑した。
 しかし、張りつめた様な表情で立っている彼女を放っておけないとも感じた。
 それは女性を大事にというよりは、どちらかというと……何かやらかしそうな不安の様なものの方が大きく感じられたからだ。

 

「へぇ、君はあれに興味あるの?
 女の子にしては珍しいねぇ。ロボ好きかい?」

 

 そう、彼女が居たのはハンガーの新型開発現場の前だ。
 そこで突っ立って見ているのを見れば、誰だってそう思う所だろう。
 しかし、彼女の答えは違った。

 

「………殺したい」
「へ?」
「………コーディネイターなんて、みんな死ねば良いのよ」

 

 あ〜あ、やっぱり。
 ……そんな感想を心の中で漏らすフラガは、自分の野生の勘とでも言うべき危険信号に従わず、安易に触れてしまった事に半ば後悔しつつ、それでも先が知りたい自身の好奇心に苦笑を禁じ得ない。

 

「……はは、おいおい、それは物騒だなぁ。
 じゃぁ、何かい、君があれに乗って戦うのかい?
 確か、新しいパイロット募集してたろ」
「………フフ、それも悪く無いわね。
 アハハ、……何よ何よ、みんなよってたかってコーディネイターの擁護しちゃって。
 私は許さないわ。
 パパを、パパを殺した奴らなんて皆殺しにしなくて気が済みますか!ってのよ」

 

 彼女の父は先の戦闘で亡くなったジョージ・アルスター外務次官だ。
 この言い様だと相当の溺愛っぷりだったのだろうし、彼女もそれを受け入れていたのだろう。
 戦争で肉親を失うことは悲劇に違いない。だが、可哀想な子は沢山居る。
 彼女の父の様に地位や名声の有る人物ならば、その後の生活も何とかなるだろう。
 彼女には悪いが、むしろ哀しめる程の父親が居たことを幸せに感じた方が良いと、例え内心思ったとしても、それを言わないのは彼の天性の性格故だろうか。

 

「……そうか。でも、それなら君、このままじゃそれすらもできないな。
 いくらOSがナチュラル仕様たって、体が出来てない奴が扱える代物じゃない。
 キラはコーディネイターかもしれないが、イチェブ君は随分体を鍛えている。
 君はその覚悟があるのかい?」
「あるわ。えぇ、あるわ。やってやるわよ!
 皆殺しにしてやるわよぉおおお!!!!」

 

 彼女の気迫は相当のものだ。
 ここまで断言する彼女に応えないのは男が廃る。
 いや、そんなものは建前で、内心は少々悪戯心が湧いてきていたのだ。

 

「おし!なら、俺が鍛えてやる。俺もこれでも軍人だ。
 鍛えるくらいはやれる。軍の機体を動かしたいなら、君は軍人になるんだ。いいな?」
「えぇ、良いわよ!さぁ、始めるわよ、今始めるわよ、すぐ始めるわよ!!!」
(えらい気合い入ってるなぁ。さてさて、いつまで続きますか……?)

 

 フラガは彼女に促されながらハンガーを出て行った。

 
 

 ―副長日誌―
 私はアズラエル理事との協議の末、連合軍に協力する企業の幾つかとの大口の契約を締結する事とし、その見返りとして艦長達の早期救出を依頼する事となった。
 ブルーコスモスの主義者と言われているアズラエル理事だが、実際の彼はずっとビジネスライクな人間だと言う印象を受けた。
 彼は親しげに私と交流を持つ事を希望し、ゴルフに始まり、釣りに乗馬にボーリングと、忙しい時間を削っては遊ぶ約束を持ちかけてきた。
 無下に断る理由も無いので、彼との個人的な交流を進める事とした。
 艦の業務は不安だが暫くトムとベラナに共同で当たらせておく事とした。
 私は彼の車でロスの高級ホテルのプライベートルームへ来ていた。
 そこは彼のお気に入りのロス市街が一望出来る展望室で、部屋の調度類は宇宙に関係した模型や図版など様々なものが飾られている。
 彼は私をバーカウンターに座らせると、カウンターの中で作業を始めた。
 そんな彼に私は話しかけた。

 

「貴方は失礼だが……いわゆるブルーコスモスという主義者のボスにしては、その……随分ニュートラルな印象を受ける」
「あぁ、良いですよ。お気遣い無くどうぞ。
 そうですねぇ、世間は僕らを主義者呼ばわりだけど、僕らはこれでも経済を発展させてきた一族の末裔。
 こういう悪者扱いにでもならなくて、どうして人類は発展することができるのだろうかと思いますよ。
 いわば、僕らは体のいい汚れ役です。でも、誰かがしなくてはいけない」

 

 彼は手慣れた手つきでグラスにブランデーを注いでいた。
 一つを私に渡すと、もう一つを左手に持ちゆっくり口へ運ぶ。

 

「しかし、平和に暮らすこともできるんじゃないのかな」

 

 グラスを置いた彼は、冷蔵庫から豚肉とキャベツとピーマン、それに糸こんにゃくを取り出し、棚から小麦粉と何らかの顆粒の入った入れ物を出してきた。
 何を作り始めるのかわからないが、テキパキと手を動かしながら楽しそうに話す。

 

「えぇ、そうですね。確かに。
 でも、じゃぁ、僕みたいなのが表に出て手綱を引かなかったらどうなるか。
 僕より酷い、それこそ本当の『主義者』の出番が回るだけです。
 まぁ、勿論、僕も個人的にはコーディネイターは嫌いですよ。
 奴らは口で言う程清廉潔白でも優秀でもない。
 我々が長く努力して築いてきた資産を、横からかすめ取る泥棒達です。
 彼らは泥棒をしておいて権利を認めろというんですよ?
 ……これでうんと頷くなら、その人の頭こそどうかしていると言いたいですよ」

 

 彼は言う程に荒れているわけでもなく、にこやかに淡々と話しながらキャベツを千切りし、ピーマンを細かく刻み、糸こんにゃくも適当に切り、豚肉も食べ易いサイズに切りそろえると、冷蔵庫から紅生姜と卵を出し、その紅生姜もまた細かく刻むと、それら切った素材を豚肉を除いて全てボールに入れ、小麦粉をまぶして卵を数個入れてから混ぜ、徐々に水を足していく。

 

「……確かに彼らは横暴だ。
 人類の革新というよりは、努力する苦労を知らぬ天才の世間知らず……といった所ですかな」

 

 私は話をしながらも器用にこなして行く彼に感心しながら話を続けた。
 彼もこのながら作業が好きな様で、終始笑顔だ。

 

「おぉ、上手い例えですね。
 えぇ、……確かに彼らは生まれながらの天才ではあるんです。
 認めようが認めまいが……事実だから仕方ない。
 本来ならば、彼らはその知力をこそ武器に商売でもなんでもすれば良かったのです。
 勿論、我々との良好な関係が前提ですがね。しかし、彼らはそれを選ばなかった。
 宇宙に住めるのは彼らの力によるわけではない。我々の努力の結晶だ。
 そうした経緯を理解するならば、彼らは我々と多少の不利を覚悟してでも交渉を進めるべきだった。
 しかし、そうはならなかった」

 

 フライパンを熱して油を引き、豚肉を炒め始める。
 じゅーじゅーと良い音がしている。

 

「……その結果がバレンタイン……ですか?」
「あれは……、僕もコントロール出来た話ではないんです。
 ただし、あれを悪いとも思いませんよ。非情を承知で数に置き換えるなら、たったの2000万の犠牲で済んだはずなのです。
 結果はどうです?…生かしたが為に、地球はエイプリルフールで7億とも8億とも言われる人口を、単なるエネルギー不足で失ったのですよ。
 ……フフフ、幾ら非道のそしりを受ける我々でも、それほどの被害を出せる程に世論に強いわけではありません。
 これは断言しても良い。我々も万能ではないのです」

 

 彼はある程度火が通った所でボールの中身を投入する。
 ぐつぐつという音を響かせ、パンケーキ状に伸ばされたそれが焼かれる。

 

「で、あなたは、今後どうされるおつもりで。
 コーディネイターはそのうち滅びるでしょう。
 それは将来はわからないが、この時代の遺伝子工学では致死遺伝を回避して産むとなると、クローニングに近い結果にしかならない。
 そもそもコーディネイトの理想がブームに左右されるのであれば、遺伝子バラエティが飽和するのは見えていたはずだ。
 いや……元々あなた方はそれを知っていたのではないですか?」

 

 私の問いに彼はニヤリと口角を上げる。
 それまでの彼はただ笑顔なだけだったが、にわかに真面目な表情になった。
 そこには大胆不敵さを感じさせる堂々とした威風があった。
 フライパンのパンケーキ状のものの表面がほんのり乾いたのを見て、それをフライ返しでひっくり返す。
 ジューという音が鳴り返されたそれには、綺麗な焼き色が付いていた。

 

「……いやはや、貴方は賢いですね。
 ブルーコスモスの中でも、これを理解しているのは多くない。
 仰る通り、ジョージ・グレンの告白でコーディネイト・ベイビーが産まれる『ブーム』がやってくることは予想通りでした。
 そして、それらの市民を積極的に宇宙開発に駆り立てたのも我々ですし、結果的遺伝飽和も予想通りです。
 彼らはこの予想の範囲でブームに乗せられていてくれれば良かったのです。
 そうすれば、新たなブームが遺伝子の飽和を緩和することも出来たのですから」

 

「……とすると、プラント経営とコーディネイターの登場は、ブルーコスモスの願い……ということになりますね」
「願い?…違いますよ。ビジネスです。飽くまで。
 彼らは我々が作るブームというショーウィンドウを飾る商品であれば良かったのですよ。
 それが暴発するのも……まぁ、仕方ないと思いますが、少々彼らはやりすぎた。
 我々の許容範囲というものも限界があるということです」

 

 彼はフライパンの近くに顔を寄せると、フライ返しで底の焼き加減を確認する。
 しかめっ面の彼を見るに、まだ満足の行く状態ではないのだろう。

 

「……難しいですね。今のまま進めば、落としどころは何処になるとお考えで。
 失礼だが、情勢はあまり良くない」
「……うーん、そうですねぇ。目下、それが一番悩みどころですよ。
 何しろ、私の後ろには私より跳ねっ返りが沢山居るんです。
 彼らを納得させつつ、あの宇宙人どもを黙らせつつ……どう落着させるか。
 妙案があるなら聞いてみたいものです。」
「というと、勝算は有ると?」
「フフ、勝てないわけが無い。確かに現在の状況は…あまり良くないですが、細かなピースは揃いつつ有る。私はこのパズルを完成させる自信はありますよ。
 ただ、問題はそこじゃないんです。むしろ、その程度で済むなら話は早い。
 あなたが言う通り、コーディネイターなんぞいつか滅びるんですから。
 問題は……我々です。いやはや、欲望というものは際限がない。
 全てを滞り無く収めるには、圧倒的な力が必要になるでしょうね。
 それこそ宇宙人でもやってこない限り、纏まるものも纏まらないでしょう。
 はっはっは……と。あー、出来ました。お好み焼きです。
 日本に行って気に入ったんですよぉ。どうぞ、酒のつまみにお召し上がれ」

 

 彼はフライパンで焼いていたパンケーキの様なものを皿に移すと、そこに編み目の様にソースとケチャップに鰹節と青のりを振り、最後にマヨネーズで器用に外の夜景らしきものを描いて私の前に置いた。
 なかなかに香ばしい食欲をそそる香りがしていた。

 
 

 アークエンジェル艦橋ではバジルール少尉が警戒勤務に当たっていた。

 

「報告」
「はい、現在の所、周囲に機影無しです。
 ……そういえば、バーナードとローのエンジンを改修しているそうですね」

 

 サイ・アーガイルの言葉に、バジルール少尉は自分の方でもデータを確認した。

 

「あぁ。改修はもう7割方終わったそうだ。ハンセン女史は凄い天才だな。
 彼女の手に掛かればあらゆるものが高性能になる。
 そういえば、彼女が開発している新型のパイロット募集、お前は応募したのか?」
「あ、はい」
「そうか。何故、応募した?」
「はい。……えー、キラ……じゃなかった。
 ヤマト少尉にだけ負担を押し付けるのは悪いと思って。
 せめて一緒に戦える様になってやりたいな……と」

 

 ナタルは彼の友情に感心していた。
 自分がもし彼と同じ立場だとして、そこまで友達を思う事が出来ただろうか。
 これまで半ばドライに物事を判断する事が大切だと考えて生きてきたが、彼の様に人を思う事もまた自分に必要な物なのだろうと、客観的には考えていた。
 ただ、彼の適性とヤマト少尉の適性は違うとも感じた。

 

「アーガイル、お前、指揮官を目指す気は無いのか?」
「指揮官……でありますか?」
「そうだ。ヤマト少尉を思い遣る気持ちは分かるが、お前と少尉では得意分野が違うだろう。どちらかと言えば、お前は人を纏める側の人間の様に感じる。
 何も支える立場は同じである必要は無いのではないか。どうだ」
「どう……と言われましても。それに、それではあいつの負担は……」
「勿論、お前の考えている事はわかる。
 正直な所を言えば、私が動かせるならそうしたいくらいだ。
 だがな、思いだけでは何も出来ないんだ。実際に動けなくては。
 私がこうしてここに居るのは、ここが私の出来る場所だからだ。
 運命は選べないが、道を選ぶ事はできる。向かう先が同じならば、その場で最善を尽くせる場所に居る方がずっと助けになるはずだ。
 もし、お前にその気が有るなら大佐へ話してみるぞ」

 

 サイは彼女の唐突な提案に驚いていた。
 まさか彼女からこんな事を言われるとも思っていなかったのだが、自分の向き不向きを客観的に指摘されるだけじゃなく、勧誘までされたのだから。
 自分でもキラ程の才能が無い事は理解している。どんなに上手く頑張ったところで、彼と同等の仕事をこなすことは並大抵の努力では無理だろう。
 彼女の言う通り、向かう先は同じでも、辿る道は同じである必要は無いのだ。
 そんなことを考えていた時、突然センサーが警報を鳴らした。

 

「何事だ!?」
「あ、はい。センサー範囲に機影らしきものを確認。
 これは……ZAFTです!!!」
「なんだと!?総員、第一戦闘配備!艦長と大佐には私が報告する。」
「はい!」

 

 アークエンジェルは再び戦闘へ入ろうとしていた。

 
 

 ―つづく―

 
 

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