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スタートレックヴォイジャー in Gundam SEED_第26話

Last-modified: 2015-06-24 (水) 23:48:37

 スタートレックヴォイジャー in Gundam SEED

 第26話「変革の波」

 
 

「ちょっと、一体何やってるのよ。あなた一応艦長代理よ?」

 

 ベラナはコミュニケーターの呼びかけにも応じずにいたトムを探し出した。
 彼はホロデッキに入り浸っていた。
 よく見れば、他にもムルケイ少尉にチャップマン中尉、そしてボリアン人のチェルも居た。
彼らはホロデッキの中である物を作っていた。
 彼女はそれを見て思わず溜息をついた。

 

「……これはどういうことかしら?」
「あ?あぁ、いや、ドクターがさ、例の少年達がいるだろ?彼らの遊び道具にってことでさぁ」
「それでこんなものを?モビルスーツよ?戦争でもさせる気?」
「いや、ホログラムの中だけの話さ。何ら問題無い。それに、面白そうだろ?どうだい?
 俺達なりにこの世界の技術をしっかり勉強したんだぜ?何よりこいつは俺達の為にもなる。
 単純にコンピューター任せにシミュレートせずに、自分達で組み立てれば論理的理解に繋がる。
 そうすりゃ、何か有った時にも応用が利くだろ?」

 

 彼は必死に彼女の説得を試みた。
 普段ならこの程度の説得では折れない彼女なのだが、意外にも彼女はモビルスーツを見つめたまま言った。

 

「……そうね。一理あるわね」
「だろ?!じゃぁ…」
「それとさぼりは別よ。でも、考えない事もないわ」
「本当か!?」
「えぇ、その代わり、育児放棄と職務放棄の罰は受けてもらうわ。罰として」
「罰として?」

 

 彼は彼女の次の言葉に息を飲んだ。

 

「……私を仲間に入れる事。そして、ちゃんと職務を全うすることよ」

 

 トムは彼女の答えに身構えていたが、その内容が思っていたより軽くて安堵の溜息が漏れた。

 

「はぁ〜〜、OK!やるよ。俺が悪かった。すまない」
「……今度こういう事をしたら、艦長に言いつけるからね。職務放棄は厳罰よ。
 で、どうなっているわけ?見た所、あのモビルスーツに似ているけど」

 

 彼女はそびえ立つモビルスーツを眺めていた。
 全長は若干小さいくらいか、フェイスデザインは連合のGAT-Xと似ている。
 後部にフィンの様なものが付いている他は何も付いていない。
 ちなみに、工房は独自に彼らが設計した開発工房で行われている。
 ゲート部以外はわざわざ無重力に設定されているため、空間内部では体が浮き上がる様になっている。
 ゲート部の制御コンピューターで調整していたため、現在は誰も浮いていないが、作業用ロボットがフワフワと空間を浮いている異様な風景だ。

 

「全長は15m、核融合バッテリー搭載、全方位ビームシールドジェネレータ搭載、ビームはフェイザー仕様だ。おまけにスピードは亜光速ドライブだぜ!」

 

 無邪気に笑いながら得意げに語るトムを見て、ベラナはいつもの事と溜息を吐きつつ率直に感想を語る。

 

「それじゃ、完全なオーバーテクノロジーじゃない」
「そりゃ、俺達が作るんだ。有っても悪くないだろ?なにより遊び道具だぜ?」

 

 言われたトムはまったく意に介する気配はない。

 

「……ほんとに馬鹿ね。で、装甲やその他には?」

 

 こんなものを本気で少年達に使わせるのだろうか。
 まぁ、ただのゲームと言われれば間違いではないが、問題はあると思われる。
 とはいえ、彼女も一人の技術者として中身には興味があった。

 

「装甲はチタン合金だ。装甲表面をフェイズシフトビームで覆うから問題無いだろ。
 武装はアームにソードクローとパルスフェイザー砲が付いている」

 

 彼女はトムに詳しい設計仕様のデータを自分のパッドに転送させた。
 その中身を見て暫く考え込んだ様に腕組みしていたが、何やら答えが出たのか彼に言った。

 

「これでデータ取るわよ」
「はぁ?何の?」
「ミラージュコロイドのよ。装甲はデュラニウムに変更、背面のコネクターから換装パーツとしてワープドライブを付けて。
 ディフレクターを搭載するにはサイズが小さいから、20mに素体を増量する必要がありそうね。
 勿論、シールド展開させるわよ。あ、ドライブは私が小型シャトルクラスのものを再設計するから、それにして頂戴」
「はぁ!?おい、そんな化け物作ってどうするんだよ!」
「あら、遊びでしょ?良いじゃない」

 

 彼女の表情は至って真面目だ。
 彼女は開発中のドレスの改良にこのデータを活用する事に決めたのだ。

 
 

 夜の闇に染まり、それは零れ落ちそうな程に輝く星空の下、数機の獣型のMSが砂漠を疾走して行く。

 

「……さーて、今宵はどんなご機嫌かな?」

 

 バクゥを駆る彼の目指す場所は足付き。
 5機のバクゥを引き連れた隊長機は、彼らの旗艦に命令を出す。
 遠方に陣取ったZAFTの地上用母艦レセップスの主砲が砲撃を開始した。

 

「回避!アークエンジェル上昇後退!」

 

 ラミアスは敵側が母艦も出してきたのを見て動く事を決意。
 バジルール少尉はMS部隊の発進を命令する。

 

「キラ・ヤマト、ストライク、行きます!」
「ムウ・ラ・フラガ、スカイグラスパー、出るぜ!」

 

 エールストライクとスカイグラスパーが発進した。
 そして、残るは新型ジーニーだ。
 ミリアリアは新型で初陣となるフレイにエールを送る。

 

「フレイ、無理しちゃだめよ。発進はあなたのタイミングで行って良いからね」

 

 彼女はコクリと頷くと通信を切った。
 ジーニーはストライカーパックにランチャーストライカーを装備し、シュベルトゲベールも片手にリニアカタパルトを滑走して行った。

 
 

 プラント、アップリリウス市某所。
 ここはZAFT内部でもクライン派の人々が集う事務局の様な場所だ。

 

「ザラ隊キグナス艦長、タリア・グラディスであります」

 

 グラディスが敬礼する。
 彼女はこの事務局の中枢に案内されていた。
 その部屋への入室が許されるのは、通常は評議会上層に務める者以外にはまず無い事だ。
 そして、彼女を呼んだ張本人が応接椅子に彼女を手招きした。
 彼女はそれに一礼をして応じる。
 彼は彼女が席に着いたのを見て話し始めた。
 その表情は普段にこやかに語る姿の多い彼らしくはないと言える。

 

「……君を呼んだのは他でもない、今後の戦闘に備えて新たな物資を携えて行ってもらう為だ」
「物資、でありますか」
「そうだ。君も所属するザラ隊には我々も全面的に協力することに決まった。
 そこで君には新造艦を託すことにした。これは白服に昇進した君への恩賞と思ってもらって良い」
「新造艦ですか。それはどのような?」
「我が軍の中では最速の船となる。そこには3機の新型を乗せる。
 詳しくはコレを見てくれたまえ」

 

 彼はテーブルの上のパッドを彼女のもとへ渡す。
 彼女はそのパッドを手に取り目を通した。そして、その内容に思わず目が点になった。
 そこには新型戦艦エターナル号と新造MSの名が出ていた。
 特に、その新造MSには特秘と有り、誰もが見れば分かる「あの」ロゴマークが載っていた。

 

「……ニュートロン・ジャマー・キャンセラー!?
しかも、これらはフェイスデザインが連合のものと似ていますね」

 

 パッドに映るフェイスデザインは連合からダッシュしたものとそっくりだ。
 カラーは何も塗装されていない所を見ると、この機体はフェイズシフトするのだろうか。

 

「見ての通りだ。クルーゼに渡した試作とは違い、大気圏突入可能な設計になっている。
 ZGMF-X06A-Anfang(アンファング)、07A-Vertrauen(フェアトラウェン)、 08A-Erfolg(エアフォルク)……この三機にはそれぞれ実験的要素がある。
 アンファングはクルーゼの機体の完成型だ。これは奴に乗ってもらう。
フェアトラウェンはイザーク・ジュールへ、エアフォルクにはアスラン・ザラを乗せる」

 

 単独で飛行能力を獲得している機体は既にディンが存在するが、この機体はディンが赤子に思える程の性能を持っているだろう。これが3機も投入される。
……これならば連合との差を縮められるどころか、力では凌駕出来るに違いない。
 中身の問題は感じつつも、純粋に軍人としてこの機体を評価するならば、これは充分に勝負出来る内容の機体だ。

 

「……随分、物々しい内容ですね。大気圏突入可能ということは、機体を下ろすので?」
「あぁ、そうなるね。君にはその後別の仕事をしてもらう事になるがね」
「別の仕事と言いますと?」
「はっきり言えば、これらの兵器なぞどうでも良い。パトリックがそれで満足するならば、我々としては安い物だ。君に預ける機体はもう一つある。ZGMF-X09NF-Justiceだ」

 

 彼女の持つパッドの一番最後の段に、それは掲載されていた。
 そこには上記にあった3機も通常のMSの5倍以上の出力が有り、充分に驚異的な性能であったが、この最後の機体は……彼女も絶句する程のものがあった。

 

「議長……これは」
「我々の正義を守る剣だ。これらはまだ開発中だが、完成次第指令を出すことになる。
 そこでの扱いは3機以外は公式には『存在しない』ものとして理解してくれ。
 データ上はZGMF-X09A-Justiceとしてある。……意味は分かってくれるね?」
「……了解致しました」

 

 彼女はただ敬礼し了承する他に無かった。

 
 

 副長日誌
 私は数日振りにヴォイジャーに帰還した。
 アズラエル理事との友好関係は良好に推移し、彼の支援でVSTは巨額の利益を得る事が出来、必要物資を何でも自由に買える程度に成長した。
 当初目的は達成したと言えるが、艦長達の安否が気遣われる。

 

「副長!お帰りなさい」

 

 転送ルームに到着したチャコティを出迎えたのは艦長代理のトムだ。
 穏やかな表情で彼は代理を務めたトムを労う。

 

「あぁ、トム。ご苦労だった。報告は読んだ。
 Nジャマーの無効化方法を幾つか完成出来たそうだな」
「はい。ジャマーが自由中性子運動を阻害するのを防ぐための方法は確立しましたが、ジャマーの抑制を完全に無力化するには、大規模なフィールド発生装置が必要になります。
 それだとかなりのコストが掛かるので、もう一つの方法を考えてみました」
「もう一つの方法?」
「はい、それがNジャマーキラーです」

 

 トムの説明では、NジャマーキラーとはNジャマー干渉波を発生させる機器を追尾して破壊する装置で、衛星軌道上から投下する事で地中深く潜り込み、着地点からNジャマーに向けてドリルで掘り進み破壊する。
 要はNジャマーの散布方法と同じやり方で、Nジャマーそのものを破壊して無力化するのだ。
 この方法であれば不必要な技術開発をせずとも良く、彼らに我々の技術が必要以上に渡る事も無い。
 また、Nジャマーを発生させる技術を持つシステムに対する追尾は、そのまま自動追尾に利用も出来、ZAFTの艦艇を狙い撃ちする形で利用する事もできる。

 

「その方法は完全に核分裂反応の抑制は消える事になるが、それが引き金になりはしないか?」
「それは、核戦争へのってことですか?」
「あぁ」
「そうですね。使い方次第では。ただ、それでしたら、Nジャマーを維持する事もできます。
プラント側はもう一度Nジャマーを打ち込めば良いわけですから」
「……なるほど、Nジャマーそのもののキャンセラーを渡すよりはよっぽど現実的か」
「はい」
「わかった。準備はしておけ。それと、考えたな」
「はい?」
「遮蔽装置だ」
「あぁ、はい。ベラナが中心になって開発中ですけどね。完成すれば普通に使えると思いますよ」
「ん?完成していないのか」
「えぇ。どうも、あの技術のままだと単純鏡面反射に近いから地形条件に左右されるんで。
しかも、使用時の速度や様々な条件問題を抱えているんで、まだ研究中といったところです。
 ただ、完成すれば単純に姿を隠すだけじゃない使い方も出来るかもしれません」
「…なるほど、下手に隠すよりはずっと現実的かもしれないな」

 

 その時、唐突に通信が入った。

 

『ブリッジからトレス。副長、デルタフライヤーが帰還したいと要請が来ています。
 どうしますか。……その、例の……』
「こちらチャコティ。どういう事だ。彼女には暫く宇宙を旅させるはずだろう」
『はい。……それが、その、面倒な物を拾ってきてしまった様で』
「面倒な物?」
『はい。……詳しくはブリッジへ来てください』
「分かった」

 

 彼女の言う面倒な物が何であるかは正直期待したくないが、冗談で済むものではないのだろう。
 二人は急ぎブリッジへ向かった。

 
 

 砂塵が舞う。
 上空を貫くスカイグラスパーが牽制射撃を行う。
 だが、バクゥは被弾しつつも物ともせずに突き進んだ。

 

「さぁ、狩りの時間だ。たっぷり礼は返させてもらおう!」

 

 彼らの部隊長であるバルトフェルドは、昨夜の戦闘から間髪入れず翌夜も攻撃を開始した。
 日が暮れてからすぐの攻撃に、アークエンジェル側の整備陣のスピードを試す意味もある。
 ストライクはエール装備で暗い闇の中をシュベルトゲベールを構えながら臨む。

 

「昨夜の無敵振り、今宵はどうかな」
「来る!?」

 

 闇の中センサーが機影を検出するも、後方から砲撃が走り周囲に着弾する。
 熱の籠った砂が拡散し赤外線センサーは撹乱され、思う様にデータでは追えない。

 

「くそぉ、向こうも考えてきている」

 

 バクゥが左右から飛びかかる。
 跳躍して躱そうとしたその時、前方からやってきたバクゥに飛びつかれた。

 

「ぐあっ……くぅ」

 

 強い振動が伝わり後方へ押し倒されるが、ストライクはバクゥを膝蹴りしてはね除けた。
 蹴り上げられたバクゥは、まるで動物の様に見事に姿勢を直して着地。
 勢いを残して再度飛びかかる。だが、そこを一筋の光線が貫いた。
 ジーニーが放ったアグニはバクゥの動きを牽制し、飛びかかろうとしたバクゥは回避運動せざるを得なかった。

 

「何、新型だと!?」

 

 バルトフェルドが驚いたその時にはもう一撃が放たれ、最初にストライクに襲いかかった片方が貫通、もう片方へも連続して射撃し、右前足を損傷した。

 

「……まだ温存出来る戦力が有ったとはな。迂闊だった。
 だけど、僕もそれくらいの隠し球が無いと、張り合いが無いというものだ」

 

 彼が母艦へ合図を送る。
 すると、その後すぐに光線が上空を貫いた。

#br
「回避!!!」

 

 ラミアスが回避運動をとらせるが、アークエンジェルの艦橋すれすれの所をかすめて行った。

 

「今のは……スキュラ!?」
「はい!先程から攻撃してきていた敵母艦からの物と思われます」

 

 ラミアスの問いにバジルールが答える。
 スキュラが放たれたという事は、彼らも来ているという事だ。

 

「……あの部隊も降りてきているのね。スキュラは受けて良い攻撃じゃないわ。
 アンチビーム爆雷も効果は薄いけど、やらないよりマシね。
 アークエンジェル微速後退!アンチビーム爆雷前方照準。
 爆雷発射後コリントス、スリッジハマー装填、目標、迎撃及び対モビルスーツ。
 バリアント、ゴットフリート照準、敵艦!」

 

 アークエンジェルが後退しつつアンチビーム爆雷で防御幕を敷く。
 レセップス側からは砲撃も飛び、爆雷の霧を払う様に打ち込まれる。
 それらはコリントスが迎撃するが、射撃速度はレセップスが上回った。
 敵MSへスリッジハマーが襲いかかるも、バクゥの進路を妨害する程度にしか効果は無かった。
 それでも相手の攻撃方法を妨害する程度の効果はあった。
 地上では新手の攻撃と共にバルトフェルドは隊を立て直し、二手に分かれて攻撃を開始。
 ストライクとジーニーにそれぞれ2機のバクゥが襲いかかる。

 

「さぁ、バーサーカー諸君、今宵は狂わないのかい」
「ちぃ」

 

 二機のバクゥは連携してストライクを翻弄する。
 周囲を回る様に背後を取り攻撃を仕掛けるバクゥに、キラはエールで上昇して位置を取ろうにも上手く飛び上がれず、背後から突き倒されていた。
 後方のフレイの事が気になるが、この状況では自分自身の自由もままならない。

 

「フレイ、大丈夫か!」
「……」

 

 彼女からの返答は無い。
 センサーモニターには二機のバクゥが対峙しているのが見えるが、やられている様子はなかった。
 それを見てホッとするが、そんなことをしている暇はない。
 エールのブーストの失敗が悪戯にストライクのエネルギーを削っていた。

 

「……ジーニー、エコノモーション。グリッド41の533と538のターゲットロック。
 回避モードα1でスタンバイ。シュベルトゲベールのビームをカットして打撃中心で行くのよ」
「ジーニー、エコノモーション、ターゲットロック、回避α1、オンライン。
 ビームカット、を、承認。シュベルトゲベール、の、耐久性能、80%、で、維持」

 

 ジーニーはアグニを早々に手放すと、近くに置いていたシュベルトゲベールを手に取って構えていた。
 正眼の構えをするジーニーにバクゥが代わる代わる襲いかかるが、彼女のジーニーはするりとそれを躱した。
 その動きは紙一重ではあるが、擦る事無く流れる様な動きで躱し、躱し様に更に一撃を叩き込んでいた。

 

「な、なんだコイツ!?」

 

 バクゥのパイロットは敵の無駄無い動きに戸惑っていた。
 相手側はビームすらカットしているため、バクゥのビームサーベルの光が無ければ、闇夜に隠れてしまう程に真っ暗だ。
 そんな機体の静けさに溶け込む様な的確な攻撃に、先程のアグニの射撃能力も想起され言い知れぬ恐怖を感じていた。

 

 その時、後方から砲弾が複数飛来した。
 それらはストライク及びジーニーの周囲に着弾し、バクゥは回避するために後退を余儀なくされた。

 

「なんだぁ………チッ、明けの砂漠だと。良い時に邪魔をしてくれるねぇ。
 僕はそういう悪い子が大嫌いだ。……(レセップス、奴らを追い払へ)」

 

 バルトフェルドはレセップスからの牽制射撃を命令するが、予想外の返事が返ってきた。

 

『こちらレセップス、ダコスタです。
 隊長!明けの砂漠の奴らがこちらに攻撃を仕掛けてきています』
「なら、ザラの部下にやらせれば良いだろう!」
『そ、それが、その彼らが砂にハマっていまして、……奴らに集中砲火を受けています』

 

 彼は目眩が起こりそうな気分だった。
 だが、状況は明らかにこちら側に不利と悟った彼は無理をしない。

 

「……はぁ。分かった。全機撤収!作戦は終了だ」
『はい!』
「こちら、バルトフェルド、全機撤収!繰り返す、全機撤収だ!」

 

 バクゥが後退を始める。
 その姿を見てストライクが体制を立て直して追う。

 

「まて!!!」

 

 その時、彼らへ向けて追撃しようとするキラのもとに唐突な通信が入った。

 

「…引きなさい」
「え!?」

 

 彼は自分の目と耳を疑った。
 モニターに表示されている発信元はジーニーからだが、
 その声は彼が予想していた人物とは全く別の声だったからだ。

 

「もう一度言うわ。引きなさい」
「……はい」

 

 明けの砂漠がバクゥへ向けてロケット砲を打ち込みながら勝利の声を上げている。
 戦闘は新たなる勢力の介入により終了した。

 

「……ブルーコスモス、ここまで来てもまだ僕の理想には届きませんか。
 しかし、めげませんよ。世界は一族の好きな様になると思うなら大間違いです」

 

 彼はとある施設へ来ていた。
 そこは大西洋連邦首都ワシントンD.C.市内の地下にある古い防空施設で、基本的には一般に開放されている。
 だが、この中にまだ秘密の部屋が隠されていた。
 そこでは現在も政治的な力が残されていた。
 彼ら大西洋連邦ブルーコスモス理事会は定期的にこのワシントンに集まっていた。
 その会合では各国の状況が報告され、それぞれの活動内容が検討される。
 この会合でアズラエルはパナマ攻撃に備えた対策と、月基地との交流ラインの回復、ユーラシア、東アジア共和国との関係の見直しが話されていた。
 アラスカからプロジェクション映像で参加したウィリアム・サザーランドは、アラスカで建造中のサイクロプスの進捗状況を報告し、こう続けた。

 

「盟主、我々が何故ハルバートンの肝いりで作らせたアークエンジェル等に依存せねばならんのですか。
 聞く所によれば、それにはコーディネイターの少年が操縦して戦闘しているとか。
オドンネルが戦功を上げる事は構いませんが、コーディネイターの功績が積み上がるのは認められない。
 我々はデータさえあれば良いはずです。今後の我々にとって彼らは得になり得ますか」

 

 サザーランドからすれば退役軍人が唐突に復隊して功績を上げていることも気に食わないが、それ以上に盟主のお気に入りとなっている現実が解せなかった。
 彼女はブルーコスモスではないどころか、彼から言わせれば『積極的に』コーディネイターを使う人間だ。そんな者は同志とは呼べない。
 彼の話を静かに目を閉じて聞いていた盟主は、ゆっくりと穏やかに答えた。

 

「では、消しますか?」

 

 その答えはサザーランドの望む通りのものだった。だが、盟主は直接的な言動はこれまであえて控えている人だった。
 故にこの直接的な言葉の裏に込められた意味を計りかね、幾分自重気味に自分の希望として同意する。

 

「…出来ればですが」

 

 アズラエルからすれば彼の意図等お見通しであった。少なくとも『そういう』メンバーをこれまで集めて来た。
この場でこのような希望が出る事自体は不思議ではない。だからこそ、彼はあえて過激な発言をしてみせたのだ。
 しかし、それをそのまま放っておく気など更々なかった。
 彼は目を開けてサザーランドの方を見ると、穏やかな表情を維持しながら口を開く。

 

「フフフ、サザーランドさん、私は貴方のそうした真っ直ぐな姿勢は好きですよ。
 でも、指揮官たる貴方がその視野では困りますねぇ。良いですか?貴方もご存知の通り、我々の当面の目標はコーディネイターに勝つ事です。
 青き清浄なる世界とは、我々が完全かつ完璧にナチュラルとして勝利する事ですが、では、存在するコーディネイターを全員殺すことが、勝利足り得ますか?」

 

 サザーランドは盟主の言わんとする意図が見えなかった。
 この部屋は空調も利いて涼しいくらいに管理されている筈だが、額に嫌な汗が沸き出すのを感じる。

 

「……少なくとも、それが我々の目標と……」
「ノン、ノン、ノン、違いますよ。我々は彼らとは違う。そんな事をして誰が我々を支持します?
 良いですか?我々が支持されるのもエイプリルフールあってのこと。それを忘れてはなりません。
我々は飽くまで『凶悪な虐殺者を倒す正義の味方』でなくては駄目なのですよ。
 そして、もう一つ大事な事は、プラントは元々我々のものだということです。砂時計に罪は無いのです。
 我々が目指すのはコーディネイターを完全な管理下に置くことであって、抹殺する事ではありません。
 お忘れの様ですが、コーディネイターなどいずれ滅びる運命なのですから。
 第一、そんな処分の手間とコストを出せる程、我々も余裕は無いですしねぇ」

 

 盟主の言葉にサザーランドはしばし言葉を失った。
 彼の言葉通りだとすれば、盟主はここにきてコーディネイターを容認するというのだ。
 ブルーコスモスの鉄の誓いは自然に反するコーディネイターの抹殺であり、容認ではない。
 表情を硬くした彼は、これまで見せた事は無い強張った表情で盟主を見据える。

 

「それでは我々の求心力は著しく低下するのでは。
 ジブリール氏率いる欧州陣営に我々が取って代わられては、盟主も立つ瀬無くなりますよ」

 

 彼の出したジブリールとは欧州を統べるロゴス筆頭格「ロード・ジブリール」のことだ。
 彼の背後には一族の影もあり、アズラエルからすればライバルとも呼べる勢力を有している。
 実際、現状のブルーコスモスは筆頭八家(ヴァミリア、リッター、ネレイス、グロート、モッケルバーグ、アズラエル、マクウィリアムズ、コーラー…計、筆頭8家)の内、4家の信認を得ているが、残りの3家はジブリールを押しているのだ。
 独自の路線を行くモッケルバーグが棄権したことで信認を得たが、いつ覆ってもおかしくはないとも言える。
 サザーランドが彼を脅してくるなど鼻で笑う様な話だが、それでもそれを表に出す程愚かではない。
 この程度の言動は想定の範囲内とポーカーフェイスを決め込む。

 

「……フフ、ジブリールのユーラシアとの関係は、飽くまで我らの利益と合致する範囲においてです。
 ここ暫くの彼らの原理主義には私も辟易していましてね。このまま彼が突っ走ったとしましょう。
その先が何処に行くか、貴方は想像出来ませんか?」
「先……ですか。それは、私の様な軍人が考える範囲を超えているかと…」

 

 サザーランドは言葉に窮していた。
 仮にここで答えるということは、自分の立場をハッキリさせてしまうことになる。
 そうなればこれまで築き上げて来た地位も全て水の泡になる可能性が考えられた。
 何より全く表情を動かさないどころか、余裕すら見せているアズラエルとやり合える程に彼は度胸が無かった。
 そんな彼のことを見透かしていたアズラエルからすれば、全く恐れるものは無かった。

 

「フフ、シビリアンコントロールですか。優等生の回答ですね。まぁ、仰る通り、軍人はそれで良い。
 まぁ、砂時計と熱くなることは構いませんが、あれらを壊してもらっても正直困るんですよ。
 そうじゃなくては、私は皆さんにどのような報酬を提示出来ると思います?」
「……」

 

 彼もこの場でジブリールの動向を論評する必要性を感じていなかったため、あえて話題を変えた。
 そうすることでサザーランドの非礼に恩を売ったのだ。
 サザーランドもさすがに黙る他無かった。それを見たアズラエルは微笑みを浮かべて続ける。

 

「何事も限度があるのです。地球人として、我々は地に足を付けて考えて行かなくてはなりません。
 さて、我々が今後有利に展開して行く為には、幾つかの要点がありますよ。
 まず一つはマスドライバー。そして、もう一つは優秀な精密加工技術です。
 パナマの死守は既定路線として、そろそろカオシュンを頂きましょうか」

 

 サザーランドは盟主の唐突な提案に戸惑った。
 カオシュンはビクトリア前に失ったマスドライバーで、ZAFTもかなりの軍勢を派遣している。

 

「カオシュン?ZAFTを攻撃出来る準備が整ったのですか?」
「いえいえ、まだですよ。ですが、そう遠くない先に整いそうですねぇ。
我々はそれを単独で実施してそのまま台湾を併呑し、その足で日本も取り返しましょう」

 

 彼は盟主の意図がいよいよ分からなくなった。
 彼の言う事をそのまま受け取れば、ブルーコスモス内部での亀裂を誘発する結果を招くのだ。
 それでも聞かずにはおれなかった

 

「……盟主、東アジア共和国との同盟を切られるのですか?」

 

 おそるおそる尋ねる彼に、問われた側は何ら悪びれる事も無く呆気なく答えた。

 

「えぇ。そうです。世界に三つも指導者は要りません。ですから、私は整理する事にしました。
最初に潰すのは東アジアです。考えても見て下さい。我々が勝利したとしましょう。
その後の世界はどうなりますか?」

 

 一同がアズラエルの問い掛けに思考する。
 普通に考えれば、これまでの経緯を考えてもやっとの思いで地球連合政府を作ったのだ。
 地球連合でそのまま統一されると考えていた。
 その考えをそのままサザーランドが代表して答えた。

 

「……地球連合政府により統一されるのでは?」
「いいえ、違います。良いですか?まず私は予言しましょう。仮にこの戦いに現時点で勝ったとしたならば、まず間違いなく第四次世界大戦が起こりますよ。これは断言しても良い、世界とはそう言うものなんです。
 我々が何の為に戦っているのか、そろそろ皆さんも理解するべき時でしょうかね。
 我々が求める世界の在り方とは、青き清浄なる世界を標榜する、我ら大西洋連邦を盟主とする統一世界の樹立ですよ。違いますか?」

 

 一同は絶句していた。
 彼は無理をしてまで統一を成し遂げた連合をあっさりと否定したのだ。

 

「盟主、このような話が……この中に仮にスパイが居たとして漏れ出したら、一大事ですよ」

 

 確かに彼の言う通りだろう。この場に居る誰かが彼の話を外部に漏らしたならば、アズラエルの立場は間違いなく危うくなるに違いない。それは彼自身御免こうむりたい。
 アズラエルの表情から笑みが消える。先程まで穏やかに笑みを浮かべていたのが嘘の様に。

 

「……ほぉ、この場にそのような方がいらっしゃるのですか。それはそれは。どうぞ、ご自由に為さると良い。
 私に逆らうというなら、全力で潰すまでです。私は主義に反する行動をされる方は大嫌いですが、それ以上に裏切り者は許しませんよ。私を盟主と仰ぐ以上は……んふふ、皆さんも覚悟を決めて頂きましょうか」

 

 彼はその視線でその場の衆目を射抜く。張りつめた薄氷を感じさせる危うい空間に放たれた矢は、その氷に絡めとられて固まった者達を容赦なく射抜いたのだ。
 この日の秘密会議で大西洋連合は、彼の方針転換に従い連合内の融和優先路線から舵を切ることを決めた。

 
 

 アークエンジェルは戦闘終了後着陸し、地上の明けの砂漠と交信していた。
 彼らの側の要求はこちら側との交渉を要求していた。
 その要求はこちらも願ったりなので受諾し、ラミアス達が代表として船外に出ることにした。
 一応は用心して武器は携帯したのは言うまでもないが、こちら側から出て行かなくてはな、相手も誠意を感じてはくれないだろう。

 

 彼女は覚悟を決めて外へ出る。

 

「助けていただいた、とお礼を言うべきでしょうかね。
 私は地球軍第8艦隊所属、艦長のマリュー・ラミアス中佐です。」

 

 彼女が手を差し出す。
 その時、前方に立つ如何にもアラブ人といった風体の中年男性の背後で声がする。

 

「あれー?第8艦隊ってのは全滅したんじゃなかったっけ?」
「……」

 

 その声は少年の声だが、なかなか痛い所を突いてくる。
 彼の言葉に前方の男が口を開いた。

 

「アフメド、お客さんの前で失礼だぞ。口を慎め」
「……はい」

 

 彼に叱られ、少年は素直に従った。
 アラブ人の男は差し出された手に握手をして名乗った。

 

「俺達は明けの砂漠だ。俺はサイーブ・アシュマン。
 礼なんざ要らんが、分かってんだろ?別にあんた方を助けた訳じゃない」
「……」
「はん!こっちもこっちの敵を討ったまででねぇ。」

 

 ラミアスは静かに彼の言葉を聞いていた。
 そこに彼女の隣に立つフラガが尋ねる。

 

「へぇ〜、砂漠の虎相手に、ずっとこんなことを?」
「お、あんたの顔はどっかで見たことあるなぁ」
「ムウ・ラ・フラガだ。この辺に、知り合いは居ないがね」
「ほぉ、エンディミオンの鷹とこんなところで会えるとはよぉ」

 

 彼の言葉にその場の連合クルーは皆驚かざるを得なかった。
 彼らはどの程度のことを知っているのだろうか。

 

「情報も色々とお持ちのようね。私達のことも随分とご存知の様で?」
「……地球軍の新型特装艦アークエンジェルだろ。
 ザラ隊に追われて、地球へ逃げてきた。そんで、あれが……」

 

 彼が言いかけた時、背後の少女が話した。

 

「X-105。ストライクと呼ばれる、地球軍の新型機動兵器のプロトタイプだ」

 

 彼女の声は隣に居た長髪の屈強そうな男が嗜める。
 それを見てサイーズは話を続ける。

 

「さてと、お互い何者だか分かってめでたしってとこだがな、こっちとしちゃぁ、
 そんな厄の種に降ってこられてビックリしてんだ。
 こんなとこに降りちまったのは事故なんだろうが、あんた達がこれからどうするつもりなのか、そいつを聞きたいと思ってね。」
「……それは、力になって頂けるのかしら?」
「へ!話そうってんなら、まずは銃を下ろしてくれ。あれらのパイロットも」

 

 ラミアスはしばし思案したが、この場は彼らの言葉に従う事にした。
 力の上ではこちらが上なのだ。
 こちらが誠意を見せなければ折れ様も無いのは仕方の無い話だ。

 

「……ふぅ。分かりました」

 

 彼女の動きにバジルールは溜息を吐くが、隣のフラガも彼女に続いたため、自分も倣わざるを得なかった。

 

「ラミアスからストライク及びジーニー、二人とも、降りてきて」

 

 彼女の呼びかけに、二機のパイロットがコックピットのハッチを開けて出てくる。
 サイーブは両機から降りてきたパイロットの背格好を見て、小柄なことに驚いていた。
 その内一人は女性であることにもっと驚いていたが、彼らがやってくるのを静かに待った。
 そして、二人が彼らのもとにやってきた。
 少年がまずヘルメットを脱ぐ。

 

「ああっ!」

 

 先程のブロンドの少女が大声で驚きの声を上げた。
 他の明けの砂漠の構成員達も、パイロットが少年だった事に動揺している。

 

「あぁ……ぁぁ……くっ!」

 

 少女がカリカリとした雰囲気でキラの前に来ると、唐突に平手打ちを放とうとした。
 しかし、その手はキラによって受け止められてしまう。
 突然の行動に両サイドの面々が冷や汗をかいていた。

 

「お前……」
「ぇ?」
「……お前……お前が何故あんなものに乗っている!?」
「う゛ぅっ」

 

 彼女の言葉は自分自身でも疑問に思っていることだった。
 本当に何故こんな事になったのだろう。
 彼女に言われるまでもなく、出来る事なら乗りたくなんてなかった。
 そうこう思っていると、彼女は唐突に瞳に涙を浮かべていた。

 

「っう゛……う゛う゛っ……ぇぇ……くっ」

 

 その顔を覗き込んで、何やら既視感を感じた。
 いや、確実に会った事があった。

 

「ぁっ!?君……あの時……モルゲンレーテに居た」
「っえぃ……離せこのバカっ!」

#br
 急に動かれたために、彼女を掴んでいた手がほどけ、そのまま平手打ちを食らってしまった。

 

「うっ!」

 

 とうとうやってしまった彼女の動きに、連合クルーは勿論、明けの砂漠の面々も一瞬凍っていた。
 そこに先程彼女の隣に居た長髪の男が彼女のもとへ行き嗜める。

 

「いい加減にしなさい!……連合の皆さん。申し訳ない。
 彼女の行為は私が責任を持って叱責する。交渉を続けて欲しい」

 

 そう言い彼は彼女の手を掴むと、強引に後退させた。

 

「何なんだ?」

 

 フラガは苦笑する他無かったが、打たれたキラの表情が面白かったので全く構わなかった。
 そこにもう一人のパイロットが彼らの前に立ち、徐にヘルメットを脱いだ。
 それを見た彼は思わず目を疑った。

 

「えぇえ!?!あ、た、大佐!?」

 

 フラガの驚きの声にその場の衆目が集まる。

 

「……驚かせたかしら。交渉は我々も望むところ。申し遅れたわね。
 私は地球連合軍第八艦隊大佐、シャノン・オドンネルよ」

 

 ジェインウェイの登場に、その場の皆が息を飲んだ。

 
 

 ―つづく―

 
 

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