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スタートレックヴォイジャー in Gundam SEED_第8話

Last-modified: 2012-05-20 (日) 13:40:49

 スタートレックヴォイジャー in Gundam SEED
 第8話「ヘリオポリス崩壊」

 
 

『X-105ストライク、応答せよ!X-105ストライク、聞こえているか?応答せよ!
 X-105ストライク、応答せよ!』
「……ヘリオポリスが……壊れた……どうして……」

 

 バジルール少尉の声が通信装置の向こうから聴こえてくる。
 だが、彼にはそんな声は耳に入らなかった。
 目前に広がる光景を見れば、誰もが声を失うだろう。
 つい数時間前までは平和に暮らしていた大地が、無惨にも崩壊を続ける状況を見つめているのだ。
 だがその時、何かが気になった。

 

「……あれは、ヘリオポリスの救命ポッド?……それに、あれは?」

 

 キラは機体をそっとそちらへ向かわせた。

 
 

 艦長日誌補足
 我々はアークエンジェルの乗員として志願し、形式的に連合軍に所属する形をとった。
 満足な物資の積み込みも出来ずに敵襲に追われ出航することになったこの戦艦を、我々は無事にハルバートン氏が率いる第八艦隊へ届けなくてはならない。
 しかし、ZAFTによる攻撃は常軌を逸する行為であった。
 彼らは拠点攻撃用武装を施したMSを投入し、あろうことかコロニーコアを破壊。
 ヘリオポリスは崩壊を始めた。……多数の民間人の犠牲は避けられないだろう。

 

「こうまで簡単に……脆いとは……」

 

 フラガ大尉が思わず口に出したその感想は、端的に目前の状況を言い表していると言える。
 数時間前の堂々としていた姿は見る影も無く、コロニーは外郭部が細かく崩壊し、周辺宙域はデブリの海と化した。
 彼の呟きに構わず、バジルール少尉は宇宙に消えたストライクへの呼びかけを続ける。

 

「X-105ストライク!X-105ストライク!キラ・ヤマト!
 聞こえていたら……無事なら応答しろ!」
『……あ!……こちらX-105ストライク、……キラです』
「はぁ……無事か?」

 

 バジルール少尉が彼の声に思わず安堵の溜息を吐く。
 彼女も内心は気がかりだった様だ。

 

 キラ少年の方は声は落ち着いているが、内心はざわついていた。
 それでも現状を漂っているわけにはいかない以上、現実に戻る他無い。

 

『……はい』
「こちらの位置は分かるか?」
『はい』
「ならば帰投しろ。……戻れるな?」
『……はい(……父さん、母さん、無事だよな)』

 

 キラ少年の無事が確認されたことで、ブリッジでは皆安堵の息を漏らしていた。
 彼の帰還は時間の問題だが、問題はこれからどうするかだ。

 

「で、これからどうするんだ?」

 

 フラガ大尉が腕組みをしながらラミアス大尉を見た。
 視線を向けられた側の表情は険しい。

 

「本艦はまだ、戦闘中です。ザフト艦の動き、掴める?」

 

 トノムラにセンサーを確認させるが、彼の声も芳しくない。

 

「無理です。残骸の中には熱を持つものも多く、これでレーダーも熱探知も……」

 

 彼女の問いも虚しく、敵の動きは掴めそうになかった。
 しかし、フラガ大尉は冷静に彼女に問いを投げかける。

 

「ほぉ、向こうも同じと思うがね。追撃があると?」
「……あると想定して動くべきです。尤も今攻撃を受けたら、こちらに勝ち目はありません」
「……だな。こっちには、あの虎の子のストライクとデュエル、俺のボロボロのゼロのみだ。艦もこの陣容じゃあ、戦闘はなぁ。
 最大戦速で振り切るかい?かなりの高速艦なんだろ?こいつは」
「向こうにも高速艦のナスカ級が居ます。振り切れるかどうかの保証はありません」

 

 フラガは自分で振っておきながら、八方塞がりな状況に苦笑を禁じ得なかった。
 それでも振った以上は何らかの答えを出さなくてはいけない。

 

「……なら素直に投降するか?」
「……え?」
「へっ、……それも一つの手ではあるぜ?」

 

 ある種の義務感とでも言うべきか、彼も自分で言葉にして尚更馬鹿馬鹿しくも感じていたが、選択肢にはこれも間違いなく存在する。

 

 人は普段、自分のしたい方向のみをピックアップする傾向があるが、実際には「選びたくない選択肢」もまた存在するという現実を直視する必要がある。
 緊急ではない場合やさして重要ではない時であれば、自分の選びたい物だけを並べるのも構わないが、このような緊急事態では大尉の「馬鹿馬鹿しい答え」も時に選ばざるを得ないのだ。
 彼は自ら三枚目的な選択肢を選んで、彼女達にやんわりと現実を直視させた格好になる。
 なかなか良い視点を持っている若者だ。……とはいえ、彼にもそれ以降の考えは無かったらしい。

 

 私は二人のやり取りを静かに聞いていたが、事の成り行きに不透明感が増したのを見て彼らの話に割って入った。

 

「……お二人とも、ちょっと良いかしら?」
「ジェインウェイさん」
「若者が二人揃って随分悲観的な話ね。あなた達、今がチャンスなのよ。
 進路は月へ行くのなら、一心不乱に月を目指すべきよ」
「しかし、本艦は物資の積み込みも満足には……」
「だったら、望み通りに物資を積み込めば良いのよ」
「それは、何処で?」

 

 彼らの視線が私に集まる。
 私は不敵に笑顔を作って言った。

 

「……ゴミ拾いなんてどうかしら」
「ゴ、ゴミ拾い?……それって、……まさか!?」
「……そう、有るじゃない。ユニウス7という巨大な廃棄物が」

 

 私の言葉に周囲が動揺する。
 ラミアス大尉も戸惑いながら私に返答する。

 

「……しかし、墓荒らしの様な事をしては」
「あら、生きるためには仕方の無い事よ」
「そうですが……でしたら、近くにアルテミスがあります。そちらを目指す方が……」
「フフ、……敵はこう思うでしょうね。
 溺れる物は藁をも掴む……新兵レベルの安易な判断で最短の補給場所を目指すに違いないと。
 ……そう、今あなたが話したのはそういう事よ?」
「新兵レベ!?……確かに、仰る通りです」

 

 私の言葉に彼女の表情が引きつる。しかし、図星だ。

 

「だったら、彼らの裏をかくなら今よ。
 少尉を回収後すぐに急発進し、ユニウス7経由で月を目指すの。
 ユニウス7はデブリ帯なのだから、身を隠すにも丁度良いわ。
 手順としてはデコイは3方向へ飛ばす。一つは月、もう一つはアルテミス。
 最後はアメノミハシラへ。そして、私達もデコイにならなくてはだめよ」
「私達がデコイになる?」
「そう、敵は私達が素人集団と侮っているわ。なぜなら、彼らがわざわざ上級士官を殺したのだから。
 彼らはそれを元に思考し、我々がデコイを使ってアルテミスへのサイレントランを決め込むと見るでしょう。
 だから、私達は盛大に盛り上げたデコイである必要があるわ。素人程デカイ花火を上げたがるものだから」
「……成る程。さすが大佐」
「元よ。元。煽てても何も出ないわ。
 さ、善は急げよ。もたもたしていたら年老いちゃうわ」

 

 私の提案に感心するラミアス大尉。
 そこにまだ納得出来ないという表情のフラガ大尉が問いかける。

 

「……しかし、予想が外れた場合は?」

 

 彼の不安は尤もだ。実戦を経験している場数から言えば、彼女よりずっと冷静な視点を持っている。
 その彼を納得させられなければ、彼ら全員を納得させられ様もない。

 

「……敵の戦力は鹵獲したXシリーズが3機に、ジン数機と壊れたシグーかしら。
 他にも何が有るか分からない。対して我々の戦力は2機。数の上では圧倒的に不利ね。
 でも、戦闘は数じゃないわ、頭よ。Xシリーズは私達の方がずっとよく知っている。
 シグーは壊れている。残りは世代遅れのジンのみ。……十分に戦えるわ」
「その条件そのままなら、確かに逃げ切れなくはないのかもしれない。
 でも、あなたの言う想定は変動するし、増援のリスクもあるのでは」
「その通りね。でも、よくよく考えてみることね。
 連合がこの宙域に大っぴらに艦艇を回せないのは何故かしら?」
「……それは、ここがオーブ領域だか……あ!?」
「そうよ。連合が回せない艦艇を、ZAFTが大っぴらに出して来れるわけがないのよ。
 彼らが出して来た今回の艦艇も、作戦行動に必要な最低限として計画されたでしょうね。
 これ以上の艦艇を宙域に浮かべれば、幾ら何でも連合は勿論、オーブ艦隊にも警戒される。
 だから増援は政治的にも戦術的にも送れないのよ。
 ……とすれば、彼らの使える戦術は現段階で有る物に限られる」
「しかし、あの拠点攻撃装備はどう見るんです?」
「本来の使用目的はXシリーズとこの艦を破壊するために許可された物と見るべきね。
 敵の指揮官は随分と非道の様だけど、ZAFTはコロニーコミュニティよ。
 コロニーの大切さは、それこそ血のバレンタインでよーく知っているはずだわ」
「……お見それしました。降参です。そこまで考えて仰っているなら、俺が口を挟む余地はありません」

 

 彼は先程までの険しい表情はやめ、明るい笑顔を見せた。
 彼との会話は周囲のクルー達にも良い影響を与えた様だ。
 私に対する視線が……勘違いでなければ良いが、羨望の様なものを含んでいる。
 この雰囲気のうちにさっさと決めてしまいたい。

 

「納得してくれた様ね。
 何を言っても……仮に戦闘出来ると踏んでいても、無用なリスクを払うのは得策じゃないわ。
 私達は識別信号も持たない漂流者なんでしょう?なら、一刻も早く仲間と合流するべきね」

 

 その時、バジルール少尉が突拍子も無い剣幕で大声を上げた。

 

「なんだと!!!ちょっと待て!誰がそんなことを許可した!!!」

 

 あまりの剣幕に驚きつつ、ラミアス大尉が彼女に尋ねる。

 

「バ、バジルール少尉、何か?」
「……ストライク帰投しました。ですが、救命ポッドとシャトルを保持してきています」

 

 両大尉が少尉に負けないくらい大きく驚きの声をあげた。
 バジルール少尉とキラ少年のやり取りは続く。

 

『……認められない!?認められないってどういうことです!
 ポッドは推進部が壊れて漂流してたんですよ?シャトルもシステムエラーで動かないそうです。
 それをまた、このまま放り出せとでも言うんですか!?避難した人達が乗ってるんですよ!?』
「すぐに救援艦が来る!アークエンジェルは今戦闘中だぞ!避難民の受け入れなど出来るわけが……」

 

 受話器越しに熱く会話するバジルール少尉の肩に、ラミアス大尉がそっと手を置いた。

 

「いいわ、許可します」
「……艦長?」
「今こんなことで揉めて、時間を取りたくないの。……収容急いで!」
「……分かりました、艦長」

 

 しかし、分かったという彼女だが、その割には不満顔だ。
 ラミアス大尉はバジルール少尉の目を見る。

 

「少尉、言いたい事はわかるけど、私達も軍人である前に人よ。
 それに、私達は彼らの世話になってこの艦を建造した。
 彼らには借りがある。……とハルバートン准将なら仰られるんじゃないかしら」
「……」

 

 少尉は沈黙し、反論する事無く彼女の命令に従った。
 心の内には何らかの思いも有るだろうが、軍人らしく留めたのだ。
 この少尉の姿勢は褒めるべきことだが、私はそれより大尉の決断に通じるものを感じた。
 荒削りだけど正しく教えれば、彼女は軍の中に蔓延する人種差別の波を押し返す力となるかもしれない。
 軍はボランティアや正義の味方ではないが、人道を忘れてしまえば獣とさして変わらない。
 非道さは戦争に付き物かもしれないが、手段と目的を履き違えることは避けたい。
 どんな軍隊であっても、その力を行使する最大の目的は防衛のための戦力として存在すべきであり、我々が力を使う最大の理由は命を守る事でありたいものだ。
 しかし、私がその手助けをすべきかどうかは正直わからない。

 

 我々はキラ少年が回収してきたポッドとシャトルの前に来ていた。
 そこにあったのは、我々のシャトル「アーチャー」だった。
 セブンによると、トゥヴォックはシャトルのエンジンがシステムエラーにより故障した様に偽装したようだ。
 私はシャトルが自社の物である事をラミアス大尉に告げ、予め謝意を告げていた。
 彼女はシャトルが我々の物であると知って安堵していた為、中から出てきたトゥヴォックとも問題無く交流を済ませた。

 

 残るは民間人のポッド。
 一応安全の為に武装したクルーを数人ドア付近に立たせてハッチが開けられた。
 出て来た人々は何の危険も無い普通の民間人達だった。
 我々は武装したクルーを引かせて、彼らに計画通りに乗船の誘導をした。
 その時、キラ少年の肩に乗っていた緑色の羽を伸ばした小鳥型のロボットが、開かれたポッドの入り口へと向けて飛び立った。思わず少年がその後を追う。

 

「……あっ!……あ、ああ…」
「トリィー、トリィー」

 

 小鳥は1人の赤いロングヘアの少女のもとに止まった。

 

「……あ!」

 

 少女は突然自分の肩に止まった鳥に驚いていた。
 そこにキラ少年が彼女の前へ現れる。彼女は彼を見てどこかで見た既視感を感じ記憶を探る。
 少年は放心した様にその場に立ち尽くしていた。

 

「……」
「あー、貴方、サイの友達の」

 

 彼を見ていてようやく彼女の記憶の中に見知った顔が思い出された。
 少年の方は彼女が自分の事を覚えていた事に、急速に心拍数が上がるのを感じていた。
 それだけじゃない。体中の熱が上昇するのを感じる。彼は意を決して口を開いた。

 

「フ、フレイっ!……だっ。ほんとに、フレイ・アルスター。
 このポッドに乗ってたなんて」

 

 自分でも何を言っているのか半ば分からなくなりつつも、偶然救出したポッドに彼女が乗っていた事が心底嬉しかった。
 そんな彼の感情はおかまい無しに、彼女はこの場にいることに戸惑っていた。

 

「ねえ、どうしたのヘリオポリス!どうしちゃったの、一体何があったの」
「……」
「あたし、あたし……フローレンスのお店でジェシカとミーシャにはぐれて、一人でシェルターに逃げ、そしたら……」
「……」

 

 少年もどう説明して良いか戸惑っていた。
 フレイは少年が要領を得ないことに苛立ちを感じつつも問いかける。

 

「これ、ザフトの船なんでしょ?あたし達どうなるの?なんであなたこんなところに居るの?」
「こ、これは地球軍の船だよ」
「うそっ!?だってモビルスーツが」
「あ、いやぁ、だから、あれも地球軍ので……」
「……え」
「で、でも良かった。ここには、サイもミリアリアも居るんだ。もう大丈夫だから」

 
 

 一方その頃、ZAFT軍クルーゼ隊母艦「ヴェサリウス」の艦橋では……

 

「このような事態になろうとは……。いかがされます?
 中立国のコロニーを破壊したとなれば、評議会も……」

 

 アデスは作戦の失敗に戸惑っていた。
 D装備の許可が出たといっても、それは艦艇へ向けてのものと理解していたのだ。
 幾ら何でも積極的にコロニーを破壊するなど許される様な話ではない。
 しかし、実際にクルーゼは部下にコアへの攻撃を指示したのだ。
 だが、当の本人は意に介していない。

 

「アデス、君は何を勘違いしている。
 地球軍の新型兵器を製造していたコロニーの、どこが中立だ」
「……しかし、我々のした事は」
「……フッ、住民の殆どは脱出している。我々は彼らを攻撃したのではない。
 連合との戦闘で『運悪く』壊れたにすぎん。さして問題はないさ。
 血のバレンタインの悲劇に比べればな。それに、君も同意しただろう?」
「……う」

 

 クルーゼの言葉は嘘であることは間違いないが、それが全て間違っているわけでもなかった。
 アデス自身、本国がD装備の許可を出している時点で、最高評議会がこの事態を想定していたと考えられることは理解出来ていた。
 しかし、自分達がされた事を他国の無辜の民にしてしまった事は、些か心咎めるものを感じていた。
 とはいえ、血のバレンタインの言葉はその先を言わせないだけの力が有った。

 

「敵の新造戦艦……『足付き』の位置は掴めるかね?」

 

 クルーゼの質問に、オペレーターは崩壊熱等による探知不能を告げた。
 そこにアデスが問う。

 

「まだ追うつもりですか?しかし、こちらには既にモビルスーツは」
「あるじゃないか。地球軍から奪ったのが3機も」
「あれを投入されると?」

 

 クルーゼは頷く。しかし、アデスは彼の自信が不安で仕方なかった。
 最初の侵入し、MS奪取まではまぁ良かった。
 だが、動かしてみればOSはブラックボックスで、相手側の機体には翻弄されていた。
 そして、極めつけがエースのクルーゼですら敗退して戻ってきていることだ。
 得体の知れない力の差を感じているとも言えた。

 

「しかし……」
「OSがブラックボックスだから怖い……とでも言うのかね?それこそお笑いぐさだ。
 我々は相応の準備は済ませたのだ。何も怖がる必要はない。
 考えても見たまえ、彼らはナチュラルだ。
 確かに彼らが我々より鹵獲機体に詳しいことは間違いない。
 それは先の戦闘データが示している。
 だが、彼らはまんまと我々の攻撃にやられ、ブリッジクルーは木っ端みじんだ。
 足付きが素人のクルーでどこまで出来るか……フフフ、宙域図を出してくれ。
 ガモフには索敵範囲を広げるよう伝えろ」

 

 ガモフの廊下で一人の赤服の少年が立っていた。

 

「……キラ」

 

 アークエンジェルの食堂では加藤ゼミの面々が再開を祝っていた。
 フレイ・アルスターは婚約者であるサイ・アーガイル少年と抱き合い、熱々っぷりを見せつけていた。
 そんな姿をキラ少年が黙って見つめていた頃、ブリッジではユニウス7へのサイレントランの準備が進んでいた。

 

「では、デコイ発射と同時に、ユニウス7への航路修正の為、補助エンジンの噴射を行う。
 3番デコイとして本艦がメインエンジン噴射。その後は艦が発見されるのを防ぐため、慣性航行に移行。
 第二戦闘配備。艦の制御は最短時間内に留めて交代監視……でいいですね」
「ユニウス7までのサイレントランニング、奴らが上手く騙されてくれればその後は通常航行に戻れるが、
 それまで最低でも5時間ってとこか。……後は運だな」

 

 ヴェサリウスの艦橋でも追尾の準備が進められていた。
 アデスは一抹の不安を拭い切れず、再度クルーゼに進言した。

 

「奴等はヘリオポリスの崩壊に紛れて、既にこの宙域を脱出しているのではないですか」
「いや、それはないな。どこかでじっと息を殺しているのだろう。網を張るかな」
「網……でありますか?」

 

 アークエンジェル艦橋でバジルール少尉が威勢良く命令する。

 

「1番、2番、3番、デコイ宙域待機!」
「デコイ、1番、2番、3番、待機完了!」

 

 ラミアス大尉が艦長席からクルー達を見回し、すっくと立ち上がる。

 

「本艦はこれより1番デコイ発射と同時にユニウス7への進路へ航路修正、
 2番デコイの30秒後にメインエンジン噴射、その30秒後に3番デコイ発射でいきます」
「1番デコイ発射!」

 

 バジルール少尉の威勢の良い命令の声が艦橋に響く。
 デコイの発射に合わせて補助エンジンで艦の針路修正を完了した。

 

 ヴェサリウス艦橋では作戦会議が行われていた。

 

「……ヴェサリウスは先行し、ここで敵艦を待つ。
 ガモフには、軌道面交差のコースを、索敵を密にしながら追尾させる」
「アルテミスへでありますか?しかしそれでは、月方向へ離脱された場合……」

 

 クルーゼの作戦にアデスが疑問を呈した時、オペレーターが彼らに報告する。

 

「大型の熱量感知!初現、解析予想コース、地球スイングバイにて月面、地球軍大西洋連邦本部!」
「……ん!?」

 

 アデスは実際にクルーゼの言う通りにデコイの発射を見て驚いていた。

 

 アークエンジェル艦橋では……

 

「メインエンジン噴射!ユニウス7への慣性航行開始!
 ……ふぅ、みなさん、ご苦労様です。
 あとは5時間をリミットに交代で監視に当たってください。
 では、私は少し休ませて貰います」
「あ!?」

 

 CICに座る少年達が駆け寄る。
 ラミアス大尉はクルーへ労いの言葉を掛けて席を立ち、ブリッジを出ようとしたところで気を失い倒れた。

 

 ヴェサリウスでは尚も作戦会議が行われていた。
 アデスは初現の方向が月であったこと、3射目もユニウス7経由で月方向であったことに危機感を感じていた。

 

「隊長!1つ目と3つ目は月方向だったんですよ?本当に良いんですか?」
「……そいつは囮だな」
「しかし、念のためガモフに確認を」
「いや、やつらはアルテミスに向かうよ。
 考えても見たまえ、テスト問題の選択肢の不正解肢の常套は同じ方向の答えだ。
 本当の正解肢はそれ以外にあるものだよ。ならば答えは2つに1つ。
 そして、アメノミハシラは彼らを受け入れまい……となれば、残るは1つではないか。
 フフ、ヴェサリウス発進だ!ゼルマンを呼び出せ!」

 

 その頃、ガモフの廊下ではまだ赤服の少年が宙空を眺めていた。

 

「(ラスティ……ミゲル……)」

 
 

 ―つづく―

 
 

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