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スタートレックヴォイジャー in Gundam SEED_第25話

Last-modified: 2012-09-03 (月) 00:37:32

 スタートレックヴォイジャー in Gundam SEED

 第25話「彼女」

 
 
 

「派手にやられたようね」

 

 背もすらっと伸び、誰の目にもモデルの様に映る艶やかな彼女は、愛する男の帰還を青く細かな刺繍の施された見事なチャイナドレス姿で出迎えた。

 

「……あぁ、その通りだよ。あいつらの遺族に合わせる顔が無いねぇ」

 

 彼女の指摘にも悪びれる事無く認める彼は、自分自身の発した言葉にすら溜息の混じる思いだった。
 この戦いで失った兵士は11名。
 いずれも腕利きの選りすぐりで簡単にやられる様な奴らではなかった。
 ……いや、そのはずだった。しかし、結果を見てみればこれだ。

 

「クルーゼを誑り、グラディスが追い込まれ、ザラが取り逃がす敵ですもの。
 司令部はあなたを責めたりしないわ。勿論、遺族もね」
「フ、怖いねぇ。君の言葉を聞いていると、ついつい自分の気を緩めてしまいそうになるよ。
 君は悪い女だ」
「あら、アンディ。フフ、そうね。私は悪い女。だから、あなたの良い子ぶりっこなんて、ただの無駄と思ってるわ。一思いに自由にやってしまえばいいのよ」
「……そうだな。悪者じゃなきゃ怖くないだろうな。まったく、砂漠の虎が聞いて呆れる」

 

 砂漠の虎とは他人が勝手に呼び出した物をプロパガンダに利用しただけであって、自分自身がそう望んで使っているわけではない。
 使っている彼からすれば、虚像を使って納得するなら安い物といったところだ。
 彼女は気遣いは嬉しいところだが、目下この戦闘結果をどう見るべきか。

 

 自分の執務室に入った彼は、コンピューターにアクセスして自分のアカウントのデータを呼び出す。
 そこには本国に請求していた資料がメールとして送られてきていた。
 本国から送られてきた資料には、連合が開発したこれまでのソフトウェア開発とは全く違う、いわば「ゼロベース」から作られた新OSと、それを運用するXシリーズについての資料、そして、諜報部が探し当てたとある人物の写真があった。

 

「……OSの開発も、システム運用も、操艦も全部彼女が関わっているわけか。
 彼女はナチュラルなんじゃなかったの?……少なくとも、先見性は僕達を超えている。
 いるんだよなぁ。……天然物ってのは怖いもんだ」

 

 その写真には、シャノン・オドンネルという名が表示されていた。

 
 

 艦長日誌
 昨夜の戦闘は我々が押していたとはいえ、様々な課題が浮き彫りにもなった。
 まず絶対的に戦力が不足している。
 低軌道会戦から回復したばかりのキラ少年やイチェブに頼り過ぎる状況が続いた結果、我々はイチェブとセブンの二人を失う事態を招いてしまった。
 彼女達の無事を祈りたいが、一方で万が一の不安は払拭し切れない。
 だが、問題はそれだけではない。これで戦力が一つ減ったのだ。
いや、彼女のサポートも失った事で、我々の置かれた状況はより深刻に悪化するだろう。
 二人の扱いはMIAとして処理する他無かったが、その意味がもたらした心理的影響は大きく、これまで彼らがクルー達に与えていた影響の強さを実感する事となる。

 作戦室にはラミアス中佐以下、フラガ、バジルール、ヤマトの4名を招集し会議を行った。

 

「……戦闘には勝ったけど、我々も大きな犠牲を払う結果となった。
 それもこれも、彼女へ実験の許可を与えなければ、…犠牲が増えるはずは無かったことは認めるわ」

 

 私は努めて冷静に彼らに語りかけた。
 事実を語り率直に彼らの反応を見る他にない。
 バジルールが挙手し私に発言の許可を求めたので同意した。

 

「大佐の判断は状況的に適切であったかは議論の余地があるとはいえ、タイミングとしては間違いではなかったと私は考えます。
 打ち上げるという内容を考慮に入れると、平時に行えば敵襲を誘うだけに、攻撃時に行うのは一つの考え方として分からなくはありませんから。
 ただ、問題はそこではありません。何故、あの実験をする必要があったのですか?
 しかも、あの飛来した物体は?」

 

 彼女の指摘は鋭い。
 センサー情報は予め作戦室からNジャマーによる妨害に見せかけて撹乱しておいたが、目視で見えた物まで否定する事は難しい。
 たぶん、ここにいる者は皆その疑問を持っているに違いない。

 

「……彼女の実験は、最先端のナノテクノロジーの検証だったそうよ。
 成功すればナノマシンによる機体の補強が行われて、予めプログラムした構造に補強される……という予定だったそうよ。
 それで、そのデータを元に新しいモビルスーツを開発し、ZAFTの新型に対抗しようと考えていた様ね。
 彼女はあの新型の登場をとても屈辱的に感じていたから、私の長年の付き合いからの経験的に、許可しなかったら意地でも強行したでしょう。
 だからこそ、許可を出して最適なタイミングを計ったのよ」

 

 私の話に半信半疑という印象の彼らだが、その中でキラ少年が私に発言の許可を求めた。

 

「……あの、大佐の言うナノテクノロジーとか、失礼ですけど普通の人が聞けば怪しい話かもしれません。
 でも、大佐達のこれまでの技術力を考えると、僕は本当の事だと感じます。
 僕もイチェブがやられる時の状況は見ていました。
 あの飛来した物がメビウスだとすれば、確かにメビウスの痕跡を残しつつ新しい何かに変わっていた様に思います。
 質量も若干増えていたかもしれません。
 たぶん、無事なら実験は成功しているのかもしれませんね」

 

 彼の発言にフラガが苦笑混じりに言う。

 

「……成功しても、無事に帰ってきてくれないと残念だよなぁ」

 

 確かにその通りなのだが、全員の沈黙に彼も流石にまずい事を言ったと思い恐縮する。
 クルー達は皆沈んでいた。
 この状況を長引かせると全体の指揮にも影響しかねないと感じたジェインウェイは、話題を進める事にした。

 

「……まだ希望は捨てないでおきましょう。
 彼らが帰ってくる事もあり得るのだから。
 誰も爆発した破片を見ていない以上、生存の可能性も残されていることを忘れないで。
 さて、それでも問題は戦力よ。
 デュエルを失った以上、現状の戦力はストライクとスカイグラスパーの2機のみ。
 正直まだ投入すべき段階ではないけど、ジーニーを出さざるを得ない状況ね」

 

 どんな手を使うにしても生き残らなくては意味が無い。
 彼らの望みを繋ぐ為にも、帰る場所は健在でなくてはいけないのだ。
 私はここに来て半ば楽観的に進めてきた自分を反省した。
 暫く忘れていたが、私はまだ旅を終えていないのだ。
 ここは地球であって地球ではない。
 こんな場所で彼らを失うわけにはいかないどころか、私にはまだ守るべきクルーが沢山いるのだ。
 彼らを指導することは勿論だが、帰らなくてはならない。

 

 その後の会議ではジーニーの実戦投入を決定し、次の戦闘に備えることとなった。

 
 

 デルタフライヤーはようやくオールトの雲を抜けた所だった。
 彼らはこれからワープ航法での推進に入る予定で航行している。

 

「デルターフライヤーからヴォイジャー、これから我々は、ハイパードライブに入ります」
「ヴォイジャーからキム、君の実験の成功を祈る」
「大丈夫さ。僕の操縦でも上手くやれるよ」
「ははは、あぁ、ハリー。君は大丈夫だ。オドンネルさんもいってらっしゃい」
「えぇ、ありがとう。行ってくるわ」
「通信終了!ってわけで、行きましょう」
「えぇ、それにしても、ハイパードライブシステム搭載艦だなんて、凄い時代になったわね」

 

 彼女はデルタフライヤーが「初のワープ飛行実験艦」だと思っている。
 そして、その秘密任務を引き受けていると受け止めているのだ。
 その為にキムはワープの事をハイパードライブと言い換えている。

 

「さて、行きますよ。通常エンジン停止、シールド展開、ハイパードライブ準備カウント開始。
 カウント10…9…8…」

 

 彼が大袈裟に出発準備を始める。
 わざわざ彼女をそれらしく思わせる為にトムと二人で作り出した準備モードは、ご丁寧に効果音まで付いているほどだ。
 船内は擬似的に作り出されたエンジン音が鳴り響き、振動まで伝わってくる。
 スイッチ類も新たに全く関係無いハイパードライブモードスイッチを用意し、それらをチェックすることで「ハイパードライブするぞ!」という臨場感が伝わる寸法だ。
 オドンネルは神妙な顔で前方を凝視している。彼女は人類初の偉業に関わっているのだ。

 

「3…2…1…発進!」

 

 デルタフライヤーがワープに入る。
 彼はワープ1で僅かに飛行してワープを抜けた。ほんの一瞬だった。

 

「……え、もう終わったの?」
「はい。ハイパードライブは無事成功しました。星図をご覧下さい」

 

 彼女は彼に促され星図をモニターチェックする。
 確かに太陽系から相当の距離を飛んだ様だ。
 ちなみに彼女が見ている星図は「彼女用」にアレンジされたものだ。
 具体的には周囲の星系情報等の詳細な情報は表示されない。
 まぁ、尤も、この宇宙とどの程度互換性があるかは定かじゃない。
 実の所、この飛行のもう一つの目的が「周辺調査」を兼ねている。
 だが、その時センサーが何かをキャッチした。

 

「キムさん、何か反応しているわよ」
「え、あぁ、本当ですね。調べてみます」

 

 彼は長距離センサーで反応した領域に向けて詳細なチェックを入れる。
すると、何かの熱源が宙域に存在していた。
 その熱源は複数存在しているが、恒常的に反応しているというよりは、突発的に発生したあとの様にものだ。……それが意味する所を彼は知っている。
 彼の表情がそれまでの陽気なものから真面目な表情に変わった。

 

「……これは、船の残骸だ」
「……なんですって。私達以外に船が。この計画には私達以外にも飛んでいるの?」
「いいえ、それは有りません。我々のみです。……この船の残骸は、異星人のものでしょう」
「……地球外生命体……本当に居たのね」
「とりあえずまずは付近の情報を調べてみます。迂闊に近づいて何かが有っても大変ですから」
「えぇ、そうね。それが良いわね」

 

 キムはこれまでこの世界で無反応だった「異星人」の痕跡を発見した事に緊張していた。
 しかも、これは考え得る遭遇の中では最悪な部類になるかもしれない。
 こんな破壊的な結果を目の当たりにしては、そう思わざるを得ないと言える。
 先日の「羽鯨」と良い、この世界の宇宙はまだ未知の世界だ。
 デルタフライヤーが進む道は、彼女だけでなく彼らにとっても未踏の道なのだ。

 
 

 セブンが居なくなったハンガーのクルー達は、
さすがにプロ意識を忘れずに頑張ってくれているが、彼らの中にも暗い影が射していることには変わりない。
 私は彼女のイメージに浸る暇を与えるより、出来る限り明日を勝ち取る道を選ばせたい。
 そうでなくては、第二第三の彼女等を作ってしまう。

 

「マードックさん、ジーニーの整備状況は?」
「はい大佐、実戦投入には申し分無い状態には仕上がってますぜ。
 こいつでZAFTの奴らに目にもの見せてやりたいもんだ。」

 

 いつもは陽気な彼も、今日ばかりはその表情に怒りが感じられた。
 私の面前と言う状況に有っても、彼自身悔しい思いを強くしているのだろう。

 

「そう、有り難う。こんな状況だけど、あなた方の仕事に敬意を表して、全整備クルーの階級を一つ昇進させたいと思うの。勿論あなたも含めてよ。
 受け取ってくれるかしら?」
「えぇ!?」

 

 マードックは突然の話に驚いていた。
 先日曹長に昇進したばかりで、次は唐突に准尉だ。

 

「あの、大佐、それじゃまるで俺が殉職したみたいじゃないですか。
 あいつ等の昇進は素直に喜んでくれると思いますが、私もでは……」
「気兼ねする?」
「えぇ、まぁ」
「正直な話、クルーの士気を落としたくないの。
 特にアニカと長く触れ合ったあなた達の心理面へのショックは大きかったはずよ。
 私もショックだけど、それを乗り越えて頑張ってもらいたいの。そうじゃなくては、第二第三の二人を生んでしまうことになる。ジーニーに乗る少年達を守る為にもね。
 それと、実務的な意味もあるの。
 あなたを准尉にすることで、上級士官としてクルーを率いて欲しいのよ」

 

 マードックは腕組みして暫く考えるが、考えているうちに頭が混乱してきた。
 いや、言われている事も分かっているし、期待されていることも理解出来ているが、それを自分が担うものという実感が正直湧かないでいたのだ。

 

「大佐、それは俺みたいな下っ端が頑張ることなんですかい?
 もっと、こう、なんていうか、他に管理職に向いた奴ってのがいるんではないですかい?」

 

 彼の戸惑う気持ちは仕方ない。
 本来であれば確かに彼の言う通りに他の上級士官が担う仕事だ。
 だが、この船はそうしたクルーを最初から欠いていた。
 そして、最新鋭の新型で運用方法からしてこれまでの艦艇とは根底から違う。
 彼らは既に「掛け替えの無い」経験を有しているのだ。

 

「……曹長、いえ、准尉。これはめ・い・れ・い・よ?
 それに、私だって最初から大佐じゃないわ。そして、色々なクルーを見てきている。
 あなたの様なクルーだって、立派な士官として成長している。大丈夫。
 あ、勿論、彼女が帰ってきたら、あなたの肩の荷を降ろすのは自由よ。
 それでも階級は有って損をするものじゃないわ。クルーへの説明、宜しく頼むわよ」
「うへぇ、命令ですか。……わかりました。その代わり、どうなっても知りませんよ?」
「ウフフ、大丈夫。期待しているわ」

 

 私は微笑んで彼の肩に触れた。
 マードックは照れ笑いを浮かべながら頷いた。そして、一礼してクルー達のもとへ戻って行った。
 ハンガーからの去り際に、クルー達の驚く声と喜ぶ声が聞こえた。
 私はそのままの足でパイロット達のトレーニングルームへ向かう。
 これからジーニーに乗ることになる二人に会う為だ。

 
 

 ZAFT本国へ戻ったヴェサリウス。
 クルー達は暫く振りの帰還に喜んだが、司令部は次の大規模作戦へ向けての準備が着々と進められていた。
 というのも先頃最高評議会は一つの重要な決断を下した。
 それは地球軍総司令部への総攻撃だ。

 

 表向きはパナマへ向けての攻撃を計画するが、最終攻撃予定地はアラスカのジョシュアと定めたのだ。
 この計画を表明したのはシーゲル・クライン最高評議会議長によるものだった。
 彼の提案はクルーゼ隊が持ち帰った、ブリッツ及びそのOSの解析により明らかになった「大幅な技術格差」が理由だ。
 他の評議員達は最初はパナマ攻撃計画を優先すべきだと反対論を張ったが、議長は彼の決断した根拠となった資料403を提示した。

 

「……諸君、これでも我々が勝てると思える理由があるかね」

 

 彼の提示した資料403には、連合の新OSが現在に至っても解析不能で、これは公表されている世界最高クラスのスーパーコンピューターを、数台クラスター化した現在でも突破出来ない状況にあるということ。
 そして、その理由がこれまで考えられてきたコンピューター処理の仕方の根底を覆した、全く新しい基盤を築いてCPU性能を100%引き出す様にする、いわば完全オーダーメイドと言ってよい仕様で作られていることだ。
 これまで連合のどのような技術でも自分達のものにしてきたどころか、それを凌駕してみせたZAFTだったが、このOSの存在は越えられない壁として彼らの前に立ち塞がったのだ。
 しかも、連合はMSの量産体制に入ろうとしている。
 彼らがこのOSを「自由に」インストール出来るのに対して、ZAFTはそれが不可能なのだ。
 このシステムは次元の違う操作性をナチュラル達に与え、コーディネイターである自分達の戦場での優位性を大幅に後退させるだろう。
 自分達には絶対的な数が不足しているのに対し、彼らには億単位の交代可能な人員と膨大な資源があるのだから。
 この提案に真っ先に同調したのは、黄道同盟を結成する時からの同志であるパトリック・ザラ国防委員長だ。

 

「……まさかここに来て全会一致するとはな」

 

 私邸に戻ったパトリックは書斎の椅子に座り、久々の休息をとっていた。
 ドアをノックする音が聞こえる。彼は入れと入室の許可を出した。

 

「……父上、帰りました」
「アスランか。よく帰った。たまには話でもしようか」

 

 パトリックは立ち上がり、息子を応接椅子へ座る様に促す。
 彼は戸棚からグラスを2つ持ってきて息子の対面に座ると、テーブルの上に置いてあるガラスのポットから水を注いで渡した。

 

「……さて、実際に戦ったお前のレポートは見た。
 OSはトロイの木馬としても機能し、敵の指揮官もかなり有能だ……と。
 そして、クルーゼが来なかったら、お前達は鹵獲機共々敗北していたかもしれない……と」

 

 パトリックの目は笑ってはいなかった。
 そこに有るのはいつもの厳しい国防委員長の目だ。
 アスランはその目を怯む事無く真っ直ぐ見据える。

 

「……父上、率直な感想を話しても宜しいですか」
「ほぉ、良いだろう」
「まず、戦力が圧倒的に足りません。
 足付きを仕留めるに足る戦力をお与え下さるのかと期待していましたが、結果を見てみれば、キグナスとツィーグラーの二隻で全く足りません。
 そして、あのクルーゼの新型機は何ですか。
 あの様な兵器があるなら、さっさと支給して頂きたいものです」

 

 パトリックは静かに聞いていた。そして徐に口を開く。

 

「……何も出し惜しんでいるわけではない。
 私とて、お前に充分な戦力を与えたいのはやまやまだった。
とはいえ、あの時点では評議会に危機感が無かったのは確かだ。
 それは、OSは程なく解析され、我々の新たな戦力となると考えていたからだ。 だが、そうはならなかった。
 ……あの機体は私が独断で許可を出した禁忌の兵器だ」
「禁忌……まさか」
「そう、そのまさかだ。まだ試作段階で、
はっきり言えばテストすらしていない、動くのも不思議な程の代物だった。
 結果的には動いた様だが、薄皮一枚剥げばバッテリーだらけで、
一発でも被弾すれば終了のお知らせだ。……あの男は正直好かん。
 あいつがどうなろうと知った事ではないが、良い腕なのは間違いない様だな。」
「父上……」

 

 アスランは絶句した。
 父は冷酷な人に変わられたとは感じていたが、まさかそんな棺桶同然の機体を出したとは。
 ……自分に押し付けられなくて良かったが。

 

「……私が独断であの時に許可を出していなければ、ここにお前は居ないし、評議会に考える暇もない。
 あのOSを普及させるわけにはいかんのだ。
 幸い足付きは我々のエリアに落ちたということだ。
 ジョシュアに入られる前に撃てれば良いが、……無理なら元を叩く他あるまい」
「新作戦ですか?」
「……我々の勝利には2つの道がある。連合を地球に封じ込めるか、潰すかだ。
 潰せる物なら潰しておきたいが、問題は潰せなかった時だ。我々は数が足りんのだ。
 圧倒的な数の不足を埋められる、圧倒的な力が必要なのだ。その為に作戦とは立てる物だ。
 軽々しく私に聞くな。お前はお前の仕事をすれば良い。必要な要望は聞く。それだけだ」
「……はい」

 

 パトリックはそういって水を飲み干すと椅子に深く身を沈めた。
 そして、話題を変える。

 

「……クラインの娘の件だが、気の毒な話になったな。
 お前はそれほど好きでは無さそうだが、あれでなかなかの娘だ。
 シーゲルとは今後も仲良くやって行かなくてはならない以上、あの娘を出来れば無傷で返してやらなくては面目が立たんというものだ。
 そこでだ、お前の部隊の3人が地上に降りたそうだな?」
「はい、彼らの内、イザーク・ジュールは機体を失っていますが」
「……ならば丁度良い。シーゲル傘下の工廟がお前の部隊に新型をよこすと言っている。
 開発中の新型ということだが…、なかなか面白い物になっているようだ。
 部隊の構成はこれまで通りにヴェサリウス、キグナス、ガモフ、ツィーグラーが所属艦になるが、地球上ではバルトフェルドの部隊にも協力してもらう形をとろう」
「アンドリュー・バルトフェルドは信頼出来る人物ですか。
 有能だとは聞いていますが、手緩いとも聞いています。」

 

「手緩い……?あいつはクラインの一派になるが、あの条件で必要十分な働きをしている。
 むしろ、お前の与えられた条件ならば、奴は十分以上の働きをするだろう。
 フフ、手緩い者同士だ。気が合うんじゃないか?」
「父上……その代わり、相応の要求はさせて頂きますよ」
「好きな様にするが良い。クラインと手を携えている今なら何でも通るだろう。
 何よりお前は婚約者だ。立場を有効に使う事だ。」

 

 パトリックは徐に両手で頭を抑えると、まるでカパッという音でも鳴った様な具合に、すっぽりと髪の毛が取れた。その下には、にわかに汗ばんだまっさらな頭皮が光っている。
 彼はカツラを片手で持ち、胸ポケットからハンカチを出して拭っていた。
 その様子を息子はただ黙って見ている他無かった。

 
 

 食堂から陽気な鼻歌が聴こえてくる。
 白いエプロンに三角巾で桃色の髪を束ねた彼女は、モップを持ってごしごしと床を拭く。
 その動きはさすがコーディネイターだけあり、腰つきも軽やかでいて綺麗に拭き取られている。

 

「ふんふふん、ふん♪」
「あら、ラクスさん、今日も精が出るわねぇ」

 

 ソノッコが食堂に入って来た。
 彼女は仕込みのためにやってきたのだ。

 

「まぁ、スズキさん!こんなお時間から始められるんですね」
「うふふ、料理にはねぇ、愛情を注げば注ぐ程美味しくなるのよ」
「そうなんですか〜。では、私も掃除に愛情を注がないといけませんね!」
「大丈夫よ。あなたの掃除は最近の若者にはないキレがあるから。
 特にその腰つき!……地球に置いて来た私の息子達に見せてあげたいくらいよ。
 あなた、良いお嫁さんになれるわよ?」
「まぁ〜!お嫁さんだなんて!……そんなぁ〜、わたくしまだ考えていませんわ〜」

#br
 彼女は頬を染めて恥ずかしがった。
 そんな彼女の表情に意中の人がいると見て取ったソノッコは、きらりと目を光らせる。

 

「ヤマト中尉との仲はどうなの?」
「えぇ!?もう、何もありませんわ〜。恥ずかしいじゃないですか〜」
「そうかしら〜?良いのよ?青春は今だけよ。若いうちは恋の一つや二つはして当たり前」
「でも〜、わたくし、婚約者がおりますのよ?」
「そんなもの、親が決めたことでしょう?大事なことは、貴方の気持ちよ。
 勿論、その相手が貴方の意中の人なら良いのでしょうけどね」
「そうですわねぇ〜。殿方って、どなたも難しいですわ。でも、そんなことを言ったら、
わたくし達も誰一人として簡単じゃないのでしょうけど」
「そうだねぇ。まぁ、少しくらい悪い男じゃないと、人生は楽しくないかもしれないわねぇ」

 

 唐突に出て来た彼女の言葉に、ラクスは人生の先輩を感じていた。

 

「あの、師匠とお呼びしても良いですか?」
「え、わたしを?」
「はい。スズキ様はとっても格好良い人生の先輩ですわ!」
「そう?じゃぁ、今度料理でも教えて上げようかしら。…私の指導はきついわよ?」
「是非!宜しくお願いしますわ!」

 

 ラクスとソノッコは固い握手を交わした。
 ここに新たな師弟関係(?)が結ばれたのだ。

 
 

 シミュレーションルームでは三人のパイロット候補生が訓練に励んでいた。
 この訓練施設もセブンが設計し直して大幅に強化され、現在は4機のシミュレーターが稼働し、
 1機はMA用、他3機はMS用の訓練モデルで、1機は元からあるGAT-X用のシミュレータで、
残りの2機は新型モデル用のコックピットを模したものとなっている。
 現在はMA用にはカズイ・バスカークが入り、GAT-X以外のシミュレータにはフレイとトールが入っている。

 

 中の様子は外のモニターで見る事が出来、現在は二機で模擬対戦をしている様だ。
 シミュレーターはこれまでのものの数十倍高速なプロセッサで動作しているため、ホロシミュレーションまでは行かないが、かなりリアルな動きをしている。
 彼らには加速重力も感じる様な特別なスーツを着用の上で利用させている為、実戦とほぼ変わらない環境を体感している。
 シミュレーター内部では3人のパイロットが同一のフィールドで訓練していた。

 

「うぉわあぁああああ!!?」

 

 スカイグラスパーが高速で空を貫いて行く。
 カズイはとにかく飛行に慣れる為に空を飛び回るメニューが課されていた。
 彼にはまず加速Gに慣れてもらい、普通に動き回れる様にする必要がある。
 フラガ大尉が実際に乗ったデータを元に割り出した動作データに、セブンがそれぞれの成績を加味して調整しているこのシミュレーションは、実の所を言うと本来の1.5倍は高速に動作している。
 当然通常のGよりも負荷が掛かっているのは言うまでもない。
 だが、このスピードで慣れてしまえば実際の戦場で焦る事は無いだろう。

 

 そして、その下のフィールドでは2機のジーニーが交戦していた。
 フィールドは砂漠で、現在の実戦フィールドとほぼ同じ条件だ。
 ブルーとピンクに塗装されたジーニーの2機は、ブルーにはトール・ケーニヒが、ピンクにはフレイ・アルスターが搭乗している。
 ブルーのジーニーにはソードストライカーが装備され、ピンクにはエールが装備されていた。

 

「飛び回っていてばかりでは試合にならないだろ!」
「いやよ!私のピンクが傷付いちゃうじゃないの!」

 

 ケーニヒからすれば、まさか逃げる理由がそんなことだとは思っても見なかっただけに呆れた。
しかし、彼もその程度で逃げ切られる程に甘くはない。

 

「ジーニー、シューティングサポート、アーマーシュナイダー」
『サポート、オンライン』
「えい!」

 

 ブルーのジーニーが加速を付けて跳躍する。ピンクはエールを噴かして後退。
 そこにすかさず腰から出したアーマーシュナイダーを投げ放つ。

 

「…甘いわ!!」

 

 彼女には半歩先が見えていた。アーマーシュナイダーの射線を紙一重で避けると、ビームライフルで反撃する。彼女には相手がビームも避けると予測していたが、何と直撃した。

 

「え!?」

 

 その時、彼女は自分の判断ミスを呪った。
 ブルーはあえてビームに被弾しつつ、シュベルトゲベールを投げていたのだ。
 その一撃は彼女の胸に当たり、敢え無く撃沈。システムフリーズした。

 

「あーーー!!!んもぅ、女の子なんだから手加減しなさいよ!」
「あはは、それやったら訓練にならないだろ」
「そ、それはそうだけどぉ、でも、少しは考えても良くない?」
「そんな事言っていたら、俺がジーニー貰っちゃうもんね!」
「あぁ!!狡い!見てなさいよぉ。今度は勝つんだから」
『敵、が、現れました。
 ターゲットロック、が、掛かっています。緊急回避行動、を、始めます』
「えっ!?」
「えっ!?」

 

 彼らが話していると、唐突にOSがアラートを出して動き出した。
 フレイがシステムフリーズしたはずのシミュレータが正常稼働しているのを見て驚く。

 

「どうなっているの!?」
「フレイ、前見ろ!」
「え!?」

 

 そこにはビームライフルを打ってくるストライクの姿があった。

 

「ちょ、キラなの!?」
「……」

 

 彼からの返答は無い。
 それどころか止まる事無く二人を攻撃してきた。

 

「速い!?」

 

 トールはシールドでビームを防ぐが、相手は的確に砂丘の影に隠れながら近づいてくる。
 このような動き方はこれまでのキラの戦闘では見た事が無い。

 

「誰だ、誰が乗っているんだ!?フレイ、下に降りろ。的になる!」
「キャァ!!!」

 

 そうこう話している間にフレイに向けてビームライフルが狙撃され、的確に機体の両手とカメラが打ち抜かれる。

 

「…まずは、一機」
「な、なんなのよぉ」

 

 損傷したピンクは再びシステムフリーズ扱いで操縦がオフになった。

 

「言わんこっちゃない。っちくしょう」

 

 トールは頭部イーゲルシュテルンにオートファイアモードを設定し、シールドを構えながら相手の行動を真似る。
 ここにフレイが健在であれば、空から戦場を俯瞰しながら進めるのだが、条件は相手も同じ。負けるわけにはいかない。
 ストライクが跳躍する。

 

「あ、やばい!」

 

 ブルーのイーゲルシュテルンがオートで射撃を始めるが、これでは相手にこちらの居場所を教える様なものだ。
 イーゲルシュテルンの被弾をものともせず豪快に噴かして飛び上がったストライクは、上空でも姿勢を崩す事無く引き金を引く。
 その一撃は正確にカメラを撃ち抜くと、残り二発でコックピットをピンポイントに撃ち抜き、ブルーのシステムはフリーズした。

 

「……くそぉ、やられた。誰だ、一体」

 

 二人がシミュレーターから外に出た。
 そこには既にシミュレーターから出ていたカズイの姿があった。

 

「おい、カズイ、この中誰が入っているんだ?」
「知らないよ。僕も今出たばっかりだし」
「ちょっとぉ、キラぁ!あんまり…じゃ………」

 

 シミュレーターブースのハッチが開き操縦者が現れた。
 3人が見守る中、その人物はヘルメットを脱いだ。
 その人物の存在に驚いている暇無く、なんと本物の警報が鳴り出した。
 上部スピーカーから声がする。

 

「総員、第一戦闘配備!」

 

 再び戦闘が始まる。

 

 ―つづく―

 
 

 
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