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デカルト漂流記 in Cosmic Era 71_1話

Last-modified: 2013-04-18 (木) 19:17:17
 

―光が、広がってゆく―
そう思った瞬間から続く、大海の如き情報の湖に呑み込まれてから、何時間経ったのだろうか。いや、何年とも、何十年とも判らない。そもそも時間とは何なのか、そんなことも考える余裕すら無かった。
空気を求めて海面に出てはまた荒れ狂う白波に呑まれる―そんな膨大な情報の波の海原の中から少しずつ、しかしおぼろげに「何か」が見えてきた。
―光だ。光が近づいて、そして消えた。また一つ、近づいては消えていく。それが星だと気付く頃には、周りには幾万幾千の星が瞬いていた。唖然としてそれを眺めているうちに、見慣れた―しかし知らない筈の星が近づいてきた。そして、止まった
木星―いや、それに似た星。何故、今までとは異なり、はっきりとこの星だけが見えるのか。そんなことを考えている間に、光が一点に収束していく。そして、熱くなっていく。
熱い、眩しい。そんなことを考えている間にも、光は収束していく。
―もう耐えられない。そんな思いに反し、光は強く強く強く―

 
 

――
「では被験体はコーディネイターではないと?」
はい。少なくとも、第一世代の可能性は無いかと」
「しかし、本来ナチュラルに見られない遺伝子も多く、新しいタイプのコーディネイターの可能性も…」
「それにしては不自然な部分が少な過ぎます。こんな自然なコーディネイトをする技術は未だに確認されていません」
『………』
ベッドに拘束されている男―デカルト=シャーマンに目をくれる様子も無く、白衣姿の研究員らしき男達が何やら話し合いをしている。
『何を訳の判らないことを何時までも喋っている!?ここは何処だ!?お前らは何者だ!?』
「黙れ、暴れるようなら撃つ」
自力で無理やり拘束を抜けようとするが、MPを持った警備兵らしき男に銃口を眉間に突きつけられる。―本気だ。今の乱れた脳量子波でもそれくらいは解った。
―あの情報の海原から解放され、目覚めてから早三カ月。デカルト=シャーマンは拘束され続けていた。
彼の心情は最悪だった。あの情報の波のせいか脳量子波は乱され、目眩まで伴う始末。そんな状況で、昨日まで目隠しに猿轡、おまけに耳栓まで着けられ、情報を仕入れる事すらままならないまま、拘束され続けていたのだ。
不機嫌を通り越して発狂しなかったのは、ひとえにイノベイターの実験台として酷使されていた過去があっての事だろう。

 

そんなこんなで研究員の話を耳に入れていると、急に辺りが騒がしくなってきた。今まで眉一つ動かさずに銃口を突き付けていた警備兵の仏頂面にも、僅かならが戸惑いの表情が見えた。
僅かな脳量子波を頼りに情報を集めようとするが、うまくいかない。解ったのは何かがここに来るらしい、という不確実な情報だけだった。
暫くして、黒服の男が数名入ってきた。それと入れ替わりに今までこの部屋にいた男達が出て行く。
ある者は名残惜しげに、またある者はやって巡ってきた休みに歓喜するかのように。
「いやー、すいませんねぇ。こんな非道いことやっちゃって」
馴れ馴れしい、人を小馬鹿にしたような声を小さな部屋に響かせながら、その男は入ってきた。それも、苛立つような大袈裟なジェスチャーを伴いながら。
「ご機嫌はいががかな?奇妙な被験体さん?」
『…最悪だ、とだけ言わせて貰いますか…』
顔の表情は僅かににこやかに、目は警戒心を剥き出しに、デカルトにとって三カ月ぶりの会話が始まった。どうやら自分を被験体にしたのはこの男らしい。

 

「早速で悪いんですけど、貴方何者ですか?」
『…デカルト=シャーマン…』
「ああ、名前じゃなくて、貴方の「種族」ですよ」
『……』
「あらら、黙りですか…」
喋る訳にはいかなかった。イノベイターに関する情報は連邦軍軍機、まだ外部に漏らす訳にはいかない。
「ま、いいでしょう。…次はこれです」
言うが早いか、男が写真を取り出す。その写真に映っている男の姿に、デカルトはまた沈黙するしかなかった。
「貴方ですよね?この写真に映っているのは、ほら、瞳が光ってる男の人。これ、何です?」
『…ちっ…』
―光る瞳、それはイノベイターが脳量子波を使用している証。それを見られるという事は、軍機の流出すら意味する。
「あらら、答えてくれませんか。では今日はこれで最後にしましょうか。貴方は我々、連合の敵ですか?プラントの一味ですか?」
『プラント?連合?何を言っている?』
「…状況を理解していないのですか…?」
『監禁しておいてよく言う…』
こんな会話をしながら、デカルトは軍機に迫ろうとしているこの組織に関し何らかの情報を仕入れようと考えていた。

 

確実な所は何も言えないが、もしかするとこの組織は連邦軍に対し、何らかの危害を加えようとしている存在なのかも知れない。ならば…
『…条件を聞き入れてくれるならば敵には回らない。あくまで、条件を聞き入れてくれるならば、だ』
「…ま、いいでしょう。今日は最後と言ったので明日になりますが、その上で貴方の事をどうするか決めさせて頂きましょう。」
言うなり、男達が外に出て行く。鍵こそ掛けられたものの、いつもの監視の一人も居ない。
やけに早すぎる決定だが結果的に話は聞いて貰えたようだ。全ては明日になってからになるだろうが、情報を仕入れることは出来そうだ。危険な賭けにはなりそうだが…。
そう判断しつつ、どうなるとも知れぬ我が身を案じながら、デカルトは一人静かな眠りに就くのだった。三カ月ぶりの、拘束も監視もされずに快眠出来る眠りに。

 
 

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