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スタートレックヴォイジャー in Gundam SEED_第27話

Last-modified: 2012-09-03 (月) 01:16:55

 スタートレックヴォイジャー in Gundam SEED

 第27話「契約」

 
 

「サイーブ!どういうことだよ、これは……」
「客人だ!行儀良くしろよ。」

 

 サイーブはつれて来た「大きな客人」を仲間達に紹介する。
 彼らのアジトは砂漠の中の岩山に囲まれた地形の中にあった。
 元は渓谷の様な場所だったのかもしれないが、この乾燥の中にあっては単なる岩の塊だ。
 アークエンジェルはその渓谷を両翼をこするスレスレの所を後退しながら入って行く。
 この操縦はパイロットの腕が試されるが、アーノルド・ノイマンは完璧にこなしてみせた。
 明けの砂漠のメンバー達は、その操縦技術の高さに感心してみていた。

 

「OK、二人とも引っ張って!」
「了解」

 

 サイの合図でキラとトールはストライクとジーニーでシートを引っ張った。
 大きく繋ぎあわせた布は、丁度砂漠の色に同化する程度の汚れたベージュの布だ。
 3人がアークエンジェルを隠す作業をしている頃、上級士官達は彼らのアジトの中へ案内されていた。

 
 

 艦長日誌
 我々はサイーブ・アシュマン氏率いる「明けの砂漠」の本拠地に案内された。
 彼らとの交渉を進める上でも落ち着いた場所が必要だったこともあり、彼ら側からの申し出に甘える形となった。
 これだけの譲歩を見せるのだから、彼らの欲するものも相当のものだろう。
 私はラミアス、フラガ、バジルールの3人を引き連れて彼らのアジトに入った。

 

「ひゃー、こんなとこで暮らしてるのかぁ…」

 

 フラガは彫り貫かれた岩穴の通路を見て興味津々といったところだった。
 だが、この場所で暮らすのは正直御免被りたい。
 程なく彼らのアジトの事務所としている場所に着いた。
 そこには所狭しと様々な通信機器等の機械が置かれている。
 それらの機材はいずれもレジスタンスのレベルで持てる様な物ではない。
 彼らの支援者が気になる所だ。

 

「ここは、前線基地だ。
 皆家は街にある。……まだ焼かれてなけりゃな」
「街?」
「タッシル、ムーラン、バナディーヤから来てる奴も居る。
 俺達は、そんな街の有志の一団だ。コーヒーは?」

 

 ラミアスの問いにサイーブは素っ気なく答えたが、彼の言葉の向こうには、肉親の無事は諦めていることが伺われる。
 彼女は彼の勧めに謝意を伝えるが、どうやらセルフサービスの様だ。
 その反応に戸惑ったが、無理して飲む必要も無いので席に着く事にした。
 ジェインウェイとラミアスを真ん中に、ラミアスの隣をフラガが、ジェインウェイの隣をバジルールが座る。
 対する明けの砂漠側はサイーブがジェインウェイの対面に陣取る形で着席した。
 口火を切ったのは彼らだ。

 

「まずはお互いの無事を祝おうじゃないか」
「えぇ、お互い無事に出会えた事、運命的に感じさせて頂きますわ。
 船のことも助かりました。正直ここへは独りぼっちでしたから」

 

 ジェインウェイが代表して彼の言葉に謝意を告げる。

 

「あの、ちょっと良いですか?あの彼女は?」

 

 そこにフラガがサイーブに問い掛けた。
 問われた彼は、頭の中で先刻の事を回想していた。

 

「私も話が聞きたい」

 

 少女が小声で話しかける。
 彼は周囲に気付かれない様に自然を装い答える。

 

「でもここじゃな」
「連中なら、キャンプに入れても問題ないと思うが」
「…知っているのか?」
「…少しだけ…な」
「……そうか。作業している分には問題無いだろう」
「有り難う。サイーブ」

 

 彼女は事情有って預かっているが、最初は厄介なものを引き受けたと思っていた。
 しかし、実際に接した彼女は自分の感情に素直でめまぐるしくは有るが、彼女の泣いたり笑ったり怒ったりする姿が微笑ましくもあった。
 気取った所も無い彼女はすぐに打ち解け、彼らの仲間の中に深く溶け込んでいる。

 

「…俺達の勝利の女神」
「へぇ〜。で、名前は?」
「……」
「ん?いやぁ、女神様じゃぁ、知らなきゃ悪いだろ」
「……カガリ・ユラだ」
「そう、カガリちゃんか。さっきは見事な平手打ちでしたねぇ。
 びっくりしたけど、元気が良いってのは良いねぇ。健康的だぁ」

 

 彼は戯けてみせているが、彼女の素性はジェインウェイも気になっていた。
 キラと接点が有るという事は、元々はここの人間ではないのだから。
 やんわり名前を聞き出した彼は、端から見れば単なる軟派者といったところだが、この場でこの仕事は充分に良く出来ましたと言いたい所だった。

 

「ところでオドンネルさんと言ったな。あんたはいつもMSに乗って戦っているのかい?」
「…いいえ。あの戦闘が初めてよ」
「ほぉ、そいつはすげぇ。
 俺は女って奴は信用しねぇたちなんだが、あの戦いを見せられちゃぁ、さすがに信用しないわけにはいかねぇと思ったよ」
「それはどうも」
「で、……あんたたちゃぁ、アラスカに行きてえってことだよな」
「えぇ。ゴールはそこよ。でも、正直な所でいえば、一心不乱に目指せない事情もあるわ」
「……先日の戦闘か」
「あら、そちらも覗いていらしたのね。……あの戦闘でクルーを2名見失っているの。
 戦闘後に調査したけど撃墜された形跡はないから、何か知っているなら知りたいところね」
「……俺達が知っているのは、あんた達が知っていることと同じだと思うぜ。
 何しろ遠くから見ていたからな。あんた達に分からないことは、俺達にもどうしようもないさ。
 まぁ、何か手掛かりに繋がる情報が有れば教えよう。勿論、交渉が成立したらだがな」
「良いわ。聞きましょうか。あなた方の欲する条件とやらを」

 

 私は微笑みながら彼の目を見据えた。
 彼もまた不敵に笑い、私の視線に合わせてきた。

 
 

 プラントではクライン派の秘密会合が頻繁に開かれていた。
 彼らは今後のプラントの未来に対して重大な決定を下して以降、内部での活動を活発化させていた。
 今回の主催はセクスティリス市のオーソン・ホワイト邸で行われていた。
 彼の私邸の地下深くに研究施設があり、そこではZAFT内部でも最先端の技術研究が日々行われている。
 屋敷に招待されたのはクライン派議員の筆頭であるシーゲル他、以前のメンバーだ。
 彼らは地下ドックの見える部屋に通されていた。

 

「オーソン、君の仕事は実に早い。もうここまでのものが出来ているとは」

 

 シーゲルは驚いていた。確かに先日話には聞いていたが、それが形になっているとは。
 彼の驚きは他のメンバーも同様で、その反応にオーソンは満足げだ。

 

「驚く程のものはない。私に言わせれば当然の結果だ」
「いや、しかし、これはもう動かせる段階にあるのだろう」
「そうだ」
「だが、君がこれだけの為に呼んだのではないのだろう。
 でなければ君がここに我々を招く筈も無い」
「そうだな。これを見てくれるかな」

 

 彼はそう言いパッドを操作すると、先程までドックが見えていた窓がスクリーンに変わった。
 そして、そこには彼の提案するプランが書かれていた。

 

「……Project Exodus?……これは」
「計画のポイントは三つだ。地球を黙らせる事、身内に気取られぬ事、そして勝てる戦力を持つことだ」
「……地球を黙らせる為にマスドライバーを落とす重要性はこれまで通りだが、身内に気取られぬことが可能だろうか。我々は国民に選択を迫るべきではないか?」
「いずれはそうした機会を設けるべき時も必要かもしれないが、
現状のザラに理解が出来るとは思えん。私は完璧主義者故に、不純物が入るのを好まない。
 それが無理だというならば、私はこの計画から降りよう」

 

 オーソン・ホワイトは既にこのクライン派の面々を圧倒していた。
 この計画の要が自分であるうちは、彼に全ての主導権が握られているといって過言ではない。

 

「オーソン、あなたの研究成果にはこれまでも助けられた。貴方を信頼もしている。
だが、我らは国民の代表であり、いくらザラと路線が違えども、国民には知る権利がある。
 それを承知で申されるべきではありませんか」

 

 アイリーン・カナーバの指摘にもオーソンは動じる様子は見せない。
 そこにアリー・カシムが口を開く。

 

「ホワイトさん、あなたの計画では失礼ですが『不完全な想定』がある様に思いますが、あなたはそれを半ば容認している様に感じられる。
 貴方はどの程度のラインで実現可能と判断されていますか」
「……50%……いや、40%が良い所だろうな」

 

 彼の言葉には全員が絶句する他無かった。それでも彼は表情一つ変える様子は無い。
 いや、変える必要すら感じている様に見えなかった。そうした考えは、既に彼の中では終わった話なのだ。

 

「私がここにあなた方を集めたのは、乗るか反るかだ。
 別に私は君等だけを相手にする必要は無いわけだからな。
 何より、この話は遅いか早いかだ。決めなくともいつかは時がやってくる。
 要は…我々はいつまでこの場に留まるべきか。あなた方はそろそろ考えるべきだ」

 

 彼らは重大な決断をこの場で下さなくてはいけない事に悩んでいた。
 彼の提案は、間違いなく今後のプラントをハッキリと変えてしまうのだから。
 そして、その決断は短期的には決して優れた決断とは判断されないだろう。
 それはとても長い年月を要する作業の始まりなのだから。

 
 

 3人はシートを被せる作業を終えた。
 MSを格納したキラは岩山の上に来ていた。
 砂漠の直射日光は堪えるが、渓谷に吹き上がる風は気持ち良い。
 風に当たっていると、先程平手打ちしてきた少女が登ってくるのが見えた。
 彼女は真っ直ぐこちらに向かってきた。

 

「……あぁ、えーと」
「さっきは……悪かったな。殴るつもりはなかった」

 

 彼女の登場に戸惑っていた彼だが、予想外の素直な謝罪に拍子抜けした。

 

「あぁ」
「訳でもないが…あれは…弾みだ。許せ…」

 

 ……と思ったのも束の間。彼女はやっぱり彼女だった。
 そう思うと何故だか笑いが込み上げて来た。

 

「え?……あははは」
「何が可笑しい!」
「いや……だってさ」
「ずっと気になっていた。あの後……お前はどうしただろうと」
「……ん」

 

 キラは思い出していた。彼女と出会ったあの場所のことを。
 彼女が何故あの場所に居たのかはわからないが、またこうして出会えた事を数奇に思う。

 

「……なのに、こんなものに乗って現れようとはな」
「ぇえ!?」

 

 正直この流れはここに繋がらないと思っていたキラは、唐突な路線変更に戸惑った。
 彼女の表情は険しい。

 

「おまけに今は地球軍か」

 

 彼女からすれば、あの場所に少年である彼が居る事自体が不自然であるが、
それ以上にパイロットとして現れた事が解せなかった。正規兵にしてはひ弱そうな外見だが、それでいて彼はあの非常時でも冷静に判断し、自分を強引にシェルターへのエレベーターに押し込んでいる。
 自慢ではないが、そこらの男に軽くあしらわれる程にひ弱に生きているつもりは無い。
 だが、彼は彼女の言葉にしどろもどろになるでもなく、穏やかに言った。

 

「……色々有ったんだよ」
「ぇ?」

 

 幼なじみとの遭遇、そして戦闘。
 彼との別れからこのような未来を誰が予想出来るだろうか。
 しかも彼は敵軍の将として現れ、自分達の艦を執拗に狙い、一時はやられる寸前までいった。
 戦争という現実は自分を人殺しを無感情に行える人間に変えて行く。
 それでも、その鈍感さが愛する人達を守るのであれば、自分は強くならねばならない。

 

「色々とね。……君こそ、なんでこんなところに居るんだ?」
「あ…」
「オーブの子じゃなかったの?」
「……んっ……そ、それは……私も、色々有ったんだ!」

 

 こんな筈ではなかったのだが、彼女は自分が問いつめるつもりが、逆に追いつめられてしまった。
 いや、そもそも自分にはこういう知能犯の様な頭脳戦は向いていないと理解していた。
 それでも好奇心や疑問がスッキリしないのは、性格的にどうにも納得が行かない。
 そうして墓穴を掘っていてはミイラ取りがミイラ同然だが、彼は何か他の奴とは違うと感じていた。
 それは雰囲気なのか性格なのか受け答えの妙なのか、それが何かは定かではないが、
 彼女は動物的とも言える感は働く方で、これまで自分の感が間違っていた事はそれほど無い。
…だからこそ、この直情的とも言える性格が成立すると言えるのだろうが。

 

「ぷっ、あははは、あ〜……そっか。お互いに、色々有ったんだね」
「……そういうことだな」

 

 彼が穏やかな表情を投げかける。
 彼女は何故か彼に自分の考えが見透かされた様な気がして悔しかった。

 

 その時、下から声がする。
 声の主はトール・ケーニヒのものだ。

 

「キラー!そんなところで突っ立ってないで、こっちの作業手伝ってくれよぉ!」
あ、うん!悪い!今行くよ!……じゃぁ、また」

 

 キラが駆け足で降りて行く。
 それを彼女はじっと見ていた。むさい奴だと思っていたが、案外好かれているじゃん。
 そんな事を思いつつ、彼女も自分のすべき仕事を思い出しその場を去った。

 
 

 その頃、ZAFT軍バルトフェルド隊旗艦レセップスでは、彼の副官がブリッジに駆け足で入ってきた所だった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、ダコスタです」
「んー?」

 

 気怠い返事が聞こえる。
 艦長席に座る彼の姿が見えたが、彼は振り向く様子は無い。

 

「あの、失礼します。んっ!うは!?……っていうか隊長……換気しませんか?」

 

 息を荒らして入ってきた彼だが、少し落ち着いてくると鼻につく臭気に気付いた。
 隊長が大のコーヒー党で、そのブレンドに並々ならぬ拘りがあるのは知っているが、まさかこんなところまで持ち込んでくるとは思っていなかった。
 その隊長は何ら動じる事も無く、珈琲カップを片手に語りかける。

 

「そ〜んなことわざわざ言いに来たの?」
「い、いえ…そう言うわけでは。出撃準備、完了しました!」
「そうなんだ。ご苦労様と言わせてもらおうかな」

 

 副官が敬礼しながら報告する。
 その報告を聞いて頷くと、彼は自分の膝の上にあるパッドを手に取り、その内容を凝視する。

 

「さてと、……あんまりきついことはしたくなかったんだけどねぇ。ま、しょうがないか」
「ぁはぁ?」

 

 隊長の言葉に困惑する副官。
 彼からすれば、この作戦の立案は隊長自身が決めた事だ。
 感情で躊躇う様な状況でもなければ、これまでの作戦が温情であったとも思えない。

 

「んーいいねぇ。今度のには、淡い粉を少し足してみたんだが、これもいい」

 

 当の隊長からすれば、これから自分が下す命令の重さを思うが故の逃避であった。
 本来はこんなことをしたいわけではないが、戦いとは無情なものであり、人間の非人間性を強く感じる瞬間でもある。
 だが、一方でこれこそが人間だとも感じるジレンマは始末に負えない。
 つくづく人間とは矛盾を抱えた存在だと自重することを忘れた時が、たぶん、本当のマシーンとの境目なのだろう。現在の自分は何割目だろうか?

 
 

 明けの砂漠のアジトの中では、アークエンジェル幹部との会合が続いていた。
 サイーブが現状の周辺情報を離してくれていた。

 

「…そらぁザフトの勢力圏と言ったって、こんな土地だ。砂漠中に軍隊が居るわけじゃぁねぇがな。だが、3日前にビクトリア宇宙港が落とされちまってから、奴等の勢いは強い」
「ビクトリアが?」
「 3日前?」
「あ〜らら」

 

 ジェインウェイ以外の連合士官達は一様に驚かざるを得なかった。
 それだけサイーブからもたらされた情報はショッキングなものだった。
 これまで連合とZAFTはこの領域では充分に拮抗しているはずであったが、ここを支配するバルトフェルド隊は連合部隊を一掃していたのだ。

 

「ここ、アフリカ共同体は元々プラント寄りだ。
 頑張ってた南部の南アフリカ統一機構も、遂に地球軍に見捨てられちまったんだ。
ラインは日に日に変わっていくぜ?」
「そんな中で頑張るねぇ、あんたらは」

 

 フラガの言葉にサイーブは押し黙った。
 その反応に不味い事を言ったかと思ったが、徐に彼の口が開く。

 

「俺達から見りゃぁ、ザフトも、地球軍も、同じだ。どっちも支配し、奪いにやって来るだけだ」
「あっ……」

 

 彼の言葉にラミアスは自分達の置かれた立場を知った。
 彼らからすれば自分達も明確に「敵」なのだ。
 いや、この言葉はこの場の全員がお互いの立場をハッキリさせる言葉とも言えた。

 

「あの船は、大気圏内ではどうなんだ?」

 

 彼女の反応を知ってか知らずか、彼は無反応に尋ねた。
 バジルールが技術的なことについては回答する。

 

「そう高度は取れない。条件次第だがな」
「山脈が越えられねぇってんなら、あとはジブラルタルを突破するか」
「おいおい、この戦力で?無茶言うなよ」

 

 フラガの反応に、サイーブは淡々と答えを返す。
 彼らからすれば所詮他人事だ。

 

「……んー。なら頑張って紅海へ抜けて、インド洋から太平洋へ出るっきゃねぇな」
「太平洋。」

 

 ラミアスは太平洋航路の道のりの遠さを思い、頭痛がする思いだった。
 単純な直線距離で一万kmを軽く越える。実際はその倍の距離を迂回する必要があるのだ。

 

「……補給路の確保無しに、一気にいける距離ではありませんね」

 

 バジルールの言う補給路の確保も、補給が望める勢力圏ではない道を進むという絶望的な条件だ。
 せめて高度が取れるならば、ユーラシア連邦を目指す道もあるが、それも茨の道に違いない。
 いくら連合といっても、大西洋連邦はユーラシア連邦と仲が良いわけではない。

 

「大洋州連合は完全にザフトの勢力圏だろ?赤道連合はまだ中立か?」
「おいおい、気が早ぇな。もうそんなとこに心配か?」
「ん?」

 

 フラガの話にサイーブが鼻で笑う様に告げる。
 彼には何故そんなことを言われるのか分からない。

 

「……ここ、バナディーヤにはレセップスが居るんだぜ」
「あ……頑張って抜けてって、そういうこと」
「ハァ…」

 

 二人のやりとりに、思わずラミアスは溜息を吐いた。
 そう、彼らが相手にしなくてはならないのは、ビクトリアを叩き落とした砂漠の虎だ。
 彼らと真正面に衝突する他に道は無いのだ。

 

「ハァ……。レジスタンスの基地に居るなんて……なんか、話がどんどん変な方向へ行ってる気がするよ」
「ハァ……。砂漠だなんてさ……あ〜ぁこんなことならあん時、残るなんて言うんじゃなかったよ。」

 

 サイとカズイが現在の状況をぼやく。
 二人はここ最近妙に気が合う様で、割とよく話したりしているのだが、どうもカズイの皮肉屋加減がサイに伝染してきている様で、話している内容が悲観的な方向で意気投合している。
 それもこれもフレイに振られて以来のことだ。
 トールは二人の反応に苦笑しつつ、カズイの発言を嗜める。

 

「でも、どのみちここに来るわけだから一緒だろ。
 そりゃ、民間人扱いなら、こんな手伝いしなくて済むだろうけどさ」
「これから、どうなるんだろうね。……私達」

 

 ミリアリアが空を見上げていた。
 抜ける様な晴天の夜空には、零れ落ちそうな程の星空が広がっている。
 その光は幻想的ではあるが、どこか寂しく寒々しく感じた。
 そこに一緒に食事をとっていたフレイが立ち上がる。

 

「……私、トレーニングに行くわ。トール行く?」
「おう。つか、キラはどこ行ったんだ?」
「知らないわ。大方『彼女』の所でしょ。じゃ、ミリィ、トール借りて行くわね」

 

 フレイの言葉にミリアリアが悪戯っぽい笑みを浮かべて忠告する。

 

「うん、あ、フレイ、私のダーリンを誘惑しちゃだめよぉ?」
「あら、やめてよねぇ。私が本気になったら、誰も私の美貌には勝てないんだから〜。ンフ」

 

 彼女はポージングを決めて堂々と言い放った。
 どうやら、これが彼女の本来の性格らしい。
 ミリアリアは彼女の反応にくすくすと笑って笑顔を向けた。

 

「もう、フレイったらぁ。フフ、行ってらっしゃい。二人とも」

 

 二人がアークエンジェルへ戻って行く。
 それを見送った彼女は横で暗く沈む男達を急き立てて、食事の後始末を手伝わせるのだった。
 その頃、アークエンジェルのとある一室では食事をとり終えた二人の姿があった。
 照明は暗めに落としてある室内の窓からは、岩壁に隠れて真っ暗な景色しか見えない。

 

「キラ様、今日はスズキ様の料理のお手伝いをさせて頂きましたのよ」
「ラクスさんは頑張り屋さんなんですね。
「そう思いますか?フフ、私、ずっとじっとしている生活は嫌ですわ」
「でも、それで掃除をしたり、料理をしたりって、普段からされていたんですか」
「いいえ。でも、習ったりはしたことあったじゃないですか。
 …私、一般的なご家庭でしたら当然に知っている事ができない暮らしをしていました。
 こんな状況でもなければ、わたくしはずっと普通の暮らしを知らぬ女として、
人生をまっとうするんでしょう。父の敷いたレールを進むだけの生活。
…例えそれが幸せだとしても、私には退屈な話ですわ」
「あなたはここの生活を嫌だとは思わないのですか?」
「…えぇ。わたくしは、ここの生活好きですよ。キラ様は…お嫌そうですわね。
 まぁ、無理も無いですわ。あなたは日々命を削りながら私達を守って下さっている。
 その中でわたくしはのんきに暮らしている」
「あぁ、そんなことは……」

 

 彼女の言葉に、キラは慌てて恐縮する。

 

「良いのです。わたくしは日々貴方に感謝しています。
 たぶん、貴方が守ってくれていること以上に、この自由を下さったことを。
 そのような不届きなわたくしはお嫌いですか?フフ」
「ラクスさん……」

 

 彼女は彼を手招きする。
 彼は立ち上がり彼女のもとに近づき、そのまま彼女を抱きしめた。

 
 

 深夜の砂漠はとてもひんやりとした風が吹く。
 この数日は連合の足付きとの戦闘で大きく損失を出していた。
 しかも、先の戦闘ではここ暫く手心を加えてきた勢力まで手を出してきたのだ。
 いくら穏便な彼と言っても、この状況で穏便で居られる程にお人好しではない。
 実際、司令部へ報告出来る様な話ではなかった。
 ここらで一つ花火を上げておかなくては、自分自身は勿論、
彼らもずっと居心地の悪い結果を招くだろう。

 

「ではこれより、レジスタンス拠点に対する攻撃を行う。
 昨夜はおいたが過ぎた。悪い子にはきっちりとお仕置きをせんとな」
「目標はタッシル!総員、搭乗!」

 

 副官のダコスタが命令する。
 隊員達がその号令に従って素早く乗機に搭乗した。
 バクゥのモノアイが光る。目指す集落すぐそこだ。

 

「……同盟関係を締結する事自体は、我々も異存は無いわ。
 少なくとも、ここであなた達と無理に敵対する理由は無いから。
 でも、それ相応の対価は必要ね」

 

 ジェインウェイは相手側の要求する砂漠の虎攻略を了承するのは目論見通りだった。
 彼らにとって虎の排除が最大の利益であることは交渉以前から明白だったからだ。
 いわば彼女からすればそれらは交渉のうちに入っておらず、より大きな果実が欲しかった。

 

「ほぉ……、何が欲しいんだ。俺達は見ての通り、大したものは無いぜ」

 

 サイーブ側からすれば、まさか連合側がすんなりと共闘条件を飲むとは思っていなかった。
 確かにレセップスを相手にしなくては乗り越えられないとは言えるが、自分達に恩を売る程の規模も無ければ価値も無い。
 あるとすれば売られない安全程度だ。
 もし自分が司令官であったとすれば、このような貧乏くじを引く必要は無く、適当にあしらっておけば良いかもしれない。それをあえて受けるのだ。何か無い筈が無い。

 

「そうねぇ、あなた方の持つ情報網と、
物資の供給元を教えてくれたら……ってところかしら」

 

 彼女は元々明けの砂漠という組織自体には興味を持っていなかった。
 どんな世界にもゲリラやレジスタンスというものは存在する。
 しかし、そうした零細な組織は末端に過ぎず、必ずそれらを動かす支援者の存在があるのだ。
そして、その支援者とのパイプこそが彼らの持つ最大の価値と言える。
 実際はそうした末端組織には上位組織との交渉能力は存在しない。
 場合によっては接点すら巧妙に隠されているものだが、この組織には規模に不相応な資金が供給されており、幾度となく行われた戦闘にも関わらず、その損失で疲弊する事無く存続している。
 これは明確にこの組織に上部組織との接点が存在するということだ。

 

「……あんた、なかなか怖い女だな。俺達が嫌だと言わない理由は無いんだぜ。
 あんた等の条件を飲まなくたって、俺達はこれまで通りに戦うまでだからな」

 

 サイーブは実際に普段は滅多にかかない汗が滲み出るのを感じていた。
 これまで様々な権力者と対峙する事はあったが、これほど交渉で存在感のある大物に出会ったのは少ない。
 この女は確かに大佐という階級を名乗るだけはあると感じさせられていた。

 

「……そう。私は別に事を荒立てる気は無いけど、必要と有れば銃を向けるわ。
 あなた方が私達を敵と見なすというなら、それが運命の分かれ目よ。
 もし、あなた達が私達に協力してくれるなら、私も協力を惜しまないわ」

 

 彼女の表情は至って変わらず平常だ。ただ、会合始まって以来ずっと視線は彼に向けられていた。
 無言の圧力とは言ったものである。射すくめられる視線を彼はじっと耐えた。

 

「………その言葉、嘘偽りは無いな?」

 

 額から汗がこぼれる。
 本来乾燥した砂漠では陰った洞窟の中では暑さが和らぐものだが、前進から吹き出す汗が下着を濡らして密着するのが不快に感じる程だ。

 

「えぇ。……あなた達の神に誓っても良いわ。私は時々悪魔にもなるけど、信頼出来る相手には協力を惜しんだ事は無いの。どう、目を瞑って悪魔と契約してみる気は無いかしら?」

 

 彼女の言葉にサイーブは一瞬目が点になった。
 いや、あまりに緊迫した状況だったので、不意に使った彼女の表現が彼のツボにハマったのだ。

 

「ふはははは!これは面白れぇ。傑作だ!悪魔と契約?くくくく、あぁ、良いだろう。
あんた等の条件を飲む。但し、俺達も条件がある。……必ず虎を仕留めてもらうぞ?」

 

 ジェインウェイが微笑みを浮かべる。

 

「良いわ。これで契約成立ね」

 

 互いの契約書にサインをして同盟が成立した。
 一時は緊迫した会談では有ったが、当初目的通りに協力関係を築くに至った。
 だがその時、外で叫び声が上がる。

 

「燃えている!!!空が燃えているぞ〜〜!!!」

 

 若い男が慌てて皆に知らせていた。
 サイーブ氏と共に外に出た私は、確かに遠くの空が赤く揺らめくのを確認した。

 

「……タッシルだ。あれは俺達の街のタッシルだ」

 
 

 ―つづく―

 
 

 

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